第六話 戦わなくちゃいけない時
何処にでもいるはずの女性、桜名美姫はホロテイルジュの一員としてダークストーリーズと戦う生活に慣れつつあった。桃井剣二と浦賀輝弓は美姫がダイヤモンドの指輪を持っていたことに疑問を抱くが、美姫の祖母のことを聞き美姫がホロテイルジュ創設者の孫である事実を知る。しかし二人はそのことを二人だけの秘密にするのだった。
とある休日、桜名美姫はアパレルショップを訪れていた。
「あ、美姫さん!こっちで~す。」
美姫にそう言って手を振るのは水原夜衣魚、ホロテイルジュの戦士である。普段はこのアパレルショップで店員の仕事をしている。この日、美姫は夜衣魚に呼ばれてショップを訪れていたのだ。
「夜衣魚ちゃん、やっぱり店員の恰好をしていると締まるね。」
「何ですか美姫さん、いつもは締まってないみたいな言い方~。」
「ふふっ、ごめんごめん。」
二人はそんなおどけた会話を交わす。
「そうそう、今日はこの服を美姫さんに着てほしくて~。」
夜衣魚はそう言ってある服を美姫に見せる。その服はカジュアルな装いで、美姫も気に入るようなデザインだった。
「あ、これいいかも。」
「ですよね~。この服、更にこれと合わせると~。」
夜衣魚は更に服の説明をする。二人はこうして共に時を過ごすのだった。
一方その頃、人間界と表裏一体の関係を成す異世界。そこに佇むお城にダークストーリーズはいた。そして今日もまたダークストーリーズは人間界を支配しようと目論んでいた。
「デビルホーンがやられたか。」
「ああ、ダークストーリーズとしても初めてのことだ。」
お城の中で、パンドラスとギルベアーはデビルホーンが倒されたことを話していた。
「…ったく、いつかは誰かがやられると思ったがまさかデビルホーンが組織の汚点になるとはな。」
パンドラスはデビルホーンの失態を責めていた。そんな時、また新たな怪物が現れる。その怪物は全身が泡のような装飾で埋め尽くされた不気味な姿をしていた。
「デビルホーンがやられたとなると、アタシがやるしかないよね。」
「バブルガスか。」
パンドラスはその怪物をバブルガスと言う。
「バブルガス、何か作戦でもあるのか?」
「まあ見てな。アタシなら世界の支配なんてすぐだよ。」
ギルベアーがバブルガスに尋ねるが、バブルガスは自信満々な様子で答えて人間界へと赴く。
美姫と夜衣魚は、とあるカフェにいた。夜衣魚はいつもより仕事を早く終え、美姫と共に余暇を過ごしていたのだ。
「久し振りに結構服買っちゃったな。」
「美姫さん、スタイル良いから何でも似合っちゃうんですよ~。」
「夜衣魚ちゃんの説明が良いからだよ。」
二人は先程のアパレルショップの話をしながら優雅な時を過ごしていた。
「ふぅ…。」
「お疲れですか?美姫さん。」
「うん、ちょっとね。」
美姫はふと溜め息を吐いてしまう。夜衣魚はそんな美姫を心配に感じる。
「戦い過ぎなんですよ、美姫さん。ホロテイルジュって言ったって美姫さんには本業もあるんですから、男どもに任せておけば良いんですよ~。」
「まあ、それはそうなんだけど…。」
夜衣魚はそう言って美姫を励ます。言われてみれば美姫は今まで他の女性メンバーが戦っているところを見たことがなかった。そしてもう一つ、美姫はふと疑問に思うことがあった。
「そう言えば、桃井達って普段何の仕事してるの?」
「剣二さん達ですか?一応どこかの会社に勤めているって話は聞いたことあるんですけど、良く知らないです。」
「そうなんだ…。」
美姫はいつも戦いに赴く剣二達が普段何をしているのか気になっていたが、夜衣魚も知らなかった。
「まあでも、私は何となくダークストーリーズの企みを放っておけないだけだから。」
「真面目ですね~美姫さん。」
夜衣魚はホロテイルジュとしての戦いに対して真摯に向き合っている美姫に感心する。
「私も暫く戦ってないなあ~。」
「やっぱりそうなの?」
「はい。」
夜衣魚は美姫に、自身が暫く戦ってないことを明かす。
一方その頃、バブルガスは人間界に降り立っていた。
「さあて、どの人間からマリスを産み出してやろうかな。」
バブルガスはそう言いながら街行く人を吟味する。そんな時、バブルガスはある一人の女性を見つける。その女性は少し俯いている様子だった。
「ちょっとあんた、何をそんなに俯くことがあるんだい?」
バブルガスはその女性にふと尋ねる。
「実は、彼との結婚をお父さんが認めてくれなくて…。」
女性は涙目になりながら話す。その女性によると、由緒正しい家柄の生まれのため一般家庭の生まれである恋人との結婚を認めてもらえないのだそうだ。
「お父さんのわからず屋…。」
「いいねぇ、中々悪意が熟しているんじゃない?」
バブルガスは女性が結婚できないことへのやるせなさに悪意を見出す。そしてバブルガスは女性の頭に手を翳す。
「現れな、マリス。」
バブルガスがそう言うと女性は闇のオーラに包まれ、そこから泡の怪物、バブルガスのマリスが現れる。
「やっちゃいな。」
マリスはバブルガスに命じられると、口から無数の泡を出し街行く人に浴びせる。すると街の人は皆、泡に包まれて空に浮かび上がってしまう。
「いいねぇ、今度のマリスはそういう能力かい。」
バブルガスはそう言ってマリスに微笑む。そしてバブルガスは、更に街中の方へ行く。
一方、美姫と夜衣魚は更に街中を二人で歩いていた。
「夜衣魚ちゃん以外の子は、どれくらい戦ってないの?」
美姫は夜衣魚にふと尋ねる。
「ん~、林檎は多分ちょこちょこ戦っていると思うんですけど、アラモードは勿論滅多に戦うことないですね~。竹月ちゃんと風布花ちゃんは学校があるのであまり戦うことはないです。」
「そっかぁ、やっぱり私も戦いは控えた方が良いのかな?」
美姫はホロテイルジュの他の女性メンバーがあまり戦っていないことを知り、自身も今後の戦い方を考える。
「そうですよ~。美姫さんもホロテイルジュのことは程々にして、普通の生活を謳歌しないと。」
「そうかな?」
美姫も夜衣魚の言葉を受け、今後の自分の在り方について考える。すると美姫は、街の異変に気が付く。
「ところで夜衣魚ちゃん、あれ何?」
「え、あれって?」
夜衣魚は美姫に言われるがまま街を見ると、泡に包まれてふわふわと漂う人達を見る。
「わあ、ふわふわ~。」
「不思議ね…。」
二人は漂う人達を呆然と見てしまう。しかし、すぐにこれがダークストーリーズの仕業であると感じる。
「…ってそうじゃない!これはダークストーリーズ。」
「そうでした!」
我に返った二人の前に、バブルガスとマリスが現れる。
「あら、あんた達はホロテイルジュの奴だね。」
「あんた、ダークストーリーズの幹部?」
「美姫さん、あいつなら前に会ったことあります。確か、泡の幹部バブルガス。」
夜衣魚は美姫に、バブルガスについて話す。
「なるほど、じゃあこの泡もあの幹部のマリスのせいってことだね。」
美姫は全ての状況を理解すると、鞄から本を取り出す。そして本を開こうとするが、それを夜衣魚が止める。
「美姫さん、今ここで無駄に戦っても体力を消費するだけです。ここは剣二さん達に連絡しましょう。」
「あ、そっか…。でも…。」
美姫は夜衣魚に言われ、戦うことを躊躇う。しかし、泡に包まれた人達の声が聞こえる。
「おい、助けてくれ!」
「お願い、助けて!」
その声を聞いた美姫は動き出さずにいられなかった。
「やっぱり戦うよ私。街の人達を見捨てる訳には行かない。」
美姫はそう言って本を開く。
「おとめ座!ダイヤモンド!シンデレラ!」
美姫が叫ぶと空が暗くなり、おとめ座が現れる。そして空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来て!」
美姫がそう叫ぶとおとめ座の最輝星が光を放ち、美姫の指輪のダイヤモンドに届く。そして本から文字が飛び出し、美姫の体を包む。美姫の体が光を放つと、美姫はシンデレーザーへとその姿を変える。
「シンデレーザー!」
「そんな、美姫さん…。」
シンデレーザーは名乗ると、夜衣魚の方を向く。
「夜衣魚ちゃんは街の人達の避難、あと桃井達に連絡、出来たらマリスを産み出した人を探して。」
「…はい。」
夜衣魚は美姫が戦うことを不本意に思いながらも美姫に言われるがまま行動を開始する。
「街の皆さん、ここは危険です!逃げて下さい!」
夜衣魚は街にいた人達を安全なところへ誘導する。
「さてと、行きますか。」
シンデレーザーはそう言ってバブルガスとマリスに立ち向かう。
「もしもし剣二さん?夜衣魚です。今、美姫さんが戦っています。私はマリスを産み出した人を探すので美姫さんのところに行って下さい。」
夜衣魚は剣二に連絡を取りながらマリスを産み出した人間を探していた。
「ああ、わかった。すまないが少し遠いところにいる。お前も美姫に加勢しろ。」
「え、そんな…。」
夜衣魚は剣二の言葉に躊躇ってしまう。しかしそんな時、黒い闇のオーラに包まれている女性を見つける。
「あ、あの人…。」
夜衣魚は恐る恐るその女性に近付く。
「あの、もしかして泡の怪物に会いました?」
「は…、はい。」
「あの、因みにどんな話をしました?」
「私、家柄の関係で彼との結婚を認めてもらえなくて。それでつい、父を憎むようなことを…。」
「な…、なるほど。」
夜衣魚はなんとかマリスを産み出した悪意の元を知る。そして夜衣魚は悪意を断とうと試みる。
「え…、えっとお父さんもあなたのことを心配しているんです。そ…、その彼氏さんとの愛をしっかり伝えられればきっと上手く行きますよ。」
「そう、そうですね!また父を説得してみようと思います。」
夜衣魚の説得で女性は元気を取り戻し、周りから闇のオーラが消える。そして女性は夜衣魚に一礼をした後、夜衣魚の元を後にする。
「ふぅ、これでマリスが復活することはないね…。」
夜衣魚は気が抜けてしまい崩れ落ちてしまう。
「…ってそうじゃない、美姫さんのところに行かないと!」
夜衣魚はふと美姫のことを思い出し、先を急ぐ。
「レーザーストライク!」
シンデレーザーはマリスに必殺技を浴びせるが、マリスは消滅せずに踏み止まる。
「嘘⁉デビルホーンを倒した技なのに…。」
「どうやらあんたの相性はこのマリスと悪いみたいだねぇ。」
シンデレーザーはマリスに手応えを感じられず、焦ってしまう。
「あ、美姫さん…。まだ戦ってた…。」
夜衣魚はシンデレーザーが戦っているところに漸く辿り着くが、思わず物陰に隠れてしまう。そして急いで剣二に連絡する。
「もしもし剣二さん?急いで下さい。美姫さんピンチです。」
「ああわかっている。お前も行けるなら美姫に加勢しろ。」
「そんな、剣二さ…。」
夜衣魚が剣二に何か言おうとするが、途中で切られてしまう。
「どうしよう、戦いは避けたいのに…。」
夜衣魚は戦いに踏み出せないままシンデレーザーが戦っているところを見つめる。
「でも、このままじゃ美姫さんが…。」
夜衣魚は剣二が来るまで美姫に粘って欲しいと願うが、夜衣魚の期待とは裏腹にシンデレーザーは苦戦してしまう。
「うっ、うわぁぁぁぁぁ!」
「美姫さん!」
夜衣魚は苦戦するシンデレーザーを見て、覚悟を決める。
「私が、やらないと…!」
そして夜衣魚はシンデレーザーの方へ向かって立ち上がる。
「さてと、そろそろホロテイルジュも一人減るねぇ…。」
バブルガスはシンデレーザーを見て、意気揚々していた。
「こんなところで…!」
シンデレーザーが悔しがる中、マリスが止めを刺そうとする。
「くっ…!」
シンデレーザーがマリスの攻撃に思わず目を背けてしまった時、遠くから夜衣魚の声が聞こえる。
「待ちなさ~い!」
「夜衣魚ちゃん?」
シンデレーザーは夜衣魚の声が聞こえる方を向く。すると夜衣魚は走りながら近付いて来る。そして夜衣魚はマリスの前に立ちはだかる。
「美姫さんには、これ以上触れさせない!」
夜衣魚はそう言って手を大きく広げる。シンデレーザーは突然現れた夜衣魚に驚いてしまう。
「夜衣魚ちゃん。」
「ごめんなさい美姫さん、戦うの久し振りだから少し戸惑っちゃって…。でも、ここからは私に任せてください。」
夜衣魚はそう言ってポケットから指輪を取り出して左手の中指に嵌める。その指輪はアクアマリンの宝石が金色のフレームで縁取られていた。そして夜衣魚は鞄から本を取り出す。
「良かった~、本持って来てた。」
そして夜衣魚は本を開き、叫ぶ。
「うお座!アクアマリン!人魚姫!」
夜衣魚の叫び声と共に空が暗くなりうお座が現れる。そして空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来ちゃって!」
夜衣魚の叫び声と共にうお座の最輝星が光を放ち、アクアマリンの指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、夜衣魚の体を包む。夜衣魚の体は光を放ち、その姿を変える。
夜衣魚がその姿を変えた戦士は、魚の鱗のようなドレスに覆われ、髪は長いポニーテール、そして魚の鰭がついた髪飾りををしていた。そして顔にはメイクが施されている。
「マーメイデスト!」
その戦士はマーメイデストと名乗る。そしてマーメイデストはマリスに立ち向かう。
「マーメイトライデント!」
マーメイデストはそう言うと三又の槍を召喚する。華麗に槍を振り回し、マリスに攻撃する。
「はぁ!」
マリスはマーメイデストの攻撃に翻弄される。
「凄い…。」
マリスに対し優勢になるマーメイデストに、シンデレーザーは魅入ってしまう。
「トライデントクロス!」
マーメイデストはそう言ってマリスをX字型に切り裂く。そしてマリスは消滅してしまう。
「完了…。次はあんたの番だよ、バブルガス!」
マーメイデストはそう言って槍をバブルガスに向ける。
「ふん、今日はこのくらいにしてやる。」
バブルガスはそう言うと立ち去ってしまう。そして戦いを終えたマーメイデストとシンデレーザーの元に、漸く剣二が駆けつける。
「終わったか。あれはマーメイデスト、久し振りに見たな。」
剣二は久々に見るマーメイデストの姿に嬉しくなる。そしてマーメイデストとシンデレーザーの二人は元の姿に戻る。
「ふぅ…。」
「疲れましたね、美姫さん。」
「そうだね。」
美姫と夜衣魚はお互いを労う。剣二も二人の元に歩み寄る。
「すまなかったな、二人共。」
剣二も二人を労うが、夜衣魚は剣二を軽く睨み付ける。
「もう、剣二さん遅い!私戦っちゃったじゃないですか~。」
「お前もホロテイルジュなんだからいいだろ。」
夜衣魚は剣二が遅れて来たことを責めるが、剣二は夜衣魚が戦ったことで悪びれる様子はなかった。
「夜衣魚ちゃん、今日はもう帰ろう?」
美姫はすっかり疲れてしまい、夜衣魚に帰ることを提案する。
「そうですね。」
「ああ。」
夜衣魚と剣二も賛同し、この日は三人揃って帰るのであった。