第十五章 新しい家
近づいてくるカフルの街は、華やかな気配がした。まるで街中が花嫁のように着飾られ、待っていてくれているようだった。
カセラ一行の捕物があったため、多くの乗客は大事件があったと認識していたが、詳しい説明がなかったので、ひそひそ話しかできなかった。
それで、港に着くなり、ユナ・リア歓迎の大観衆だ。びっくりして、腰を抜かすものもいた。
「兄上………。」
大観衆の先頭に、ケントがいた。王の名代として、うやうやしくマリカとミリヤを迎えた。そして、セナを固く抱きしめた。
「セナくんの、お兄さん?」
「そうだって。きちんと、ご挨拶できる?」
「うん。」
ユナ・リアであるが、外国の田舎育ち。これから教育が大変………、ともささやかれていた。しかしミリヤが、相手の目を見てきちんと挨拶した時、人々は考えを改めた。
「こんにちは、ミリヤです。みんな、来てくれて、ありがとうございます。」
教育の遅れなど、大した問題ではない。逆境の中でも母の愛を受けて、ミリヤが心の美しい、素晴らしい女の子に育っていると知ったから。
ドウシアの家族も、出迎えに来ていた。しかし、妻のキナと息子のタクが、ドウシアそっちのけでセナの無事を喜んだので、笑いになってしまった。
「だって、セナ様の方が久しぶりだから。」
と言うのが、彼らの言い分である。
何はともあれ、セナたちの困難だらけの旅は、終わりに近づいた。王都にむけては、マリカとミリヤ、コダも特別の馬車に乗せられ、ケントが同乗して護衛がついた。
「お母さん、ミリヤはセナくんと一緒に、リュウの馬車がいい………。」
と、ミリヤがコソッと言った。
セナは、ここまで苦楽をともにしたリュウと最後まで帰ると言い、ドウシアが御者をかってでた。キナとタクも一緒だ。タクは目を輝かせて、セナの旅の話しに聞き入った。
途中、宿泊場所に選ばれたのは、国内屈指の温泉地ライラットで、また大歓迎された。旅の疲れを癒やすことができる温泉は皆、嬉しかった。
「セナ様、温泉に入りましょう。お背中、流します!」
タクがセナの手を引っ張るのを見て、ミリヤはふくれてしまった。マリカは呆れつつも、これからのことが思いやられる。
人々の関心はもちろんユナ・リアだが、英雄扱いのセナが大モテなのも事実だ。男の子ならいい、もしセナが女性に囲まれてたら、私も、ふくれちゃうのかな………。
それでも夜、ちゃんと3人一緒の部屋にしてもらえた。親子2人でゆっくりと言われたが、最後まで俺が一緒にいて守るからと、セナが言い張ったのだ。
そんなこんなで、いよいよ王都に到着の時。
カフル以上の、大観衆。馬車がまるでパレードのように進んだ。花や紙吹雪が舞い散るな中、美しい王城へ到着した。
「ようこそ、我がリードニス王国へ。」
出迎えの人々が、皆、礼をする中進んで行くと、王の待つ広間に着いた。
「よく来られた、マリカ殿、ミリヤ殿。」
王と、かつてのユナ・リアである王妃、そして、クリント王子がいた。
マリカの心配は、まだ5才のミリヤが、将来の夫なんて人に会ってどう思うかということだった。また、どう思われるか………。
しかし、この時予想外のことが起こった。
ミリヤを見ると、まずクリント王子が微笑んだ。トコトコと近づいてくると、そっとミリヤの手を取り、キスをしたのだ。ミリヤはにっこり笑い返した。
大人の心配などどこ吹く風、こうして小さな2人は、出会ってすぐに仲良くなった。
マリカとミリヤ、それにセナも、ケントが準備してくれた礼服を着ていたが、それにしてもセナのなんて立派なことか。平服の彼ももちろん良かったが、一段と凛々しく見えた。
そのセナが、王に呼ばれた。ユナ・リアに関するすべての働きが称賛され、労われた。
「褒美は、何が良い、申してみよ。」
セナは、何を望むのか?
「恐れながら、王よ、申し上げます。」
ここで、ひと呼吸。
「私はユナ・リアの母である、マリカをいただきます。」
王は少し驚きつつ、しかしにこやかに語りだした。
「なるほど………、ではこうしよう。マリカ殿と結婚するとなると、セナ・シンシアティはユナ・リアを育てることになる。セナ・シンシアティを当主とする、新しい家を創設することにしよう。」
それは、歴史的な出来事だった。
長く続いた王と三名家の体制、それに加えて、新しいセナ・シンシアティ家が誕生したのである。