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第6話

 最初はボロくて住みにくいと感じていたこの家。

 実は意外にしっかりした作りで外見こそ古めかしいが、しっかり人が住める環境だった。

 オレがやったのは魔法や魔導具で自分好みに内装のリフォームをした。魔改造と言われるくらい。


 壁紙を全部張り替えて明るい室内を演出。

 ロビーや工房、物置以外は土足厳禁にし、三和土を作り下駄箱を用意しここでスリッパに履き替える仕様にした。

 廊下や室内は無垢なフローリング使用。

 壁紙は室内が明るくなるよう白に統一。

 もちろん汚れの付きにくい素材をふんだんに使った。

 各部屋の魔導灯もランタンの様なオレンジがかった灯りではなく、魔導具の力で“昼光色”を実現し、夜でも昼間の様な明るさを維持することができるようにした。

 キッチンは収納にこだわり、調理に必要な道具がスグに取り出せるようシステムキッチン使用。

 もちろん水回りは浄水器完備。

 トイレはもちろん水洗。

 お風呂は広めで足を伸ばせるくらい。

 もちろんミスト付きシャワー。

 浴室乾燥機も取り付けた。


 納得できる内装になったが、実は家具はほとんどない。

 だって独り暮らしだからね。自分の部屋以外はなんにもない。

 余っている多数の部屋も在庫置き場にするつもりだから別にいいよね。


 生活拠点の完成が見えてきたので、今度は素材集めに力を入れたいと思う。

 もちろんバージョンアップは続けていくけどね。

 ちなみに外観はボロいまま。内装だけは近代的な感じだ。



 オレの冒険者スタイルは変則的。

 メイン武器はやっぱり十手型のスタンロッド。

 これには魔法発動補助の機能を付加しておいた。

 補助武器として長めのナイフ。

 前世のサバイバルナイフのように加工してもらった。あのギザギザもあるよ。


 ゼルさんのおかげで剣や槍は扱えるようになったが、あまり自分には合っていない気がしている。

 遠距離から魔法でチクチク攻撃するのがいい。

 身体能力はいいらしいので攻撃を躱しながら魔法攻撃。

 時には至近距離からスタンロッドで感電させながら殴り倒すのもアリだ。

 基本は物理で殴りまくる魔法使いって感じ。


 このいびつな戦闘スタイルで何度か討伐依頼もこなしている。

 魔石もけっこう溜まってきた。



 

 最初に依頼を受けたときに魔鉱石を大量に持ち込んだせいなのか、オレへの指名依頼が入るようになった。

 どうやら魔鉱石を練りこんだ武器の性能が良いので、領都の警備全般を担当しているの衛士隊の方が必要としているとのこと。

 鍛冶ギルドの人たちがまとめて冒険者ギルドに依頼している。


 もちろんこの依頼を受けているのはオレだけではない。

 初心者の冒険者たちがパーティを組んで依頼を受けてくれている。

 今回はたまたまそのパーティたちが遠征に出ているのでオレにお呼びがかかったワケだ。


「ファラさん!今回の魔鉱石は何個用意すればいいの?10個ぐらい?」

「何個でもいいんですって。あればあるほど助かるそうです。アリスさんなら50個くらい平気で集められますよね!期待していますよ!」


 50個ぐらい採ってきて10個ずつ5回に分けて納品しようと思っていたんだけど…。

 ま、領都の衛士がより頼もしくなるなら頑張ってもいいかもね。


「わかりました。可能な限り採ってきますよ!」

「はい!アリスさんなら大丈夫だと思いますが気をつけてくださいねー」

「りょうかーい」


 ビシッと敬礼っぽくしてみた。

 ファラさんの笑顔、かわいくていいなぁ。

 ファラさん、最近仕事もできるようになってきて人気が出ているみたい。狙っている冒険者も多いそうだ。

 オレは女性と気軽にお話しできただけで満足。

 前世ではあまり女性との接点なんて高校出てから全然なかったからね。

 大学でも社会人でもまわりは男性ばっかで、女性との会話はコンビニのお姉さんか妹くらいだ。



「おう!アリスじゃないか!ここで一つ模擬戦でもしないか?アリスがどこまで強くなったか見てやるよ!」


 ギルドに併設されている飲食スペースからゼルさんがやってきてオレの方をつかんできた。


「やめてくださいよ!オレは今から指名依頼を果たしに行くんですから!ゼルさんと模擬戦なんてしたら今日1日動けなくなってしまいますよ!」


 なぜかゼルさんはやたらとオレを鍛えようとする。

 魔導具技師なんかやめさせて冒険者家業に専念させたいらしい。

 オレはいやだよ。平穏無事が一番。魔導具技師は天職だと思っているし。


「もったいないよなぁ。せっかく素質があるのに。剣術と魔法を組み合わせた戦い方を極めれば俺よりも強くなれるぞ」

「無理ですよ。ゼルさんの戦い方はバーサーカーじゃないですか。そんなの相手にしたくないよ」


 ゼルさんと一緒に食事をしていた人たちも話に参加してくる。


「ハハハッ!バーサーカーだってよ!ゼル!フられたな!」

「うるせー!俺はこいつに可能性を感じているんだ!」

「少年!今はムリするんじゃねーぞ!冒険者になって名を上げるのもいいし、魔導具技師になって大発明して名を残してもいいだ!それでもって俺らにウマい酒でも奢ってくれ!そうすりゃなんでもいいぞ!ガハハッ!」


 豪快な人たちだなぁ。ゼルさんの友だちって。

 なんか前世で気の合う上司と飲み会をしているときのような気分だ。

 悪くはないが、なんか気まずい。


「じゃ、オレは言ってきますね…」

「おう!行って来い!ゼルの相手は俺らでやっておくぜ!酒で、だけどな!」


 ファラさんに見送られ気持ちのいいまま出発だと思ったのに、いきなりおっさん臭くなってしまった。

 でもこれって冒険者ギルドに染まってきたってことかな。

 いい傾向だと思っておこう。



 ダダ鉱山近くの河原まで来た。


 いつも通り魔力探知用魔導ゴーグルで魔鉱石さがし。

 今日はちょっと上流のほうまで行ってみようかな。


「おおー!魔鉱石たくさんあるなぁ」


 魔力の反応数は多い。

 全部採取したら当分は魔鉱石必要なくなるんじゃないかな。

 とりあえず今回必要な分だけ採取しよう。多すぎても持ちきれないし。


 持ち帰るために用意した背嚢には魔鉱石がぎっしり。

 充分すぎるほど集めたが重いんだよなぁ。これもって領都に戻るのは大変だ。本当に定期運行便があってよかったよ。



 帰り支度を始めたときだった。


 ドンッ!ドドンッ!


 なんか強力な魔法を使ったような大きな音が響いてきた。

 そちらを見ていると砂煙が巻き上がっている。


 どこかで激しい戦闘でもおこっているのか?

 巻き込まれたら大変だ。

 さっさと道に出てここを離れよう。


「おい、ガキンチョ。聞きたいことがある」

「!?」


 ふいに声をかけられた。

 日本語だ。でも何故か頭の中でこちらの言語で意味が伝わってくる。

 来訪者が持つと言われている言語理解能力の力が作用しているのか。



 声をかけてきたのは黒づくめの男性。

 いつの間にこちらに来たのだろう、周りに気を配りながら移動していたはずなのだが全く気付くことはできなかった。

 20歳前後か。身長は180cmくらい。

 普通の武器屋では売っていないような装飾過多のゴテゴテしたロングソードを握っている。

 髪の毛は黒。顔つきはまさに日本人という感じだ。


 (ここで出会ってしまうのか、来訪者と!?)


 なんだかザワザワした不快な感覚に襲われる。

 距離はまだ5mくらいあるが、不気味なオーラとでもいうのか、とても不快な雰囲気を醸し出しているのが感じられる。

 明らかにただ者ではない。絶対ヤバイ奴だ。


「ちょっと聞きたいんだが、ゼルとかいう剣豪がこの領のどこかにいるらしいが、どこの街にいるか知らないか?」

「いえ。ちょっと知らないですね」


 ゼルさんのことを聞いてきた?

 あかん…さらにヤバさが高まってきた。

 ヘタに個人情報は言うことができないので、ごまかしてこの世界の言葉で返事をする。


「そのゼルと言う方に何か御用があったのですか?」


 思わず好奇心で聞いてしまった。

 男はニヤリといやらしい笑顔を浮かべてこう言った。


「もちろん殺し合いする」

「えっ!?」


 男は簡単に言い放ったが、ゼルさんの強さは本物だ。

 おそらく単純な剣術勝負では簡単に勝つことはできないだろう。

 とはいえ、それは普通の人の場合だ。

 この男はまぎれもなくチート持ち来訪者だ。


 ――――こいつは危険すぎる。


「えっと…なんでそんなことをするのでしょうか?」

「変なことを聞くんだな、ガキンチョ。もちろん俺が最強になるためよ!」


 強いヤツがいるのなら勝負を挑まないと済まないバトルジャンキーなの?ゲーム脳なの?

 とにかく関わるべきじゃない。

 ここは逃げないと――――


 ゾクッ!!


 ほんのわずか、注意しないと気づかないような微弱な魔力が全身を巡る気配を感じた。


「ほう、15歳だというのに鍛えているなぁ。ステータス全てがいい水準で伸びている。特に魔力の大きさだ。普通の人間の倍はある」

「な…なぜ…」


 年齢?ステータス?何故そこまでわかるんだ…。

 鑑定か!鑑定でオレのステータスを覗き見やがったんだ!

 予想を超える不快感があるなこれは。


「俺は相手の実力を見抜くスキルを持っている。レベルや体力値、魔力値、能力値、使用可能魔法、使用可能武技など全部見えているぞ。冒険者ランクだと中級程度のスペックは確実にあるな。……だが全然弱い。俺にとっては雑魚以下だ」

「…っ」


 男は一歩オレに近づいてきた。

 その瞬間、ある情報が脳裏に浮かんできた。




 【チート】

 ◆限界到達者

  レベル・体力・魔力・攻撃力・知力・敏捷度すべて限界値に到達

  LV …99

  HP …9999

  MP …9999

  STR…999

  INT…999

  AGI…999


 ◆鑑定

  対象の詳細を閲覧することができる


 ◆アイテムボックス

  アイテムを収納することができる




 なんだこれは…


 前世のゲームのような数値が浮かんでくる。

 全ての指標が上限に到達しているようだ。

 このステータス、もはや人間のスペックではないだろう。

 やっぱりというか予想通りというか、ちゃっかりチート(ずる)持ちだった。

 ご丁寧に異世界転移者の基本パックの鑑定とアイテムボックスまである。


 こんなヤツに最強になるためという自分勝手な理由でゼルさんが殺されてはたまらない。

 彼はオレにとって戦闘における師匠なんだよ。


 だからといって自分には何も対抗する手段もない。

 魔導具を使ったとしても傷をつけることすらできないだろう。


 できることといえば、もう何もない。何もできない。

 この場はなんとか波風を立てることなく穏便に立ち去ってもらおう。

 

「い…いやオレ、冒険者だけど本職は魔導具技師なんだ」

「マジか…もったいないな。上級冒険者になれる素質を持っているのに。…そうだ!いっそ冒険者専業なって鍛えまくって俺と殺し合いしようぜ!」

「い、いや、それはちょっと…」

「ま、気の長い話だもんな。俺も上級に育つまで待てないしな。それに今オレが相手にするのはゼルとかいうヤツだ」

「いや人と殺し合うのはやめてほしいんだが…」

「ふむ。これ以上ここにいても時間の無駄だ。俺はゼルを探しに行く。成長したら勝負を挑んで来い。じゃあな」


 黒づくめの男はそう言い残して山のほうに去って言った。

 なんだったんだ。アイツは。

 ローエン氏が言っていた通り自分勝手な来訪者だ。


 なんにせよ、このままではゼルさんの命が危ない。

 一刻も早くこのことを伝えなくては。



 オレは急いで領都に戻ることにした。 

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