第7話
*ANOTHER SIDE*―――――――――――――――――――――
俺の名前は『青木大路』。
大学2回生、20歳…だった。
大学帰り交差点で信号待ちをしてた…それが前世での最後の記憶だ。
気が付いたら上も下もない白い空間にいた。
地に足はついていない。浮かんでいる状態だ。
ここは天国だろうか。
いや俺には思い当たるシーンがあった。
(あ、もしかして流行の異世界転生モノの定番のアレか?)
少し楽しみになってきた。。
俺はいわゆるオタクってヤツだ。
1日中アニメやゲームに没頭していることも少なくない。
それどころか没頭しすぎて学校も友だち関係もおろそかになってしまった。
気が付けばボッチに。
大学に行ってもつまらない。家族と話をする気も起きない。
アニメやゲーム、マンガ、小説が俺の心のよりどころだった。
今では現実というもにうんざりしていたのだ。
「俺も異世界転生したい」なんてあり得ない夢を見ることも仕方のないことだった。
そのせいもあり、小説で読んだ異世界転生シーンみたいな今のシチュエーションには期待が膨らむ。
異世界に転生するんだ!今までの人生をリセットして新しい自分になれるんだ!
きっとすごいチートも貰えるに違いない!
『へえ~。察しがいいんだね』
幼い男の子のような声が頭の中に響いた。
これはいよいよアレだな。
神が俺にチートを授けてくれるシーンだ!
『うん、その通りだよ』
ほらみろ!さすが俺!
異世界小説読みまくった甲斐があったぜ!周りのヤツらは誰も理解してくれなかったけどな!
チートスキルをもらって異世界無双!
盗賊やゴロツキ、悪徳貴族、魔獣、魔族、魔王を蹴散らして異世界ハーレムまったなし!
誰もが俺を崇め奉るんだ!
この世界に来たということは現実世界では死んだってことだ。最後の記憶が交差点だから交通事故だな。
じゃあ元の世界に戻ることはできないだろう。
だったらこの世界で生きていける力を身につけなければならない。
どうせなら最強になっているのが望ましい。
「チートがもらえるなら最強がいい!レベルもステータスもカンストだ!あと定番の言語理解!無限収納?アイテムボックス?ストレージ?…とそんな感じでいろいろ収納できるヤツも欲しい!そして必須の鑑定スキルも頼む!」
『驚くほど話が早いね…。説明する手間が省けて助かるよ。本当にそれでいいんだね』
「もちろんこれでいい!いやこれがいい!」
言葉が分かるからコミュニケーションで困ることはない。収納や鑑定があるから商売でもやっていけるし、カンストステータスがあるから冒険者ギルドでSランク冒険者になることだって楽勝に違いない!
そりゃ異世界転生できるなら誰だって最強になって「俺TUEEEE」したいはずだ。俺もしたい。
チートもらえるならこれしかないね!
テンション上がりまくり。
もう早く自分のステータスが見たくてたまらない。
『わかったよ。君には限界到達者、無限収納、鑑定のチートをあげる。言語理解は基本サービスに含まれているから安心してね』
俺の身体が一瞬光ったと思ったら、力がどんどん湧き上がってくる。
今までの自分の身体能力とは比べ物にならないほど強くなっているのがはっきり理解できた。
『これでもう君は大きな力を得た。第二の人生楽しんでね』
そう言い残して神の声はもう聞こえなくなった。
俺は自然が広がる草原の中にいた。
だがそんなことはどうでもいいように感じられた。
一刻も早くステータスチェックがしたいんだ!
「ステータスオープン!」
やっぱりこう唱えるのが定番だよな。
すると脳裏にはっきりとゲームの画面のようなものが浮かんだ。
◆限界到達者
レベル・体力・魔力・攻撃力・知力・防御力・敏捷度すべて限界値に到達
LV …99
HP …9999
MP …9999
STR…999
INT…999
AGI…999
◆鑑定
対象の詳細情報を閲覧することができる
◆アイテムボックス
アイテムを収納することができる
「ふふふ…はははっはー!」
ワクワクドキドキが止まらない。笑いが止まらない。
強さMAX!
他の人間のステータスはわからないが、俺以上の強さを持つヤツはいないだろう。
なにせ限界到達者だ。
もうこれはイージーモードじゃないか!
最初から俺TUEEEE確定だ。
俺の第二の人生は最強ハーレム物めざしてまっしぐらだな!
そのためには冒険者になってランクを上げて、仲間(もちろん女性のみ)を集めないとな。
俺は街を目指すことにした。
道中、いろんな魔物と出くわしたが、もちろん秒殺。
まだ何も装備していないが、ただのパンチだけで魔物が粉砕する。
攻撃なんてあたることはない。
本気を出せばどんな攻撃でもスローすぎてアクビが出るくらい遅く感じる。
襲ってきた魔物がどれくらいの強さかわからないが、俺にとって雑魚なのは変わらない。
最初の街。名前は覚えていない。
初めて街を見たときは少々驚いた。
きっと中世ヨーロッパみないな文明レベルだと思ったが、魔法が発達しているのか意外と文明レベルは進んでいる。上下水道が完備されていたり、道が舗装されていたり、魔導車と言われる車が運行していたり…。住みやすそうな街だと思ったね。
そして街の中にやっぱりありました。冒険者ギルド。
まずはここで実績を積んで冒険者としてランクを上げていくことにしよう。
予想通りこの世界の人間は弱すぎる。いや俺が強すぎるのか。
登録して1ヶ月で特級冒険者として認定された。
このランクは勇者・英雄級の強さを持つ者だけがなることができるランクだそうだ。
強さと地位は手に入れた。
あとはハーレムのための女だ。
そのためにオレは積極的に女が絡みそうな依頼を受けていった。
お約束の“女の子を助けて好感度アップイベント”もこなした。
護衛依頼で“上級貴族のお嬢様と仲良くなるイベント”もこなした。
エルフの里を救って“唯一の女戦士と仲良くなるイベント”もこなした。
3人の女の子全員慕ってくれて一緒に行動することになる。
強いってことだけでここまで簡単にハーレムが作れるのか。
なんかまじめに働くヤツがバカに見えてきた。
やはり異世界は最高だ!向こうの世界なんてクソくらえだ!
この世界に来てはや半年。
ハーレムを築き、お金も貯まりまくって浪費するのも困難なくらいだ。
もう最高の気分だね。
あとは酒池肉林!好きなことをして生きていこう!
そんな俺の幸せ気分をぶち壊すような指名依頼も増えてきた。
盗賊を退治してほしいだって?
「やれやれ。盗賊退治くらい俺が出るまでもないだろう?まずは自分らで解決しようとするのが筋じゃないのか」
面白くない依頼だ。当然断った。
魔獣のスタンピードを止めてくれ?
「それが俺にとって何のメリットがある?」
やってられないめんどくさい指名依頼だ。もちろん断ったよ。
まあ、自分らでなんとかなったじゃないの。街は半壊したが。
なんで俺がわざわざ討伐しないといけないんだよ。
いちいち俺を頼るな。
もう俺には敵はいない。ドラゴンや魔王討伐の依頼とかないのかね?
正直、こんなつまらない依頼ばっかりだとやる気も出ない。
やはり俺はゲーマーなんだ。居るかどうかわからんが俺より強いヤツに会いに行きたい。
今は刺激が欲しいんだよ。俺THUEEEEEもいいが、このままじゃヌルゲーだ。
そろそろこの街を出る頃合いかもな。
荷物をまとめて女どもと一緒に街を出ようとしたところでギルドマスターに呼び止められた。
領主からの指名依頼を断ってばかりで怒りを買っただと?冒険者ギルドの除名も検討しているだと?
そんなこと俺が知ったことか!
「俺に盾突こうとするのか?なら貴様らを敵として認識してしまってもいいんだな」
女どもが俺を止めようとするが気にしない。ギルドマスターをぼこぼこにした。
領主が連れてきた衛士団もぼこぼこにした。
もうこれで俺に盾突くことはないだろう。
安心しろ。殺してはいない。
さあ!新しい街に行って強い敵と戦いながら楽しく過ごそうじゃないか!
なに?女の一人がこの街で暮らすから一緒に行けないだって?まあいい。他に女は2人もいる。
なに?「あなたにはついていけない」だって?このクソ貴族め!まだエルフの女戦士がいる!
なに?「追放処分された人間と一緒に行動できない」だって?おいおい愛を誓ったじゃないか。何を言っているんだ?
気が付くと俺のハーレムはバラバラになっていた。
けっ!構うもんか!どうせ俺に依存して贅沢をしようとする寄生虫みたいなやつらだ。
女なんて居なくなればまた作ればいい。
また一人旅だ。気楽でいい。
とある村で“ゼル”とかいう剣豪の噂を聞いた。
魔法は一切使わず、剣術だけで最強の座に君臨した傑物らしい。
強いというなら戦ってみたくなるじゃないか。
俺より強いかどうか試していたいじゃん。
村の住人に優しく聞いてみたら快く教えてくれた。
バイャリーズ領に居るらしい。
“ウェステンバレス”という領都が一番領民の人口が多いのか。
これは行ってみないとな。
この村からウェステンバレスの街まで長距離魔導車に乗れば1日もかからない。
長距離魔導車はいわゆる長距離バス。
運賃はけっこう高いが座席に座ってぼーっとしているだけで目的地まで着く。
楽だから長距離魔導車を利用したが、最悪なことに横に座っていた一見金持ち、貴族風な男が何かにつけて文句を言う。
座席が狭い、座り心地が悪い、揺れる、速度が遅いなどなど。
あまりにもうるさいので、ぶん殴っておとなしくしようとしたらなぜか俺が魔導車から降ろされることになってしまった。
目的地までまだ距離があるぜ。金払ったのになんてことをしやがるんだ。詐欺か?
とりあえず貴族風なもう一度ぶん殴ってから山のふもとで車を降りた。
しかたない歩いてウェステンバレスを目指すか。
ここって魔物とか出るんじゃないの?
強い奴が出てくるのは大歓迎なんだが、弱い奴が何匹もやってきてもウザイだけだ。
めんどくさいことがおこらなければいいのだがな。
ウェステンバレスの近くの鉱山の近くまで来たとき、数匹の魔物に囲まれた。
犬?狼?どっちにしろ雑魚だ。
ただ数が多いな10数匹はいる。めんどくさい。
魔法でまとめてぶっ飛ばすか!
魔物が群れを成していた場所に極大魔法を打ち込む。
地形が変わるほどの魔法だ。
一瞬で魔物の反応がなくなった。
弱すぎるな。
周辺の気配察知をしてみると人間らしい反応が一つ。
剣豪ゼルのこと、少し聞いてみるか。
一人の人間と出会った。背丈は普通。どこにでもいるような感じの少年だ。特徴が頭にかけているゴーグルしかない。
鑑定スキルで見てみると、15歳にしては身体能力も魔力も高い。だが俺にとっては雑魚だ。
この場所で素材集めをしているらしい。雑魚らしい仕事だな。せいぜい頑張るといい。
もっと頑張ればいい線まで行けるかもしれないが、俺と拳を交えることはできなさそうだ。
とりあえずゼルの居場所を聞いてみるがわからないようだ。この役立たずが。
俺は興味をなくしその場を去った。
もうすぐウェステンバレスの街に着く。
冒険者ギルドに行って聞いてみるか。
ゼルとやらの居場所を。