表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

第四章 護衛

「あの、お怪我は………。」


「ん?大丈夫、何もないよ。」

 

マリカ親子の王都への旅は、後3日程の道のりまでなっていた。思えば、やはり護衛付きの旅は恵まれていた。日のあるうちは順調に進み、夜はぐっすり眠れた。

 

行商人一行のまかない係のおばさんは、カルシータ東部の出身で、西部で育ったマリカには馴染みのない料理が、新鮮で美味しかった。ミリヤも良くなつき、可愛がられた。


もう少しで王都という所で、残念なことが起こった。流行り病の病人が出てしまった。旅をする一行にとって、病気の蔓延は死活問題。病人を完治させるため、町の病院に入院させることになり、一行は足踏みを余儀なくされた。

 

一緒に留まるべきだったが、マリカは焦ってしまった。後少し、何とかなるだろうと、先に進むことにした。


しかし、すぐに後悔することになる。幼女を連れた若い美人の金髪女性は、人目を引いた。からかい、好色、もろもろの嫌な声かけをされた。挙げ句の果に、ガラの悪い3人組に絡まれた。振り切ろうとしたがしつこく迫られ、ミリヤは恐怖に怯えた、そんな時。


「おい、やめろ。嫌がってんだろ。」


間に割って入り、助けてくれる救世主が現れた。まだ若い、すらりとした風貌の剣士だ。汚い罵りのことばを吐く連中は、瞬時に黙らされた。

 

マリカには、そもそも彼が剣を抜くところすら見えなかった。あざやかな早業で、3人組は地面に倒れ伏された。しかも、彼は怪我一つないという。


とりあえず先を急ぎ、日暮れ前に宿に入れた。せめてものお礼に食事をご馳走したいと言うと、剣士は人懐こい笑顔で快諾した。


「本当に、ありがとうございます。あの、私はマリカ、娘はミリヤっていいます。」

 

「ああ、俺は、セナ。」


20才になったばかりというセナは、訳あって旅の途中だという。目的地はまずは王都、カルシータ・ギアということで、マリカは思い切って護衛を頼んだ。


「それほど、報酬を弾めるわけではないのですが………。」


「それじゃ、宿と飯代をお願いしようかな。」


「えっ、それは、そんな少なくていいんですか?」


「まあ、俺にしたら、わざわざ行くわけじゃないから。あ、でも、護衛をするなら、一緒の部屋で寝てもいいかな。家族のフリ、してもらうけど。」


それを、魂胆ありと疑わせないのがセナの人徳か。若いのに、小さな子どもの扱いも慣れたもので、ミリヤも喜こんだ。こうして彼らは、期間限定の家族となった。


翌朝、セナは小さな荷車を手に入れ、愛馬のリュウをつないだ。マリカは費用を出そうとしたが、王都に着いたら売ればいいからと、受け取らなかった。

 

荷車に乗せてもらって、ミリヤはご機嫌だった。セナくん、セナくんとまとわりついたが、セナはよく相手をしてくれた。家族のフリするのよ、なんて言い聞かす必要もない。行商人一行の護衛は、いかつい怪力男風だったが、セナはまるで違う。しかし、なんて安心できるんだろう。マリカは、ただ感心するだけだった。


何事もなく1日の行程を終え、宿に入った。今日も一緒に寝ようと、ミリヤは更にご機嫌だ。明日には王都に着くだろう。嬉しいはずなのに、残念なような寂しいような、マリカの説明のできない気持ちを知る由もない、ミリヤはセナと楽しそうに遊んでいる。


「ミリヤ、お風呂に入るよ。」


「やだ、セナくんと遊びたい。」


「入って来いよ、待っててやるから。」


「はーい。」


(なんか、ホントに家族みたい…、)


護衛しやすいからとセナが言うので、高かったが風呂付きの部屋にした。ミリヤは風呂から上がると、すぐにセナのもとにかけて行った。


「こらミリヤ。ちゃんと拭きなさい。」


「いいよ、俺が拭くから。」


「わーい、セナくん、大好き!」


「もう。」


ミリヤは父親の顔も知らない。当然、甘えたこともない。こんな父親のように接してくれる人と巡り会えたのは、予想もしなかった幸運に感じた。


(ミリヤにとってよ。私は、何でもない。)


自分は、ミリヤのように甘えれるわけもない。きちんと身支度して、風呂から出た。


すると。


「ねー、セナくん、どうしたの?」


タオルを手に、ミリヤの身体を拭いてやっていたセナが固まっていた。顔色は、真っ青。手は小刻みに震えている。その視線の先、ミリヤの上腕には。





マリカには見慣れた、輝く金色の「印」があった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ