表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/104

第二十三話 先輩

部活動の時間が終わった。


俺にとっては、うれしいやら苦しいやらで、なんとも言えない時間だったが。


「それじゃ、先輩、行きましょう」


と言って、俺と一緒に帰ろうとする。


その時、


「海島くん、ちょっと話があるの。残ってくれる?」


という部長の声。


なんだろう? と思った。


部長が俺を呼び止めるのは、これが二回目。


一回目は、高校一年生の時。クラブ活動の運営のことで相談を受けたのだが、内容は覚えていない。


この部長は、この部長は、容姿は整っていて、きれいな人だと思う。ただ俺にとっては、逆にそれが近づきにくくなっているところがある。


もちろん美人なので、心が動かないこともないが、積極的に声をかけたいとは思わなかった。


だから、俺から話しかけたことは、今まで一回もない。


それが、また彼女から声をかけてきたのだ。


「居駒さん、俺、部長に呼ばれたから、先に帰ってくれないかなあ」


弥寿子さんと一緒に帰ることに抵抗のあった俺は、渡りに船という形で、彼女にそう言った。


「一緒に帰りたかったのに。もっともっと話がしたいのに」


彼女はちょっと頬を膨らませるが、


「じゃあ、部長、先輩、さよなら」


とこちらを向いて頭を下げ、部室の外に出て行った。


部長の方を見ると、凍った微笑みを浮かべている。


弥寿子さんは、この表情を見て、怖くなっちゃたんだな、と思った。


俺も怖いので帰りたいんですけど。


部員全員が帰っていき、部室は俺と部長の二人だけになった。


部長はドアを閉める。顔はさっきと違って、笑っていない。


なんか、ますます怖くなってきたんですけど。


怒るから怖い、というのはよくある話だ。


しかし、彼女の怒ったところは見たことがない。


では温厚か、というとそうでもない。


気に入らないことがあると、さっきのように冷たく笑い。みんなを凍りつかせてしまうのだ。


そんな彼女の用とは?


ドアを閉めた後、部長は俺の方に来る。


「海島くん」


「はい。なんでしょう」


俺はどうしても緊張してしまう。


「今日入ったあの子とは知り合いなの?」


うん? なんでそんなこと聞くんだろう?


「中学校の後輩ですけど、俺、彼女のことはよく知らなかったんです。今日入部してきたんでびっくりしました」


「そ、そうなんだ。でも、彼女、なんかずいぶんきみと、イチャイチャ、じゃない楽しそうに話をしていたけど。その、きみたちは、つ、付き合ったりしているのかな?」


そう言うと、部長は顔を赤くする。


「い、いや、付き合っていません」


それを聞くと、部長はちょっとホッとした様子。


でもなんでこんなことを聞くんだろう。


「でも彼女、きみのことが好きなように見えるなあ」


「そ、そうですかね」


「わたしも一応女性だ。気持ちはわからなくはない。きみの方はどうなんだ?」


「わ、わたしは、かわいい子だとは想いますが、まだ彼女のことをよく知ってるわけじゃないので、好きとかそれ以前の話がします」


「それはそうだろうな。でも彼女のことを知ってきたら、好きになるかもしれない」


「今はわからないですね」


「今はそうでも、変わっていくかもしれないだろう。ただどちらにしても、きみと彼女の仲について、なにも言うつもりはない」


そう言うと、部長は、一段と厳しい表情になった。


「海島くん。改めてきみに話がしたい」


「改めて話とは」


俺と弥寿子さんのことについて、口をはさむ気がないとすれば、どういうことなんだろう。


「わ、わたしは、きみに好意を持っている」


「こ、好意って? どういう意味ですか」


あまりにも意外な言葉だった。


漫画では恋愛ものも書いているとはいえ、現実の男性には興味がなさそうな部長。それどころか、いつも冷たい微笑を向けている部長。


その部長が、俺に好意があると言っている。


「同じことを言わせるな。言葉の通り、わたしはきみに好意を持っているんだ。去年の文化祭の前、部活動のあり方に悩んでいた時、アドバイスをもらった。それ以来、きみのことがだんだん好きになってきたんだ」


「アドバイスだなんて、たいしたことは言ってませんよ」


そうか、部長に呼び出された一回目って、その時のことだったんだ。全く忘れてた。


「いや、きみがいなかったら、わたしもこの部もどうなってたかわからない」


「そんなおおげさな」


「とにかく、それからわたしはきみに好意を持っている。これは本物の気持ちだ」


「そう言われましても」


あまりの展開に言葉が出てこない。


「ただ自分でも、恋という気持ちできみが好きなのか、ただの好意なのか、それがわからない。ただ、この気持ちは伝えようとは思っていた。でもチャンスがなくて。それが、今日、居駒さんがきみにアプローチをかけているのを見て、これじゃいけない、と思ったんだ」


弥寿子さんが、部長のハートを燃え上がらせたということなのか。


「海島くん、今日は好意を持っていることだけ伝えておく。この気持ちが今後どうなっていくかはわからないが、今の気持ちはわかってくれ」


「その気持ちはありがたく受け止めます」


「そう言ってくれるだけでもありがたい。ではこの話は、今は、きみの胸の内だけにしまっておいてくれ。わたしの方も当分このことでは、きみと話さないようにする」


「わかりました」


「でもわたしの心がより一層きみに傾いたら、その時は告白させてもらうよ」


部長は、俺に温かい微笑みを向けてくれた。


たまにだが、部長はこういう微笑みをすることがある。


これが、本来の部長の姿なのかもしれない。


俺はそう思うのだった。


「面白い」


「続きが気になる。続きを読みたい」


と思っていただきましたら、


下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。


ブックマークもいただけるとうれしいです。


よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ