表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Miracle Force Princess  作者: ロマンス王子
第一章 出会い編
1/35

第一話 シンデレラの覚醒

「むかーしむかし、あるところに」

 私はこの言葉を何度聞いたことだろう。昔、私は夜寝る前に祖母から童話を聞かせてもらうことを日課としていた。シンデレラのお話ってどんな内容だったっけ?確か、シンデレラが王子様と結ばれる最後を迎えていた気がする。私もそんなシンデレラみたいなお姫様になって、王子様と巡り合うんだって思ってた。でも、現実はそう甘い話ではない。私はお姫様とほど遠いごく普通の生活を送っているし、人並みに恋愛はするけれど王子様と巡り合うなんて夢のまた夢だ。そして何より、天は私から愛する祖母を奪った。



 桜名(さくらな)美姫(みき)、29歳、独身、おとめ座、普段は中小の広告企業でOLをしている。それが私の今のプロフィール。本当、シンデレラみたいになりたいなんて馬鹿だったとつくづく思う、そんな毎日を送っている。

「はぁ…。」

 昼休み、私は会社の屋上で一人お弁当を膝に置き、食べながらふと溜め息を吐く。そう言えばいつからだろう、心から笑うことが出来なくなったのは。そんなことを考えながら、左手の中指にしている大きなダイヤモンドの指輪に目を運ぶ。

「お祖母ちゃん、お姫様なんて本当はいないのかな…?」

 私は指輪を見ながら祖母を思い出す。このダイヤモンドの指輪は祖母が常に身に付けていた物だった。四角いダイヤモンドが金色のフレームで縁どられている、自分でもびっくりするくらいの指輪だ。私は祖母がしていたこの指輪にずっと憧れていて、祖母が亡くなった時にこれを引き取った。これを身に付けていることは、私がお姫様になることを未だ諦めていないということを表しているのかも知れない。でもそれを考えていることが、私にとっては虚しいものだった。そして私はお弁当を鞄にしまい、屋上を降りてオフィスに戻った。そしていつも通り午後からも淡々と仕事をこなし、帰社する時間になると私は身支度を済ませ、家に帰るのだった。しかし私は知らなかった。私が何気ない毎日を送っている間にも、善と悪の戦いが密かに行われていたことを。



 私にとって、帰り道は特に虚しいものだった。何だかんだ会社では話しかけてくれる後輩がいるが、帰り道はただ一人家まで歩いているだけなので張り合いがない。

「はぁ…。」

 私はまた溜め息を吐く。最近、誰かと話すよりも溜め息を吐くことの方が多くなった気がする。だけど人生なんてそんなものだろう。何度でも言う、お姫様になるなんて夢のまた夢だということを。

 そんな時、私はふと建物の柱の陰に隠れている一冊の本を見つける。

「何だろう?この本…。」

 私はその本が気になり、歩み寄ってしゃがみ、本を手に取ってしまう。その本はとても大きく、図鑑のように厚い。そして茶色く古びたハードカバーだった。私は興味本位でその本を開く。するとその本には何も書いていなかった。

「何これ…?」

 私は気味が悪くなり、その本を隅々までめくる。けれどどのページも何も書いていない白紙だった。一体この本は、誰が何のために作ったのだろうか。

「自由帳…、ってことなのかな?」

 私はこの本が自由帳のような物なのかもしれないと思った。確かに白紙の本と言ったら自由帳というものがある。だけどこの本は自由帳にしては厚い、厚過ぎる。これを落書きで埋め尽くす子なんているのだろうか。

「まあいいや、交番に届けるか。」

 私がこの本を交番に届けようと立ち上がろうとした時、人々の悲鳴の声が聞こえる。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 男性も女性も悲鳴を挙げて逃げ惑う。私はその光景を飲み込めずにいた。

「何?何が起きてるの?」

 私は人々が逃げて行く方向の逆の方を見る。するとそこには二本の角を生やした鬼のような怪物がいた。いや、私は怪物なんて実際に見たことがないからわからない。けれど確かにわかった、今私の目に映っている奴が人間じゃないことを。

「ひゃっはは~!俺様はダークストーリーズの幹部、デビルホーン様だ!愚民共、ひれ伏せ!」

 その鬼ような怪物は金棒を振り回し、威張り散らすように声を荒げる。そして近くにいた金髪のチャラい男性の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

「お前、嫌いなものはあるか?」

「は?何言ってんだよ。」

 怪物は何故か男性に嫌いなものを尋ねる。しかし男性はそんなことを答える程頭が回っていないようだ。

「いいから答えろ!ぶっ潰すぞ!」

「わ、わかったよ。」

 そんな男性に怪物は怒り狂ったように声を荒げ、回答を急かす。男性は怪物の気迫に怯え、応じてしまう。

「俺はこの社会が嫌いだ。俺はいつまで経っても碌な仕事に就けねぇし。どうせこんな腐った社会、無くなっちまえば良いんだよ。」

「いいねぇ、こういうのが欲しかったんだよ。」

 怪物は社会が嫌いだと告白した男性にニヤリと微笑み、男性の頭に手を翳す。

「その悪意、貰うぜ。」

 怪物がそう言うと男性の体は黒い霧に包まれ、そこから一本の小さい角が生えた鬼のような怪物が出て来る。

「ちっ、小鬼程度か。まあいい、暴れろ。」

 声を荒げていた二本角の怪物は出した怪物に対して不服そうだったが、割り切ったように怪物に暴れるよう指示する。そして小さな一本角の怪物は言われるがまま暴れ始める。

「ぎゃぁぁぁぁ~!」

 一本角の怪物は知性がないのか、喋らずにただ声を荒げて暴れ回る。そして怪物は遂に私のいるところまで向かって来ていた。

「流石にまずい、逃げないと。」

 そう思った私は怪物から遠ざかろうと思い後ろを振り返る。すると怪物の方へ向かって行くように走り抜ける男性とすれ違う。

「そこまでだ、ダークストーリーズ。」

 灰色のコートに身を包んだ背の高いその男性は二本角の怪物にそう言い放つ。どうやら男性は怪物と面識があるようだった。

「また来やがったか、キルビーなんとか。」

「まだそんなことを言うか、デビルホーン。お前に今一度、俺の名を教えてやる。」

 男性は勇ましく怪物にそう言うと、背負っていたリュックサックから一冊の本を取り出す。その本は、さっき私が拾った本とよく似ていた。違うところと言えば、ハードカバーが銀色だというくらいだろうか。もう一つ、男性は左手の中指にルビーの指輪をしていた。しかも私の指輪と同じく金色のフレームで縁取られている。そして男性は手に取った本を開く。すると、空に突然しし座が現れる。

「何?今しし座なんて見られないはずだけど…。」

 私はその突然の光景に驚いてしまう。そして男性は勇ましく声を上げる。

「しし座!ルビー!桃太郎!」

 男性がそう言うと空から声が聞こえる。

「Miracle Force!」

「来い!」

 男性が空から聞こえた声にそう言い放つとしし座の最輝星(さいきせい)が光を放ち、男性のしていたルビーに届く。そして本から無数の文字が飛び出し、男性の体を包む。男性の体が光を放つと、そこにいたのは銀色のスーツに装甲を身に纏った仮面の戦士だった。

 ヘルメットには桃太郎を思わせる鉢巻と丁髷、そしてゴーグルは桃のような形をしている。スーツには和装束を思わせる銀色の装甲が身を包み、右肩には犬の頭のような装甲があり、右手は猿の手を象り、背中には雉の翼のような物が生えている。左手はライオンの頭を象っていて、腰には日本刀のような物もあり、何故か犬の尻尾のような物も生えている。何だか恰好良いのか悪いのかわからない戦士だった。

「姿が、変わった…?」

「キルビーレオン、それが俺の名だ。」

 その戦士は名乗りを上げる。どうやらその戦士はキルビーレオンというらしい。そしてその戦士は腰にある刀を引き抜き、怪物に立ち向かう。

「はぁぁ!」

 戦士は暴れる一本角の怪物に斬り掛かる。そして怪物と激しい攻防戦を繰り広げる。私はその光景を見てふとあることを思う。

「もしかしてこの本、あの人のかな。」

 私は拾った本がその戦士の物なんじゃないかと思い、思い切って戦闘真っ只中に近付くことにする。

「あの、これ!この本!あなたのですか?」

 私は戦士に尋ねる。すると戦士は驚いた様子だった。

「な⁉何故お前がその本を持っている?」

「お前…?」

 戦士は私が本を持っていることが気になっているようだった。でも私には、その戦士がお前と言ったことの方が気になっていた。

「ちょっと、初対面に向かってお前って無いんじゃない?」

「は?お前、今の状況をわかっているのか?」

 戦闘の最中にも関わらず私と戦士は口論になる。私にとってその戦士はただの無礼な人としか思えなくなっていた。

「まあいい、取り敢えずその本を持って逃げろ。」

「ちょっと、まだ話は終わってないんだけど。」

 戦士は私に逃げるよういうが、私は怒りが収まらない。そんな私に、二本角の怪物が近付いてきた。

「何だこの女?引っ込んでろ!」

 怪物はそう言うと私を投げ飛ばす。

「いった~!」

 流石の私も投げ飛ばされた衝撃は大きかった。そしてその拍子で持っていた本が開く。すると突然、本に文字が浮かび上がる。

「何これ…?何も書かれて無かったはずなのに…。」

 私はその不可思議な現象に目を見張る。そしてその文字を読むと、そこにはシンデレラの物語が書かれていた。

「シンデレラ…?」

 私がそう呟くと戦士も思わず私の方を振り向く。

「シンデレラだと…?」

 そして戦士は私の左手の中指にあるダイヤモンドの指輪を見つけ、更に驚いてしまう。

「おいお前!その指輪、どこで手に入れた?」

「これ?これは正真正銘私の指輪だから!」

 私は指輪までも自分の物にしようとする戦士に腹が立ってしまうが、戦士はさらに驚いている様子だった。

「どういうことだ…?」

 戦士が戦いながら私に驚いていると、また空に星座が現れる。今度は、おとめ座が現れた。

「おとめ座?何で今見られない星座が次から次へと…。」

 私がその光景に唖然としていると空から声が聞こえる。

「Miracle Force!」

「嘘、また…?」

 そしておとめ座の最輝星が光を放ち、私のダイヤモンドの指輪に届く。

「私にも、光が…?」

 そして本から文字が飛び出し、私の体を包む。そして私の体が光を放ち、私はその姿を変えるのだった。

 私はさっきの戦士のような仮面はなく、顔にはキラキラとした純白のメイクが施され、髪はいつものショートカットから一気に伸びてシンデレラを思わせる盛り上がった髪型となってティアラも置かれていた。そして白銀に煌くドレスが身に纏われ、所々に宝石が散りばめられている。あと何故かベルトが巻かれ、腰には銃が備わっていた。

「これは…、シンデレラなの…?」

「覚醒…、したのか…。」

 私があまりの変貌を遂げた自分の姿に動揺する横で、戦士も目を見張っていた。それでも戦士は攻撃の手を休めない。また、目を見張っているのは二本角の怪物も同じだった。

「また一人増えやがったか。厄介な連中だ。まあいいや、戦いに慣れてない内に潰すとするか。」

 怪物は私に襲い掛かろうとする。しかし私は何を思ったのか、自分でもわからない内に腰の銃を取り出して怪物に放つ。その銃からはレーザー光線のような物が放たれていた。

「レーザー銃…?シンデレラ…、レーザー…。」

 私はそのレーザー光線を見た時、はっと閃いた。

「シンデレーザー!」

 私は怪物に向かってそう叫んだ。いや、名乗りを上げたと言った方がいいかもしれない。私は、今の自分の姿をシンデレーザーと呼称したくなっていた。

「シンデレーザーか、面白い。」

 私の姿を見た戦士はそう言って戦っていた一本角の怪物を私に差し出す。

「お前、決めてみろ。」

「は?何言って…。」

 私はその戦士の言葉が理解出来ずにいたが、なんとなく体がわかっているような気がしていた。私はすぐさま銃を取り出し、力を込める。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 私は力を溜めるような声を出し、銃に力を込める。そして銃を怪物に向ける。

「レーザーストライク!」

 私はそう言い放ち、怪物に向けてレーザー光線を放つ。怪物はその攻撃を受け、消滅してしまうのだった。その光景を見た二本角の怪物は動揺を隠せない。

「何だよこれ!取り敢えず退くか。」

 怪物はそう言って私達の元を後にする。私は戦いが終わったのかと思うと途端に力が抜け、元の姿に戻って膝から崩れ落ちてしまう。

「疲れた…。」

 そんな私に戦士もその姿から元の灰色のコートの男性に戻り歩み寄る。

「大丈夫だったか?」

「だからそのタメ口をやめなさい。あと、これは一体何?一から全部説明してもらうからね。」

 私は優しく話し掛ける男性にも角を突き付けるような物言いで答える。

 どうやら私は本当にお姫様になったらしい。思っていたよりは大分方向性が違うけど…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ