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第11話

 朝の冒険者ギルド。

 冒険者たちはいつも通り報酬のいい依頼、得意な依頼を探し求め掲示板に群がっている。

 いや、いつも通り活気があるように感じる。男性冒険者ばかりだが。

 女性冒険者はやれやれといった感じで冷めた目で見ているような気がする。

 こっそりと受付をしているファラさんに話しかける。


「ファラさん、なんかいつもとちょっと違う雰囲気なんだけどどうしたの?」

「あ、アリスさん!お待ちしていました。実は例の件が原因なんですよ。魅了スキルの暴走か何かで魅了効果を受けてしまった男性冒険者が少しでもカッコイイところを見せようとしているのでしょうね。ギルドとしてはいい結果につながりそうなのでうれしいことなんですが、どうも女性冒険者の方は良く思っていないようです。今くらいの魅了効果でしたら大きな問題にならないでしょうが、これ以上効果が強くなると大変なことになりそうです。はやく何とかしないといけませんね」

「あ、やっぱりか…」


 冒険者ギルドに併設している宿舎に隔離されているアーシャさん。

 魅了効果が暴走しているのか、直接会ってもいないのにその宿舎に寝泊まりしている冒険者たちに影響を与えているらしい。

 もし廊下でばったり直接出会ってしまったら?もし顔を合わせてしまったら?

 ああ…。ギルド宿舎が性犯罪の現場になってしまいそうだ…。早く手を打たないといけなさそうだ。


「ギルドマスターが直接指名依頼された件ですよね。正直なところ、私は反対しているんですよ。アリスさんも男性ですからもしかしたら魅了されて大変なことになってしまうかもしれませんから…。でも他に打てる手は思いつきませんし、放置するわけにはいきません。だから私もサポートいたしますね。もしアリスさんがアーシャさんを襲おうとしたら思いっきりぶん殴ってでも、魔法で黒こげにしてでも止めるよう頑張らせていただきます!」

「い…いや…監視されているみたいでやりにくいんですが…」

「大丈夫です!私が変な気を起こさないようしっかり見張っておきますから!」

「え…アーシャさんの見張りじゃなくて、オレの見張りなんですか?」


 たしかにファラさんがサポートについてくれるとありがたい。オレの予想通りなら魅了効果を受けずに彼女の近くまで行けると思うが、もし予想が外れているとヤバいことになってしまう可能性もあるからね。

 ここはファラさんに頼ってしまおう。


「ありがとうございます。ファラさんが近くに居てくれると本当に助かります!頼りにしていますね(にこっ)」

「///は…はい!がんばりましゅ…。ありしゅしゃんのために…」

「おい。ファラ!赤くなって何やってんだ?そろそろ宿舎に行くぜ!」

「・・・・・・」


 ゼルがやってきた。

 確かにギルドの受付でくっちゃべっていてもダメだ。さっさと問題解決のための糸口を見つけないとね。

 他の冒険者の邪魔にならないよう裏口から宿舎に向かうようだ。オレとゼル、そして何故か顔が赤くなっているファラさんはアーシャさんのところに行こうとする。

 もう少しでアーシャさんのいる部屋というところで


「悪い、俺はこれ以上先へは進めねえ。魅了効果を受けてしまいそうだ。今ですら動悸が激しくなっている…。アリスは大丈夫なのか?」

「オレ?…そういえばなんだか肌がピリピリ感じるけど、特に異変は感じないな」


 部屋に近づくにつれ、何か異様な気配を感じている。精神を浸食してきそうな気配だ。だが、オレには通用しないことがなんとなく理解できた。おそらくオレの“チートなし”の効果だろうか?


「少しここで待ってください。ちょっと魔力の動きを見ますから」


 オレはゼルとファラさんを手で制し、額にかけている魔導ゴーグルを目にかけなおす。オレの魔導ゴーグルはいろんな機能を付与している。暗視機能や望遠・拡大機能、温度感知などなど。今回使う機能は魔力感知だ。仮説通り魅了スキルが魔力として漏れているのなら、何らかの反応があるはずだ。


「俺、アリスがゴーグルかけてるの初めて見たわ。あれ、ファッションじゃなかったんだな?」

「私も初めてです。あのゴーグル、意味があったんですね。てっきりキャラづくりの一環でつけているモノだと思っていました」


 なんかひどいこと言われている気がする。このゴーグル万能なんだよ?すごいんだよ?これのおかげで今の生活があると言ってもいいくらいなんだからね!


「うーん。あそこの部屋のドアの隙間から魔力が漏れているのが確認できる。確かにゼルにはキツいかもしれないな」

「アリス、悪いな。何にもできなくて。あとはアリスとファラに任せるよ。危険を感じたらスグに避難しろよ。んじゃっ!」

「ギルドマスター、走って行っちゃいましたね」

「おそらくこの魅了の波動は男性ではとても辛いんだろうね…(特に下半身あたりが…)。でもオレには今のところ通用していないようだ。この魔導具のおかげだね」


 オレが持ってきた魔導具の一つ“浮遊魔力集積装置”。大きさはハンドバッグぐらい。小さな箱にロートのようなものが付いている。大気中に浮遊している魔素や魔力を吸収し魔力に補充する装置だ。

 今回これを持ってきたのは、魅了効果を受ける前に魔力の波を吸引し被害を受けないようにする。

 さらにその吸引した魔力を魔石の補充し再利用できるようにする。まさに一石二鳥だ。


「へえ。魔力を吸収するんですか。だからアリスさんは今、なんともない状態なんですね。すごい魔導具です。これがあれば魔力補充し放題じゃないですか。商品化されているんですかね?」

「いやまだこれ、試作品の試作品っていう感じ。問題点も改善点もいっぱいあるから商品かはまだまだだね」


 実際のところ、浮遊魔力集積装置がなくてもオレには魅了が効かない。

 おそらくこの魅了はチート。だからオレの“チートなし”のスキルが魅了効果を打ち消しているのだ。

 この能力を隠しておくためにも、浮遊魔力集積装置のおかげということにしておこう。




 そしてアーシャさんの部屋についた。


 コンコンコンッ


「おはようございます、アーシャさん。アーシャさんからのご依頼を受け参りましたアリスタッドという者です。まずはお話しを聞かせていただけないでしょうか」


 まずはノックをして挨拶。少しでも心よく話を受け入れてもらえるよう話しかける。

 すると扉がわずかだけ開き、中に招き入れるよう手招きする様子が見える。

 ファラさんを扉の外で待っていてもらおう。今アーシャさんは不安定な状態だ。


 部屋の中は質素なものだ。狭い部屋にベッドと衝立があるだけだ。

 オレはベッドを見ないように衝立を前にして姿を見せないように話しかける。


「オレの名前はアリスタッド。今のオレには魅了スキルは効いていないので正気です。それに扉の向こうには女性職員さんが控えているので、乱暴なことは致しません。ご安心ください」


 まずは不安を取り除くために安全性をアピールする。


「・・・ほんとう?ほんとうに魅了されていないの?」


 衝立の向こうのベッドから弱々しく自信がなさげな声が聞こえる。


「ええ。本当に大丈夫です。あなたの“神級魅了”のスキルはオレには通用しません」


 そう。予想通り彼女はチート持ちだった。

 オレの脳裏にはチート情報が浮かび上がっている。



 【チート】

 ◆神級魅了

  異性を完全に魅了する。

  異性を思うがままに使役することが可能。

  魅了されたものは逆らうことはできない。


 ◆鑑定

  対象の詳細を閲覧することができる


 ◆アイテムボックス

  アイテムを収納することができる



「な…なんで“神級魅了”だとわかるんです?これ鑑定スキルでも看破できない固有スキルですよ?それに何であなたには通用しないの?」


 ほう。固有スキルは通常の鑑定では見抜かれないのか。いいことを聞いた。

 とりあえずオレのスキルで見破ったことは黙っておく。


「いえ。推測の結果ですよ。魅了耐性をもつ魔導具をギルドマスターに持たせていましたが全く通用していませんでした。耐性効果が通用しないのなら上級を超える“超級”か“神級”くらいでしょうか。あとスキルが暴走したときの効果の広がり方が尋常ではありませんでしたので“神級”だと思ったのですよ。あとオレに効かない理由は魅了スキルの影響を受ける前にスキルの波動を吸収しているからです。ご理解いただけましたでしょうか」

「あ…はい。わかりました…」


 ちなみに魅了耐性の魔導具のくだりは嘘だ。そんなもの用意していなかった。

 ただスキルで見破っただけなんだ。


「ありがとうございます。あと最初に言っておくことがあります。まずオレはこの衝立からそちらに向かうことはいたしません。まずはこのままお話しを聞かせていただけたらと思います。オレが信用できるとアーシャさんが判断されたら声をかけてください。それまでは決して何もしないことをここにお約束いたします」

「わかりました。ご配慮、ありがとうございます」


 さてこれで警戒は少し解けただろうか。

 まずはオレを信用してもらうこと。ここから始める。

 前世のオレから受け継いだ隠しスキル“営業トーク”の出番だ(嘘)。


 営業トークの基本は「相手の話を聞くこと」。トークなのに聞くことが大切なのだ。

 相手が言葉で伝えていない潜在的に望んでいることを会話の中から推測し、的確に応えていく。

 これができるかどうかで相手からの信頼関係は大きく変わっていく。


 それからだいぶ話を聞けたが、ゼルから事前に聞いた話とあまり差はなかった。

 だが気になる点がある。魅了スキルが暴走し始めたことだ。

 魅了スキルは基本的に相手を魅了し思い通りに使役することだ。

 なのに何故襲われることになるのか。

 何かきっかけがあるに違いない。


 オレは魔導ゴーグルの魔力探知機能を作動させた。

 すると衝立の向こうのベッドに腰をかけているアーシャさんの胸元からなんらかの魔力が発動しているのが確認できた。

 これは怪しい。


「アーシャさん、何か身につけるものをプレゼントか何かで受け取ったことはありませんでしたか?」

「あ…あのプレゼントは男性冒険者の方からいろいろ頂きました。最初は指輪や腕輪、ピアスなど付与効果があって役立つものが多くていろいろ重宝していたのですが、だんだん怖くなってほとんど売ってしまいました…すみません…」

「いえいえ謝らなくても大丈夫ですよ。では今身につけている貰いモノのアクセサリーはありますか?」

「今つけているのは…えっと…ネックレスと腕輪だけですね。ネックレスは防御効果と魔力増幅機能が付いているとってもレア度が高いアイテム、そして腕輪は攻撃力微増の付与効果が付いています」


 ネックレス!それだ!魔力増幅機能がとってもあやしい。


「すみません。そのネックレスを見せてもらうことはできるでしょうか」

「え…ええ…かまいません」

「ありがとうございます。えっとオレがそちらに取りに行くか持って来てもらうしかありませんが大丈夫ですか」

「わ、私が持っていきます」


 不審感を持ってもらわないようにゴーグルを外して待機。アーシャさんが来るのを待つ。


 「お待たせしました。このネックレスです」


 アーシャさんの外見を初めて見た。

 こんなことを言ってはとっても失礼だが普通っぽかった。

 かわいいことはかわいい。クラスの中で7番目にかわいい子って感じ。

 とても魅了スキルを持ってしまうほどの女性には見えない。

 ごく普通の日本人だ。


 年齢は15~16歳くらいかな。

 いかにもJKって感じだが、ここに来るまでだいぶ苦労したんだろうな。

 髪の毛はまとまりきっていないし、ちょっとぼさぼさ。

 化粧っ気もない。

 ちょっと工夫したらもっともっと可愛くなれる素質はある。

 ただ、背はちっこい。身長150cmちょいってところか。

 ヘタすりゃJCにも見える。


「あ…はい。ありがとうございます。ネックレスですね。早速調べさせていただきます」

「よ…よろしくお願いします…」


 再び魔導ゴーグルをかけ拡大機能と魔力探知機能を使いネックレスを分析する。

 魔力の流れは2ヶ所。一つは防御力を上げるための術式回路が組み込まれた魔石から魔力が放たれている。これはシロだ。

 そしてもう一つの魔力増幅のための魔石だ。

 複雑な術式が展開されている。明らかに魔力増幅のための術式だけじゃない。

 ん?これは…なんてむちゃくちゃな術式回路なんだ。術式として成立していないのに効果だけは出ている。

 これは普通の術式回路じゃない。神の手が入っているかのようなチートな術式回路だ。

 この回路を組み込んだのはチート持ちなのは間違いない。


「わかりました。魅了スキルの暴走の原因はこのネックレスです」

「えっ?なんで…」

「どうやら魔力増幅の際にアーシャさんの固有魔力も一緒に増幅し、術式を組み込んだ人に居場所を伝えるための術式が発見されました。いわゆる発信機みたいなものですね。その副作用で固有スキルの魔力が増幅され暴走し、周りの男性たちに悪影響を与えたのでしょう」

「そんな…。そのネックレスはわたしが見習い冒険者の時に一緒にパーティを組んでくれた男の子がくれたものなんです。一緒に冒険者として頑張っていこうと魔法で創ってくれました。でもそれ以降はパーティを組むことなく、違う人たちとパーティを組むことが多くなってしまい疎遠になってしまったんです。でも、そんなことをするとは思えない大人しくていい子なんです」


 …。いや…話を聞いているとどう考えてもその男の子の仕業だろう。

 アーシャさんを気に入って一緒に冒険者をやりたいが、違う男性の取られることが多くなって嫉妬した。

 だからどこに居ても自分がスグに駆けつけられるよう自分だけが居場所が分かる術式回路を組み込んだというところだろう。

 いわゆるストーカーだ。

 アーシャさんを自分だけのモノにしたい、独占したい、自分だけがわかってあげられる…そんな狂気が窺える。

 大人しくていい子?違うな。自分の意思の主張ができず世間を妬み、ウラで何かよからぬことを考えていそうな人だ。


 とりあえずオレは魔力増幅の術式を“チートなし”で消滅させ、無害なものに調整。

 これで魅了スキルの暴走は食い止められたはずだ。

 だが、この話はこれで終わりでは済まされないだろう。


「これで魅了スキルが暴走することはなくなった。アーシャさんの周りはこれで問題はなくなったはずなんだけど、アーシャさん本人にこれからトラブルが起こる可能性が大きくなってしまった」

「!?えっ?どういことですか?」

「このネックレスはアーシャさんの居場所を突き止めるための発信機付き魔導具。それが最近になって頻繁に魔力増幅を続けていた。ということは君がシスキャスクの街を出てから行方がわからなくなったから発信機の出力を上げた。ここに来るまではそこまで大規模なスキル暴走をすることがなかったのに、ここに来てから暴走するようになったということは急いで君のことを探しているんでしょうね。んで今魔導具の効果は消えた。君にネックレスを贈った男の子は今すごく焦っているだろうね。急に魔力反応が消えたんだから」

「・・・・・・」

「では何のために居場所を知りたかったんだと思う?」

「わ…わたしに会いたいから?」

「その通りだ。男の子はこう考えていると思う。スグにでも君に会わないといけない。シスキャスクではパーティを組むのを邪魔されて一緒に居られなかった、それが違う街に来て一人のはずだ。早く居場所を見つけて自分で保護しないといけない…とね」


 アーシャさんは顔を青くして震えている。


「ケ…ケータくんが…」

「ケータ君というのか。ハッキリ言うがおそらくケータ君は君のストーカーだ。冒険者パーティとしてお互いの位置を知るためにこういった発信機の様な魔導具を使うことはあるだろう。だが相手に黙って発信機のようなものを持たせるのは意味が違ってくる。こっそりと行動を監視しているストーカーならではの動きだ。近いうちにウェステンバレスの街に君を探しにやってくると思う。そのときどうなるのかはオレたちにはわからない。だが冒険者ギルドは君の助けになりたいと思っている。そのためにも、よかったらそのケータ君のことを聞かせてほしい」

「わ…わかりました。お話しします」

「あ、ちょっとその前にファラさんも呼んで言い?一緒に聞いてもらったほうが話が早いから」

「はい…」


 アーシャさんの部屋でファラさんと一緒に話を聞いた。

 ケータ君はアーシャさんの同郷の人だそうだ。

 同郷とぼかしている時点で来訪者であるということは隠しているようだ。オレもあえて指摘しないようにしよう。


 アーシャさんとケータ君は旅の途中で出会った。

 ケータ君は創造魔法を使う魔法使いだ。

 創造魔法は自分の思い通りの物を無の状態から作りだす魔法らしい。

 (クラークさんから聞いた魔法だ。うん来訪者ならではのチート魔法だね。ファラさんも驚いている)

 創造魔法のおかげで難を逃れ、シスキャスクの街に逃げ込みそこで二人とも冒険者になることにした。

 そこでケータ君はネックレスを創造魔法で創りアーシャさんに手渡す。

 (嫉妬からではなく、この時点で居場所を突き止められるようにしたのか。ケータ君は二人だけで冒険者をするつもりだったんだろうな。すでに独占欲、支配欲に取りつかれていたのか)

 それからは本人も予想しない事態が起こる。

 アーシャさん本人もケータ君も知らなかった固有スキル“神級魅了”の力が、ネックレスのせいで漏れ始める。

 アーシャさんは男性冒険者から言いよられる。ケータ君は近づくことすらできない状態に…。

 それ以降ケータ君とは疎遠になり、顔を合わせることなく街から夜逃げ同然で出ていくことになってしまったということだ。


「ケータ君はシスキャスクの冒険者のことを恨んでいるんだろうなぁ。そいつらのせいで仲を引き裂かれたんだから。今日の今日までネックレスの魔導具をガンガン発動させてアーシャさんを探しているってことは今もアーシャさんと一緒に冒険したいと思っているんだろうね。彼の創造魔法のせいなんだけど」

「一人の女性を想うのはステキなことだと思うけど、正直重いですね。私はイヤです」

「こ…こわいです…」

「さて、これからどうするかだ。アーシャさんはケータ君とよりを戻したい?それともこのまま逃げたい?」

「わたしは…。今は会いたくないです。自分が知らないまま行動が監視されているなんてなんか怖い。でもこのまま逃げ続けるのも怖い…。わたしはどうすれば…いいんですか…」


 すまない。アーシャさんがこれからどうするかはオレでは簡単に決められない。これはアーシャさんとケータ君の二人の話しだ。自分で決めないといけない。自分でこうしたいというのが明確になったらちゃんと言葉で言ってくれ。あとはギルドマスターが何とかしてくれるはずだから。

 オレの依頼は魅了スキルを抑制することだからこれにて終了でいいかな。


「ファラさん、魅了スキルの暴走は完全に抑えた。ゼルを呼んできてくれるかな。あとはギルドに丸投げしようと思う」

「は…はい…了解しました。呼んできます」


 ファラさんは部屋を出ていって室内は二人っきりになった。

 んじゃ最後の詰めをしよう。


「アーシャさん、君は来訪者だね。そして神から魅了スキルをもらった、それで合っている?」

「は…はい…その通りです。魅力的な自分になれるようお願いしたら神様が魅了スキルを授けてくれたんです」

「そうか。で、アーシャさんはそのスキルで満足している?」

「い!いえ!こんなスキルは要りませんでした!人の心を操るのは違います!わたしが思っていたのとは全然違うんです!こんなスキル…要らない!もっと普通の女の子でいたかった!」


 やっぱりそうか。どうやら神様はせっかちなようだ。

 本当にその人が望んでいるスキルは授けてくれない。オレしかり、アーシャさんしかり。


「じゃあどうする?オレは今ならその魅了スキルを封じることができるが…」

「封じてください!もうこんなものは要らない!」

「本当にいいんですか?もう二度と異性を操ることはできないんですよ」

「いいです!人の心を操るなんてこと、したくありませんから!」

「わかった。じゃあスキル封印するよ」


 オレは浮遊魔力集積装置を作動させるフリをする。一応ポーズだ。

 “チートなし”の力で簡単にチートを消せるが、とりあえずアイテムのおかげってことにしておく。


「はい。これで魅了スキルは消えました。これで魅了スキルを使うことも魅了スキルが暴走することもありません」

「あ…ありがとうございます」

「オレの役目はここまでです。あとは冒険者ギルドが引継ぎます。しばらくはこの宿舎でかくまってもらえると思いますので安心してくださいね」

「…はい」


 うっすらと涙を浮かべるアーシャさん。よっぽど辛かったんだろうな。不特定多数の男性から言いよられるの。

 考えてみれば前世のゲームであったゾンビから逃げ回るような感じかな。うん確かにこわいわ。

 でもこれからはストーカーで悩まないといけない。

 はやいこと問題が解決するといいなあ。


「じゃあオレはこれで失礼します。ギルド職員が来られるまでお待ちくださいね」




 ギルド宿舎を後にして、ゼルに引継ぎをして後始末を任せた。

 受付に戻って報酬の受け取りについてファラさんと話をしてギルドを出る。


 うん、久々に女性と長く話をすることができた!

 しかも女子高生たぶん

 役に立っていたらいいんだけどね。

 アーシャさん、これから大変だろうけどガンバレ!

 オレは領都の隅っこから応援してるぜ!

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