表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

第九章 告白

事の顛末をすべて聞き終え、セナは深くため息をついた。運が良かった、ただそれだけ。


(マリカさんたちが、連れ去られた!)


ドウシアが、慌てて裏口から飛び出した時、馬車の姿はなく、しかし立ち込める砂埃が、走り去った方向を教えていた。とにかく追うしかない。


「大丈夫です、私の仲間が追いました。」


物陰から現れた女がいた。スギルト家の使用人だと名乗った。ドウシアとは別に、マリカとミリヤを2人で警護していたと言い、ぐったりとした様子で馬車に乗せられるのを目撃、1人がすぐに追ってくれていた。

 

マリカとミリヤが無事連れ戻されるまでの時間は、いかばかりもなかったが、ドウシアには永遠のように長く感じられた。しかも、薬が使われたようで、特にミリヤがなかなか目を覚まさなかった。


騒ぎを聞きつけたコダが駆けつけ、介抱してくれ、問題なしと言われてようやく安心できた。


リタは切られたが、いのちに別状なかった。服の下に、猟師が着る革製の丈夫な防護服を着ていたおかげだ。


「ごめんなさい………。」


リタは、泣き伏すばかりだった。息子のカイを人質にとられ、強制されてマリカをだましてしまった。

 

マリカたちが連れ去られた馬車に、カイが押し込まれていて、一緒に救い出されたのが幸いだった。


スギルト家の使用人、スーニャとトムルの2人組は、また内密に警護するため、静かに離れて行った。


(助かった、しかし。)


自分が付いていながら、こんなことになってしまったと、ドウシアには後悔しかない。


リタの話しには、初めから違和感があった。マリカのいた場所に、調査など不自然なのだ。しかし、自分はすべての動きを知らされているなどと、自惚れる男ではない。


状況を見極めようとしているうちに、最悪な事態を招くとこだった。


セナに会うなり、地を這うように詫びるしかなかった。マリカは、泣きながら必死でドウシアをかばった。





はぁ………。


何回目のため息だろう。


マリカの友人を使うとは、手段を選ばない、卑劣な相手であると、思い知らされた。こんな輩を相手にするには、自分は甘すぎるのではないか。

 

ドウシアが来てくれたのは、本当に良かった。今は落ち込んでいるが、使命がある以上、立ち直れるだろう。

 

と、ドアが小さくノックされる。


「あの、セナ。」


「ああ、マリカ。」


丁度話したかった、マリカがやって来た。


「ありがとう、リタのこと。」


信用できる医師を、鍛冶屋から紹介してもらえた。マリカの願い通り入院させ、必要と思える料金も払ってやった。


「あの人のことを、完全に赦すことはできないが、子どものいのちがかかってれば、母としてはどうしようもないだろうな。」


しかし、どうしても言わねばならないことがある。この先、更にどんな敵が襲って来るか、わからないのだ。


「マリカ、約束して欲しい。今後、いかなる知人、友人、たとえ恩人であっても、決して俺の知らない所で会わないと。俺がいなければ、ドウシアやコダの意見に従って、身を守ってくれると。」


セナは真剣だ。マリカは、約束した。


セナを、これ以上悲しませないためにも、私がしっかりしなくてはと思った。


「ミリヤが守れても、マリカ、あなたに死なれては駄目なんだ。俺の務めは失敗なんだ。」


「そんなことない、セナはすごくよくやってくれてる。誰もセナが駄目なんて、言いっこない。」


「いや!!!」


マリカは、ハッとした。セナがこんな激しい物言いをするのは、初めてだ。


「誰が許しても、俺が自分を許せないんだ。」


少しの間。


「………愛する女ひとり、守れないなんて。」


(えっ………?)


「俺は………、マリカ、愛してる。」


セナのことばは、はっきり聞こえた。愛してる。マリカの中で、何かが弾けた。


「そんなの、私の方が………。」

 

顔が赤くなる。

 

セナといて、ドキドキ胸が鳴るのを必死で隠してきた。家族を装って、一緒にいるので、どれだけ大変だったか。


「ミリヤが、あなたの腕を枕にして寝るのが、正直うらやましかった。わっ、私も、あなたの手にすがりつきたいって………、きゃっ!」


支離滅裂、そんなことばを、最後まで言えなかった。セナに引き寄せれ、抱きしめられた。


「なっ、セナ?」


「いや、双方の希望が一致したなって思って。」


「???」


「君はすがりつきたい、俺は抱きしめたい。違う?駄目か?」


呼び方が、あなたから君に変わった。


セナは、一瞬でマリカの気持ちを理解したようだ。


ずるい、でも。





「駄目、じゃない………。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ