プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。
旅の準備はできた。
後は出発するだけだ。
セナはもう最後のつもりで、住みなれた我が家を振り返り、見つめた。屋敷にも庭にも、あちこちに思い出が詰まっている。
「………さよなら。」
そして、愛馬のリュウを優しくなでてやり、語りかける。
「行くぞ。これからは、お前が頼りだからな。」
夜が明けない時刻、見送る者はいない。いては、いけない。
しかしふと気づく。小さな姿が、門の傍らにある。
「セナ様、これを、お持ちください。」
使用人の子、タクが小さな荷物を差し出した。中には弁当、干し肉などの非常食、金貨、そして皮でできた巾着袋。
「これは………。」
ブレスレットが入っていた。宝石は付いていないが、鷲をモチーフにしたシンシアティ家の家紋が彫られている。
自分の身分を表すものは、持って行くつもりはなかった。しかしこれは、兄の望みなのだろう。兄のため、家を捨てる決断をした弟への、せめてもの餞別として。
「………わかった、ありがとうタク。」
タクは、涙を堪えられなかった。使用人の子ではあるが、セナに可愛がられてきた。だが、声を出すことはなかった。
「じゃあ、行くな。タク、強い男になれよ。」
そして、セナは旅立った。もう振り返らない。
どこに行くのか、あてのない旅の始まりだった。