第四話 お相撲で勝負だ!
何処にでもいるはずの女性、桜名美姫はダークストーリーズの幹部の一人、パンドラスが産み出した怪物マリスを桃井剣二、浦賀輝弓と共に一度は倒すが、マリスは復活してしまう。輝弓はマリスを産み出した人間がまだパンドラスに捕まっているのではないかと推測するのだった。
復活してしまったマリス。そしてマリスは何処かへ去ってしまう。
「待て!逃げるな!」
慌ててシンデレーザーが追いかけようとするが、マリスはすぐに見えなくなった。
「仕方がない、今日はもう退くぞ。」
キルビーレオンがそう言うと皆は元の姿に戻る。
「ごめんなさい、美姫さん。」
「え?」
サファイアロードから戻った輝弓は突然美姫に謝る。美姫はそれに少し驚く。
「いや、マリスを産み出した人間のことは気にしなくていいなんて言って。」
「そんな気にしなくていいよ。多分稀なケースなんでしょ?」
美姫は少し落ち込む輝弓を励ます。
「取り敢えず洋館に全員を呼んで対策を立てよう。」
「そうだね、剣二。」
キルビーレオンから戻った剣二はまた洋館に戻り、ホロテイルジュの皆を呼び出すことを決める。そして剣二はパフェを食べている双見アラモードの元に歩み寄る。
「アラモード、洋館に行くぞ。そろそろパフェを食べるのを止めろ。」
「剣二さん、おふかぇはわでふぅ。」
剣二に咎められたアラモードはパフェのスプーンを咥えたまま喋る。恐らくお疲れ様ですと言いたいのだろう。未だに他人事のように考えているアラモードであった。
洋館に集まった一同。しかし全員集まった訳ではなく、集まったのは美姫、剣二、輝弓、アラモード、そして金山依斧、鈴木林檎の六人だけだった。
「夜衣魚は急にアパレルショップの仕事が入ったらしくて、竹月ちゃんと風布花ちゃんは平日なので普通に学校です。」
「ありがとう、林檎ちゃん。」
林檎は水原夜衣魚、三浦竹月、赤園風布花の欠席理由を話す。律儀に説明してくれた林檎に美姫は感謝する。
「よし、それじゃあ現状の説明をする。」
剣二は仕切り直して皆を見渡しながら話す。
「まず、今回のマリスを倒せなかった。つまり、まだマリスを産み出した人間はパンドラスと一緒にいて今も悪意を出している可能性がある。」
「その人間を見つけて、悪意を正してあげるってことが優先って訳だね。」
剣二の説明をフォローするように輝弓が言葉を挟む。
「ああ、そのためにまずはその人間を探そう。」
こうして、ホロテイルジュによる作戦が行われた。
それから数日、街が老人で溢れかえり街の経済的にも大きな損失を受けている中、ホロテイルジュの一同は一丸となって今回のマリスを産み出した人間を探した。手掛かりとしてはまず人々の老化を望む者、恐らく自分が若くいたいといった願望を持っている人間だと思われる。そしてもう一つ、街が一種のパンデミック状態になっているので外に出ていない人間ということも考えられた。それらを総合して調べて行くと、パンドラスの目撃情報が数件上がった。そしてパンドラスが去って行った方向に向かって進むと、一件のアパートに辿り着いたのだった。
そのアパートの一室ではパンドラスとデビルホーン、そして部屋の主と思われる三十代後半の女性が一緒に居た。
「お前のお望み通り、街の奴らはヨボヨボだぜ。」
パンドラスはその女性に話し掛ける。女性の名は前田蓮子、かつてモデルを目指して上京し、一時期はトップファッションモデルとして名を馳せたが、ある時自分の老いに絶望してしまいモデル業を断念した過去を持っていた。しかしモデルとしてのプライドが捻じ曲がってしまい、周りの人達を老化させてしまいたいと考えるようになってしまったのだ。
「まさか本当にやってくれるなんて思わなかったよ。ありがとうね。」
蓮子はパンドラスに感謝する。そしてデビルホーンはパンドラスに感心していた。
「なるほど、美しくありたいって欲望がああいうマリスを産み出した訳か。まあありふれたネタっぽいが、確かに老人化は支配し易くなるな。」
「そう言うことだよ、デビルホーン。お前のやり方は暴力に任せっぱなしだからな。」
「うるせぇ。」
パンドラスはデビルホーンを蔑みながら自慢をする。それはデビルホーンにとって、耳の痛い話であった。
一方、アパートの外では竹月と風布花が張り込みをしていた。その二人は丁度パンドラスがアパートの一室に入って行くのを見て後をつけて行ったのだ。そして竹月は双眼鏡で窓を監視し、風布花は何故か集音器で会話を聞いていた。
「当たりですね、風布花ちゃん。」
「そうですね、竹月さん。」
二人は街を徘徊して調べていた他、学校でも聞き込みをしていたのだ。因みに学校では先生も生徒も老人と化していたが、授業はいつも通り行われていた。
「あとはあの女性を説得するだけですね。」
「頑張りましょう。」
竹月と風布花はお互いに意気込む。しかし窓からパンドラスが竹月と風布花を覗いて来た。
「まずいです風布花ちゃん!パンドラスさんがこっちを見ました!」
「それじゃあ逃げないと!」
二人は焦って逃げようとする。しかしパンドラスは窓をバタンと開けて飛び降りる。
「見~つけた。」
パンドラスはニヤリと微笑みながら竹月と風布花に迫る。二人は必死になって逃げる。
「逃がすか!」
そう言ってパンドラスは走り出す。そして二人が草むらに近付いた時、草むらから矢が放たれる。パンドラスは驚きながらも矢を掴む。
「あ?何だこれ?」
不思議に感じるパンドラスだったが、草むらからサファイアロードが出て来る。
「残念だったね、パンドラス。」
「何だ、お前かよ。」
サファイアロードはパンドラスを挑発する。
「まさか未成年の子にだけ張り込みなんて危険な真似させると思った?見つかることも想定内なんだよ。」
サファイアロードはそう言ってパンドラスに立ち向かう。その間に竹月と風布花は叫ぶ。
「「今です!美姫さん、夜衣魚さん。」」
二人がそう叫ぶと美姫と夜衣魚はアパートの蓮子の部屋に飛び込む。
「おっ邪魔っしま~す。」
夜衣魚がそう言いながら部屋に入ると、蓮子とデビルホーンがいた。
「お前ら!」
「あんた邪魔!」
デビルホーンは美姫と夜衣魚に動揺するが、そんなデビルホーンを美姫は蹴り飛ばす。そして夜衣魚は蓮子に近付く。
「ちょっと来て下さい!」
夜衣魚はそう言って蓮子の腕を掴む。
「ちょっと、あなた何?」
蓮子は動揺するが、美姫と夜衣魚は蓮子を連れて部屋から出るのだった。その様子を見ていたパンドラスは悔しがる。
「くそ、気を逸らせたのか。」
「そう言うこと。」
サファイアロードはそう言ってパンドラスを挑発する。そして弓を射ようとした時、パンドラスは逃げ出す。
「もうここにはいられないな。帰るぞデビルホーン。」
「ちっ、わーったよ。」
デビルホーンは舌打ちしながらも部屋を出てパンドラスと共にその場を立ち去るのだった。
「うわ、逃げやがった。」
サファイアロードは後を追おうとするが、あえなく見届ける破目になる。そしてサファイアロードは輝弓の姿に戻るのだった。
「「大丈夫ですか?輝弓さん。」」
竹月と風布花は輝弓を心配して歩み寄る。
「ああ。ありがとうね、竹月ちゃん、風布花ちゃん。」
輝弓は気遣ってくれる二人に感謝する。しかしパンドラスを逃がしたことを悔やむのだった。
「見つけたぞ、マリス!」
一方その頃、街中でマリスを見つけた剣二は走りながら急いで本を開く。
「しし座!ルビー!桃太郎!」
剣二は叫び、空が暗くなって一瞬にして剣二はキルビーレオンへとその姿を変える。
「キルビーレオン!」
キルビーレオンは名乗るとマリスに斬り掛かる。
「人間の悪意を消すまで、俺がなんとかしないと。」
キルビーレオンは焦りながらもなんとかマリスに対して優勢になる。
「秘剣・桃の舞!」
そしてキルビーレオンは必殺技を決め、マリスを消滅させる。
「はぁはぁ…。」
キルビーレオンは息を切らしながらもまた復活するマリスに備えて警戒するが、そこに熊に似た怪物が現れる。
「誰だ?」
キルビーレオンは突然現れた怪物に驚く。そしてその怪物は喋り出す。
「俺の名はギルベアー、ダークストーリーズの幹部の一人だ。今日はパンドラスに頼まれてな。」
「パンドラスに?」
キルビーレオンはギルベアーの言葉を不思議がるが、そんなキルビーレオンを余所目にギルベアーは復活しようとするマリスに手を翳す。するとギルベアーから何か怪しげなオーラがマリスに流れ込む。
「何をしている。」
「マリスのパワーアップだ。」
ギルベアーがそう言うとマリスは復活し、四股を踏み出す。
「は?」
剣二は一瞬唖然としてしまうが、マリスは突然お相撲の突っ張りのような攻撃を繰り出す。
「お相撲だと?お前一体何をした?」
キルビーレオンは突然のマリスの攻撃に困惑し、ギルベアーに問い出す。
「マリスが再び復活するとき、俺の力を流した。」
「くっ、他の幹部の力が加わったということか。」
ギルベアーは自分の力をマリスに与えたことを話し、キルビーレオンは劣勢になったと感じる。そしてギルベアーはキルビーレオンの元を立ち去る。キルビーレオンは一人、マリスに立ち向かうのだった。
一方その頃、美姫と夜衣魚は蓮子を連れて人気のないところに移動していた。夜衣魚が連れて来た先には美姫の他に林檎とアラモードがいた。アラモード以外の三人は蓮子を睨み付け、アラモードは相変わらず一人パフェを食べている。
「何よあんた達、何でババァになってない訳?」
蓮子は老人と化していない美姫達に驚いていた。
「まあ私達は一応、力に守られてるので。」
美姫は蓮子に一応の説明をするが、蓮子は理解出来なかった。
「まあいいわ。あんた達は私をこんなところに連れて来て何がしたい訳?」
蓮子は美姫達に自分を連れて来た理由を問い出す。そして美姫は本題に入る。
「率直に言わせて貰いますけど、街の人達を老人にするの、止めてもらいます?街の人達は老人になっているから、思うように働けてないの。」
「お断りよ。私は若く、美しくありたい。そのためには周りを落とすしかないの。」
「「「はぁ⁉」」」
美姫と夜衣魚と林檎は、蓮子の身勝手な言い分に怒りを覚える。
「あの、あなたがやっていることはルックスのレベルを落とすだけじゃないんです。老化して頭も体も思うように動けない人で溢れているんです。わかっているんですか?」
怒りを覚えた林檎は蓮子にその怒りをぶつける。しかし蓮子は反省する様子がなかった。
「そんなこと、知らないわよ。正直私にとっては、老人が溢れかえっている光景なんていい気味だわ。」
「それ本気で言ってるんですか⁉」
流石の夜衣魚も怒りをぶつけてしまう。そしてアラモードも怒りを覚えたのか、パフェのグラスを机に叩きつける。
「あの!これを食べてください!」
アラモードはスプーンでパフェを掬い、蓮子に食べさせる。
「何よこれ!あ、これって…。」
蓮子は無理矢理パフェを食べさせられたことに困惑するが、パフェを食べてあることに気が付く。そしてアラモードは蓮子に怒りをぶつける。
「このパフェ、店員さんが老化しているせいで味も盛り付けも落ちているんです。これもあなたのせいなんです。」
「ちょっとアラモード、パフェなんて些細な話でしょ。」
林檎はアラモードの話が蓮子を説得出来るわけがないと呆れてしまう。しかし、蓮子は何故か俯いてしまう。
「…私が悪かったわ。」
「「「…は?」」」
美姫と夜衣魚と林檎は突然蓮子が反省し出したことに唖然としてしまう。
「自分だけが幸せになりたいだなんて身勝手なことをしたせいでこのパフェの質を落としていたなんて…。」
「パフェで…?」
美姫は蓮子がパフェで反省したことに開いた口が塞がらない気分だった。
「ま、まあ、美姫さん。これで恐らくこの人から悪意は無くなりました。これでマリスを倒せます。」
夜衣魚は唖然としている美姫に話し掛ける。かくしてホロテイルジュはマリスを倒す手立てを得るのであった。
「…と、そういうわけでマリスは倒せるからあと宜しくね。」
「パフェで、か…。」
キルビーレオンは美姫から蓮子を説得して悪意を除いたと連絡を受けるが、パフェで解決したことに唖然としていた。しかしキルビーレオンはお相撲で攻撃してくるマリスに苦戦していた。
「なるほど、パンドラスはマリスの再生能力がなくなることを見越していたのか…。」
キルビーレオンはパンドラスの目論みを大体察する。しかしマリスにパワーで押されてしまい、成す術もなかった。
「剣二さん!」
そんな時、キルビーレオンの元に依斧が駆けつける。
「依斧、マリスがパワーアップしているんだ。頼む。」
「任せてください。」
依斧はマリスがパワーアップしていることを理解すると、ポケットから金色のフレームで縁取られたシトリンの指輪を取り出し、左手の中指に嵌める。そして本を開き、マリスを睨み付ける。
「おうし座!シトリン!金太郎!」
依斧がそう叫ぶと、空が暗くなる。そしておうし座が現れ、空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来るんだ!」
依斧は更に叫び、おうし座の最輝星が光を放ってシトリンの指輪に届く。そして本から文字が飛び出し、依斧の体を包む。依斧の体は光を放ち、そして依斧の体は装甲の戦士へとその姿を変えるのだった。
その戦士は金太郎の腹掛けを思わせるような装甲に覆われ、仮面には牛のような角が生え、腕と足にはファーに覆われていた。
「アックシトリナー。」
その戦士はアックシトリナーと名乗り、マリスに立ち向かう。マリスはお相撲の突っ張りのような攻撃を繰り出すが、アックシトリナーはその攻撃にびくともしなかった。
「効かないな。今度はこちらから行くぞ。」
アックシトリナーはそう言って斧を取り出し、マリスに斬り掛かる。そして斧を何度も斧を叩きつけると、マリスは遂に膝をつく。
「よし、決めてくれ!」
キルビーレオンがそう叫ぶと、アックシトリナーは腰を落として力を溜める。すると空が再び暗くなり、おうし座が現れる。
「必殺・アルデバラッシュ。」
アックシトリナーはそう言ってマリスに突進する。そしてマリスは消滅するのだった。
「ふぅ…。」
アックシトリナーは疲れたような溜め息を吐き、依斧の姿にもどる。キルビーレオンも剣二の姿に戻り、依斧に歩み寄る。
「すまなかったな、依斧。」
「いえ、自分には力しか取り柄がないですから。剣二さんの方こそ。」
「いや、俺は大丈夫だ。」
二人はそんな会話をしながらお互いを労い、洋館に戻るのだった。
洋館にはホロテイルジュが全員戻っていた。
「取り敢えず、あの蓮子っていう人は自分を磨くことにするってことになったみたい。」
まず、美姫は蓮子のことを伝える。
「ああ、まさかパフェでな…。」
剣二は少し呆れの入ったような口調で話す。皆は蓮子を説得したのがアラモードであることが未だに信じられなかった。
「ま、私にかかればこんなものですよ。」
アラモードは真顔でそう言いながらパフェを食べる。
「調子に乗るなアラモード。お前は既に俺達が苦戦しているところを助けもせずパフェを食べていたからな。それを反省しろ。」
剣二はパフェを食べるアラモードを説教する。そして夜衣魚は切り替えたように話し出す。
「じゃあこの辺で、ぱーっとみんなでお疲れ会しましょうよ。」
夜衣魚はまたパーティを提案する。その提案にアラモードは飛びついてしまう。
「じゃあスイーツバイキングで!」
「「「「「行かない!」」」」」
アラモードがスイーツバイキングを所望するが、断固として反対する美姫達の声が部屋にこだまする。かくして街の老化事件は収束を迎えたのだった。