番外①
「ねーセナ父さん、聞いていい?」
あの旅から3年たって、ミリヤは8才になっていた。元気で明るい上に、少女らしい美しさが加わった。
しかし、甘えん坊なのは相変わらず。セナのことを「セナ父さん」と呼ぶのは、父さんだけど名前も呼びたい、ということらしい。
「ん、何だ?」
次女リリヤに続いて、長男アイナが生まれたが、セナはミリヤとの時間を大切にしていた。もちろん、ミリヤは妹と弟をこよなく愛している。しかし絶対に、寂しいと思わせたくない。
「セナ父さんは、いつから、お母さんのこと好きになったの?」
あー、来たか。そういう話が好きな、年頃………。
「お母さんには、内緒だぞ。」
胸がわくわく、目はキラキラ、そんな感じのミリヤ。
「最初からだよ。」
初めは、何とも危なっかしいことで気になった。美人で若い母親と、可愛い女の子の二人連れ。
案の定、男たちに絡まれる。助けるのはまあ、普通のことだった。そんなに手練でもなかったし、易い仕事だ。
なのに。
「怖くて真っ青な顔で、ぶるぶる震えながら、お母さん、怪我はないかって聞いたんだぜ。」
優しい人、自分よりも相手を思いやれる人だと思った。健気で、愛しい人………。
「ふーん。」
ニヤニヤ、ミリヤは思わず笑ってしまう。
と。
「大変!アイナのおっぱいの時間!行かなきゃ。」
アイナのおっぱいの後、ゲップをさせてやるという。小さなお母さんだ。
「遅れると、またタクにされちゃう。」
「タクはそんなことまでするのか。すごいな。」
セナ・シンシアティ家創設の際、ドウシア一家が移って来てくれた。ドウシアは力仕事からミリヤの護衛まで、なんでもこなしてくれ、妻のキナは台所頭。
息子のタクは、まだ10才の子どもなのに、マリカの右腕とも言える存在だ。スーパー・ベビーシッターと呼ばれている。
ミリヤだって、本当はもっと下の子たちのお世話がしたいのだ。だけどミリヤには勉強や習い事が多く、時間がない。タクにも勉強はあるが、子どもの面倒を見る時間はある。
この前、ミリヤが妹のリリヤを寝かしつけようとしたら、「クー、どこ??」なんて泣かれてしまった。屈辱………。
「アイナは、絶対渡さないんだから。」
「呆れたな、まるで、タクがライバルじゃないか。いつから、そんななんだ?」
セナに聞かれてミリヤが思い出すのは、カフルで初めて会った時。
セナ様、セナ様とまとわりついていた。挙げ句に一緒に風呂に入ろうと、手をつなぎ楽しそうに消えた、あの後ろ姿………。
いつからって、そんなの、決まってる。
「最初から!」