8:キボウはいつか絶望を超える
リュウがタエと対峙する。
「しっかりと言い残しましたか?」
「言い残す必要はないさ。」
「随分と自信ありげですね。」
「言っただろ?慣れてるって。」
「それは私がレン様のグループ所属だと知っての言葉ですか?」
「レンか…面白いやつとつるんでんだな。」
「面白いですか…それは見栄を張ってか、余裕の表れか…」
「…まぁ、どちらでもいいでしょう。深く考える意味もありませんし。」
空気が集まって短剣が大量にタエの周りを漂う。
「タエの魔法か?」
「そうです!これが私の風魔法。《連剣》ーチェインブレイドー!」
「どうなるかは想像がつくな。」
「死んでください。」
剣が降り注ぐ。自分のほうにも数個降ってくるから、彼女の狙いは自分で変わらないのだろう。
その1つが右腕をかする。皮膚が切れ、血が垂れる。そして痛みがはしる。
「痛っ」
だけど、リュウはこれの数十倍、いや、数百倍が降り注いでいる。たまらず叫んだ。
「リュウ!」
剣の雨が止む。
「なんですって!?」
「だから言っただろ?こんなの慣れてる。逃げるのはお前のほうだって。」
リュウは傷一つ負っていなかった。
よく見ると頭や体を薄い鉄板で覆っていた。まるで剣をもしのぐ鎧だ。
「くッ…なぜ…!」
「お前の攻撃は絶対に効かない。お前に残されたのはここから去ること。それだけだ。」
「まだ負けてない!」
「諦めの悪いやつが嫌いなんじゃねえのかよ…」
リュウは少し疲れたように首を掻く。
その時気づいた。タエの最後の剣が今、まさにリュウの背中を突く直前だった。
「…!おい!リュウ後ろ!」
「ん?なんだ…よ…」グサッ
鎧を貫通して背中を刺され、リュウが倒れる。
「油断した…ッ」
「はあ…やっと刺せました。」
「くっそ…」
「あ、動かないほうがいいですよ。」
動こうとしたリュウの背中にさらに剣が刺される。
ザシュッ
「ガハッ…クソ野郎が…」
「当初の目標はタクくんだけでしたが、あなたも邪魔なので…」
「殺しておきますね。」
やめろ…やめてくれ…
自分の願いも届かず、ひと回り大きな剣を作り出す。
なんとか奴を止める方法はないのか…ハッ!
人の動きを止める…確かあの時!
「では、さようなら。正義のMKプレイヤーさん。」
「やめろーっ!」
バリバリバリッッ!
目の前を稲妻が走る。
「!?」
そこにいる全員が驚く。
もちろん、自分でも驚いた。本当にできるとは思いもしなかった。
この場にいる中で、一番早く我を取り戻したのはリュウだった。
「フンッ」
リュウが動きが止まったタエの腹に頭突きを決める。
タエは倒れこみ、その後気づいたように、
「…!つ…次は覚悟することね!必ず仕留めるから!」
といって、逃げて行った。
一方僕たちは、あっけにとられて顔を見合わせた後なぜか笑えてきた。
「はははっ!やったぜ!俺たち勝ったぞ!」
「マジで悪役みたいな逃げ方してったな!」
「「ハハハハハッ!」」
「…で、どうする?」
「まずはいったん魔法管理会でも連絡しよう。」
魔法管理会とは、現実世界でいうところの警察みたいなもので、犯罪人の確保その後管理は彼らに任されている。
「どうしてすぐ連絡しなかったんだ!」
僕は今こっぴどく叱られている。リュウは背中の傷が見つかり、病院へと運ばれていった。
僕らはそれから魔法管理会に連絡し、近くに支部があるとのことで今そこに来ている。
「連絡さえくれたらすぐに駆け付けたというのに…まったく君たちは!」
「すいません」
「はぁ…最近の子はMKに魅了されていて、自分だけでもなんとかできると思い込んで…」
そのとき、扉が思い切り開いた。
赤い髪のきれいなお姉さん。という感じの人だ。
「あなたが《切り殺し》を退治した子よね?」
「切り殺し…?」
「ああ、聞いてないのね。
最近、MK関連の犯罪者が増えてきてね…その中でもMK第2位…レンのグループから出ている犯罪者…タエ。」
「こいつは目標とする人物を…いや、その人物『だけ』を滅多切りにして殺す。という、完全な狂人だ。」
「だから切り殺し…。」
「そう。でも、切り殺しから逃げた…いいえ、切り殺しを退けたのはあなたたちが初めてよ。」
「…はぁ。」
「もっと誇ってもいいことなのに…まぁいいわ。…はい。」
と言って手渡されたのは彼女の名刺だった。
「レイラよ。また何かあったら連絡ちょうだい。」
「了解です。」
「じゃあ、気を付けて帰ってね。」
「ありがとうございました。」
管理会の支部を出ると、ルリが息を切らして待っていた。
「なにが、あったんですか?」
「よくここにいるってわかったね。」
「それは…大きい雷が落ちてから、何か悪い予感がしたからです。」
「へぇ、すごい。」
「何があったかは家で聞きますから、早く帰りましょう。」
手紙のことを思い出したのはもう間もなくのことである。