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第5話

 定期運行魔導車に乗り、領が管理している鉱山の近くで途中下車。

 ここから1時間ほど歩いたところにある河原で魔鉱石が採取できるらしい。

 そもそも魔鉱石とは鉱山から取れる鉱石そのものではなく、鉱山の近くの魔素溜まりで鉱石成分を含んだ石がさらに魔力を蓄積して出来上がるものだと言われている。

 定期的に採取できるものではないらしいので、国の鉱夫ではなく冒険者に魔鉱石の依頼が来るようになっているらしい。


「魔導具製作の素材でも使えるからね。できる限り採取したいところだ」


 魔鉱石と普通の石では一件では判別付きにくい。

 一度手に取って魔力を流して何らかの反応があれば魔鉱石、反応がなければただの石ってことになる。

 一つひとつ確かめる必要があり時間がかかってしまうので採取量は期待できないとファラさんは言っていた。


 だがオレにはこれがある。

 魔力探知用魔導ゴーグルが。

 魔力を帯びた魔鉱石なら、魔力を見ることができるオレにとって見つけるのは簡単なはずだ。



 予想通りだった。

 採取予定地であるダダ鉱山の近くを流れるヤーティ川の河原に到着して早速ゴーグルをかけて周りを見渡してみる。

 するといくつか微弱な魔力を放っている石が確認できた。

 あまりにも魔力が弱いので5mくらいまで近寄らないと発見できないが、この河原を下流に向けて探知しながら歩いていけば相当数の魔鉱石の採集できそうだ。


 目的の量はスグに確保できた。依頼の目標個数も自分用の素材分も。

 魔力探知用魔導ゴーグルは本当に便利だ。

 魔力を帯びてしまったオレの眼にしか効果を及ぼさないのが悔やまれる。

 冒険者たちが普通に使えるようになれば簡単にたくさん魔鉱石が手に入るようになってたくさん魔導具ができるのに。


 領都行きの定期運行魔導車が近くの道を通るまでまだまだ時間があるし、この場所でできる常時依頼、化石の採取や食用野草採取もやってみようかな。



 やっぱり欲をかきすぎるのは良くない。

 素直に魔鉱石を持って帰途につけばよかった。


 今、魔力探知魔導ゴーグルが強い魔力を持った何かが動いているのを感知した。

 その数は3体。距離は30mくらい離れているのでまだ気づかれていないと思う。

 魔力の反応が腰くらいの高さにあるので、おそらく野犬が魔力を帯びて魔物化したマッドドッグだろう。

 たしかに冒険者ギルドの資料でもこのあたりで遭遇する可能性があると書いてあった。


 どこにでも沸く雑魚モンスターだが、放置しておくと群れを作ったり進化したりすることもある。

 ハッキリ言って害獣だ。見つけ次第駆除するのがいちばんいい。

 残念ながら素材としては魔石と皮以外はゴミ同然。


 雑魚魔獣といっても油断をすると命を落とすこともある。

 特になりたての見習い冒険者なら特に。

 大きさはドーベルマンを大きくした感じ。それが3匹で襲ってくるかもしれないんだ。

 戦闘に慣れていたら簡単に討伐できるんだろうが、こちとら初戦闘。

 正直、めっちゃ怖い。


「やはり逃げるのが一番だ」


 オレは恐れをなして逃走することを決意。

 音を立てないように河原に向けて迂回するように逃げよう。


 ところがマッドドッグは警戒しながらこちらに向けて徐々に近づいてきている。

 もしかして気付かれているのか。


 やり合うしかないのか。自信はまったくないが、武器も用意してあるし迎撃用の魔導具もある。

 オレは戦う準備をしながら河原に辿り着いた。


 オレが持っている武器は素材剥ぎ取り用のナイフ、そしてスタンガンのような電圧を流す魔導具『スタンロッド』。

 十手のような形をしており長さは1m弱。

 これでぶん殴れば一瞬の間は麻痺してくれると思う。

 ただ相手は3匹。慎重に相手しないといけない。


 覚悟を決めて迎え討とう。


 振り向いて戦闘態勢をとった瞬間、マッドドッグ3匹ともにとびかかってきた。

 まず一番左側から襲ってくる1匹目に向けて走り出す。

 咬みつき攻撃を躱しながらスタンロッドで一撃をお見舞いする。


 バチッ!!


 電撃をくらい攻撃を止めた隙を見て剥ぎ取り用ナイフを首元に突き刺す。

 おそらくこれで致命傷を与えられたと思う。

 まず1匹目は簡単に倒せた。

 が、スグに2匹目・3匹目が襲いかかってきたので、ナイフを抜きつつ横に転がるように避ける。


 クソッ!息つく暇もないのか。


 一応、野犬対策として持ってきたアイテムはある。

 果たして魔物であるマッドドッグにとこまで効果あるのかわからないが試してみる価値はある。


 再びこちらに突進してくる瞬間を狙って…


「今だ!必殺サクサン90パーアタック!」


 オレはビンに入った薬品をマッドドッグ2匹にぶっかける。

 今朝医薬品ギルドで買った消毒用薬品の原液だ。

 酢酸かどうかはわからないが何やらアルコール的なものを1:20で薄めて使用する。

 消毒効果は高いがこの薬品には致命的な問題がある。

 とにかく臭いが強烈なのだ。


 前世の中学生時代、理科の実験で酢酸90%の臭いを直接嗅いでしまったことがある。

 これ、冗談抜きで「エンッ!」って言ってしまいそうになる。

 鼻は麻痺するわ、鼻の奥は激痛がするわ、目は開けられないわ、涙は止まらないわで大変だった。

 その時はもう二度と直接かがないぞって思っていたが、医薬品ギルドで同じ失敗をしてしまったことは内緒だ。 

 ちゃんと先生のいうことを聞いて直接臭うのではなく、手などで鼻のほうに扇いで嗅いでください。まじで。


 魔物と言えども所詮は犬。

 効果はてきめんだ。


 1匹は気絶してもう1匹はのたうち回っている。

 自分の安全のため追い打ちでスタンロッドで麻痺させ、抵抗できなくしてから止めを刺す。


「ああ~、怖かった~」

 

 今回は上手くやっつけることができたが、正直ビビった。怖かった。

 3匹だったから何とかなったが、もう1グループいたら、もう1~2匹いたらやられていたのは自分だっただろう。

 まだ心臓はバクバク鼓動がうるさい。


「これもハンターの仕事の一つか…」


 マッドドッグから魔石を抉りだし、死体を焼却。

 皮も売れるだろうが解体の仕方がわからないし、正直グロいから皮を剥ぎ取るのはやめておいた。

 魔石を取るのだけでも必死に耐えたんだよ。


 魔導具やアイテムのおかげで今回は何とかなったが、剣術も魔法も鍛えないと冒険者としてやっていくことは難しい。

 オレが今持っているメイン武器はスタンロッド。

 他の武器がどれくらい使えるのか全く分からない。

 武器っぽいものを持ったことなんて学院の授業以外では前世で持っていた野球用の金属バットだけだ。それも武器じゃなくスポーツ用。


 魔法での攻撃もできないことはないがまだまだ自信がない。

 実戦経験がないのだ。

 焦っている状態で魔法がきちんと撃てるかわからない。

 暴発したり失敗したりしたら隙だらけになってしまう。


 採取は滞りなく終えることができたが、戦闘はダメダメ。反省だらけだ。

 普通の魔導具技師として生活していくだけなら戦闘力はいらないかもしれないが、いい魔物素材などを収集する場合は自分で採取しないといけないことも多いので最低限の強さは必要だ。その力をつけるために冒険者になったと言っても過言ではないんだ。

 これは無事に戻れたらいろいろ特訓しないといけないな。




 しょんぼりしながら冒険者ギルドに帰ってきた。

 あまりの気落ちした雰囲気だったのか、ファラさんが心配げに声をかけてきた。


「あの…アリスさん。かなり落ち込んでいるようですが大丈夫ですか。でも心配しなくていいですよ!依頼の失敗なんて誰でもあることなんです!それに今回は常時依頼ですから失敗記録は残りませんし、ペナルティなんてありませんからね。だから次に向けて頑張りましょう!

「あ…いえいえ。大丈夫ですよ。依頼は無事に達成したと思うので」

「そうなんですか?では採取品の魔鉱石の査定を行いますので査定カウンターでに提出していただけますでしょうか」

「あ、はい」


 ガラガラガラガラ・・・・・


「えっ?…」


 しまった。自分の素材用に半分以上残しておこうと思っていたのに全部カウンターの上に出してしまった。


「…あの…アリスさん、この大量の魔鉱石、どうされたのですか?」

「ギルドから教えてもらった採取エリアで拾って来ました。取りすぎたらまずかったですかね?」

「いえ、それならいいんですが…あまりにも量が多すぎます!普通1日で採取するなら5個見つかればいいほうなんです。それが10倍近くの個数がありますよ。異常です!なにか特殊な方法でもあるのですか?」


 ああ、確かにゴーグルのおかげだからね。

 でも魔力検知はオレしかできないので採取のコツなんて教えることはできないな。ここは黙っておくべきだ。


「たまたまですよ。もしかしたら普通の石も混ざっているかもしれませんしね。あ、半分は自分用にしますので、あと残りの査定をお願いします」

「はい、わかりました。査定をするのでしばらくお待ちください。(たまたまでこんなに見つかるわけないじゃない)ブツブツ」

「あ、別の依頼の採取品もあったんです。この化石と食用野草の査定もお願いします」

「・・・・・・・」


 ファラさんは黙ってしまった。


 うん、このやりすぎてしまった感。異世界転生モノの醍醐味だね。

 実は一度やってみたかったんだ。

 でも実際やってみると気恥ずかしい。これからはほどほどにしようと思う。


 査定の結果、魔鉱石は上質のものばかり、化石や野草は普通だった。

 依頼達成だけを見ると大成功だ。


 でも自分の中では問題だらけだ。あまりにも実戦経験がなさすぎる。

 雑魚と言われるマッドドッグですら必死にならないと倒せないなんてふがいなさすぎる。

 たしか冒険者ギルドには訓練場があったはず。

 訓練してほしいと依頼を出せば誰でも戦闘訓練をしてくれるらしい。

 お金はかかるがお願いする価値は充分にある。


「あの、ファラさん。オレの戦闘訓練の依頼を出したいんですがいいでしょうか」

「はい。依頼承ります。初級訓練の教官依頼でよろしいですね!」


 ファラさんと訓練期間や報酬などを決めてから正式に依頼を出すことになった。

 教官が決まれば連絡をもらえることなので、今日のところは採取依頼の報酬をもらって退散することにした。




 訓練の依頼を請けてくれたのは上級冒険者の『ゼル・コーバー』という男性。

 身長は175cmのオレより10cmほど高い。年齢は30代前後という感じだ。

 筋肉質で、いかにも戦闘職って感じの人だ。


「君が依頼者のアリスくんか。俺はゼルと言う。よろしくたのむ!魔法は全く使えないが剣術には自信がある。ビシバシ鍛えていくからそのつもりでな!」

「は…はい。よろしくお願いします」


 オレはゼルさんにギルドの訓練場にほり込まれた。ファラさんは心配そうにこちらを見ている。


 ゼルさんは魔法は全く使えない。と言うより魔力を全く持っていない。

 この世界では魔力のない人間はほとんどいないらしい。

 だからこそ魔法に頼らず自分の力だけで剣術を極め、上級冒険者になった。

 それはとてつもない努力なのだろう。それだけの人間に教えてもらうことができるのはとても光栄なことと思えた。


「あまいぞ!アリス!魔法でも剣でも槍でもどんどんかかってこい!全部躱して返り討ちにしてやるわ!」


 が、思いっきり肉体言語で会話するタイプだった。

 オレはいろんな武器を使っていろんな魔法を使ってゼルさんに攻撃を仕掛けるのだが、全てはじき返されどこがダメなのかを身体に直接教えてくれる。

 毎日ボロボロになりながらも一つひとつ強くなっている実感が持てた。


 最初は1週間ぐらい訓練をつけてもらえたらよかったのだが、オレがどんどん強くなってきているのを見て勝手に延長を決めた。

 気が付けば訓練終了には1ヶ月かかった。

 上級冒険者を長い期間拘束したのだから報酬もかなりの額だ。

 ゼルさんが勝手に延長したから1週間分だけでいいと言ってくれたが、それだけの金額を支払う価値はあったと思うので受け取ってもらうことにした。



 最低限の実力はついてきたと思う。

 討伐依頼も何件かこなすことができた。

 自宅の内装のリフォームも続けている。

 魔導具も生活雑貨だけでなく、攻撃用のモノも増えた。


 いろいろ充実した毎日が遅れていると思う。



 そうして数か月が過ぎた。

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