第五章 スニヤ
カルシータ・ギアの中心部から少し外れた静かな町に、1人の魔法使いがいた。名は、スニヤ。リードニス人であるが、この地で生きること10数年、人々を助けて信頼されていた。
出身は、三名家程ではないがリードニス王国のなかなかの名家で、妹が三名家の一つ、シンシアティ家に嫁いだということもあり、また非常に有能だということで、国お抱えの魔法使いになる要請もあった。
しかしどうにも自由な性分で、ある日ふらりと出ていってしまい、カルシータ王国に居を構えることにした、風変わりな御仁。
ケント、セナ兄弟にとって伯母に当たるこの人のもとに、突如、大問題を抱えたセナが向かうのは、まあ当然のことである。そして、スニヤ側もそれを待っていた。
セナが、マリカ親子を伴ってスニヤの家を訪ねたのは夕刻、食卓には彼らの分も加えた食事が準備されていた。
「お久しぶりです伯母上。私が来ると、ご存知でしたか。」
「よく来たね、セナ。もちろん知っていたさ。さあ、まずは食事にしよう。おニ人も、どうぞ食べてください。」
スニヤの一番弟子、コダの準備した食事は、とにかく美味しかった。しばらくは食事に集中でき、疲れで少し青かったセナの顔色が回復し、食後のお茶をいただく頃、ようやく大切な話しになった。
ユナ・リアのことは、セナにかいつまんで聞いていたマリカは、まずはミリヤの印をスニヤに見せた。スニヤは、ミリヤが怖がらぬよう優しく近づき、その金色の印を見定めると、ほう、と感嘆の声を出した。
「間違いないよ、セナ。よくやった、よくユナ・リアを見つけてくれたね。」
確信はあったが、伯母の見定めでさらにはっきりした。失われし国の希望を、こんな形で見つけるとは、運命とは不思議なものだとセナは思った。
その後、一同はさらに深く、語り合うことになる。リードニス王国の歴史、暗黒時代のこと、マリカからは自身の生い立ち、結婚と夫の死………。
セナは、マリカの過酷な人生に驚きを隠せなかった。それなのに、明るく生きるマリカに感動した。
「なるほど、これで納得がいったよ。ユナ・リアは、リードニス人の夫妻からしか生まれない。マリカ、あなたの両親は間違いなくリードニス人だよ。しかし、死に別れてたので、あなたは何も知る由もないし、肝心の夫も娘が生まれる前に事故死か。不運が重なったわけだ。」
その夜は、話しはそこまでとした。ミリヤを寝かせるためであるが、実はセナも限界だった。
翌朝、マリカはセナの異常な疲労の訳を聞かされだ。
「どうも、あの子は自分の魔力を使って、あなたがたを隠してたようだね。少しの間ならともかく、1日中そんなことしてたら、そりゃ疲れ果てるさ。ゆっくり寝かせとくよ。」
驚いた。セナといると不思議なほど何事もなく安心できたのは、彼の魔力のおかげだった。
そんな訳で、この日の半分はほとんどセナの休息のために過ぎた。しかし、スニヤやコダは動いていた。
「わあ、キレイ!」
セナがようやく起き上がり、一同が再び顔をそろえた午後。スニヤは話しを進めるため、自分の仕事部屋に皆を招き入れた。テーブルの上、七色に輝く美しい水晶に、ミリヤは目を奪われた。
「七輝石だよ。私がカルシータに来た理由の一つだ。これほどのものは、リードニスにはまずないからね。」
よく磨かれ、スニヤの魔法道具となった七輝石。これを用いて、これからの計画に必要な、通信ができるという。
「それから、セナ、兄からいいものをもらったね。」
「はい、このブレスレットのことですか。」
「そう、それには、ケントの魔力が込められてる。七輝石と両方使えは、お前の魔力を消耗せずに済みそうだ。ケントを呼び出すことにしよう。」