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第21話

 やっぱり異世界転生者、通称来訪者はチートがなくてもすごかった。

 もともとの身体のつくりや成長力が普通の一般人とは違うんだと思う。

 意味不明の神の力が働いているんだろうな。

 だって初期ステータスの段階で、普通に成長してきた男性であるオレよりも強さ(STR)だけは上なんだから。


 何が言いたいのかと言うと、ミカゲの成長がすごい。


 オレとミカゲ、そしてムツミさんの2人と1匹で依頼を受けつつ魔物討伐の修行をしていた。

 初めて魔物と対峙するミカゲは本当にひどいモノだった。

 カタナの持ち方や基本的な動作は身につけていたと思ったのだけれど、実戦では全部頭の中から抜け落ちたのか持ち方も構えもめちゃくちゃ。

 見かねたオレが魔物に致命傷を与え、ムツミさんがとどめを刺して難を逃れたが、ミカゲはなかなか立ち直れずにいた。

 魔物から魔石を取りだすシーンでは悲鳴を上げていた。

 たしかに現代日本で生活していたら魔物や動物の解体シーンなんてあまり見る機会もないのだろう。

 他者の命を奪う行為に葛藤を覚えているかもしれない。


「……わたしもうダメえ。グロいのムリぃ…」


 なんて言っていたのに、一週間もしたら…


「今宵の『イトウさん』は血に飢えている。獲物はどこ!」


 今では真昼間なのにこんなことを口走りながら雑魚敵のマッドドッグを切り刻んでいる。

 まあ、強がりなのはわかっているんだけど、身体的にも精神的にも強くなったと思う。

 魔物の解体シーンでも悲鳴を上げなくなった。

 自分で解体はまだできないようだ。バラバラにはしているのに…。

 でも冒険者になるのなら素材の剥ぎ取りは慣れておいたほうがいいよ。


 ミカゲ曰く、レベルが上がったらしい。



 ■ミカゲ・アーシア/芦屋みかげ(16)

 性別 : 女 

 種族 : 人族

 属性 : 水

 スキル: 攻撃適性・防御適性・魔法適性・精神異常耐性

 (固有スキル: □□□□・鑑定・アイテムボックス)


 LV …16 →18

 HP …160 →180

 MP …160 →180

 STR…160 →180

 INT…160 →180

 AGI…160 →180



 相変わらずまっ平らなステータスだ。

 でも雑魚敵やっつけているだけでレベルが2つも上がるのか。

 ついでなのでオレもミカゲの鑑定スキルで見てもらった。



 ■アリスタッド・スパーダ(20)

 性別 : 男 

 種族 : 人族

 属性 : 無

 スキル: 魔導具技術者・魔法研究者・魔力操作・芸術・鍛冶・建築・料理・テイマー


 LV …20 →21

 HP …188 →197

 MP …357 →378

 STR…151 →160

 INT…357 →378

 AGI…273 →290



 おお!一つだけ上がっていた。

 現世界民のオレでも魔物を倒しているとレベルが上がるんだね。

 相変わらず強さだけはミカゲのほうが上だ。

 オレも頑張らないと。


 ちなみにゼリー型スライムのムツミさんは



 ■ムツミさん(4)

 性別 : 不明 

 種族 : 特殊変異スライム

 属性 : 無

 スキル: テイマー・意思伝達


 LV …4

 HP …35

 MP …40

 STR…28

 INT…66

 AGI…18



 とのこと。

 ムツミさん、特殊変異スライムだったんだね。いつの間に進化したんだろうか。

 そしてもう一つ気になる点がある。

 何故かテイマースキルを身につけていた。

 やたらと人や動物に懐くと思っていたけど関係あるのかな。


「アリスくん!もっといろんな魔物と戦いたい!討伐依頼も受けようよう!」

「まてまて!まだミカゲは雑魚敵しか戦っていないだろ!それに武器や防具のおかげもあるんだ。慢心は禁物だぞ」

「でもアリスくんやムツミさんがいれば万が一はなさそうだもん!ねっ!いいでしょ!」


 くそう。何が「ねっ。いいでしょ!」だ!


「仕方ないな。何か手ごろな討伐依頼があれば受けてみようか!」

「わーい。アリスくん、ありがとー」


 なんという天然のあざとさ…逆らえねえ。

 オレ、甘いのかな?

 でも一時期は引き籠りかけていたんだ。

 積極的に何かやりたいと言うなら叶えてやりたくなってしまう。

 うーん、兄的思考になってしまうじゃないか。




 オレたちは依頼分の素材収集を終え、ウェステンバレスの街に戻った。

 本日達成した分の報酬を貰おうと冒険者ギルドに寄ったのだが、何かいつもと違って騒がしい。

 まだ男性との距離感がつかみきれないミカゲはオレの陰に隠れて様子を伺う。


「ファラさん、ギルドの様子が変なんだけど何かあったの?」

「あ、アリスさん。実は新しい迷宮が発見されたって連絡があったんです!それで冒険者たちが躍起になって…」

「へえ。新しい迷宮なんて珍しいね。この領内に迷宮ができてしまいそうな魔素溜まりがあったんだ」


 この世界における“迷宮”は、神から与えられた魔物の抑制装置と言われている。

 高濃度の魔素が集まり飽和状態になると強力な魔物が数多く生まれたりする。

 そんな魔物たちを洞窟や異空間に閉じ込め、自然界に悪い影響を与えないようにするのが迷宮である。

 迷宮一つひとつには神の代行者と言われる迷宮管理者、通称ダンジョンマスターが存在する。

 ダンジョンマスターが迷宮を構築し、強力な魔物は深い階層へ追いやり、力の弱い魔物は上層階に配置。

 魔物が外に出ないようにして、魔素溜まりが収まるのを長い時間をかけて待つらしい。


 ただ冒険者にとっては宝の山。

 弱い魔物と強い魔物がわかれているので、自分の強さによって討伐を担当する階層を決めることが可能。

 自分を鍛えることを目的とする者にとっては最高の修行の場である。

 また魔物の素材で一攫千金を目指す者もいる。

 また迷宮という特殊な空間ならではの貴重な素材が採取できることでも知られているのだ。


 そして今回の新しい迷宮の誕生は、未知の魔物や未知の素材が見つかる可能性も高く、その価値は計り知れない。


「ようアリス。最近依頼ばっかり受けてるせいでコーヒーにありつけなかったじゃないか!しかも今度はこっちで新迷宮誕生なんてことになってしまったから当分忙しくてコーヒー飲みに行けねえ。どうしてくれるんだ!」

「い…いやどうしてくれるって言われてもオレ何もしていないし…」


 おい。ギルドマスター!新迷宮よりもコーヒーのほうが大事なのか?

 ギルドにとって一大事だろうに!


「ま、そうだよな。しばらくはコーヒー諦めるか…」

「それだったら豆とペーパードリップ用の器具を用意しておこうか?これならお湯を注ぐだけで淹れられるし」

「なんだ!そんなものがあるのかよ。ぜひ用意してくれ。最近飲んでいないから禁断症状が出てきたよ…」


 ま、ゼルも新迷宮誕生でかなりの忙しさなんだろう。

 ちょうどマジックバッグの中にアウトドア用のコーヒーセットを用意してある。

 今から濃いめのコーヒーを淹れてやろうじゃないか。


「ゼル!ちょっと給湯室借りるな」

「おう!早速淹れてくれるのか。ありがたい!できたら俺の部屋まで持って来てくれ」



 コーヒーを淹れてオレとミカゲはマスタールームに来た。


「ふう…。やっぱりアリスのコーヒーは落ち着くわ。なんかやばいものでも入っているんじゃないかと思うくらいだぜ」

「ま…間違っていないかもな。原料はポーションチェリーだし」

「依存性がないか心配になってくるな…」

「あ、それ手遅れかも…」

「そうだな。俺もコーヒーが飲めなくてイライラしてしまったし。これから定期的に分けてもらえることはできんか。もちろん正規の金額は支払う」

「それは難しい。量がないんで個人で楽しむだけなんだよ…」

「残念だ…ちょっとこれから忙しくなるんでな…。特級冒険者と上級冒険者も呼ばないといけないし、新迷宮の調査の行程も組まないといけないし…なんならアリス手伝ってくれるか!ミカゲでもいい!」

「ごめんムリ…」

「わたしも…」



 もうこれ以上ゼルのギルドマスターの仕事を邪魔をしてはいけないので、とっとと退散する。

 それにしても特級冒険者か…。

 特級と言えば、実績はないが実力は上級冒険者をも凌駕する実力の持ち主だ。

 来訪者のためにできた冒険者ランクだと言ってもいい。

 実際5年前であった来訪者のオーギとか言う人も特級だった。


 今回、招聘される特級冒険者も来訪者なのだろうか?

 オーギみたいな戦闘狂や、ケータの様なゲーマーじゃなくて普通だといいんだがなぁ…。




 新迷宮誕生は、調査が完了するまではオレみたいな魔導具技師や初級冒険者のミカゲにはあまり関係がない。

 まずは特級冒険者や上級冒険者たちが実際に迷宮にもぐり、どんな魔物が出るのか、どんなトラップが仕掛けられているのか、どんな素材が取れるのかを念入りに調査する。

 そして冒険者ギルドが情報をもとに検証し、迷宮全体の難易度、階層ごとの難易度を発表する。

 その結果、自分の適性ランクによって探索できる階層が決まる。

 だからオレたちは調査が終わるまで傍観することしかできない。


「よってオレたちはミカゲとムツミさんのレベルアップに集中しようと思う!」

「アリスくんはレベル上げないの?レベルあげるのはわたしとムツミさんだけなの?」

「オレは魔導具技師だ。冒険者ランクに興味はないし、強くなろうとも思っていない!オレはのんびりコーヒー飲みながらまったり魔導具作っていたいんだから」

「…もったいないなあ。このままパーティ組んでいけたらいいところまで行けそうなのに…」

「いいのいいの!」

「まあ、わたしも冒険者で大成したいワケじゃないからね。必要な分だけ稼げる強さがあればいいかな。だから中級冒険者くらいかな、それまで強くなるの手伝ってね!」

「あいよ」


 鉱山近くの狩場でマッドドッグを狩りつくしたので、今日からは少し南に言ったところの森だ。

 最近このあたりでゴブリンやオークが出てくるらしい。

 初級以上中級未満の依頼だが、今のミカゲならちょうどいい難易度だろう。


「ごめん!アリスくん!やっぱり4匹同時に相手するのはキツイよう!」

「大丈夫!後衛にオレもいるしムツミさんもいるんだ。討ち漏らしてもいいよ」

『ぷるぷる』


 オークが4体出てきて1匹づつ確実に処理しようとしたが、やっぱりまだまだ実戦経験が足りていない。

 ミカゲは1匹やっつけた後、すぐに3匹に囲まれた。

 でもそこはオレらでフォロー。

 田畑を耕しやすくするために作った魔導具でオークの足元の土を柔らかくして足の踏ん張りを効かなくする。

 オークがバランスを崩したのを見て1匹づつスタンロッドで麻痺させてからサバイバルナイフでとどめを刺す。


 ムツミさんの攻撃はえげつない。

 分裂した小さい分体を鼻や口にまとわりつかせ息ができないようにする。

 いや正確には鼻の奥や喉の奥までもぐりこみ、手が届かない場所から呼吸を奪う。

 苦しみながら絶命するオークさんがかわいそうに見えてくるくらい残虐な攻撃だ。

 誰だよ。ゼリー型スライムは愛玩動物的存在なんて言ったヤツ!すげえ凶悪に思えるよ!


『ぷるぷる』


 あ、ウソです。ムツミさんはかわいいです。癒し系です。

 褒めてあげようとムツミさんに近づいたら急に飛び上がった。


「見てアリスくん!ムツミさんが飛んでる!」

「そんなバカな。スライムは飛べないんだよ。羽がないからね…ってわあ!本当に飛んでる!?」


 ムツミさんが飛んでた。

 正確には透明の触手を2本伸ばし、鳥の足に掴まって飛んでいた。

 あの鳥、ムツミさんにテイムされたヤツだ。

 しばらく上空で旋回し周りの様子を伺ってくれている。


「なになに?上空から索敵したけどこのあたりにはもう魔物がいないって?ああ本当だ。オレにも見えるわ。この辺りにはいないね。これで一息つけるな。うん?ちょっと遠くまで見てくる?あまり遠くまで行きすぎるなよ。…って、何ムツミさんが考えていることが伝わるんだ!」

「今さら何言ってるの?アリスくん。前からじゃない。それにスキルで“意思伝達”があるって前教えたじゃん」

「えっ?前からなの?ミカゲは知っていたの?」


 そうだったんだ。

 確かにムツミさんが何を言いたいのかなんとなくわかっていたわ。

 依頼に一緒についていきたいってわかったのもこの意思伝達のおかげだったんだ。


 でもテイムした鳥と一緒に飛んで周辺を索敵。

 ドローンみたいに俯瞰情報が得られ、その視覚情報をオレと共有することが可能。

 これ、めちゃめちゃすごくない?

 やるなぁ!ムツミさん!

 これからはムツミさん様って呼ばないといけないかな?


「でも空を飛べるっていいなあ。わたしも大きな鳥をテイムしたら飛べるかな?」

「それは難しいね。人間一人抱えて飛べるような大型の鳥なんて怪鳥レベルの化け物だよ」


 それにミカゲも武器や防具を持っていたら一体どれだけの重さに…ふぎゃ!

 でもミニスカートをはいているミカゲを下から見上げるのも悪くない景色…ふぎゃっ!


「ムツミさんすごかったんだね。とてもスライムに思えないよう!」

「…そ、そうだね…。言葉ではなくイメージの伝達ができるから、ムツミさんが見た景色がビジュアルで伝わってくるのですごい便利なんだ。特殊変異ってこういうことだったのかな?」


 スライムだからどこにも目立つことなく忍び込めるから、どこかの秘密結社の悪だくみのシーンとかも覗き見ることができるかもな。

 スパイ用にも使えそうなスキルだ。

 むっ?何かよからぬ電波をキャッチした。

 なになに?お風呂?そうかこっそりとお風呂に…ふぎゃっっ!


「ムツミさんはいい子だよねえ。誰かみたいに変なこと考えないし…」

「今思ったんだけど、ミカゲも意思伝達とか思考を読むようなスキル持ってない?ちょっとえっちぃこと考えただけでぶん殴られるんだけど!」

「アリスくん!えっちぃこと考えているとき、思いっきり顔に出ているよう!」

「はっ!!!」

「やっぱりぃ!!!」

 ふぎゃっ!



 ムツミさんはとてもかしこいと思っていた。

 教えたことはきちんとできるから言葉がわかると思っていた。

 だがそれはオレの希望だろうとも思っていた。

 でも実際はオレの言葉を理解して、さらにオレの役に立とうとしてくれている。

 もうただのスライムなんて思っていない。

 立派なオレたちパーティメンバーの一員だ。

 これからはもっと頼りにするよ。攻撃面でも、索敵面でも、癒し面でも。


 そしてミカゲの成長もうれしい。

 人間不信も克服し、ミカゲ本来の明るさが徐々に出てくるようになってきた。

 なんだかんだありつつもミカゲと一緒にいるのが楽しくなってきた。

 やっぱりオレはミカゲを妹のような存在として見ているんだろうな。

 ミカゲもオレを兄のように思ってくれたらうれしい。


 そんなことを考えながら冒険者ギルドに戻ってきたら、思いもよらない人物がそこにいた。





 前世の、実の妹が。

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