第五話 秘められしDNA
何処にでもいるはずの女性、桜名美姫はダークストーリーズの幹部、パンドラスが産み出したマリスに苦戦してしまう。ホロテイルジュの一同はマリスを産み出した人間の悪意を消す作戦に出て、なんとか悪意を消すことに成功する。一方、お相撲の技を身に付けてパワーアップしたマリスに苦戦するキルビーレオンだったが、金山依斧が姿を変えたアックシトリナーの助けもあってなんとか倒すことに成功したのだった。
ある日、桃井剣二は美姫に対する疑問を解消すべくホロテイルジュの本拠地である洋館にある一室、書庫を訪れていた。この書庫には、星座、宝石、童話に関することやホロテイルジュに関することが調べられる書物がずらりと並んでいる。
「よっ剣二、こんなところにいたのか。」
「輝弓か。」
浦賀輝弓は剣二に話し掛ける。因みに輝弓は剣二にフランクに話し掛けているが、剣二は29歳で輝弓は24歳なので実際には5歳も年の差がある。しかし剣二は敬語が嫌いなので特に気にしてはいない様子だった。
「何を調べてた訳?」
「ダイヤモンドの行方について、ちょっとな。」
輝弓の質問に、剣二はそう答える。剣二は美姫に会った時からずっと、美姫がダイヤモンドの指輪を持っていたことを気に掛けていた。ホロテイルジュのメンバーは皆、他のメンバーに会うか洋館に迷い込むなどしてホロテイルジュのメンバーとなっていた。剣二はある時、見知らぬ男性に導かれるようにこの洋館へと辿り着いた経緯を持つ。
「俺がここに辿り着いた時、このルビーの指輪と本が置かれていた。そして俺はこのホロテイルジュに入ることにしたんだ。」
「よくそんな得体の知れない組織に入ろうと思ったね。俺なんか剣二がいなきゃ絶対入ってなかったよ。」
輝弓は剣二のホロテイルジュへ入った時の話を聞き、剣二に感心する。
「それで剣二、何かわかった?ダイヤモンドの指輪のこと。」
輝弓は剣二に、ダイヤモンドの指輪について尋ねる。
「ああ、ちょっとな…。」
剣二はそう言って調べてわかったことをゆっくりと話し出す。
「元々ダイヤモンドの指輪は、このホロテイルジュの創設者が使っていたものなんだ。」
「ホロテイルジュの創設者?」
「ああ、つまりは最初に戦士の姿になった者だ。創設者の名は土ノ瀬琴姫というらしい。この人は様々な星座と童話の力を使い、ダークストーリーズと戦っていた話だ。」
「へぇ、それっていつの話?」
「ざっと70年前の話だ。」
「うへぇ、じゃあダークストーリーズとの戦いもそんなに続いているわけですか~。」
輝弓はホロテイルジュの戦いの歴史が70年も続いていることに気が遠くなってしまう。そして剣二は更に話を進める。
「だがこの創設者はダークストーリーズとの戦いが佳境に入る頃、戦いに疲れたのか定かではないが失踪している。」
「失踪⁉」
「ああ、この人はその際にダイヤモンドの指輪だけを持って行ったということだ。」
剣二は説明を終え、輝弓はあることに気が付く。
「じゃあ美姫さんは創設者と繋がりがあるってことになる…よね?」
「恐らくな。」
二人は美姫が創設者と何か繋がりがあることを感じとっていた。そんな時、金山依斧が二人の元に現れる。
「剣二さん、輝弓。ダークストーリーズが。」
「そうか。」
「早速行こうぜ。」
そして三人は洋館を出てダークストーリーズの元に向かう。
一方、美姫はいつものように仕事に明け暮れていた。ホロテイルジュの一員になったからといっていきなり日常が変わることもなかった。美姫自体は内心忙しくなった感じはしているが、基本は何も変わらない日常が過ぎ去っていくだけであった。
「はぁ…、ホロテイルジュにいないと張り合いがないな…。」
美姫はそう思いながらダイヤモンドの指輪を見つめていた。
「それにしても、何でお祖母ちゃんの指輪であんな力を引き出せるんだろう…。」
美姫は亡くなった祖母から引き取った指輪について少し疑問を抱いていた。そんな時、剣二から連絡が入る。
「美姫、ダークストーリーズが出た。今から来られるか?」
「ちょっと、今日は平日なんだから無理。そっちでやってよ。」
美姫は仕事に忙しいため、剣二に出られないと話す。そして引き続き仕事をするのだった。
「ダメだ、美姫も来られない。」
「夜衣魚ちゃんも林檎ちゃんもダメだよ。」
輝弓も水原夜衣魚と鈴木林檎に連絡をしたが、二人共仕事が忙しくて来られそうになかった。勿論、三浦竹月と赤園風布花は学校があるため連絡をすることも出来なかった。
「依斧、そっちはどうだ?」
剣二は双見アラモードに連絡していた依斧に尋ねる。
「アラモードも大学の講義があって来られないと何か食べながら言っていた。」
「…あいつ多分、大学の講義中に食ってるな。」
剣二は相変わらずアラモードに呆れてしまう。そして男三人だけで行くことにしたのであった。
三人が街に行くと、デビルホーンが暴れていた。
「またお前か、一体何の真似だ。」
剣二は暴れるデビルホーンに問い出す。
「あ⁉うるせぇよ。この前の老人化失敗の件でパンドラスの奴が無駄に落ち込みやがって、暴れてこいなんて言われてこっちはやってられねぇんだよ。」
「ダークストーリーズって、意外とノープランで動くのね…。」
輝弓はデビルホーンの言い分に少し呆れていた。
「まあいい。行くぞ輝弓、依斧。」
「ああ!」
「任せてください!」
そして三人は一斉に本を開く。
「しし座!ルビー!桃太郎!」
「みずがめ座!サファイア!浦島太郎!」
「おうし座!シトリン!金太郎!」
三人がそう叫ぶと空が暗くなり、しし座とみずがめ座とおうし座が現れて空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来い!」
「来な!」
「来るんだ!」
三人が空にそう叫ぶとそれぞれの星座の最輝星が光を放ち、三人の指輪の宝石に届く。そして本から文字が飛び出し、三人の体を包む。やがて三人の体は光を放ち、その姿を変えるのだった。
「キルビーレオン。」
「サファイアロード。」
「アックシトリナー。」
三人はそれぞれ名乗り、デビルホーンに立ち向かう。
「ここで幹部を一人潰すぞ。」
「ああ!」
「はい!」
三人はデビルホーンを倒そうと必死になっていた。
「…ったく、躍起になるねぇ。今も昔も。」
デビルホーンは三人に対し、呆れ気味にそう返すが、キルビーレオンにはその言葉が少し引っ掛かってしまう。
「おい、昔とはいつの話だ!?誰のことを言っている?」
キルビーレオンはデビルホーンに斬りかかりながら尋ねる。デビルホーンは急に自分の言葉に食いつくキルビーレオンを気味悪く感じる。
「あ⁉昔って最初にホロテイルジュの奴らが突っ掛かって来た時だろ?」
「昔のホロテイルジュ?」
デビルホーンの言葉には、サファイアロードも気に掛かってしまう。二人は書庫でホロテイルジュの創設者について調べていたばかりであったからだ。
「じゃあお前、最初にダイヤモンドの指輪をはめた戦士のことも知っているか?」
キルビーレオンはデビルホーンがホロテイルジュの創設者のことも知っているのかと思い、尋ねる。
「ダイヤモンドの指輪?いちいちてめーらの指なんか見るかよ。けど、今の白いドレスの奴に似た奴なら覚えているな。」
「「なっ⁉」」
キルビーレオンとサファイアロードは同時に驚きの声が漏れてしまう。そしてキルビーレオンはデビルホーンの首に剣を突きつけ、攻撃の手を止める。
「何のつもりですか?」
アックシトリナーは突然のキルビーレオンの行動に驚いてしまう。しかしキルビーレオンは、あることを思いついていた。
「こいつを生け捕りにする。」
「マジ?」
キルビーレオンの言葉にデビルホーンは思わず変な声が出る。そしてキルビーレオン達三人は皆元の姿に戻る。
「ちょっと剣二さん、本気ですか?」
「いや依斧、これは悪い話じゃない。」
依斧も驚いて剣二に問い詰めるが、輝弓は剣二の思惑を見抜いていた。
「今、こいつになら三人掛かりでなんとか倒せる。今なら倒す前にこいつから昔のホロテイルジュのことを洗いざらい聞かせてもらえるってこと。」
「ああ、そういうことだ。」
剣二はデビルホーンからホロテイルジュの創設者について聞き出そうと考えていた。それは輝弓も察していたことだった。
「なるほど、ホロテイルジュが創設された頃から戦っているデビルホーンからホロテイルジュの歴史を学び、組織力を上げようということか。」
「うん、そんな教育的な目的じゃないけどね。」
少し解釈違いを起こす依斧を輝弓は諭す。そして三人は、デビルホーンを洋館に連れて行くのだった。
「ふぅ…。」
美姫は仕事をなんとか切り上げているところだった。ふと気が抜けたように溜め息を吐く美姫。
「そう言えば、桃井達は大丈夫だったかな?」
美姫はふとそう思い、会社を出るとホロテイルジュの本拠地である洋館に向かった。
一方その頃、剣二達はデビルホーンを洋館に連れ込み、椅子に縛り付けていた。
「何だよお前ら、俺を放しやがれ!」
椅子に縛り付けられたデビルホーンは声を荒げる。そんなデビルホーンに対し、剣二達三人は体中をまさぐり出す。
「お前ら何をしている?うっ、うひゃひゃひゃひゃ…!」
体中をまさぐられたデビルホーンはくすぐったくなって笑ってしまう。そして三人はデビルホーンのポケットからある水晶のような者を見つける。剣二はデビルホーンに尋ねる。
「これは何だ?」
「あ⁉これは本拠地に連絡を取るための物だ。」
「よしわかった。輝弓。」
剣二は水晶が連絡ツールだとわかると、それを輝弓に渡す。
「オッケー、せーのっ!」
輝弓はそう言うと水晶を思い切り床に叩きつけ、割ってしまう。
「依斧、箒と塵取り。」
「わかった。」
「あ、お前ら!」
輝弓は依斧に、流れるように箒と塵取りを持って来ることを頼み、依斧も流れるように箒と塵取りを持って来る。デビルホーンはその光景に怒りを覚える。
「ここはホロテイルジュの本拠地なんだ。ここを敵に知られる訳には行かないからな。」
「野郎ども…!」
デビルホーンは正義の味方とは思えない剣二達の行動に、更に怒りを覚える。そんなデビルホーンを気に留めず、剣二は本題に入る。
「さて、お前が言っていたシンデレーザーに似た戦士のことを教えてもらおう。」
「ああ、あいつのことな。」
デビルホーンもホロテイルジュの創設者のことを思い出し、ゆっくりと話し出す。
「お前らの組織が最初に俺達の前に現れた頃、確か5、6人位いたか。その中でも白いドレスの女は確かな強さだったぜ。戦闘のセンスは勿論、星座の力も童話の力も使いこなせていた。今のお前らよりもな。」
デビルホーンは剣二達への皮肉を交ぜながら話す。しかし、輝弓は話の中でふと疑問に思うことがあった。
「けど、その代の戦士達でもダークストーリーズを倒せなかったんだよな。」
「ああ、その時はホロテイルジュの奴らも本当の力を発揮するための力が揃ってなかったんだと。そして一番強かったその白いドレスの奴も次第に姿を現わさなくなった。」
「なるほど、創設者が失踪したのは長く続く戦いに疲れたからなのか。」
剣二達はホロテイルジュの創設者が失踪した理由をなんとなく察した。そしてデビルホーンは更に話を続ける。
「ホロテイルジュの奴らはそれから戦士の交代を繰り返して今に至る。こんなに揃ったのはお前らが初めてだ。」
「ホロテイルジュって、俺達の知らないことだらけだな。」
輝弓はホロテイルジュの奥深さに唖然としていた。
「さあ、お前らの知りたいことは話してやった。さっさと俺を放しやがれ。」
デビルホーンは話し終わると解放を要求する。
「ああ、そうか。」
依斧はデビルホーンに言われるがまま縛り付けている縄を解いてしまう。
「おい依斧!」
剣二は縄を解く依斧に思わず叫んでしまう。
「いや、やはり倒す時はフェアプレーをと思って。」
「そこで真面目にやらなくていいって…。」
輝弓は思わず依斧に呆れてしまう。そして縄が解けたデビルホーンは思い切り依斧の足を踏みつける。
「よっ!」
「いった!」
依斧は足を痛がっている中、デビルホーンは洋館を出てしまう。
「あいつ、逃げやがった!」
「おい、追いかけるぞ!」
剣二、輝弓、依斧の三人は慌ててデビルホーンを追いかける。そしてデビルホーンが洋館の門を出るところでやっと追いつく。
「待て!」
剣二の叫び声でデビルホーンは剣二達の方を振り返る。
「へへ、水晶を割られたってまた本拠地に戻ればいいだけのことよ。残念だったな、お前らの基地のことはしっかり上に報告させて貰うぜ。」
デビルホーンは意気揚々にそう言うと自身の本拠地に戻ろうと再び振り返る。すると、一本のレーザー光線がデビルホーンの旨を直撃する。
「レーザーストライク!」
そう言ってデビルホーンにレーザー光線を浴びせたのはシンデレーザーだった。
「そんな…、マジかよ…。」
そう言ってデビルホーンは消滅してしまう。
「シンデレーザー!」
「何でデビルホーンが洋館にいる訳?」
剣二達三人はシンデレーザーが現れたことに驚くが、シンデレーザーはそれ以上にデビルホーンが洋館の前にいたことに驚いていた。シンデレーザーは美姫の姿に戻る。
「いや…、あの、それはですね…。」
輝弓は美姫にことの詳細を話そうとするが、上手く言葉が出ない。
「実は、デビルホーンを生け捕りにして情報を聞き出そうとしていました。」
「あ、馬鹿!」
依斧は何の躊躇いもなく美姫に事の一切を話し、輝弓は思わず依斧に注意する。そして美姫は三人に呆れていた。
「だったらどうして逃がすの?本当、詰めが甘いったらないわ。」
美姫は三人に呆れながらそう言うと洋館へと入る。三人も慌てて美姫の後を追うように洋館に入るのだった。
「で、何を聞き出していたの?敵の本拠地?」
洋館に戻った美姫は剣二達に問い出す。
「いや、昔のホロテイルジュのことだ。あいつは当時のことを知っているから、少し気になっていたことがあってな。」
「わざわざ敵の幹部を生け捕りにして聞いたことがそれ⁉」
「言っておくが今後にとっても大事なことだ。」
「何言ってるの⁉真っ先に倒す方が先決でしょ⁉昔の組織のことなんてどうでもいいでしょ!」
「お前、偉そうなことを言うな!」
やがて美姫と剣二の会話は口喧嘩になってしまう。二人を止めるように輝弓が間に入る。
「まあまあお二人さん、今日はダークストーリーズの幹部を一人撃破したんだから、お祝いと行きましょうよ。」
「ああ、それがいいです。」
依斧も輝弓に賛同する。そして美姫も漸く落ち着く。
「まあいっか、それで。ところでダークストーリーズの幹部を倒すなんて、どれくらい振りのことなの?」
落ち着いた美姫は、幹部を一体倒すという一つの山場を迎えたのでふと剣二に問う。
「ああ、ホロテイルジュの長い歴史の中でも幹部を倒したという記録は残っていない。恐らく今日が初めてだろう。」
「え、嘘でしょ⁉」
美姫は自分がホロテイルジュの快挙をあっさり成し遂げていたことに驚いてしまう。
「凄いじゃないですか美姫さん。これはみんな呼んでパーッと行きましょうよ。」
「ま、今日くらいはいっか。」
輝弓は美姫を持ち上げるように言う。美姫も一つの転機と認識して輝弓の提案に乗る。
「よし、じゃあ依斧はみんなに連絡して。」
「ああ、わかった。」
こうして依斧は他のホロテイルジュのメンバーに連絡を取る。そして輝弓はふと美姫に尋ねる。
「ところで美姫さん、ダイヤモンドの指輪のことなんですけど…。」
「ん?この指輪のこと?」
美姫は輝弓に指輪のことを尋ねられ、特に気に留めることもなく話し出す。
「この指輪、元々私のお祖母ちゃんがしていた物なの。お祖母ちゃんが亡くなった時に私が引き取ったんだ。」
「へ、へぇ…。そのお祖母ちゃんって、名前はなんて言うんですか?」
「名前?桜名…、琴姫だけど。」
「こここ、琴姫⁉」
「それは本当か⁉美姫。」
「うん。」
輝弓は美姫から祖母の名前が琴姫だと聞き、思わず声が裏返ってしまう。これには流石の剣二も驚きの表情を隠せなかった。
「輝弓、ちょっと…。」
「ああ、わかってる…。」
剣二は輝弓を書庫に誘う。輝弓も剣二が言いたいことはなんとなく察していた。そして二人は書庫で密かに話し合う。
「剣二、点と点が線になったな。」
「ああ、間違いない。ホロテイルジュの創設者の土ノ瀬琴姫は美姫の祖母に当たる人物だ。」
二人は美姫の祖母がホロテイルジュの創設者であることを確信していた。そして輝弓は一つだけ疑問に思うことがあった。
「あの指輪って、戦士の資格を持つ人にしか嵌めることが出来ないって話だったよな?」
「ああ、前に俺が他の指輪を嵌めようとしても不思議な力が働いて出来なかった。」
そう、実はホロテイルジュの戦士になるには指輪の宝石に戦士の資格を与えられる必要があり、その条件は未だ謎に包まれていた。そして輝弓はある仮説を立てる。
「もしも創設者が戦士になるための条件に何かしら気付いていたとしたら、美姫さんを戦士に育てていたってことも…。」
「ああ、それも有り得るな。美姫は今まで倒せなかったダークストーリーズの幹部も一撃で倒している。少なくとも俺達よりも潜在能力は高い。」
二人は、美姫が秘められた力を持った戦士であるような気がしていた。しかし、それは二人だけでそっと胸にしまっておくことにしたのであった。