第二十五話 のずなさんは間に合わない
「海島くん!」
校門をでたところで、俺を呼ぶ声がする。
誰だろう?
居駒さんじゃないよな。今日は部活の日じゃないし。
小由里ちゃんかな? でも今は声をかけてくれそうもないし。
そう思って振り向くと、美少女がいた。
俺達とは違う制服。
「待っていたのよ、海島くん。厚田池のずなよ」
のずなさん?
俺は驚いた。
中学生の時もかわいかったが、ますますかわいくなっている気がする。
しかし、そのかわいらしさに心を動かされている場合ではない。
学校が違うのに、どうしてここにいるんだろう?「
俺が黙っていると、
「どうしたの? わたし、あなたに会いに来たのよ」
と言ってくる。
何を言っているんだろう? この人は。
俺は。
「俺に会いに来たって? 冗談を言っているの?」
と言った。
「冗談じゃなく、海島くんに会いに来たの」
「恋人がいるのに?」
そうだ。のずなさんはイケメンと付き合っているはずだ。
「恋人? そんな人いなわよ」
うん? どういうことだろう?
「だって、俺が告白した時、イケメンの彼のことが好きだって言っていたじゃない」
「彼とは、とっくの昔に別れたわ」
「別れた?」
「そう、今思うと、なんであんな人を好きになったんだろうと思う」
中学校三年生以降、のずなさんのことについてのうわさはなるべく聞かないようにしてきた。
うまくいっていないような話を聞いた気もするが、あれだけのずなさんが好きなのだから、そんなことはないだろうと思っていた。
ずっとラブラブな状態が続いていると思っていた。
それが、別れていたという。
でもそんな話を今聞かされても、俺に何の関係があると言うのだろう。
俺は彼女に振られたんだ。もう関係はない。
「それをわざわざ俺に言いに来たの?」
「そ、そうじゃなくて……」
「俺は厚田池さんに振られた男。そんな男に用なないと思うけど」
俺がそう言った後、少しの間、のずなさんは黙っていたが、やがて、
「わたし、海島くんと付き合いたいと思っているの」
「付き合う? 俺を振ったのに?」
「振ったのは、昔のことでしょう。そのことは忘れていいじゃない」
「昔のことって……」
俺にとっては、昔のことじゃない。今でも思い出しては苦しんでいることだ。
「だって、海島くん、今でもわたしのこと好きでしょう。だったらわたしが好きになれば相思相愛じゃない」
のずなさんは胸を張って言う。
俺は唖然としてしまった。
今になって何を言っているんだろう。
俺はのずなさんに振られた時、心に大きな打撃を受けた。もう二度とそのような打撃は受けたくない。
あんなつらい思いはしたくない。
それに、俺は、小由里ちゃんと恋人どうしになりたいと思っている。
「俺は好きな人がいるんだ」
「好きな人?」
のずなさんは、とても驚いた表情
「わたしじゃない、好きな人がいるって言うの?」
「そうだよ」
「その人じゃなくて、わたしを選んで。どうせその人とは付き合っていないんでしょう? だったら何の問題もないじゃない。わたしと恋人どうしになればいいのよ」
のずなさんは、顔を赤くしながら言う。
俺とのずなさんが恋人どうしになるのがあたり前だと思っている。
俺が振られて苦しんだことを全然理解していないようだ。
どうしたんだろう。もう少し人の気持ちを理解してくれる人だと思っていたのに。
彼女は、優しくかわいい。そして、いつも穏やかにしている人だと思っていた。
そういうところが魅力だと思っていたからこそ、俺は彼女のことを好きになった。
昔の俺だったら、こう言われれば、すぐのずなさんの申し出を受け入れただろう。
かわいいところは今でも魅力的だと思う。でもそれだけでは、恋というところに到達することはできない。
俺は、
「今の俺は、特にのずなさんを恋人にしたいと思わない」
と言った。
「どうしてそういうことを言うの。わたしが海島くんのことを好きになって、恋人になってほしいと言っているんだから、あなたもわたしのことを好きになって、恋人どうしにならなきゃいけないのよ」
のずなさんは少し怒ったような表情になる。
それにしても、昔、俺を振った時とは全く違う言葉だ。。
しかし、俺のことを好きだと言っては今だけなのかもしれない。
また俺のことを嫌いになる可能性は充分ありそうな気がする。
いや、そういうことよりも、俺はもっと小由里ちゃんのことを想っていかなくてはいけない。
のずなさんだったら、俺以外の人と出会って恋人どうしになればいい話だ。
「俺は、好きな子に想いを集中したい。それに、のずなさんだったら、これからも出会いがあると思う」
「出会いなんて……。わたし、彼と別れた後、何人かの男の子に告白されたけど、全然タイプじゃなかった。やっぱり海島くんが一番なのよ……」
「今にきっと気が合う人と出会えるよ」
「そんなこと言わないで……」
今までと違い、急に悲しそうな表情をするのずなさん。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「行っちゃうの……」
「うん。行くよ」
俺はそう言った。
「海島くんのことを振らなければ、今頃はラブラブだったのに……」
のずなさんは、力なく、弱々しくつぶやいた。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
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