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第十六話 遠くなっていく距離 (小由里サイド)

森海ちゃんが作業をしているのを、他の人は、最初はただ見ているだけだった。


しかし、彼が一生懸命作業を続けているのを見ている内に、少しずつその中へと加わり始めた。


その間、作業の合間に、みんなを鼓舞する彼。こういうところが彼にあるなんて、驚きの連続だった。


そして、見事に舞台の設営は完成。


わたしも無事に役をこなすことができ、劇は成功した。


とてもうれしかった。


みんなも喜んでいて、わたしのことを褒めてくれた。


そして、森海ちゃんのことも褒めていた。


「お前があそこでみんなを引っ張ってくれたおかげで、成功できたんだよ。ありがとう」


という感じで。


でも彼は、


「ぼくはただ当然のことをしただけ。褒められることなんか何もしてないよ」


と言う。


かっこつけているのかな、と思った。


でもそうではなかった。


普通だったら、少しぐらいは誰でも誇りたいという気持ちがあると思う。しかし、彼にはそういうところが全くない。


わたしは、まだ恋というところまでは到達していなかったとしても、この時から彼のことがますます好きになっていった。


ところが、小学校五年生の時、ついに彼とクラスが別々になった。


それから彼との間に少しずつ距離が出てきたように思う。


クラスが違ってしまうというのは、結構大きい。


もともと、一緒に下校をしていたが、小学校五年生以降はそれもなくなっていった。


一緒に遊ぶということも自然になくなっていった。


とは言っても仲が悪くなった、というわけではない。


話す回数は減り、一緒に行動することもほとんどなくなったが、それでも会えば楽しく話すことはできていた。


しかし、中学校に入ってから状況は変わってきた。


わたしも、彼に対して、ただの「好き」ではなく、恋の対象としての「好き」という気持ちを少しずつではあるが持ち始めた。


中学校一年生からは、また同じクラス。


以前のように、彼とおしゃべりに興じるということはできなかったが、彼の姿を毎日見ている内に、だんだんと彼に対する想いが高まってきていた。


でも彼は、そんなわたしの気持ちには、全く気付いていなかったように思う。


というか、わたしのことを女性としてではなく、単なる幼馴染としか見ていないように思った。


もちろん、わたしと話す時は、優しさを感じられる。しかし、わたしとしては、もう一段階進んだ関係になりたいと思っていた。


ではわたしの方から積極的に行けばいいのでは、と言うかもしれない。


でもわたしは自分に自信がなかった。


そして、今までの幼馴染としての関係が壊れてしまうのでは、とも思った。


告白して、もし断られた場合、もう口を聞けない関係になるかもしれない。


それはとてもつらいこと。


彼は、根は優しいから、そうならないかもしれないが、わたしの方が遠慮してしまう。


せっかく今まで築いてきた思い出が、一挙に壊れてしまう、というリスクを考えると、容易には踏み切れない。


とにかく、自分を磨き、森海ちゃんにふさわしい女の子になろうと努力をすることにした。


森海ちゃんといつお付き合いをしてもいいように。


ただ髪を伸ばす決断だけはできなかった。


今までのわたしのイメージが壊れるような気がしたから。


今思えば、彼は髪の長い子がタイプだったようなので、この時点から伸ばしていればよかったと思う。


そうこうしている内に、どんどん時間が経っていく。


彼に告白しようか、どうしょうか。それとも望みは薄いけど、彼の告白を待とうか……。


悩みもどんどん深くなっていった。


中学校一年生の時に出会った鈴菜ちゃんとは、友達になったが、彼女にもこの悩みを相談することはできなかった。


わたしは、彼とのことで悩みが深くなってから、彼と話すのを無意識の内に咲けるようになっていた。


そういうことが続く内に、彼もわたしとは話しづらくなっていったのだと思う。


彼と話すことが少なっていった結果、せっかく同じクラスになったにも関わらず、彼とはますます疎遠になっていった。


また、その頃、わたしが別のクラスの男子生徒と付き合っているという噂が流れた。


その男子生徒とは、何度か話をしたが、それが付き合っているというところまで発展してしまったようだ。


付き合ってはいなかったのに……。


そして、忘れもしないあの日。


彼は相談があると言ってきた。


もしかして、わたしに告白するのかな。


そういう期待を少し持ちそうになったが、ほとんど話をしていない現状では、ありえないなと思い直していた。


そうして彼と久しぶりに二人きりになったのだが……。


彼はいきなり、


「まず念の為聞くけど、俺のこと、恋していたりしてはいないよね」


と聞いてきた。


これは全く想定外のことだった。


わたしは心の準備ができていなかった。


思わず、


「そ、そんなことはない。森海くんは、仲の良い幼馴染だけど恋はしていない」


と小さい声で言ってしまった……。


そうじゃないの。わたしは、森海ちゃんに恋をし始めているの。


そう言おうと思ったのだが、森海ちゃんは、わたしに森海ちゃんに対する恋する心がないと思ったらしく、あろうことか、他の人に告白するので、相談したい、と言ってきた。




わたしは、努めて心を穏やかにしようとしたが、できなかった。


どうしてわたしの前で、他の女の子の話をするの、どうして……。


しかも、告白というとても大切なことを、今まで親しくしていた幼馴染に言うなんて……。


その時、わたしは、自分でも思ってみなかった感情に覆われた。


こんなこと言う人、嫌い!


好きだからこそ、もっとも嫌がることを言われた時の衝撃、今思ってもつらいものだった。


しかし、彼のことを怒り続けていたわけではない。


その後、冷静になっていくと、そういうことを言ったのは、わたしが森海ちゃんに恋していないと思ったからでは、と思うようになってきた。


なんで、森海ちゃんに、その想いを伝えなかったんだろう。


恋し始めているという気持ちを。


そうすれば、こんな思いをすることもなかったのに……。


そう思うのだが、彼と話をするのは難しかった。


彼の方からは、話をするのは難しいと思うので、わたしから話しかけるべきだったんだけど……。


結局、それ以降、彼に、


「断られた」


という言葉をかけられた以外は、彼とはほとんど話をしていないまま。


このままじゃいけない。


わたしは森海ちゃんともっと話がしたい。そして、もっと仲良くなっていき、恋人どうしになっていきたい。


その気持ちは、だんだん大きくなり始めていた。


彼と一緒の高校に行ったのも、彼といつかは付き合いたいと思ったからだった。


ただせっかく同じ高校に行ったのに、クラスは、一年生も今の二年生も別で、話す機会自体そもそも少ない状態。


つらい状態が続いているが、なんとかしたいと思っている。


また、わたしは、高校に入ると同時に、髪を伸ばした。


イメージチェンジ。


わたし自身、長い髪に対するあこがれが強くなったというのもある。しかし、彼の好みに近づけたいという想いも強くなってきた、というところ。


「面白い」


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