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第2話

 赤ん坊の時から記憶をもっていると言っていたが、あれは間違いのようだ。

 だいたい3歳ぐらいになったころから徐々に前世の記憶がよみがえってくる感じ。

 もしかしたら赤ん坊の脳みそに前世の25年分の記憶と経験を詰め込むのには無理があるのかな。


 そう、今どんどん前世のことを思い出している真っ最中。

 転生間際にオレはチートなしを選んだから、転生特典基本セットである言語理解も無限収納やアイテムボックスも鑑定スキルもない。

 だから今は一所懸命この世界の言葉や常識を勉強している。


 両親はオレのことを「アリス」と呼ぶので一瞬自分が女性かと思ったが、股間にはちゃんとついているモノがあった。

 間違いなく男だ。

 正式な名前は『アリスタッド・スパーダ』。

 アリスタッドなら略称は“アル”じゃないの?アリスだと女の子みたいじゃないか。



 ここソルドレージ王国のバイャリーズ領のとある村「コーロ」。

 父はこの村で魔導具技師として名が通っている。

 魔導具技師は様々な魔導具の試作品を作り、設計図とともに工業ギルドや商業ギルドに提出。

 そして汎用性・利便性が高く多くの人たちが必要とするだろうと認められたら特許が取得できる。

 もちろんかなりの額の特許料が支払われることになるので、魔導具技師は特許を取得することで一人前とみなされる。


 父は魔導具の特許も複数取得しており、毎月かなりの額の特許料が入ることもあって生活に苦はない。

 それどころか村ではかなりいい家に住んでいる。

 だが親自身が贅沢な暮らしは望んでおらず、そこそこな生活を送っていることもいい状況だ。

 目立たずに余裕を持った生活ができるなんて最高だと思う。

 オレも将来はそんな生活をしてみたいものだ。


 オレには5つ年上の兄がいる。

 キーノだ。

 父の魔導具技師の後継者となることは確定している。

 10歳になったら王都の次に発展している大都市『ウェステンバレス』にある学院で5年間みっちり基礎学問や戦闘学、魔法学、また錬金学や薬学などの専門学などを学び、卒業した後は父のもとで修行することになる。

 その分オレは学院を卒業したら自由にできるというわけだ。

 父や兄と同じように魔導具技師を目指してもいいし、商人や農家、はたまた異世界モノの定番である冒険者ってヤツになってもいいらしい。

 自由には責任が伴うもの。

 大きくなるまでいろんな経験を積み、将来の選択肢をどんどん増やしていきたいと思う。


 前世では数字と時間に追われる営業職だったからね。

 今世では満足できるような職に就きたいものだ。




 もうすぐ4歳になる頃、父の仕事現場でとても気になる魔導具を見つけた。

 飛行機乗りが装着してそうな古風なパイロットゴーグルみたいなメガネのようなものだ。

 試作品の微調整をしている時はゴーグルをかけ、それ以外の時は額にずらしている。

 最初は防護メガネかと思っていたらどうやら違うらしい。

 ゴーグルの縁の外側に取り付けられているツマミを回して調整している。


「ねえ、父さん。そのメガネなに?」

「なんだ?アリス。魔導ゴーグルが気に入ったか?これは俺が作った拡大・望遠付き特殊魔導ゴーグル(特許出願中)だ。小さいものが大きく見えたり、遠くのものが近く見えたりする便利なメガネなんだよ」


 へえ、メガネに拡大鏡と望遠鏡の機能を持たせたんだ。なかなか面白いな。

 正直、かっちょいいと思う。

 使い勝手も良さそう。特に望遠なんていろいろ使えそうじゃない。


「ねぇ!かして!ボクにもかして!」


 おもむろに作業中の父の背中に登って頭のゴーグルに手を伸ばす。


「お・・おい!ちょっと待て。作業中だから危ないぞ。もう少ししたらひと段落つくからそれまで大人しくしててくれ。ちゃんといい子にしていたらアリス用の魔導ゴーグル用意してやるからさ」

「はーい。いい子で待ってる!」


 ちなみに一人称は、地の文やモノローグでは“オレ”だが、会話する時は“ボク”を使っている。

 さすがに3~4歳でオレって言うのはね。

 しゃべり方が気持ち悪いって自分でも思っているよ。


「今、予備のゴーグルあるからそれをアリス用に調整してあげるよ」

「わーい!ありがとう」

 

 オレ用の魔導ゴーグルも拡大・望遠機能は付いているが、父のものと比べると拡大率がいまいちらしい。

 なるほど調整段階の試作品なのか。

 でもオレにはこれでも充分!実は機能よりも見た目のスチームパンク感が気に入ったところがあるからね。

 ゴーグルの革のバンドをオレの頭に合わせて調整してもらったので早速装着!

 まあ今は似合ってはいないが、これからって感じだ。めっちゃ気に入ったぞ!


 それからというもの、四六時中魔導ゴーグルで遊んでいた。

 いろんなモノを拡大して見たり、村の物見櫓みたいなところに上って村全体を眺めたり。


 いつの間にかこのゴーグルの拡大率では満足できないようになって、自分でなんとかできないかと分解してみたことがあった。

 もちろん父にしこたま怒られた。

 だがそのあとなぜか褒められた。


「怒ったのは魔石の取り扱いは充分注意しないと危険だからだ。俺はそのやり方をアリスに教えていない。そして褒めたのは、魔導具の仕組みについて興味や好奇心を持つのは魔導具技師にとって一番大切なこと。それを教えられる前に自分で気づいたことだ。さすが俺の息子だ!」


 とのこと。

 いや、どうしても気になるんですよ?

 前世は魔法なんてない世界だったのでまったく仕組みがわからないんですよ?


 魔導具への興味を全く失っていない様子が父にも伝わってしまったのか、「危険だってわかっていてもどうせまたスグ分解するだろう」ってバレていたようで、父はオレが危険な目に合わないよう魔法指導や魔導具製作の基本指導をしてくれるようになった。



 数か月後、オレは基本的な魔力操作ができるようになり、いくつか魔法を使えるようになっていた。


 魔法の基礎は予想どおり“イメージ”だった。

 とはいえイメージして魔力を通してドーン!ってことではない。

 イメージした通りの現象を起こすにはイメージに合わせた属性魔力を抽出または変換し、魔力の大きさ・量・流れを調節し、術式を展開する必要がある。


 例えばみんな大好きファイアボールの魔法。

 これを思い通りに使うためには、まず自分が持つ魔力から“火”の属性の魔力を抽出。

 “火”の属性魔力を持っていないなら他の属性魔力から魔力変換で“火”の属性に変えなくてはならない。

 ちなみに魔力の属性変更は適応した属性魔力を使用する場合と比べて2倍の魔力量が必要となる。

 “火”の属性魔力が抽出出来たら今度はファイアボールを生み出せるだけの魔力量を使い、大きさを決め、火の玉を作るための術式を展開。

 そして射出するために魔力を操作し、さらに術式を展開し対象物に向けて打ち出す。

 これが魔法初心者が最初に覚える攻撃魔法ファイアボールだ。


 術式の形式は人によって様々。

 長々と呪文を唱える人もいれば、単語だけで術式を完成させる人もいる。

 一般的なのが「ファイア」で火の玉を作り、「ボール」で射出するというやり方だ。

 「ファイアアアアーー」で大きな火の玉を作り、「ボーーーゥル!」で高速で打ち出すなど自分でアレンジすることも可能。

 一言でファイアボールといっても、人によって威力や大きさが変わってくるのだ。


 魔法の熟練者になると術式を省略し無詠唱で魔法を使うことも可能なのだが、この世界では無詠唱は推奨されていない。

 むかし異世界からの転移者が自分のパーティメンバー全員に強力な魔法と無詠唱のやり方を教えたことがある。

 転移者はパーティメンバーとともに大きな功績を残したのだが、その後パーティメンバーの強力な魔法が頻繁に暴発するという事故を起こしてしまったのだ。

 就寝中に強力な魔法が無意識に発動してしまったのだ。おそらく魔法を使う夢を見たのだろう。

 泊まっていた宿は崩壊し、怪我人は多数。

 一瞬で強力な魔法が発動してしまう無詠唱魔法ならではの被害だ。

 もちろん詠唱魔法でも寝言で発動してしまうこともあるのだが、実際には被害はほとんどないらしい。

 明確な意思をもって発声(詠唱)することが暴発を抑制しているのだろうか。詳細は不明なままだが。

 異世界モノのテンプレでは、無詠唱はいわば必須だと思ったのだがこの世界では違うらしいね。


 魔導具とは、魔石から魔力供給を受け、刻まれた術式回路(むかしは魔法陣とよばれていた)を通すことで魔法行使を実現させる道具のこと。

 水道や照明器具、調理器具など、日常生活において欠かせないモノとして広く利用され続けている。

 とはいえ、現代日本でも使用されているような形状ばかりなので、明らかに転生者か転移者の影響を受けている。

 おそらく元日本人が発明したものだろう。

 知識チートってヤツだね。

 火力調整ができる五徳が付いたコンロとか、キッチン・バスで使われている給水給湯蛇口とかもうそのまんま。

 おかげさまで片田舎のコーロ村といえど、ほとんどの住宅に風呂が普及している。もちろんシャワーもあるぞ。

 



 5歳になった。

 兄のキーノは領都ウェステンバレスの学院に入学し、寮に住むことになった。

 今家にいるのは両親とオレの3人だけ。


 父はせっせと新しい魔導具の開発にいそしんでいる。

 母はそのお手伝い。

 そしてオレは魔導ゴーグルの改良。


 父からちっちゃい魔石を譲り受けて新しいゴーグルが作れないかいろいろ試している。

 オレが最初に作ってみたのは、暗視機能付きゴーグル。

 最初は何度も失敗したが、とりあえず成功作と呼べるようなものが完成した。

 弱い光でも魔力を通したレンズを通すことで視認できるよう増幅。

 突然明るいものを見ても目がくらむことがないよう光の増幅に制限を設けることで安全に使用できるようになった。

 失敗作ではひどい目を見たからね。

 魔力で増幅された光を直接見てしまったせいで丸1日視力が戻らなかったよ。

 当然だけど、オレ一人で作ったんじゃないよ。

 企画を出したのはオレだけど、製作や調整など父が手伝ってくれたおかげで完成したといってもいい。

 この完成品をベースに改良をして満足できるように仕上げていかなければ。


 暗視ゴーグルは、一般流通するようになったら衛士隊や巡回警備にあたる人たちに大きく役立つと思うからね。

 できる限り早いうちに完璧なものに仕上げたい。

 この考え方はもう魔導具技師だね。




 6歳になってしばらくたった。


 暗視ゴーグルは完成させて父が特許出願してくれたが、一般流通は犯罪使用の恐れがあるということで認可は下りなかった。

 だが一般販売はしないものの、領都の衛士隊で採用したいとのことでまとまった数の製作依頼がきた。

 もちろんオレでは対処できないので父と母が頑張って用意してくれている。

 もちろんオレも手伝いくらいはするが。


 暗視ゴーグル作成がひと段落ついたがオレはまだゴーグルの可能性はまだまだあると思っている。

 自分でもなんでここまでゴーグルに固執するのか不思議だ。

 たぶん今まで見えなかったものが見えるってことが琴線に触れたんだろう。

 赤外線や紫外線なんかも見れるんじゃないかな。

 そっち方面でいろいろ試行錯誤してみようっと。


 様々な実験や検証を繰り返していると、いつのまにか全く予想外の魔導ゴーグルが出来上がっていた。

 大気中に浮遊している魔素、魔石が持つ魔力、魔法を使うときの魔力の流れが色付きで視認できるのだ。

 火属性は赤、水属性は青、風属性は緑、土属性は黄色、光属性は白、無属性は紫。

 これは魔石の色と同じだ。


 魔石には様々な色がある。赤に近ければ火属性、青に近ければ水属性の魔力が多く含まれていることになる。

 原色に近い魔石は色に応じた純度が高く、価値も高い。

 魔石に魔力が充満している状態であれば属性の見極めは可能だが、大気中の魔素や魔力は普通では目に見えない。

 たまに勘が鋭い人や魔法に長けた人が直感的に感じることはあるそうだが、それが目に見えるという話は父ですら聞いたことがないらしい。


 ところが一つ問題があった。

 この魔力検知用魔導ゴーグル、オレにしか使えないみたいなのだ。

 父や母がゴーグルを着用しても魔力の色も流れも見えない。

 なのにオレが着用するとはっきりと魔力が見える。

 もしかしたら自分が転生者だからなのか?って思っていたら違った。

 父が言うにはオレの眼球には微量ながら魔力が宿ってしまっているようだ。

 まだ成長著しい3歳くらいの時から魔導ゴーグルを着用して魔力を流しまくっていたからなのか、5歳の時に魔力が籠った光をおもいっきり眼に受けてしまったからなのか…。

 そういえばオレの瞳の色って生まれたときはブラウンだったらしいが、いつの間にか金色になっていたらしい。

 前世の若かりしときに憧れた“魔眼”かと一瞬喜んだけど、残念ながらこれといった能力があるわけでも不都合があるわけでもない。

 強いて何かあると言えば、今回の魔力検知用ゴーグルで魔力が見えるくらいだ。

 この世界では身体の部位に魔力が宿ること自体は極稀にあることらしい。


 魔力が見える。

 これってすごいことなのかもしれないが、魔素や魔力が見えたところで今の段階ではどのように役に立てるのか全くわからない。

 魔力が見えるのはたぶんオレだけなので、ここは第一人者としてなにか貢献できることがあればいいのだが。

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