4:少年は立ち上がった
「…さん!タクさん!起きてください!」
目を開ける。もう朝か。
「なぜこんな事に気づかなかったのでしょう!」
「なんですか?」
「見てください!これ!」
デバイスの画面を指差す。そこには『この人から借りる』というボタン。
「これが?」
「はあ…わからないんですか?」
「なにが?」
「魔法が発現していないのなら、誰かから『借りれば』いいんですよ!」
「ああ~。たしかに。」
「早速東市に向かいましょう!それであなたとのお友達に会ってくるんです。」
「これならすぐに着くはずです。」
指差した先にはテントのようなものと
看板に『どこへでも飛ばします。』と書かれていた。
「あの~東市までお願いします。」
「はーい。いいですよ~」奥から薄緑の髪をした女の人が出てきた。
「お二人ですか?」
「はい。二人で。」
「代金は…1200円です!」
「はい。」ルリが財布からお金を取り出す。
「なんかルリばっかりに支払わせて…悪いな。」
「大丈夫です。お金なら姉が大量に振り込んでくるので。」
「ありがとうございます。」
「いいえ。」
「では早速いきますよぉ~」
女の人が手で仰ぐと凄まじい突風が発生した。
「力を抜いてくださいねっ!」
ブワァ
浮いた。と思った瞬間、すごい速さで飛ばされた。
「うわぁぁ」
「これは…スリルがあって…いいですねぇ…。」
そして着いたのは東市のスポーツセンター前。
以外にも着地のときはゆっくりで落ちたりすることはなかった。
「ここも久しぶりだな…」
「リュウ!いるか?」家の前で叫ぶ。
「タク~元気だったか?怪我してないか?」
「ああ。大丈夫。お母さんみたいに心配すんな。」
「…で?そこの子はだあれ?」
「こっちはルリ。俺のことを助けてくれた優しい人だ。」
ルリはペコリと頭を下げ、
「どうも。」
とだけ言った。
「どもー。俺はリュウっていうもんです。こいつとは昔からの付き合いです。」
「はい。存じています。」
「ちょっと話があるんだけどいいか?」
「大丈夫だぞ…上がってけ~」
「じゃ、お邪魔しま~す。」
「失礼します。」
中は何も変わらないリュウの家だ。
真ん中にテーブルが置いてあって、椅子が周りに6つある。ここでよく将棋やカードゲームをしたものだ。
1つずつ席を開けて座り、俺たちは話し始めた。
「元気だったか?」
「うん。そっちはどう?」
「元気だ。その証拠にこのレイライのライちゃんも絶賛応援中だ!」
「そっかぁ…っていうか、リュウってMK始めるって言ってたじゃん?あれからどうなった?」
「ははは、その話からかよ。」
「ちょっと気になっててさ。」
「いやあ…俺な?MKってどうやって始めるのかわかんなくてさ…」
「そりゃそうだろ。」
「でさ?MKのジムに入ることにしたんだよ。」
「へぇ~。ジムってこの辺にあるっけ?」
「実はな?あのスポーツセンターの地下でジムとしてやってたんだよ!」
「あそこでか!」
「そうそう。でさ、お前がいない間ずっとそこに通ってたんだよ。」
「それで?」
「そしたらな…俺、ジムの中のトーナメントで4位になったんだぜ!」
「すげぇ!ちなみに何人中?」
「60人ぐらいかな?だいたいそのくらいの中で!」
「すっげえなお前。ちょー強いじゃん。」
「そんで、MK本戦に出ることになったんだよ!」
その時、ルリが驚いたような顔をした。
「観に行く!絶対観に行くよ!」
「ありがとう!!俺頑張るぜ!」
「それで…
「少しいいですか?」
「おお、すまん。話しすぎた。」
「少し長くなります。」
「大丈夫だ。」
「えーっと、タクさんのご両親が殺害された事件はご存知ですね?」
「あぁ…知ってるぞ。ほんとにタクの親だとは信じたくなかったが。」
「その事件の主犯格はMKランキング2位のレンです。」
「そうなのか!?」
「はい。この間、正式に容疑者として発表されました。」
「ですが、警察はまともに動けるかといわれるとそうとは限りません」
「確かに…レンは数人で襲いかかっても勝てないっていうわさもあるからな…」
「それでタクさんは…
「あいつを絶対捕まえてやるんだよ!」
「と言ってます。」
「お前正気か!?レンだぞ?あの2位の座に立っている男だぞ!?」
「正気だ!レンが強いなんてこと分かってる!…でも一回奴を殴らないと気がすまないんだ!」
「…チッ」
「それで、タクさんは魔法が使えてません。」
「知ってるよ。」
「あなたは魔法が使えるのでしょう?」
「ああ。簡単な地の魔法だがな。」
「例えば?」
「岩、頑張れば鋼を生成することができるくらいだ。」
「岩なら1時間に1立方メートルくらい。鋼…まあ鉄くらいなら同じ時間で両拳くらいの大きさのを作れる。」
「基本的な生成系ですね…」
「そうなるな。」
「それを貸してほしいんだ。」
「お前に?」
「ああ。」
「そういうことか。言っておくけど、俺の魔法は決して強くないぞ。」
「それでもいい。貸してくれ。」
「分かった。だが、俺はお前がレンのもとに行くのは反対だぞ。」
そう言うとリュウはデバイスを操作した。
「これでお前は俺の魔法…といっても半分程度だとは思うが使えるようになった。けど勘違いするなよ。俺は反対だからな!」
「感謝します。」
「絶対、帰ってくるからな。」
玄関先にて。
「俺のMK本戦は観てくれると思ってるからな。」
「ああ、頑張れよ。」
そう言い残し、彼の家を去った。
「いいんですか?リュウさんは大切なお友達では?」
「いいんだ。次来たときには機嫌は直ってるさ。」
~2週間後~
「よし。だいたい岩のコツは掴んできた。鉄の拳を作るくらいならできるな。」
「予定だと明日に出陣です。これでいいですか?」
「ああ。準備万端だ。」
「では、心技体の心の段階に入ります。」
「なにするんだ?」
「瞑想です。瞑想。」
「…えーとそれは意味があるのか?」
「意味はないかもしれません。気持ちですよ。き・も・ち。」
ルリは拳で胸をたたく。
「はいはい、わかったよ。」
屋根の上に登り、姿勢を正す。
目を開くと美しい街が広がっていた。
「こうしてると、世界は広くて、自分なんてごく小さな人間たったの一人だと思えるんです。」
「確かに。」
「自分だって、これから対峙する相手だってこの程度です。そんなのがいなくたって、この美しさは変わりません。」
「…だから、勝っても負けたとしても生きて帰ってきましょうね。」