第百一話 好きという気持ち
ここは、海の見える公園。その名の通り、海に面した公園だ。
まだ暑さはあるが、心地良い潮風が吹いている。
既に多くのカップルがここに集まってきていた。
手をつないだり、腕を組んだりしていて、仲睦まじい様子。
俺も小由里ちゃんとそうしたい気持ちが強くなる。
しかし、隣で歩く彼女の清楚な微笑みを見ていると、そういう気持ちを持っていいのだろうか、と思ってしまう。
清楚な彼女の手に触れること自体、してはいけないのではないか、という思いが湧き上がってくる。
でもそうであればこそ手をつなぎたい、という想いも強い。
さっきから、手をつなぎたいと強く想う一方、つないではいけないんじゃないかという気持ちも強く、心が揺れ動き続けている。
ああ、せっかくここまで来たのに……。
レストランを出た時は、絶対に告白するんだ、と思っていたが、その気持ちまで弱まり始めている。
俺ってなんで、こう勇気がないのだろう。だいぶ会話も出来てきて、親しさが増してきた今がチャンスだというのに。
俺達はしばらく公園の中を歩く。
会話はまた途切れ途切れになってきた。
会話を続かせようとするのだが、気ばかりあせってどうにもならない。
どうにかならないものだろうか……。
夕暮れになりつつある、このロマンチックなひと時が告白のチャンスなんだが……。
そう思っていると、
「森海ちゃん、話があるの」
と小由里ちゃんが話しかけてくる。いつになく真剣な表情だ。
俺達は立ち止まった。
なんだろう。
俺とは付き合えないということだろうか。彼女にまた嫌われることをしたのであろうか。
今日は一生懸命準備をして、彼女の為に精一杯努力したつもりだったのだが……。
いい言葉を期待したい。そうでなければ、俺はもうどうすればいいのかわからない。
一瞬の無言の時間。
だが、俺にとってはとてつもなく長い時間だ。
お願い。小由里ちゃん、俺のことを嫌いにならないで……。
「森海ちゃん、ごめんなさい」
小由里ちゃんは頭を下げる。
俺はあまりの意外な展開に、とても驚いた。
「小由里ちゃん、頭を下げないで」
「いいえ。わたし、森海ちゃんのこと、『嫌い』だって二度もいったのに、こんなによくしてもらっちゃって。申し訳ない気持ちで一杯。ごめんなさい」
「いいんだ。俺、小由里ちゃんのことが好きだから」
俺がそう言うと、彼女は驚き、顔を赤くしていく。
「わ、わたしのこと、す、好きなの……」
いつの間にか、俺は彼女に「好き」って言っていた。
今まで言いたくても言えなかった言葉。特に高校二年生になってからは、毎日言いたくてた、まらなかった言葉。それを言うことができた。
自分でもよく言えたと思う。
しかし、そう思った途端に、恥ずかしくなってくる。
「もしそうならうれしい。でも……」
彼女は一息つくと、続ける。
「わたし、森海ちゃんに『好き』って言われる資格はないと思うの。『嫌い』だっていっちゃうし、森海ちゃんのこと好きなのに、その想いを伝えることができない。それでいて、森海ちゃんのことが好きな女の子が出てくると、すぐやきもちをやいちゃう」
彼女は、少し涙目になってきていた。
「森海ちゃんはそれだけ魅力的だってことだし、やきもちをやくぐらいだったら、その子以上に森海ちゃんのことが好きになればいいだけなのに……。自分でもなんて嫌な女の子だと思う。こんなわたし、嫌われて当然だと思う」
涙声にだんだんなってきている。
どうして小由里ちゃんは、自分のことをこんなに低く思っているのだろう。
そして、彼女には涙を流してほしくはない。彼女は笑顔でいるのが一番素敵なんだ。
「そんなことないよ。俺は小由里ちゃんのこと、素敵な女の子だと思っている。かわいいし、優しいし……」
自分で言っていて恥ずかしくなるが、「好き」ともう言ったんだ。ここでもっともっと親しくなりたい。そして、彼女をまもっていける存在になりたい。
恥ずかしがっている場合ではない。俺は小由里ちゃんが好きなんだ。恋人にしたいんだ!
「もう。なんで森海ちゃんってそんなに優しいの……。わたしなんて、たいしたことのない女の子なのに」
「俺は小由里ちゃんが好きだ。小由里ちゃんだから好きなんだ」
「森海ちゃん、うれしい。うれしいんだけど、やっぱりわたし、その想いを受けていいのかどうかわからない。これ以上森海ちゃんとの関係が進んで恋人どうしになっても、仲違いするかもしれない。そうしたら、幼馴染としての関係が壊れるかもしれないと思って……。森海ちゃんとさっきも話をしていたように、今までいっぱい楽しい思い出を作ってきた。それが、もしかすると、つらい思い出に変わってしまうかもしれない。それがわたしには耐えられないと思う。わたしにとっては、森海ちゃんは大事な幼馴染。でももうただの幼馴染ではないところに来ていると思う」
涙声ではあるが、しっかりと話す彼女。
「幼馴染の関係は壊したくない」
「俺もそう思っている」
「でもわたし、森海ちゃんが好き。もっと仲良くなりたい……」
「小由里ちゃん。俺も今までは、幼馴染だったから、好きだったというところが大きかった。でも今は違う。恋だ」
「恋……」
「そうだ。俺はここにいる、とても素敵な女の子に恋をしたんだ」
俺は彼女にその想いを熱く伝えようとしていた。
「面白い」
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