第七話 いつだってスイーツ優先
何処にでもいるはずの女性、桜名美姫はホロテイルジュの創設者、桜名琴姫の孫であった。それを未だに隠し続ける桃井剣二と浦賀輝弓。一方の美姫はある日、水原夜衣魚と遊びに出掛ける。途中ダークストーリーズの新たな幹部バブルガスと遭遇してしまうが、夜衣魚がマーメイデストとなり事無きを得るのだった。
人間界と表裏一体を成す異世界、そこにダークストーリーズの本拠地である不気味なお城がそびえ立つ。そこにパンドラスとギルベアー、そしてバブルガスがいた。
「はぁ…、またしくじったかバブルガス。」
「ふん、アタシの力はこの程度じゃないよ。今に見てな。」
パンドラスは作戦に失敗したバブルガスを責めるが、バブルガスは意地を張るように返す。
「どうだかなぁ…、長く世界を支配しようとしている割にホロテイルジュの奴らに邪魔されて上手く行っていないのが俺達ダークストーリーズだからな。」
「まぁ、それは言えてるね。」
パンドラスとバブルガスの会話は次第にダークストーリーズの組織への愚痴へと発展する。
「二人共、誰が聞いているかわからんぞ。少し口を慎め。」
組織への愚痴を溢す二体に、ギルベアーは注意する。そんな時、魔女のような恰好をした二体の怪物が現れる。
「お前ら、ウィッチ・シスターズか。」
「そうよ、私は姉のレフター。」
「そして、私は妹のライター。」
パンドラスは二体に対しウィッチ・シスターズと言う。ウィッチ・シスターズは魔女の能力、つまり魔法を操ることが出来るダークストーリーズの幹部である。
「あなた達ではいつまで経っても世界の支配なんて出来ないわ。」
「ここは私とお姉様に任せて頂けるかしら?」
ウィッチ・シスターズはパンドラス達に対し、嫌味を言う。パンドラス達は良い気がしなかったが、一先ずこの姉妹に作戦を任せることを考える。
「じゃあお前ら、やって見せろ。別に成功しようが失敗しようが俺達には関係ないけどよ。」
パンドラスは二体に人間界への侵攻を任せることにする。そしてウィッチ・シスターズは人間界へ赴くのだった。
それから数日、人間界では奇妙なことが起こる。人々が突然魔法使いのような黒いマントを羽織り、尖った帽子を被り、まるで生ける屍のように徘徊するのだ。しかも必ず夜に徘徊し、日が昇ると自宅に帰ってしまう。人々が変異する条件も突発的なのでわからず、人々はその謎の多さと気味の悪さで混乱に陥っていた。そんなある日、夜の間だけ小さな背丈の怪物が出没するという目撃情報が入る。それを受けてホロテイルジュは夜中、手分けして街をパトロールしていた。そして、美姫は一体の怪物を見つける。
「よし、見つけた。」
怪物を見つけた美姫は張り切って本を開く。
「おとめ座!ダイヤモンド!シンデレラ!」
美姫はシンデレーザーの姿になり、怪物に立ち向かう。
「思っていたより小さいな。これって小人?」
シンデレーザーは怪物の小ささに驚く。しかしこの怪物もダークストーリーズが産み出したマリスだということは察していた。
「さっさと片付けないと。」
シンデレーザーはそう言って右腰のレーザー銃を手に取り、マリスに向ける。
「レーザーストライク!」
シンデレーザーはレーザー光線を放ち、マリスを消滅させる。
「これで街は元に…、戻らないか。」
マリスを倒しても人々の異変が収まらない様子を見て、まだ事件が終わっていないことを察するシンデレーザー。そして美姫の姿に戻り、またパトロールに戻る。
「はぁ…、いつまで続くんだろこんなこと。」
美姫は連日寝ないでパトロールする日が続き、疲れ切っていた。そしてふらふらと歩いていると、美姫は双見アラモードを発見する。
「あ~ん。」
アラモードは近くで夜中に営業しているカフェでパフェを食べていた。美姫はアラモードに話し掛ける。
「アラモードちゃん?」
「あ、美姫さん。」
「何してるの?」
「パトロールに疲れていたらパフェ見つけたんで、つい。」
アラモードは特に悪びれる様子もなく言い訳をする。やはりパフェに夢中になっていたようだ。
「…戻ろっか。」
「あ、はい。今これ食べたら行きますんで。」
美姫はアラモードに、洋館に戻るよう誘う。それを聞いたアラモードは急いでパフェを食べるのだった。
「…八回目だな。」
「何がですか?」
洋館に戻ったホロテイルジュ一同。剣二はアラモードをじっと睨み付けて八回目と話す。その言葉の意味をアラモードは見当も吐かなかった。
「お前が今月、パフェに夢中になって目の前の戦いを疎かにした回数だ!」
「そんなにやらかしてたんだ、今月…。」
美姫はアラモードに驚いてしまう。しかし内心アラモードならやりそうな気もしていた。
「まあ私、パフェを見ると落ち着いていられなくて。」
アラモードはまたしても悪びれる様子はなく、ただ言い訳を述べるだけだった。
「アラモード、あんた最後に戦ったのいつだっけ?」
夜衣魚はふとアラモードに尋ねる。
「えっと、いつだっけ?忘れちゃった。」
アラモードは夜衣魚の問いに答えられなかった。アラモードはしばらくホロテイルジュとして戦うことがなかったのだ。
「お前なぁ、こうしている間にも街には混乱が起きている。お前が最初にホロテイルジュとして戦った時のことを思い出すんだ。」
「そんなこと言われても、もう覚えていません。」
「いいから思い出せ。いいな。」
この日はアラモードへの説教で終わってしまう。そして皆は洋館を出るのだった。
明くる日、美姫は眠くなりながらも会社に行く。
「ふぁ~あ。中々眠い日が続くなぁ。」
美姫が少しふらふらになりながら歩いていると、遠くから鞄を背負って歩くアラモードを見つける。
「あ、アラモードちゃん。大学かな?」
美姫は恐らく大学に向かっているであろうアラモードを見送っていた。
アラモードは普段、大学に通っている。大学での彼女はとりわけ誰かと話すような人ではなく、そして誰かから話し掛けられるような人でもなかった。というのも彼女は大学でも常にパフェを口にしていたからだ。彼女もルックスは良い方なので入学当初こそは話し掛けられることもあった。パフェを食べる性格も最初は「面白い子」として受け入れられることもあったが、講義中でも友人同士の会話中でも構わずパフェを食べていたため、次第に誰も寄り付かなくなった。
「あ~ん。」
アラモードはまたいつものように講義中でも構わずパフェを口にする。そして周りからは白い目で見られていた。
「またパフェ食べてるよ。」
「よく飽きないよね。」
「私だったら吐き気しそう。」
「ていうか私、あの子のせいでパフェ食べられなくなったもん。」
周りはそんな話をしながらアラモードを嘲笑っていた。しかしアラモードにとって周りの目など気にすることではなかった。そしてアラモードはこの日の講義をすべて終え、大学を出るのだった。
大学を出たアラモードが向かったのは、近くのハンバーガーショップだった。彼女は普段、このハンバーガーショップでアルバイトをしている。甘い物好きな彼女がハンバーガーショップで働いていることを意外に思うかも知れない。彼女も以前はスイーツショップで働いていた経験があるのだが、店の物に手を付けてしまって以来甘い物がある店で働くことは自粛しているようだ。とはいえハンバーガーショップでもデザート類を扱っているので彼女にとってはかなりの拷問になる。
「すみませ~ん、注文お願いします。」
「アラモードちゃん、注文受け取って。」
「は~い。」
お客さんの注文を呼ぶ声が聞こえ、アラモードは注文を受け取りに行く。
「はい、お待たせしました。」
アラモードは普段のマイペースとは打って変わって店員らしく迅速にお客さんの元に向かう。
「あの、デザートのアイスクリームをお願いします。」
「あ…、はい。」
アラモードは顔を引きつらせながら注文を受け取る。アラモードにとってデザートの注文は苦手だった。デザートを無事に運ぶ自信がないためである。
「すみませ~ん、デザートの注文入っちゃいました。」
「わかった、俺に任せろ。」
アラモードはデザートの注文を先輩の店員に任せる。アラモードは普段こうしてデザートの誘惑と闘いながらアルバイトを行っていた。
「そんな感じらしいですよ、普段のアラモードって。」
その夜、街をパトロールしていた夜衣魚と美姫、夜衣魚は美姫と歩きながらアラモードの話をしていた。
「周りから浮いちゃうのは大変だね。まあ、周りと関わるのが億劫っていうのはわからなくもないけど。」
「問題は、本人が諸々のことを気に留めてないってことなんですよね。」
美姫は少しアラモードに同情するところもあったが、それでもアラモードには心配するところが大きかった。勿論パフェばかり食べているアラモードがいずれ病気にならないとも限らない。更に所構わずパフェを食べるというのも時と場合を弁えなければならないことでもある。
「大体、何でアラモードちゃんってああなっちゃったの?」
ふと美姫はアラモードがパフェばかり食べることになった理由を夜衣魚に尋ねる。
「ほら、自己紹介で大家族の末っ子って話をしたじゃないですか~。それで甘やかされて育ったらしいですよ、パフェだけに。」
「そうなんだ…。」
夜衣魚はアラモードから聞いた経緯を教え、美姫もなんとなく納得する。そして二人は、追っているマリスのことに話題を変える。
「そう言えば、美姫さんが倒したっていう小人っぽいマリスなんですけど、あの時私も同じマリスに会って倒してるんです。」
「そうなの⁉」
「はい、剣二さんも輝弓君も依斧君も林檎も同じマリスを倒してるみたいで。」
「じゃああのマリス、何体もいるってこと?」
「多分…。」
美姫がマリスを倒した時、街が元に戻らなかった。そして他の皆も同じマリスを同時に倒していたが、それでも街が元に戻らなかったのだ。
「やっぱり、産み出した人間の悪意が大きいってことなのかな?」
「はい、もしかしたらもうちょっと複雑なことかも知れないですけど。」
二人は今回のマリスに手強さを感じてしまう。そしてまた、二人の前に小人のようなマリスが現れる。
「美姫さん、噂をすれば。」
「そうだね。」
マリスを見つけた二人は同時に構え、本を開く。
「おとめ座!ダイヤモンド!シンデレラ!」
「うお座!アクアマリン!人魚姫!」
二人が同時に叫ぶと空におとめ座とうお座が現れ、声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来て!」
「来ちゃって!」
二人の叫び声と同時にそれぞれの星座の最輝星が光を放ち、二人の指輪に届く。そして本から文字が飛び出し二人の体を包む。やがて二人の体は光を放ち、その姿を変える。
「シンデレーザー!」
「マーメイデスト!」
二人はそれぞれ名乗り、マリスに立ち向かう。
「「はぁ!」」
マーメイデストは三又の槍を召喚し、マリスに接近戦を挑む。シンデレーザーは遠方からレーザー銃でマーメイデストのフォローをする。
「マーメイトルネード!」
マーメイデストは本を開き、水竜巻を発生させる。するとマリスは水竜巻の中で溺れてしまう。そしてシンデレーザーはレーザー銃をマリスに向ける。
「レーザーストライク!」
シンデレーザーの攻撃を受けたマリスは消滅してしまう。
「なんとか倒したね。」
「はい、でもやっぱり元に戻りませんね。」
マリスを倒した二人は安堵の気持ちを覚えるが、それでも街が戻らない現状に二人は警戒する。
「苦戦しているようね、ホロテイルジュ。」
「本当、お笑いものだわ。」
突然二人の前に不気味な影が現れる。そしてその影は二体の魔女のような怪物、ウィッチ・シスターズとなって現れる。
「ごきげんよう、私の名はウィッチ・レフター。」
「そして私の名はウィッチ・ライター。」
「「二人合わせてウィッチ・シスターズ。」」
二体はシンデレーザーとマーメイデストの前で名乗る。
「もしかして、今回のマリスを産み出したのはあんた達?」
シンデレーザーは警戒しながらもウィッチ・シスターズに問い掛ける。
「ええそうよ、人間達が生ける屍の如く街を歩き回る。中々滑稽でしょ?」
ウィッチ・レフターは高らかに笑いながら答える。
「あんた達が悪趣味だってことはよ~くわかったよ。またマリスを産み出した人間とつるんでるんじゃない?」
マーメイデストが更に問い掛ける。すると今度はウィッチ・ライターが答える。
「私達にはそんな人間は用済みよ。今回のマリスは少し特殊な構造になってるだけ。」
「特殊な構造?」
シンデレーザーはウィッチ・ライターの言葉に引っ掛かる。そしてウィッチ・レフターはふとシンデレーザー達を横切ってどこかへ行く。
「それにしても、こんなところで呑気にパフェを食べている人間がいるなんてねぇ。」
「「パフェ?」」
シンデレーザーとマーメイデストはもしやと思い、ウィッチ・レフターが向かった先を振り返る。するとそこにはパフェを食べているアラモードがいた。
「あ~ん。」
「アラモード、逃げて!」
マーメイデストはアラモードに逃げるよう叫ぶが、アラモードはパフェに夢中になっているため、聞く耳を持たなかった。
「ダメだ、完全にパフェモード…。」
マーメイデストは落胆してしまう。そしてウィッチ・レフターはアラモードに近付いてしまう。
「こんな物で幸せになるなんて、おめでたいわね。」
ウィッチ・レフターはそう言ってアラモードのパフェのグラスを持ち、傾けて溢してしまう。
「やばっ、見てられない。」
「どうしたの?」
マーメイデストはその光景を見て思わず目を手で覆ってしまう。シンデレーザーはそんなマーメイデストを不思議に感じる。
「さあ、なんとか言ってみなさいよこのおめでたい人間が。」
ウィッチ・レフターはアラモードに嫌味を言うが、その瞬間ウィッチ・レフターの顔に拳が入る。
「お姉様!」
「痛ったいわね!何をするの⁉」
ウィッチ・ライターは驚き姉のウィッチ・レフターを心配する。そしてウィッチ・レフターはアラモードに怒って肩に手を置く。しかしアラモードはウィッチ・レフターをじっと睨み付けていた。
「あんたこそ貴重なパフェをどうしてくれるの⁉」
アラモードはそう言ってウィッチ・レフターの手を振り払い蹴りを入れる。ウィッチ・レフターは驚いてふわふわと浮かんでウィッチ・ライターの元に戻る。しかしアラモードは睨み付けながら鞄から本を取り出してウィッチ・シスターズに向かってゆっくりと歩き、そして立ち止まる。
「ボッコボコにしてあげる。甘い物の恨み、盛大に味わいなさい。」
アラモードはそう言うとポケットから金色のフレームで縁取られたオパールの指輪を取り出し、左手の中指に嵌める。
「完全に本気モード…。」
マーメイデストは怯えながらアラモードを見ていた。そしてアラモードは本を開き、叫ぶ。
「ふたご座!オパール!ヘンゼルとグレーテル!」
アラモードがそう叫ぶと空にふたご座が現れ、声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「カモン!」
アラモードがそう言うと、ふたご座の最輝星が光を放ちオパールの指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、アラモードの体を包む。やがてアラモードの体が光を放ち、戦士へとその姿を変える。
その戦士はピンクと水色のツートンカラーのドレスを着ていて、それは飴やクッキーなどお菓子の柄が描かれている。更にツインテールの髪や目などもピンクと水色のツートンカラーとなっていた。
「ツインスウィーテス!」
その戦士はツインスウィーテスと名乗る。その姿にウィッチ・シスターズは驚く。
「あんた、ホロテイルジュの戦士だったの?」
「そんな馬鹿な。」
しかしツインスウィーテスは未だ二体を睨み付ける。
「驚く暇なんて、与えないから!」
そう言ってツインスウィーテスはウィッチ・シスターズに飛び掛かる。そして二体の首を掴み、地面に叩きつける。そして持ち上げ、投げ飛ばす。
「「うわぁぁぁ!」」
ウィッチ・シスターズの二体は衝撃を受けてしまう。
「こうなったら、マリス!」
ウィッチ・レフターはマリスを呼び出す。するとツインスウィーテスの周りには七体のマリスが現れる。
「七体、そういうこと…。」
ツインスウィーテスは七体のマリスを見て何かを悟ったようだった。そしてマリスの内の一体がツインスウィーテスに向かって闇の力を球状にしてツインスウィーテスに投げつける。
「効かない!」
ツインスウィーテスがそう言うとふたご座が現れて輝く、そしてツインスウィーテスはマリスの攻撃を交わす。するとピンクのドレスの戦士と水色のドレスの戦士の二人に分身していた。
「何あれ⁉」
シンデレーザーは二人に分身したツインスウィーテスに驚いてしまう。そしてマーメイデストがその説明をする。
「あれはふたご座の能力です。確かスウィーテスピンクとスウィーテスライトブルーと言うみたいです。」
そして二人のツインスウィーテスは華麗な動きと連携で七体のマリスを攻め立てる。七体のマリスは目にも止まらぬ速さで攻撃して来る二人に成す術もない。そしてツインスウィーテスはマリスから離れて一人に戻り、本を開く。
「必殺、お菓子の家!」
ツインスウィーテスはマリスの頭上に巨大なお菓子の家を出し、マリスを押し潰す。七体のマリスの内、六体は消滅するが、一体は逃げてしまう。
「ちっ、まさかホロテイルジュにこんなめちゃくちゃな奴がいたなんてね。」
「私達も逃げましょう、お姉様。」
ウィッチ・シスターズの二体はツインスウィーテス達の元を去ってしまう。そしてツインスウィーテスはアラモードの姿に戻り、力が抜けたように崩れ落ちてしまう。
「疲れた~。」
「ちょっと、アラモード。」
「大丈夫?」
マーメイデストとシンデレーザーも元の姿に戻り、アラモードに歩み寄る。
「あ、美姫さんに夜衣魚。」
アラモードは漸く美姫と夜衣魚が近くにいたことに気付いたようだった。
「もう、久し振りに戦ったからかなり疲れたでしょ。」
「良い運動になったよ。」
アラモードは夜衣魚に対してそう言い、手を伸ばす。そして夜衣魚はアラモードの手を掴んで立ち上がらせる。そして三人は帰るのだった。しかし、街にはまだマリスの被害に遭った人達がうろついていた。