第二十二話 漫画部と弥寿子さん
女の子とアニメの話をするなんて、いつ以来だろう。
というか、女の子と言っても、小由里ちゃんのことだけど。
小学校三年生の頃までは、小由里ちゃんと、ゲームをするだけじゃなくて、アニメもよく見てたよなあ……。
そういうことを思い出した。
俺はロボットものが好きで、小由里ちゃんは女の子向けのアニメが好きだった。
とは言っても、俺の方も女の子向けのアニメは、結構好きな方だったので、一緒に見ていたものだ。
俺がこのクラブに来ても、アニメの話をするのは男子部員の間だけ。男子と女子の部員の割合は、七対三くらい。女子部員と話そうと思えばできなくはないのであるが、女の子に興味を持たないように努力していたので、努めてその機会は持たないようにしていた。
でも、やせ我慢的なところはあったよなあ、と思う。
こうして弥寿子さんと話をしていると、それはそれで楽しいところがある。
ただこの子、やっぱりボーイズラブに興味あるよな、と思う。
最初は、このロボットがかっこいいとか、あのエピソードがいい、という話だったのが、話をしている内に、男性キャラクターどうしの関係について、熱を込めて話すようになってきた。
俺もこういう話は、興味はある方だ。
ただ彼女は、男女のキャラクターの恋愛については、興味は持ってはいるのだが、男性キャラクターどうしほどではないので、もう少し興味を持ってほしいと思った。
そうすると、より話は楽しくなると思う。
俺は、年齢を重ねるとともに、恋愛を中心にしたアニメが大好きになり、今はその作品を中心に見ることが多い。ゲームだってそういう種類のものが好きだ。
まあ、でもアニメの話が女の子と出来るだけでもうれしいものだ。
「先輩、わたしたちって気が合いますよね」
「そ、そうかなあ」
「だってこうしてアニメの話をお互いに楽しんでるじゃないですか」
「そ、そうだな」
俺はうなずくが、すぐに手を振る。
「い、いや、アニメの話は楽しんでるけど、それと気が合うかどうかは別問題だ」
「またそんなことを言って」
「だって、趣味の話が合うのと、全体的な気が合うのは違う話だと思うんだけど」
「先輩がその気なら、もっと体を近づけてもいいんですよ」
弥寿子さんはにやにやする。
「みんながいる前だから、それはちょっと」
俺はいったい何を言ってるんだ。気があるようなことを言ってはだめだ。
それに、部員たちは、自分たちのことに熱中していて、俺達のことには関心がないようだが、彼女が俺に体を寄せたら、さすがに驚いてしまうだろう。
「あらあら、先輩、みんながいる前じゃなきゃいいんですか?」
彼女は、小さい声でささやきかけてくる。
まわりの人たちに対する配慮があるのだろう、そう思ったのだが。
「先輩、じゃあみんながいないところに行きましょうか」
声がだんだん甘くなってくる。俺の心を乱そうとする気ではないかと思う。
「そ、そういう意味じゃなくて……」
情けないことに、彼女が傍にきて、体を寄せてくることを期待してしまっている。
「えへへ、先輩のエッチ。でもそういうところも好きですよ」
そう微笑みながら、体を寄せてきた彼女。
また彼女の柔らかさを感じることができる。どうしても、それを拒むことは俺にはできない。ちょっとだけなら別にいいよね。
そう思った瞬間。
「先輩、おあずけです」
な、なんで……。もう少しだったのに。
俺はその言葉を聞いてガックリしてしまった。
いや、ガックリしてはいけない。彼女は俺の恋人でもなんでもないのだから。それはきちんとしていなければいけない。俺には、小由里ちゃんがいるんだし。
でも惜しいなあ、という気持ちがどうしてもある。
「あらあら、がっかりしてませんか?」
「いや、してない、してない」
「本当ですか? ちょっと期待してたりしてたと思うですけど」
「そ、そんなこと一ミリも思ってない」
「先輩、かわいい。赤くなっちゃって」
「お、俺はいつも通りの平常心だ」
俺は努めてまじめな顔をしようとする。
「先輩も強情ですよね」
「別にそうじゃないと思うだけど」
「強情ですよ。でもそういうところも好きです」
「そう言われてもね」
でもそう言われると、いい気分に少しなってしまう。
「今日は入部をしにきたんで、それ以上はしません。ここまでにしておきます」
うーん、やっぱり残念な気がする。
「先輩ってまだわたしのこと、振り向いてくれませんよね」
「それはそうだけど」
「振り向いてくれたら、それ以上のことができますよ。口と口を重ねることだって」
それは本当のことだろうか。
「口と口を重ねることこそ、先輩が振り向いてくれないとね。わたしの心は、もう昔から先輩のものなんですから」
この子、どうしてこんなかわいいこと言えるのだろう。
「とにかく、わたしのことを本当に好きになってほしいです。それがあればわたし、何もいらないです」
「そう言われても、俺には……」
「浜水先輩がいるのはわかっています。先輩が浜水先輩のこと、想っているのもわかっています。でも、わたしは、絶対に先輩を恋人にしてみせます」
やれやれ、これはだんだんややこしいことになってきたぞ……。
小由里ちゃんと弥寿子さん、二人とどう接していくべきか。これから考えていかなければならないと思う。
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