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6:絶望は不意に襲い来る

2053年×月


いつも、考えることがある。


もっと強い魔法を使えたら。

皆のような楽しそうで役に立ちそうで、かっこいい魔法を持っていたら。

そんなことを考えるようになったのは数年前に父が亡くなってからだ。

さらにその数か月前にさかのぼる。

打ち上げ花火が3つ並んでいる。父はそれを指さす。

「さて、どの順番で打ち上げるでしょうか?」

姉が

「そんなのわかるわけないじゃん。」という。

だけど、私には中央、右、左の順の強さでで赤い光のようなものがぼやけて見えた。

「真ん中、右、左でしょ。」

すると父は少し驚いて、

「勘が鋭いな」

「ううん。少しだけど、お父さんがどこに火をつけるか見えたんだよ。」

「…ねぇ、それってルリの魔法なんじゃないの?」

「そうなのか?」

「だってルリってまだ何も魔法使ってないでしょ。」

その時、心がときめいた。自分が特別な能力を持っているということは、魔法を今まで使えなかった私にとって、とてもうれしいことだったからだ。

「これってすごい?」

「ああ、もしかしたら凄い魔法の持ち主なのかもな。鍛え上げたら…」

父がにやけた顔で言う。

「お父さんまーた変なこと考えて…」

この姉とも対等に戦える日が来るかもしれない。

そんな期待を膨らませていた。


その数か月後、父は亡くなった。


姉と父はその日の夕方から食事に出かけていた。

自分はというと、外食自体が嫌いなためにその予定を断っていた。

父は食事の最中に何者かに銃で撃たれたそうだ。

姉がその情報を持ってきたとき驚きを隠せなかった。

第一、なぜ姉自身は巻き込まれていないのか。

何とかして父を守ることはできなかったのか。

そう怒鳴りたい気持ちでいっぱいだったが、怒ることができなかった。

姉の顔が必死で、こんな顔を見るのは初めてだったからだ。

私には沈黙することしかできなかった。


その日から姉とはあまり話すことがなくなった。

姉はお金を稼ぐために朝早くから家を出て真夜中になって帰るようになり、私が夕飯を作って寝て、起きると朝食ができている。

そんな日々が続いた。


それから数年がたち、姉が家を出て長い孤独の時間が過ぎた。



「…というわけです。」

「なんというか…えっと…」

「別に何も言わなくて結構です。私のちょっとした不幸自慢なので。」

「…すまん。」

「何で謝るんですか。」

僕たちはレンとの戦いに負けた。

圧倒的な力の差を見せられ、逃げ帰ってきた。

「あんなに鍛え上げてくれたのに…負けて…」

「いえ。私が弱いんです。」

いや。彼女は全く弱くなんてない。僕は彼女がレンの部下数人を相手にして完全に勝利していた。

彼女は長い長い孤独に耐え、自分を強くし続けていたのだ。

それなのに、僕は…

たった数か月前からはじめて、それなのにレンという巨大な力に勝てると錯覚していた。

「少し家に帰って休んでもいいんじゃないですか。」

「トレーニングはいつするんだ?まだ…」

「…私も一人になりたいんです。」

かみしめたような声でルリが言う。


「じゃあ、2週間後には帰るから。」

「はい。また今度。」

扉を閉める。

この街は変わらない。

昨日俺たちは死と直結するほどのことをしていたのに。

また自分の無力さに絶望しそうだ。

「西市まで。」

「昨日ぶりですね。何がありました?顔色が悪いですよ?」

「いや。別に何でもないことですよ。」

「いつも一緒の方は?」

「今日は別なんです。心配しないでください」

「心配にもなりますよ。あの人といるときはもっと笑顔でしたし。何かあったら言ってくださいね。」

人の温かさに触れると思わず自分が冷たいのではないかと思ってしまう。少し自分が嫌になる。

「はい。ありがとうございます。」

その人は少し微笑んで

「では、いきますよ。」

体が浮くと思った瞬間にはすでに空高くにいる。

この感覚はもう三度目だ。最初はとても驚いていたが、さすがに慣れてしまうと驚けない。


地面に着いて、久々の景色に見入る。

歩いていても、走っても、上の空もも下の地面もすべてが懐かしいものだった。

「ただいま…」誰もいない家。それなのにいつも聞こえた「おかえり」が聞こえてくる。

もうどの部屋も寂れている。ほこりは積もり、蜘蛛の巣はそこら中にある。

自分の部屋も他と変わらなかった。

ふとタクのことが気になった。MK本戦に出るとか何とか言ってたけど達者になっているだろうか。

デバイスの電源を付け、リュウの画面にする。

しかし、何と言ったらいいかわからなくなる。

前回会ったときに派手な口喧嘩をして別れたもんだから合わせる顔がない。

とりあえず「ただいま」とだけ送った。

返事は来ない。そりゃあそうだ。

自分の本棚を見る。1回も読んだことない父親からもらった本や、自分の好きだった本が入っている。

「…ん?」

ここで本と本の間に何か挟まっていることに気づく。

引っ張り出してみると、封筒がはいっていた。

「キボウより」

キボウというのは8年前まで一緒に遊んだりする仲だった女の子だ。

「何でこんなところに…?」

その時、突然声がした。

「久しぶり。タクくん。」

「誰だっ!」

「誰だとは失礼な。タエだよ。覚えていない?」

タエというのは、僕とキボウと一緒に遊んでいた子だ。キボウがいなくなってからは関わらなくなってそれ以来だ。

「ああ!久しぶりだなタエ。」

「よかった。覚えててくれて。」

そういうとタエは何かを取り出す。


「私のこと忘れて死んじゃったらいやだもんね!」

タエが取り出したものは包丁だった。






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