第二話 星座と宝石と童話
何処にでもいるはずのOL、桜名美姫はふと不思議な本を拾う。そして謎の怪物と謎の戦士の戦いを目撃し、自身も本と指輪の宝石、そして星座の力で戦士シンデレーザーとなり戦うのだった。しかし美姫はその状況が未だ飲み込めずにいた。
「さて、まずあなたは何者?」
桜名美姫は戦いを終え、戦士から元の姿に戻った男性に問い掛ける。
「桃井剣二だ。」
その男性は桃井剣二と名乗る。しかし、剣二はそれ以上何も言おうとしない。
「それだけ?もっと言うことあるでしょ。そうだ、私は桜名美姫。それじゃあ続きを言いなさい。」
美姫は自身の名を名乗り、更に問い詰めようとする。しかし剣二は美姫に呟く。
「今日はもう遅い、また今度話す。いいからお前はその本を持って帰れ。」
「は?それはないでしょ。いいから今話しなさい。」
しつこく問い詰めようとする美姫を余所目に剣二は美姫の元を去る。
「もう、なんなのあいつ…。」
非現実的な光景を見せる割に素っ気ない剣二に、美姫は落胆するのだった。
明くる日、美姫はモヤモヤしたまま朝を迎えた。幸い、その日は土曜日だったため仕事が無かった。だから美姫はいつもより少し遅い時間に起きていた。
「はぁ…、今度話すって言ったって連絡先も交換してないのに…。」
美姫は剣二のことが気になっていた。というより、あの非現実的なもの全般が気になっていた。しかし剣二の今度話すという言葉が一体いつなのか、どこで話すのか、それが美姫にとって全く見当もつかなかった。
「まあいいや、あんなのは夢だ。忘れよう。」
美姫はそう言って例の本を引き出しにしまおうとする。すると、窓をつつくような音が聞こえる。
「え…、誰?」
美姫は不思議に思い窓の方を向く。そもそも美姫の部屋はマンションのかなり上の階にあり、誰かが外から窓をつつくことなど出来るはずがなかった。
「まさか、幽霊?」
美姫は一瞬そんな怖いことを考えてしまったが、窓の向こうにいたのは一羽の雉だった。
「雉⁉何で雉が私の部屋に…。」
美姫は不思議に思っていたが、突然雉から声が聞こえて来る。
「美姫とか言ったな。いつまで寝ている?いい加減降りて来い。」
「は?もしかして昨日の桃井なんとか?」
雉から聞こえた声は剣二のものだった。美姫は更に不思議に思ったが、取り敢えず言われるがまま本を鞄にしまい部屋を出るのだった。
「遅いぞ、美姫。」
「呼び出し方が雑なの!大体あの雉は何?」
美姫を咎める剣二に美姫は怒りを覚える。そもそも雉で呼び出すという方法を誰が予想出来るだろうか、美姫はそう思っていた。そして美姫は雉について尋ねる。
「あの雉か。童話の力だ。お前の居場所は本を通じてわかるからな。」
「あっさり話すなぁ…。」
剣二はあまり長い言葉を話したくないのか、あっさりと説明する。美姫は剣二の態度が少しいけ好かない感じだった。そんな美姫に目を配ることなく剣二は美姫を導くように歩き出す。
「ちょっと、出発するならするって言いなさい!待てコラ!」
美姫もマイペースな剣二に腹を立てながら歩き出す。
美姫と剣二が辿り着いた先は古びた洋館だった。美姫は年季の入った大きな洋館に唖然とする。
「凄く大きな洋館…。もしかしてここが昨日の変な力に関するところ?」
「俺達の基地、と言ったところか。」
美姫の質問に剣二はそう答える。そして二人はその洋館に入る。
洋館に入ったら一つの大きな部屋に入る。そこには男性が二人、そして女性が五人もいた。
「剣二さん、もしかしてそこの女の人が新しい戦士ですか?」
部屋にいた人達の内、ポニーテールの女性が剣二に問い掛ける。
「ああそうだ。」
「あ、えっと、桜名美姫です。宜しくお願い致します。」
剣二がその女性に返答した後、美姫は条件反射のように挨拶をしてしまう。
「…ってそうじゃなかった。ちょっと桃井!そろそろいい加減説明しなさい。そこそこ遠かったんだからここ!」
美姫は再び剣二に問い詰める。その様子を一同は眺めていた。
「もしかして剣二さん、また素っ気ない態度取っちゃったんですか?」
「ああ、説明は苦手だからな。」
ポニーテールの女性は剣二に少し呆れてしまう。部屋にいた一同も一斉に呆れたように溜め息を吐いてしまう。そして剣二よりも一回り小さい男性が先陣を切って話し出す。
「しょうがないなぁ剣二。ここは俺が説明するよ。」
その男性は美姫にそう言うと美姫に優しく話し掛ける。
「それじゃあ美姫ちゃん。まず俺の名前は浦賀輝弓、24歳、宜しくね。」
「だったらタメ口をやめなさい。私は29歳だから。」
「へ⁉」
その男性、浦賀輝弓は感じよく振る舞ったつもりだったが美姫が年上だと知ると急に畏まってしまう。
「そ、それじゃですね、今から説明をしますね。」
輝弓は敬語で美姫に対し説明を始める。
「まず、俺達の組織の名前はホロテイルジュって言います。空に輝く星座、指輪に付けられた宝石、そして本に書かれた童話、この三つの力を駆使して戦う正義の組織なんです。」
「星座、宝石、童話…。」
美姫は言われた三つの言葉を並べ、なんとなく昨日のことを思い浮かべる。そう言えば美姫もおとめ座、ダイヤモンド、シンデレラの力を使っていたような気がした。
「ということは、他のみんなも何か力が使えるってこと?」
「そういうこと、ですね。」
美姫の問い掛けに対し、輝弓は爽やかに答える。そして輝弓は更に説明を続ける。
「昨日街を襲っていた奴らはダークストーリーズ、この世界を自分達のシナリオで動かそうとしている悪い連中です。」
「シナリオってどういうこと?」
「詳しいことは俺達もよく知らないんですけど、この世界を支配すれば物語のように動かすことが出来るらしいんです。」
「なるほど、よくわからないけど酷いね。」
「はい。だから俺達、人知れず奴らと戦っているって訳です。」
美姫はホロテイルジュという組織のこと、そしてダークストーリーズという悪の存在についてなんとなく理解できたような気がした。そんな美姫の様子を見てポニーテールの女性が元気良く話し出す。
「それじゃそれじゃ、新しく入った桜名美姫さんのためにみんなで自己紹介しましょう!」
その女性はどうやら話し出したくて仕方がない様子だった。美姫は少し呆れたが、ここは全員の自己紹介を聞くことにした。そしてまたポニーテールの女性が先陣を切るように話し出す。
「まず!私の名前は水原夜衣魚、26歳です。普段はアパレルショップで働いてま~す!」
「あ、うん。宜しく…。」
ポニーテールの女性は水原夜衣魚と名乗る。何だか年の割に元気な子だなと美姫は思った。続いて黒いショートボブの女性が話し出す。
「私は鈴木林檎って言います。24歳です。夜衣魚に何かされたら私に相談して下さい。」
「そ、そうなんだ…。」
その鈴木林檎と名乗る女性は少し物静かで美姫には少し親しみ易そうな感じだった。続いて黒髪ストレートロングの高校生くらいのような女性が話す。
「私は三浦竹月と申します。現在は高等学校に通う17歳です。」
「高校生も戦ってるんだ…。」
その女性は三浦竹月と名乗る。美姫は高校生も戦っている事実に少し驚いていた。続いて竹月より更に背丈の低い幼い少女が少しおどおどした様子で話し出す。
「あ…、あの、私は赤園風布花と言います。今は小学校4年生で、えっと、10歳です。」
「嘘、小学生も⁉」
赤園風布花と名乗る少女がまだ小学生という事実に、美姫は竹月の時以上に驚いていた。続いて剣二よりも背が高く、がたいがいい男性が話す。
「自分は金山依斧と言います。25歳です。」
「へ…、へぇ~。」
堅苦しい口調で男性は金山依斧と名乗る。しかし最近仕事以外で人と話すことの少なかった美姫は正直名前を覚えきれるかどうか不安だった。そして名乗っていないのは一心不乱にパフェを食べているツインテールの女性だけだった。夜衣魚はその女性に話し掛ける。
「ちょっと、まだ自己紹介してないのあんただけだよ。」
「え?」
ツインテールの女性はふと我に返ったような様子を見せる。
「そう言えば、今日って新しい人が来るんだっけ?」
「だから今、みんなでその人に自己紹介しているところでしょうが!」
夜衣魚は冗談交じりにその女性を怒る。女性はどうやらパフェに夢中で今までの会話を全く聞いていなかったようだ。
「あはは、ごめんごめん。」
そしてツインテールの女性も冗談交じりに謝ると、美姫の方を向く。
「私は双見アラモード、19歳で~す。大家族の末っ子で、甘い物に溢れた生活を送っています。」
「あ、アラモード…。」
その女性は明らかに純日本人だったが、双見アラモードと名乗る。その珍しい名前に美姫は思わず口をあんぐり開けてしまう。そんな唖然とする美姫に林檎がフォローするように入る。
「ま、まあアラモードの名前は気にしないで下さい。」
「そ、そうだね…。」
そして全員が自己紹介を終えると夜衣魚がまた話し出す。
「じゃあ美姫さん、これから一緒に戦って行きましょう。」
夜衣魚がそう言うと、全員が歓迎の眼差しを美姫に浴びせる。
「え…、えっと、その…、歓迎してくれるのはありがたいんだけどね…。」
美姫は言葉が詰まりながらもなんとか皆に打ち明ける。
「私、仕事もあるしそんなに戦えないかなって…。」
美姫は皆の仲間になれないという旨を伝える。しかし、そんなことは皆にとってはお構いなしだった。
「えぇ~!別にそんな戦う必要なんて無いですよ~!戦いなんて剣二さんとかに任せれば良いんですから。」
「そ、そうなの…?」
夜衣魚のどこか無責任な言い方にどこか引っ掛かる美姫だったが、そこは敢えて何も言わないことにした。
「それにしても、疲れた…。まさかこんなに仲間がいるなんて…。」
美姫はそう言うと膝から崩れ落ちてしまう。そんな時、洋館にある古びたブラウン管テレビが映し出される。
「ダークストーリーズか⁉」
テレビを見た剣二が焦ったようにそう言うと、部屋を出ようとする。
「ちょっと桃井、どこへ行くの?」
「ダークストーリーズが現れたんだ。」
美姫はダークストーリーズの元へ行く剣二を見て、あることを決める。
「私も行く。もう一回戦って、これから戦うかどうか決める。」
「…ついて来い。」
剣二は特に美姫に関心をもつことなくそう言って洋館を後にする。美姫も剣二を追うように洋館を後にする。そんな二人を見て、夜衣魚はあることを思う。
「ねぇ、剣二さんと美姫さん、何か良い感じじゃない?」
「それはどうだろう…?」
夜衣魚は剣二と美姫がカップルのように見えていた。しかし林檎は、一概にそうとは言えないような気がしていた。
「ひゃ~はは!今度こそこの世界を支配してやるぜ!」
街に行くと、昨日暴れていた二本角の鬼のような幹部、デビルホーンが暴れていた。そこに剣二と美姫が駆けつける。
「昨日の鬼?」
「あれはダークストーリーズの幹部の一人、デビルホーンだ。」
剣二は美姫にデビルホーンのことを説明すると、本を鞄から取り出す。それを見た美姫も慌てて本を取り出す。
「使い方、わかるか?」
「なんとなく。」
そして二人は本を開き、叫ぶ。
「しし座!ルビー!桃太郎!」
「おとめ座!ダイヤモンド!シンデレラ!」
二人がそう叫ぶと空が暗くなり、しし座とおとめ座が現れる。そして空から声が聞こえる。
「Miracle Force!」
「来い!」
「来て!」
二人が真剣な眼差しでそう叫ぶと二つの星座のそれぞれの最輝星が光を放ち、二人の指輪に届く。そして二人の本から文字が飛び出し、二人の体を包む。そして二人の体が光を放ち、二人はそれぞれキルビーレオンとシンデレーザーにその姿を変える。
「キルビーレオン!」
「シンデレーザー!」
二人は名乗りを上げ、不敵に佇む。そして二人は同時にデビルホーンに飛び掛かる。
「「はぁぁぁ~!」」
二人の強烈な拳がデビルホーンに炸裂する。
「ぐぅぅぅ…!」
しかしデビルホーンは二人の攻撃を受けてもギリギリのところで踏み止まる。
「やっぱり幹部だね。どうすれば良いの?」
シンデレーザーはデビルホーンの固い防御に戸惑う。しかしキルビーレオンは焦る様子が無かった。
「まだ戦い方はある。」
キルビーレオンはそう言うと自身の本を開く。すると、本から犬、猿、雉が飛び出す。そして犬達は一斉にデビルホーンに襲い掛かる。
「なるほど、鬼にはお供って訳だね。それなら私も!」
シンデレーザーは犬達の攻撃に感心し、自身も本を開く。すると本からカボチャの馬車が飛び出て来る。
「わ!こんなことが出来るんだ。」
シンデレーザーはカボチャの馬車に驚くが、すぐに状況を飲み込みカボチャの馬車に乗り込む。そしてカボチャの馬車はデビルホーンの周りをぐるぐると回り始める。
「何だよこれ!」
デビルホーンは突然のことに動揺してしまう。
「喰らいなさい!」
シンデレーザーはそう言って馬車の窓からレーザー光線を放つ。デビルホーンも予想の斜め上を行く攻撃に手も足も出ない。
「よし、行くぞシンデレーザー!」
「オッケー!」
キルビーレオンは勝機を見出し、シンデレーザーに攻撃を提案する。そして二人はそれぞれ刀とレーザー銃を持って構える。
「秘剣・桃の舞!」
「レーザーストライク!」
キルビーレオンは華麗な剣技でデビルホーンに斬り掛かり、シンデレーザーもレーザー銃に力を込めて放つ。
「うわぁぁぁぁぁ!」
二人の同時攻撃に、デビルホーンもダメージを抑え切れない。しかし、それでもデビルホーンは踏み止まってしまう。
「中々いい攻撃だったぜ、けどこの程度じゃ俺達ダークストーリーズには勝てない。それじゃあ、また遊ぼうぜ。」
そう言い残し、デビルホーンは二人の元を去ってしまう。二人は元の姿に戻る。美姫はまたしても膝から崩れ落ちてしまう。
「ふぅ…、疲れた。」
「そうだな、戻るか。」
剣二はそう言って美姫に手を差し出す。美姫は剣二の手を掴み立ち上がる。そして二人は再び洋館に戻るのだった。
「お帰りなさい、美姫さん!」
「うん、ただいま。」
洋館へと戻った剣二と美姫。すると夜衣魚が出迎えてくれた。そして美姫は皆の前で改まる。
「あのさ、私さっき戦って考えたんだけど…。」
「「「「「はい…。」」」」」
美姫のその言葉に皆は思わず固唾を呑む。そして美姫は口を開く。
「これから、一緒に戦わせて頂きます。」
「「「「「やった~!」」」」」
美姫の共に戦うという決断に、一同は大喜びする。
「嬉しいです美姫さん!これからみんなでパーティしましょ!ね!」
夜衣魚は嬉しくなってパーティを提案する。はしゃぐ一同に剣二は少し注意する。
「お前ら、あまり遅い時間までやるなよ。竹月や風布花は夜までいられないんだからな。」
「わかってますよ剣二さん。ささ、みんな支度して!」
夜衣魚は剣二の言うことを浅く受け流し、洋館にいた女性達は皆荷物を持って部屋を出る。
「美姫さん、いいお店知りません?」
「私最近外食とか行かないから。」
「それだったらスイーツバイキングに!」
「アラモードは黙ってて。」
「それでしたら、私がいいお店を知っています。」
「じゃあそこ行こ!」
そんなことを話しながら女性達は洋館を出る。そして男性のみとなった洋館には嵐が過ぎ去ったような静けさが残っていた。
「良かったね剣二。確かこれで、ホロテイルジュも12人揃ったんじゃなかったっけ?」
輝弓はふと剣二に話し掛ける。
「ああ。それに、行方不明だったダイヤモンドの指輪も見つかったしな。」
剣二はそう言って安堵の気持ちを覚える。しかし同時に、剣二には一つの疑問が残った。
「それにしても、何故あいつがダイヤモンドの指輪を持っていたんだ…?」
かくしてホロテイルジュの一員となった桜名美姫。しかし、彼女には本人さえも知らない秘密がありそうな予感がされていた。