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第54話

 まず、オレは商業ギルドに行って、王都全域を網羅できる新型魔導ラインの材料が調達できるかを確認。

 そして工業ギルドで新型魔導ラインの製造及び施工にかかわる人材を確保できるか確認。

 最後に魔導具協会に行って新型魔導ラインの有用性、魔導伝導効率の向上、省エネルギー化の推進、それらから得られるメリットなどなどを実演を交えながら提案。

 今まで新型魔力炉のことしか考えていなかった魔導具協会にとっては革新的な提案だったそうだ。

 普通に考えれば誰でも思いつきそうなことなんだが、約100年間、現行魔力炉の技術が秘密にされ続けているせいで仕組みや構造に関する考察はタブー視され、思考停止状態に陥っていたのだろう。

 今まで何の問題もなく稼働し続けていたのだから、現行魔力炉の出力低下以外の欠陥はないという固定概念も出来上がっていたかもしれないな。


 とりあえずオレの提案は受け入れてくれそうだ。

 今から魔導具協会の役職者を集めて緊急会議を行い、採決をとるそうだ。

 ま、今のところ、他にどうすることもできなさそうだから大丈夫だと思うが。


 ついでに現行魔力炉の見学をしたいとお願いしたのだが、やはり無理だった。

 現行魔力炉施設に入る権限は、極一部の王族しか与えられていないそうだ。

 王妃ですら現行魔力炉に近づくことすらできないらしい。


 怪しすぎるだろ。

 ただ魔力を生み出す設備なのに技術者が立ち入ることができない。

 しかも一部の王族だけしか権限が与えられていない。

 王と第一王子のみ。

 約100年間、王を継ぐ者だけが真実を知っている…。

 怪しいなんてものじゃない。

 そんなの普通の魔力炉であるわけがないわな。


 だが、王はこの現状を何とかしたいと考えているのかもしれない。

 新型魔力炉の開発に人員と金を惜しみなく費やしている。

 秘匿され続けている魔力炉に頼らず、自国の技術だけで運用できる魔力炉の開発を急いでいるようだ。

 オレやクラークさんをはじめ、全国から魔導具技師を招集するくらいだからな。


 なんにせよ、現行魔力炉施設に入り込む方法を考えないと。




 しまった。

 まじめに仕事をしてしまった。

 さっさと用事を終わらせて観光するつもりだったのに…。


「勇者さんの劇、おもしろかったよう。やっぱり話で聞くのと、見るのでは全然違うね」

「そうね。でもちょっと話に無理があるような気がするわ。大魔導士のチートを持っていたあたしより、絶対魔力量は上よ。そんなのチート以上の超チートだわ」

『勇者、強すぎる。勇者、敵に回ったら怖い』

「あんな強い力を持っていたら普通に生活できないね。お姉ちゃんたちが力を手放したのもわかる」


 勇者の演劇はおもしろかったそうだ。

 オレも観に行きたかったなぁ。


「そうだ、お兄ぃ!今度劇場で音楽公演があるんだって!みんなで行こうよ!」

「ほう。音楽か…。この世界に来てから音楽なんてほとんど聞いていないもんな。よし。みんなで行こう!」

『むっち、音楽わかんない。聞いてみたい』

「キーノお兄ちゃんのお嫁さんが音楽に詳しかったから、私、何度か聞いたことがあるよ!」


 オレ、自分には音楽の才能はないけど、聞くのは好きなんだよね。

 よし楽しみになってきた。

 でも、その前に王様との謁見があるんだよな。

 しかも面倒なことになりそうな気もするし。



 宿にイーガー団長からの伝言があった。

 急な話だが、明日朝、王城まで来てほしいとのこと。

 今は緊急時だから略式だが褒賞の儀をとり行いたいんだと。

 略式!いいね。

 おそらく王様も面倒くさいんだろ。

 でもやらないワケにはいかないから、さっさと終わらせたいということだよな。

 望むところ。

 さっさと終わらせよう。


「明日は魔導具関連で遅くなるかもしれん。ご飯は先に食べておいてくれ」

「わかったよう。変なことはしないでよ。ときどきアリスくん、ワケわからないことするから」

「しねえよっ!」

「ええ~。気が付いたら誰かにケンカ吹っ掛けたりするじゃん」


 わからん。

 今回は場合によっては国王様にケンカ吹っ掛けるかもしれないからね。

 あとは国王様がいい人であってくれることを願うばかりだ。




 いつもよりも立派なスーツを着て王城に来た。

 今日はゴーグルではなく魔導メガネを装着。

 イーガーさんにも挨拶した。お礼も言った。演劇にされた恨み言も言った。

 国王様と謁見するときのマナーも教わった。

 もう略式なんだから適当でいいじゃん。

 面倒なことはさっさと終わらせるに限る。


 さて、いよいよ謁見だ。


 ソルドレージ王国国王、ドライグ・ゴドアー・ソルドレージ。

 御年37歳になる。

 国王にしては若いほうなのかな。

 国王と言えば髭を生やして威厳たっぷりにしているイメージが強かった。

 ドライグ王のイメージも王家ならではのオーラを放っているような人だと言う。

 だが実際のドライグ王は疲労の跡が消せず、憔悴しきっているように感じる。


 ドライグ王の横には第一王子トーアロッドが控えている。

 また謁見の間には宰相みたいな偉いさん、秘書っぽい人、イーガー団長率いる衛士隊がいる。

 合計10人に見守られながら褒賞。


 お決まりの堅苦しい言葉で謁見の挨拶する。

 国王もお決まりの挨拶を済ませさっさと終わらせようとする。

 なんだかんだ堅苦しいことを言っているが、意訳すると「魔族倒したんだね。ありがとう。お礼に何かあげるよ」ってことだ。


「アリスタッド・スパーダよ。何か望みのものはあるか?金でも名誉でも品でもよい。何でも構わん。希望を申せ」

「では国王陛下。僭越ながら希望を申させていただきます。私の希望、それは…」

「それは?」

「現行魔力炉施設の立入許可です」

「!!」

「私はこれだけを希望いたします」


 思った通りだ。

 国王、第一王子は焦りの表情を浮かべている。

 対照的に宰相っぽい偉い人や秘書さんは「別にいいじゃん、お金もかからないし」みたいな顔をしている。


「王よ。どうされましたか。別に構わないのでは?」

「いやダメだ。魔力炉への立入は王かその後を継ぐ者しか認められていない」

「左様でございますか。なら仕方ありませんね」

「ダメでしたか?私は魔導具技師をしておりまして、現在王都の新型魔力炉開発に協力しているのですよ。ですが新型では従来の出力の1/20程度しか出せません。このままでは王都全体の魔力供給が難しくなります。そこで私は魔導具技師のはしくれとして、現行魔力炉の出力のヒントを得ることで、新型魔力炉の開発に貢献しようと思ったのですが…」

「本当ですかな?アリスタッド殿」

「ええ。今魔導具協会でも議論されていますよ。このまま現行魔力炉の活動が停止してしまったら、新型魔力炉では王都全体の魔力を供給し続けることはできません。早急に手を打たなければならない状態です」

「なんと…。そこまで状況は逼迫しておったのか…」

「最後の望みである現行魔力炉の立入さえ許可を頂けたなら、この状況から一歩抜け出せるはずだったのですが…」

「王よ。今一度考えてみては…」

「…ならん。ならんのだ…。絶対に魔力炉への立入は許可できん」


 魔力炉の開発をダシにしてみたが国王はまだ許可を出さないか…。

 少し危機感がなさすぎるぞ。

 魔力炉が止まってしまえば、王都に住む数十万人の民に被害が出る。

 対案も出さないくせに、むかしからの古い決まり事だけを守ろうとする。

 保守的すぎるぞ、国王よ。


「残念ですよ。国王陛下。私は王都の未来だけでなく、王族の呪いも何とかしたいと思っていたのですが…」

「王族の呪い?アリスタッド殿。下手なことをおっしゃられますと侮辱ともとられかねませんぞ」

「これは失礼いたしました」

「ま…待て。お主は何を指して王族の呪いと言ったのだ?」

「えっと…。ここで言ってもいいですかね?」

「構わん」

「…“勇者”のことですよ。国王陛下」


 ガタン!と椅子を倒しかけながら国王は立ち上がった。

 ヤバイか。

 怒らせちゃったか?


「王よ。立ち上がられてどうされましたか?この者が何か無礼を働きましたか?」

「い…いや…、問題ない。…この者と余人を交えず話がしたい。他の者は下がれ」

「王!よろしいのですか?身の安全は!?」

「大丈夫だ。トーアロッドがおる」

「かしこまりました。者ども下がるのだ。イーガー殿も下がらせろ」

「はっ!」



 国王が、オレのような得体のしれない者と二人っきり…。

 あ、王子もいるから三人だけ。

 “勇者”の話って、よっぽどのことなんだな。


「アリスタッドと言ったな。勇者とはどういうことか教えてくれないか」

「はい、まどろっこしいのは苦手なんで、単刀直入に言います。勇者の力はもう既に限界を迎えています。あと1ヶ月持つかどうかでしょう。それまで何もしなければ勇者を見殺しにするようなもの。また王都の民数十万人も魔力の恩恵が受けられなくなります」

「なぜ貴殿にそのようなことがわかる」

「わかりますよ。魔導具技師ですから」


 勇者の伝承を聞いていると、無限の強さと魔力を持つ勇者が最後に姿を現した場所は王城。その後誰も姿を見ていない。

 そして勇者が姿を消した直後に、王城の中に魔力炉が完成する。無限の魔力を携えて。

 約100年後、魔力炉から流れてくる魔力から、チートか神力が宿った助けのメッセージが届く。

 魔力炉の仕組みは魔導具協会の人間すら知らない。王族のみが知っている。


 これ、どう考えても王族が勇者の力を利用しているよね。

 …隠す気があるのかと疑うほど丸わかり。

 さすがの勇者様も110歳超えているだろう。

 もう限界だよな。

 いい加減に解放してあげないと。


「魔力炉の炉心は“勇者”、ですよね」

「なるほど。貴殿には見抜かれているようだ。わかった。一から説明させてくれ」



 勇者の邪神討伐の話は有名だ。

 だが伝承では語られていないが、完全消滅とはいかなかったらしい。

 王城での褒賞の儀が終わったあと、邪神の最後の悪あがきの一矢、魔力を奪い尽くす魔族が勇者の左肩に喰らいついた。

 しかし魔族は勇者の魔力を奪い尽くすことができず自滅。

 何事もなく終わるかと思われたが、魔族の最後の呪いは継続し、勇者を蝕んでいた。

 勇者の魔力が意図せず次々と流れ出していく。

 勇者は倒れてしまったが、魔力の流出は止まらない。

 魔力の暴走により、魔力嵐が起こる寸前だ。

 先々代国王は、王家に伝わる封印の魔導具で勇者ごと封印することに決めた。

 多少は魔力の暴走は鎮めることができたが、勇者の無限の魔力は漏れ続けている。


 現状では勇者を救う手立てが見つからない。

 勇者を救う方法は後々考えるとして、今はこの流出する魔力をどうするか。

 先々代国王はこの勇者の無限の魔力を利用することにした。

 勇者を封印したまま安置する部屋を作り、そこから生み出される魔力を有効利用する。


 それが魔力炉だ。


 魔力炉の力は想像以上だった。

 王都全域に魔力パイプでつなぎ、魔力を供給し続けても枯渇することはなかった。

 王都に住む民はこの魔力の恩恵を享受することとなった。


 解決策を模索し続けたが何も見つからない。

 民は魔力供給に依存していることもあり、今さら魔力炉を止めることもできない。


 王家は、民のために勇者を犠牲にしたのだ。


 国を、世界を救ってくれた勇者に対して非道の選択をした王家。

 この事実が外部に漏れてしまえば、国が揺らいでしまうことになるだろう。

 仕方なく、この秘密は王家の極一部しか知らされることのない最重要機密となってしまったのだ。


 これが王家の呪い。


 ここにきて最悪のトラブルが起こってしまう。

 魔力炉の出力低下だ。

 封印された勇者からの魔力供給が尽きる。これは勇者の死を意味する。

 王家にとって、勇者の死も、魔力炉の稼働停止も最悪のシナリオだ。

 どちらも避けねばならない。

 だが回避する方法も見つからない。


 これが今の状況だ。



「なるほど。理解できました」

「正直手詰まり状態だ。誰に頼ることもできず、手をこまねいていた。アリスタッド殿。お主に協力してほしい」

「ええ。わかりました。できる限りの協力をお約束します。ですがその前に魔力炉を見させてもらうことは可能でしょうか?」

「…わかった。今から案内しよう」


 国王は宰相っぽい人に声をかけ、王城の地下に案内される。

 かなり厳重に守られている。

 鍵も物理鍵に魔導鍵の両方を使用している。

 ま、そうだよね。

 ここには王家の最重要機密があるからね。

 一緒にいるのは国王と第一王子だけだ。


「この部屋だ。もちろんわかっているが、このことはくれぐれも内密に頼む」

「もちろんですとも。口が裂けても漏らしませんよ」


 そりゃそうだろ。

 情報漏洩した瞬間、死罪確定だ。


 部屋の中は窓一つない密室だ。

 薄暗い魔導灯で照らされている。

 中央の大きな繭型の棺のようなものから無数の魔導パイプが伸びている。

 間違いなくあそこに勇者が封印されているのだろう。


「悪いが今は封印を解くことができない。今は調査だけにしてくれ」

「かしこまりました。何も手を出さず見ているだけにします」


 とは言え、見ているだけでも無数の情報が飛び込んでくる。

 無限の魔力の源、おびただしい魔力の奔流、それでも漏れている魔力などなど。

 そして勇者の情報。



 【チート】

 ◆勇者/夢幻魔力・絶対強者・不屈・対魔特効・対邪神特効・聖魔法

  夢幻魔力(無尽蔵の魔力を持つ)

  絶対強者(強者と戦うたびに同等に強くなる)

  不屈(力尽きそうになるとわずかに気力体力魔力が回復する)

  対魔特攻(魔族に対して2倍の攻撃力を持つ)

  対邪神特攻(邪神に対して2倍の攻撃力を持つ)

  聖魔法(聖属性の魔法が使える)


 ◆鑑定

  対象の詳細を閲覧することができる


 ◆アイテムボックス

  アイテムを収納することができる



 魔族と戦うだけで同等に強くなる?

 なのに対魔特攻の合わせ技で2倍の攻撃力?

 死にそうになっても不屈で復活し、聖魔法ですぐ回復?

 夢幻魔力で魔力は尽きない?

 勇者ってチート、はっきり言ってバグレベルのぶっ壊れ性能だね。


 そして魔導メガネの診断機能で繭の中の勇者を検診。

 ありゃりゃ…衰弱、疲労、浸食などなど。

 正直、生きているのが不思議なくらい。

 ああ、『不屈』のせいで無限回復しているんだ…。死ぬに死ねない生き地獄だ。

 でもさすがに約100年も経ってしまえばチート能力も経年劣化するのかな。

 チート鑑定で見たら『勇者』の文字がかすんで見えているよ。


 さて問題の魔力流出の原因だ。

 これは間違いなく左肩に食い込んでいる魔族の牙。

 半分以上、同化しかけている。

 診断結果に浸食と出ているのはコイツのせいだね。

 魔族の残滓ならオレの“チートなし”で無力化できる可能性がある。


 問題は勇者その人だ。

 封印が解かれて、浸食を消し去っても無事なのだろうか。

 それだけはわからない。

 なにせ100年前の人だからなあ。


「国王陛下、ありがとうございました。勇者の魔力流出を止めるアイデアが浮かびました」

「おおそうか!これだけでもわかるものなのか。魔導具技師はすごいなあ」

「ただ、勇者の身の保証はできかねます。何せ110歳を超えている人ですから」

「…むう…。確かに…。仕方ないのか」


 勇者の問題は何とかなるとして、一番の問題は王都民への魔力供給の件だ。

 新型魔力炉で魔力供給を賄わないといけない。


「あとは新型魔力炉の問題か…」

「国王様、それはもしかしたら解決できる可能性があります」

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