第六章 作戦会議
「………と言うわけで、事は急を要するのです。何より、今、彼らのいる所がいけない。カルシータ王の、お膝元なのですから。しかしあくまでも、内密に事をなさねばなりません。」
その夜の会議はこれまでと違って、本当に限られたメンバーで行われた。王と、三名家の当主、後数人の役人のみ。
議題は当然、発見されたユナ・リアをいかに安全にお迎えするかと言うこと。
リードニス王国の希望であるユナ・リアは、諸外国から見れば絶好の弱点を握ることにつながる。現在の勢力バランスを崩すため、ユナ・リアを手に入れたいと考える国は必ず現れる。
今まで、誰もユナ・リアに関する情報を持っていなかった。何故なら、周りの人間が誰もミリヤをそうと認識していなかったからだ。しかし、セナやマリカがわかってしまった。
この世の流れである気を読む者、使い魔を放ち情報を得ようとする者など、多くの者がユナ・リアの発見を知ってしまっただろう。
「しかし、表立ってリードニスに敵対する国はないでしょう。敵の策略も、内密に行われるはずです。我々は尚更、軍を動かすことなどできないのです。」
「ふむ、それがスニヤ殿の考えなのだな。」
と、王はうなずきながら言った。
「軍を動かせないなら、私が行こう。」
「内密にと言ってるでしょう、ロミナス公が行かれるなど、目立って仕方がない。言語道断です。」
スギルト公は、あくまで冷静だ。
ケントの意見は、力強かった。
「そうです、我々でなく、もっと密やかに動ける、力があり信頼できる者を、各家から出していただきたい。いかなる道を通るかは、スニヤ様が決めて下さり、こちらに連絡いただきますので。」
会議を終え、ロミナス公とスギルト公はすぐさま帰って行った。ケントも同様、すぐ馬車を走らせた。心地よい振動の中、いつもならついウトウトしてしまうものだが、神経が高ぶっているのか、今日は眠りそうにない。
しかし、しばし目を閉じてみる。つい、数時間前、セナとの会話を思い起こしてしまう………。
(兄上………。)
姿の見えない弟の呼びかけが聞こえたのは、今日の昼下りのこと。カルシータのスニヤ伯母の力を借りて呼びかけている、大切な話しなので人払いをし、母所有の水晶玉を借りてほしいと伝えてきた。
すぐに実行したケントの目に、水晶玉に映る、懐かしいセナの姿が飛び込んできた。旅のためか、少し日焼けしたたくましい弟の姿………。
通信状態もすこぶる良好で、セナだけでなく、伯母のスニヤと、見知らぬ母子の姿が見えた。リードニス人らしい、金髪の美しい女性と、母に似た可愛らしい女の子。
「何と、そちらが、ユナ・リアと母上様だと!」
晴天の霹靂。まさに、そんな知らせ。しかし疑う余地はない、金色の印まで見せられては。セナと伯母から詳しい話しを聞いた後、通信を終えて王城に急いだ。王に報告し、会議のメンバーを招集………。
馬車は、屋敷に着いたようだ。丁度いい、使用人のドウシアの声が聞こえる。
「おかえりなさいませ、ケント様」
「ああ、出迎えご苦労。ドウシア、大切な話しがある、私の部屋にすぐ来なさい。」
ドウシアは、武人の家系の出で、確かな剣術の腕前だ。請われてセナの指導もした。戦のない今、使用人として力仕事など雑用を黙々とこなしているが、鍛錬し続けている。今回の仕事に、ドウシア以上の適任者はいない。
「危険な仕事だか、行ってくれるか。」
ドウシアは、笑みを浮かべた。断るはずなどない、そんな当然のことを、何故お聞きになると言わんばかりに。
妻のキナ、息子のタク、一家で仕えてくれる大切な者たちだ。もしものことを、考えなくもない。が、彼らは口をそろえて言うだろう。いのちに替えても、この仕事をやり遂げると。
準備のため、ドウシアは下がった。連絡があり次第、指定された場所に赴くことになる。
ドウシア今夜は、眠れるだろうか………。