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第24話

「アイナちゃん!アイナちゃん!しっかりして!傷は治ってるよ」

「ミカゲ!アイナの容態は!」

「ダメだよう。傷は治りかけているのに体力が…魔力が戻らない…」


 ミカゲはもう涙を流しながら治癒魔法を連発している。

 アイナはいつからここで倒れていたんだろう?

 迷宮の入り口からここまで調査しながらなら3日はかかっているだろう。

 とすれば今日は調査開始して4日目。

 丸1日くらい倒れていたということか。


「ミカゲ、飲料タイプの回復薬あるか。栄養たっぷりの」

「う…うんある!“ゆんゆん”と“けるける”!」

「よしまずは栄養補給兼用の“ゆんゆん”を飲まそう」


 オレは茶色い小さなビンに入った回復薬(スポドリ風味)を飲ませる…が咳き込んで飲めないでいる。


「わわっ。咽てしまっているよう。ここは口移しするしか…(チラッ)」

「待て待て。意識がない人に口移しで飲ませるのは危険なんだ。誤嚥して気管がふさがってしまう恐れがあるんだ。ここは上体を起こしてゆっくり口にふくませる。自力で飲めるようだったらいいんだが…」


 オレはアイナを抱きかかえてゆっくり口元に回復薬を流し込む。

 ごくっ…ごくっ…

 少しずつ飲み始めた。

 ここで吐いたりしたら大変だった。

 少しは状況はマシになったと言えるだろう。


「ごぼっ…はあ…はあ…っ…」

「あ、意識が戻った!よかったよう…」


 アイナがうっすらと目を開けた。


「まだ喜ぶのは早い!まだ意識が戻っただけだ。まだまだ処置しないといけないことが…」

「…い…いいの…。あたしは…もう…このままでいい…」

「何言っているのよう!諦めちゃダメなんだから!」

「ごめん…ミカゲ…。あたし…諦めちゃった…生きるの…」

「ダメ!そんなの言っちゃダメ!せっかく友だちになれたんだから!一緒にショーツとブラ買に行く約束も果たしていないのに!」

「ほんと…ごめん…ね。もう何もしなくていいから…。最期にミカゲに会えてよかったよ…。アリスも…ありがとう…」

「嫌だよう!このままいなくならないで!また一緒にお風呂入ろうよ!次は揉ませてあげるからぁ!」

「……ごめん…ミカゲ…。ごめんアリス…。そして…ごめんね…お兄ぃ…。もう一度…会いたかったよ…死んだら…また会えるかな…」



「今ここで死んでも“山口有馬”には会えないぞ」



「…ア…アリス?今…なんて言った?」

「だから山口有馬には会えないって」

「なんで…お兄ぃの名前知っているの?なんで死んだら会えないってわかるの?ねえ!」

「元気になって、この迷宮から脱出出来たら教えてやるよ。だからそれまで死ぬなんて言うな」

「教えてよ…今…」

「ダメだ。アイナが…藍奈が元気になるまで秘密だ」

「本当ね…。ここから出たら教えてもらうわよ」

「ああ約束する…」


 アイナは急に活力が漲り出したような感じに。

 眼のハイライトも復活!

 血色も良くなってきた。


「“ゆんゆん”と“けるける”ちょうだい!あと魔力回復薬も!」


 ぐびっ…ぐびっ!


「ふぅ…。こんなところで寝ている場合じゃないわ!クリーン!キュア!そして極大ヒール!」


 あれっ?すっかり復活しちゃったよ。

 もう自分の足で立てるくらい。


「アイナちゃーん…。よかったよう…復活してくれて…」

「ありがとうミカゲ…。でも今際の際で恥ずかしいこと言わないでくれる?」

「うわあん…ごめんよう…」


 ミカゲはアイナに抱き着いてわんわん泣いている。

 そしてアイナはオレを睨んでいる。


「アリス、約束だからね」

「わかったよ」

「んじゃ!この迷宮、突破するわよ!」

「お…ぉぅ…?脱出じゃなくて突破ぁ?」

「そう!このままじゃあたしは消化不良よ!」


 あららすっかり元気になっちゃって。

 口調もすっかりむかしの藍奈になっちゃって。

 有馬の名前を出したらこれだ。

 オレがもっと早く打ち明けていたら良かったのかもな…。

 ごめんよ。オレの意気地がないばかりに。


「でも大丈夫なのか?魔物に手ひどくやられたんだろう?」

「違うわよ!私がやられたのはシン、あいつよ」

「!?なんだと!」


 シンと一緒に第7階層に到着し調査をしていたときに上位種のオーガと出会った。

 スグさまアイナの魔法がオーガに炸裂。

 迷宮の壁ごとふっ飛ばし、もう少しで倒せるところまで行った。

 そこでシンがアイナの背後から襲いかかる。

 背後からの攻撃に油断していたこともあり、背中から大きく斬られてしまった。

 防具の追加能力や補助魔法で致命傷は避けたが手痛い一撃だった。

 シンはアイナが持っている武器や防具、アイテムボックスの中身を狙っていたようだ。

 だが直接殺すことはできない。刃物キズや魔法だと人間の犯行だとバレるからだ。

 一番いいのはアイナが魔物に襲われて死ぬこと。

 シンにとって上位種のオーガが出たのは千載一遇のチャンスだったのだ。

 だがアイナの魔法攻撃はオーガの防御力を軽く上回る。

 ならオーガに任せておくわけにはいかない。

 一か八かの賭けに出よう。

 大魔法の術式回路を仕込んだ魔法発動器。

 これは大魔法を魔石に閉じ込め、一回だけ使用できるようにする物。

 アイナとオーガの両方始末するためにシンはためらいなく使った。

 辺りは大爆発を起こした。

 これでアイナとオーガ、両方始末したと思ったシンは一度戻りギルドに報告。

 そして後日、武器と防具、そして死んだら全部ぶちまけられると言われているアイテムボックスの中身の回収に来た。


 そんな流れだそうだ。

 とんでもないヤツだったんだ。


「でも不思議なのよね。あたし、シンの大魔法で確実にやられたと思ったのよ。でも私もオーガも死ぬまで至らなかった…でもそれまでの傷が深くて部屋の隅っこまで逃げるのが精いっぱい」

「ああ…。それはオレが渡したお守りのせいだな。致命傷を受けてしまいそうな魔法の直撃を身代わりしてくれる『致命傷身代わりくん』」

「わかりやすい名前ね。でもおかげで助かったわ。ありがとう」

「どういたしまして」

「さ、迷宮の最深部まで行くよ!」


 特級冒険者は格が違った。

 魔物なんてあっという間に蹴散らしていく。

 あの上位種のオーガもいたが、オーガは逃げることにしたらしい。

 獲物で餌のシンの亡骸を残して。


「ミカゲは見たらダメ」

「そうね。これはグロいわ」

「ぅぅぅ…。目をつぶって後ろ向いておくよ…」

「いくら悪いヤツでもこうなってしまったら可哀想だな…」

「何言ってるのよ!魔物に殺されるってこと、冒険者なら覚悟しないといけないことよ!あたりまえのことじゃない。シンも失敗したらこうなるかもしれないと覚悟していたはずよ。それに悪いことをしたなら討伐されるべき。いいことをしたんだから可哀想だなんて思うなんてもってのほかだわ!それにあたしを助けてくれた結果よ。なのにそいつを憐れむなんてあたしに対して失礼!」

「そう…だな…。シンはやり方を間違えてこの結末を迎えた。自業自得なんだ。憐れんではいけない。なんか救われた気持ちになった。ありがとうアイナ」

「い…いいわよもう…」


 オレたちはシンの亡骸から冒険者証を持ち帰ることにした。

 ついでに上位種のオーガを瞬殺した。アイナが。


 それで気が付けば第10階層のボス部屋の扉の前。

 どう見てもここがラスボスだよな。

 どデカい豪華な扉。明らかに何かが出てきそう感がある。

 ここは事前準備をしっかりして迎え討とう…


「さっさといくわよ!こんなところでじっとしていられないわ!」


 扉をこじ開け、ずんずんと中に入っていくアイナ。

 準備も何もあったもんじゃない。

 オレもミカゲもムツミさんも仕方なくついていく。

 やっぱりいたよ。ラスボス。

 ミノタウロスかな?

 おまけに中ボスクラスの護衛を数十匹引き連れて。

 これ、めっちゃ強そう。まずいんじゃないの?

 オレやミカゲ、ムツミさんじゃきっと相手にもならないよ…。


「ああっ!もう!うっとうしい!こうなったらあたしも超極大オリジナル魔法使うわよ!かなり強力な殲滅魔法。鬼の様な威力、鬼の様な威圧、鬼の様な威信をもって刃と血の華を咲かせる魔法。これを喰らうと相手は死ぬ!」

「恐ろしい魔法だな。大丈夫なのか」

「大丈夫大丈夫!あたしも全魔力の3/4くらい持っていかれるけど、とっても強力だから!」

「悪いな。オレらじゃ役に立たなさそうだし、ここは頼ることにするよ」

「おっけー…んじゃ行くよー!」



   超極大オリジナル殲滅魔法!

    鬼威乃刃華(おにいのバカーーー)



 うわあ…ネーミングセンスはどうかと思うが、すごい威力だ。

 まるで桜の花吹雪。花びら一枚一枚が偃月刀みたいだけど。数千枚もあるように見えるけど。

 それらが一斉に襲いかかる。防御も何も関係ない。

 ラスボスのミノタウロスも中ボスもあっという間に切り刻まれ肉片に変わる…。

 すさまじすぎる…。アイナさん、凶悪ですよ?

 チート持ち異世界人にとっては新生迷宮もこの扱いか…。やっぱり恐ろしい。


「さ!これで迷宮攻略完了!その辺を調査してさっさと戻るわよ!」

「アイナちゃんすごい!だけどアリスくんには及ばないけどネーミングセンスはひどいね」

「おいおいオレのネームングセンスはひどくな…」

「ひどいよ!ひどすぎるよ!このカタナなんて『イトウさん』だよ。スライムのムツミさんなんて“ムツミさん”のさんまでがフルネームなんだから!ちゃん付けで呼ぼうと思ったら“ムツミさんちゃん”なんだよ?」


 ひどい…そこまで言わなくたって…。

 『ぷよんぷよん』

 オレを慰めてくれるのはムツミさんだけだ…。でも名前に不満があったら言ってね?


 このボス部屋の調査は終わった。

 あとは迷宮核、通称ダンジョンコアの確認をするだけだ。

 核は壊してはいけない。

 なぜなら迷宮は魔物の氾濫を抑える役目があるし、資源になる可能性があるから。

 だから核がしっかり守られているのかを確認する必要がある。


 ボス部屋からつながる最後の扉を開けた。

 そこは近未来的な感じの部屋だった。

 複数のモニターが壁一面を埋め尽くしている。

 その前に台座があり、その上には迷宮核らしき宝玉が乗っている。


「やあ。いらっしゃい。冒険者の方々」


 !?背後に若い青年が立っていた。

 正直、ひょろい。不健康そうな青年だ。

 オレと同い年か少ししたってところかな。

 背はオレよりも低い。

 服装はジーパンにパーカー。

 一目でわかる異世界人っぷりだ。



 【チート】

 ◆迷宮管理者

  迷宮内に魔素がある限り迷宮を創り変えることができる

  魔物作成・罠作成・フィールド作成・転移陣設置・迷宮監視


 ◆鑑定

  対象の詳細を閲覧することができる


 ◆アイテムボックス

  アイテムを収納することができる


 

 チートの内容が脳裏に浮かんでくる。

 チートと言っても迷宮内限定か。

 迷宮は社会に役立つものだから無闇に封じてしまったらダメだよな。



「はじめまして。僕は住吉大和スミヨシ・ヒロカズ。何故かここで迷宮管理者をやらされている者だよ」

「はい。はじめまして。オレはアリスタッド・スパーダ。魔導具技師兼中級冒険者だ」

「わたしは芦屋みかげ!初級冒険者!」

「山口藍奈。特級冒険者よ」

「え…えっと…まさか普通に自己紹介で返されるとは思わなかった…。そこは『何物だ!』とか『どこから現れた!』とかならない?せっかくの演出だったのに…」

「すまん…そこまで考えてくれていたんだな。敵意が全然感じられなかったからそこまで気が回らなかった」

「いいよいいよ。たしかに僕は君たちに敵意を持っていないんだ。むしろサポートしているんだよ」

「ああそうか。アイナを助けてくれていたのはスミヨシ君だったのか」

「ふふっ、よく気付いたね。僕はここからなら迷宮のあらゆる場所を見ることができるし、構造物を変更することもできるからね。山口さんが大ケガをして身動きが取れなくなったとき、瓦礫で壁を作って魔物が入れないようにしたんだ」

「やっぱり。丸1日以上血だらけの人間がじっとしているのに魔物に襲われないなんておかしいと思ったよ。ありがとう助かったよ」

「あたしもお礼を言うわ。ありがとうございます」

「いえいえ。僕もあのシンって人はひどいと思ったからね。それなりの報いを受けてもらうことにしたんだ」

「だからオーガはシンを連れて…遺体の損壊がひどかったけどよっぽどひどいことされたんだろうね」

「さすがに僕もグロいの苦手だからそのシーンは見ていないけど、ざまあ!って感じで始末をつけておいたよ」

「お…おお、詳しくは聞かないようにするよ」

「さて、ここまで来てくれたんだからおもてなしするよ」


 スミヨシ君はパチンと指を鳴らした。

 すると円卓テーブルと椅子が地面から生えてきた。

 その指鳴らすヤツ、演出だよね。スミヨシ君わかってるなあ。

 お茶とお茶請けまで出てきた。大丈夫なんだろうかこれ?

 ミカゲが「ありがとー」って言ってスグに美味しそうに食べ始めているから大丈夫なんだろうなあ。

 ミカゲも気を許しかけているみたいだから疑うのはよそう。


「山口さん、君はこの迷宮を調査してどう思った?」

「そうね。ひと言でいうと不安定?未完成?未熟?って感じたかな」

「やっぱりそう思うよね。僕もその通りだと思う。迷宮の深さも、出現する魔物も全部中途半端なんだ」

「あ、わたしもそう思った!雑魚と強い魔物が一緒に出てくるなんてバランス悪いよう」

「そうだね。僕もバランスが悪いと思う。そこで僕から君たちにお願いがあるんだ」


 もったいぶってスミヨシ君が言った。


「僕を、この迷宮を助けてくれないかな?」


 ん?どういうことだ?

 迷宮管理者から助けてほしいだと?

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