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3:人と出会い、支えること

それから、地獄のようなトレーニングが始まった。

毎日5:30に起き、4時間走り続ける。それから正午まで腹筋やら、背筋やら、腕立て伏せやらの自重トレーニング。

昼になったらおいしい食事が待っている。それこそ疲れた体には言葉では言い表せないほどの美味しさで、この日々のほぼ唯一の癒やしである。

それを食べ終わるとすこし休んで(15分程度)、今度はトレーニング器具を使って負荷をかける。

20分ごとに器具を変えて、一日3つの器具をローテーションする。

ローテーションを4回繰り返し、終わるとまた走る。

そうして6時過ぎになったら夕飯である。これもまた美味い。

そして風呂に入ったりして9:30には寝る。


そんなある日。いつもどおり走っていると、金髪の小さな女の子が男3人ぐらいに囲まれていた。

ふと立ち止まって聞いてみる。

「ほんとだよ!電気って、人の動きを止めたりできるんだよ!」

「嘘つくなよ。さっさと金出したほうが身のためだぜ?」

「嘘じゃない!ほんとに止めた人だっていたもん!」

「そこまで言うならやってみろよ。」

「そーだそーだ!」

「…んーっ!!」

ピリッ

ハハハハハハハハ!

「なんだよ。結局これだけじゃねえか。」

「動きが止まるどころか、痛くもなかったぜ。」

「…まだ魔法が上手くなってないだけだもん!!」

「しつこい!!さっさと出せや!」

男の一人が手を上げ、その手は水をまとっていた。それを見た瞬間には足が動いていた。

「やめろ!」

女の子と男の間に立って、両手を広げる。そして…


バキィッ


男の腕の力は思った以上に強く、すこし水を射出する勢いを使って放たれた右拳は、僕の右肩をえぐった。

肩の骨がすこし折れたような気がした。

「いってぇっ」

それでも負けまいと、男をにらみつける。

すると男は我に返ったように、

「やっちまったよ。次は命はないぞ。」

といって去っていった。


「お兄ちゃん、だいじょうぶ?」

少女が心配そうに顔を覗き込む。

「ああ、大丈夫だ。」

本当は大丈夫と言えるほどではない。いまも杭で打たれたような痛みが残り、動かせるかもわからない。

「お兄ちゃん、なんであたしを助けてくれたの?」

「君みたいな小さな子は、あの男のパンチは受け止められないと思ったから。助けようと思った。」

「…ありがとう。…でも!」

「ん?」

「電気魔法は弱くないんだよ!このまえ、道でおじさんが電気の凄さを一生懸命話してたんだよ!!人の動きを止めたり、鉄の板にくっついたり!それをみて、自信が持てたの!!」

「ははっ。そっか。電気は強いんだな。」

「やっと分かってくれた?」

「ああ、よく分かった。」

「やったぁ!」

「ちなみに電気ってどうやって出すの?」

「えーっとね、なんか、力を入れるのを、もーーっと強くするんだよ!」

「もっと強く?」

「んーと、イメージはぴんぽいんと?に力を込める!らしいよ!おじさんが言ってた!」

「ありがとう。僕はタク。またいつか会おうね。」

「うん!私はシホ!絶対だよ!」

そういって、二人で握手をして別れた。


「そんな事があったんですか。」病院で治療を受けている間、かすかな休み時間となった。

「結局無謀なこととわかっていても止まらないんですね。」ルリが呆れたように言う。

「なんか…ごめん。」

「謝ることはないです。ないですし…むしろ誇ってもいいくらいですが…」

「良かった。」

「ですが、自分の身の程を知ってください。」

「うっ…」

「なんのためにこのトレーニングをしていると…」

「すいません…」

治療が終わると痛みはすっかり消えていて、動かしても問題なかった。


次の日からまた同じ地獄が始まって、

これが17週間続いた。


「そろそろ体はいい感じでしょうか…」

「えっ」

俺が起きて、ランニングに出る直前だった。

「技の段階にはいる?」

すこし弾んだような声を出してしまった。

なんせ、トレーニングはもう飽きたし、体のあちこちがもう限界を超えている。

「はい。そうしましょうか。」

「よっしゃー!!」

「そんなに嬉しいですか?」

「ああ。基礎トレだと飽きてきたんだ。だからやっと違うことができると思うと…!」

「そうですか。ではガレージに。」


「では、私から教えるのは、私の祖父の先祖から伝えられる、短剣や、ナイフを使った技です。そのためには、あなたのナイフがいりますね…。」

「その辺にあるのじゃだめなの?」

壁にかけられた短剣や、盾を指差す。

「あれは代々伝わっている、魔除けのようなものです。使うのは他のもののほうがよろしいかと。」

「じゃあどうするんだ?」

「では、職人に打ってもらいましょう。それが一番長く使えますし、質もいいです。」

「わかった。」


そして、街の賑わっている場所に来た。

「この辺に3~4軒、刃物の店があります。」

「どこがいいんだ?」

「えっと、私のはあの『トワの刃物店』のを買いました。あそこのは長持ちするので、買い替えが5年ぐらいずつでいいです。」

「あの『ベンヂ鍛冶屋』は?」

「あそこは他よりすこし細くつくるので、切れ味はいいのですがすぐに折れたり、曲がってしまいます。もって半年ほどで、切れ味が落ちます。」

「じゃあ、あれは?」

端っこの方にある、『匠・デギ』という店を指差した。

「あそこは…わからないです。入ったことがありません」

「じゃあ、行ってみよう。」


「らっしゃい。」

とてつもなく低い声が奥から聞こえた。棚には、『この棚全品1000円』と書いてあったり、壁にかけられて、『50000円』という値札が吊るされていたりした。

中は全体的にごちゃごちゃしていて、あまりいい印象ではない。

「あの…この店は、オーダーメイドはできますか?」

ルリが聞く。

「どんなんだ?」

奥から、身長が高く、肩幅もデカイ、いかにも職人的なオヤジが出てきた。

「アウトドアナイフみたいなやつで、頑丈にしてあるタイプがいいです。」

「鋼材は?」

「高炭素鋼がいいです。」

「他には?」

「片刃で刃渡りは18cm程度で。」

「…分かった。3日後にまた来てくれ。」

「ありがとうございました。」

途中から何を言ってるかわからなくなってきたが、まあ、特に興味はない。

「ということで、もう1日基礎トレですね。」

「あっ…」

少しの絶望を感じた。


「どうだ。我ながらいい出来だ!」

そういってオヤジは黒く、切っ先だけが銀に光る片刃のナイフを取り出した。

「いいですね…これを2日で作るのは難しかったんじゃないですか?」

ルリが出されたナイフを手に取り、じっくりと見る。

「うちは、店の中がこんななだけに頼んでくれるファンもいなけりゃ、買ってくれる客さえいないんだ。だから、お前のに全力で打ち込めたのさ。」

「オヤジ…じゃあ僕がこの店のファンになるよ!」

「いいいい。お前一人がなったところで変わらん。」

「『一人』じゃないですけどね。」

「僕達がこの店を繁盛させてみせる!」

「お前ら…本気か?」

「うん!」「ええ。」

「この店の腕前は本物です。なので、せっかくなら皆さんにそれを知ってもらいましょう。

明日の午後にまた来るのでよろしくおねがいします。」

「わかった。ありがとうよ。」

そういってルリが財布から5万円を取り出し、すっとカウンターに置いた。

「お釣りはいりません。では。」

といい、二人で店を出た。

「あれ、3万円くらいにしようと思ってたんだが…あの人は天使だな…」


そして、僕たちはガレージに戻った。

「これはやはり傑作です。黒い刃…洗礼された木のハンドル…あなたはこれを使うなんて、運がいいですね!!」

目をキラキラさせナイフを見続ける。

「そういうナイフとか好きなの?」

「はいっ。職人の精密な技術が反映される常に全身全霊を込めて向き合わなければいけないにもかかわらず、一寸の狂いもなく作られるそれは、完全に職人さんの努力と才能の結晶!最高じゃないですかぁ!」

「うん…まあ…これで技の段階に入れるんでしょ?」

「はい。では始めますか。」


ルリは木の棒を持ってきて、

「ではまず、基本の動きからです。右足を前、左足を後ろにして、ナイフは右手で持ちます。」

「はい。」

「ナイフで切るようにする動作、手前から奥に突く動作が基本です。

まずは切る動きです。こんな感じです。」

ルリが木の棒を振り下げる。

シュン

「こんなです。やってみてください。」

「こう?」

ナイフを振り下げる。

「もう少し手首を固定してください。それじゃあ、何も切れません。」

「こう?」

もう一度振り下げる。

「もう少し肘のスナップを効かせてください。」

「こ、こう?」

「もっと…


~1時間後~

「こう…ですか?」

「そんな感じです。」

一つの基本動作でもここまでかかるとは。先が見えないな。

「次は突きです」

「あぁ… はい。」

「突きは、足を前に出しながら突き出します。」

「こ…う?」

「もっと素早く突き出してください。ちなみにこの技で間合いを詰め、切る技で戦います。なので、突きで動ければ動けるほど有利です。」

「そんな感じなのか…わかった。」

もっと奥まで突くように…ステップを踏んでっ!

サッ

「おお。移動はできますね。では、脚の踏み込みを強くしてみてください。」

さっきと同じくらいの位置で…もっと踏み込んで!

グッ

シュンッ

「どうですか?力が入る感じがしますでしょう?」

「ホントだ。」

「では、1時間練習しましょう。」

「あっ、もう1動作、1時間は基本なのね。」

「はい。」


~1時間後~

思いっきり脚を踏み込む!

ガッ

その勢いを使って突く!

シュッ

「どうだ?」

「その調子です。」


「では基本技の派生、『高技』を教えます。高技は基本の動きをつかめていないと、あまり強くなりません。高技には名前を付ける人が多いです。大体、MKをしている人なら2~5個くらいつかって試合にのぞんでいます。」

「で、どんな技を教えてくれるの?」

「わたしの祖父が教えてくれたものが3個ほどあるのでそれを教えます。まずは切る動きの派生、『迅』です。こんな風にします。」

そういって、

左下に木の棒を構え、左足を踏み込み、体のひねりを使って、

ザッッ

右上に斬り払う。フォーム、速さ、ともに完璧だ。

最高の技を出しているといっているように、残像が一本のラインに見えた。

「す、すげえ。」

「いま、棒の残像が見えたでしょう?」

「見えたよ。」

「このくらいは出せるようになってもらわないと困ります。」

「あ…あー、冗談?」

「いいえ。」

「じゃあ、嘘?」

「本当です。」

「えええええ!?」

「基本動作だけでもあんなかかるのに!?」

「まあ…時間がかかるのは目に見えてますね。始めないと終わりませんから、早いうちに始めましょう。」

「はあ…」

「『迅』は速さが命です。さあ、始めますよ。」

同じようにナイフを振り上げてもあそこまできれいにならない。

~1時間後~

「まだ速さが足りませんね。」

「こんなか?」

「まだまだです。」

~2時間後~

シュッ

「まだです。」

「…疲れたんだけど。」

「高技は通常の技に比べて調整や集中力を必要としますから、疲労もたまってくるとおもいます。」

~さらに数時間~

シュッ

「駄目ですね…。」

「もう無理だ~。」

「少し休みましょうか。」

「そうしてくれ。」


家に戻り、ベッドに横たわった。

「あ~づがれだー」

「少し待っててください。お茶を入れますね。」

「センキュ。」

少し経つとテーブルの上にお茶が出された。

「どうぞ。」

「いただきまーす。」

ズズズ…

「うま」

「どうも」

この瞬間が幸せだ。

「ところで…」

「ん?」

「そろっとあなたの仇、レンのところに突撃します。」

「…はい」

「ここでひとつ、あなたは何かを忘れています」

「はい?」

「あなたの友達です。」

「あ。」

「あなたは殺されるかわからないほど危険な人に立ち向かうことになります。それは承知していますね?」

「ああ。それはわかっている。」

「なら、あなたの友達にはそれを伝えておくべきだと思います。」

「そうか…」

「というわけで、今度あなたの友達に会いに行きましょう。」

「わかった。」


次の日、午前中は技の練習をして午後、あの鍛冶屋に向かった。

鍛冶屋の中は、この前より少しかたずけてあるとはいえ、まだまだごちゃごちゃした印象は残っていた。

「おう!姉ちゃん。今日はよろしくな。」

「はい。早速ですが、棚の数を減らしましょう。何もない空間が見えるときれいに見えるものです。」

「そうか…じゃあ兄ちゃん。これと…これ。外に運んでくれ」

「はいっ!」

自分の身長の1.5倍ぐらいある棚を持ち上げようとする。

「ふんっ」

持ち上がらないどころか、動きもしない。

「重っこれ!」

「ああ、それ壊してもいいぞ!」

そんな感じね。

「このノコギリ借りていいですか?」

「おう!店のものは何でも使っていいぞ!」

よかった。ノコギリが使えれば解体して運べるぞ。

ギィコギィコ…

ギィコギィコギィコギィコ…

ギコギコギコギコギコ…

ギコギコギコギコギコギコギコギコ…

ぜんっぜん切れねぇ!なんだこの棚ぁ!

腰が痛くなってきた。

もうやけくそだ。

ガガガガガガガガガガガガガガ…

ガッ。

やっと切れた。

よし、これを持って…

「重ぉ!?」

持つことはできるが5センチぐらいずつしか動けない。

「ちょっと早くしてくれんか~」

「ごめんなさぁい」

はやく…これを…運ばなければ…。全然動けない。

ドン

やっと一個運べた。まだもう一個ある。

「うげぇ…いつもよりきついぞこれ。」


「おわったぁ!」

「やっと終わったか兄ちゃん。」

「はい!」

「じゃあ次、この棚とこの部品を使ってこんな感じに作り変えてくれ。」設計図を手渡される。

「はい…?」

「よろしくな。」

えーっと、これがここに来て…これをこう切って、こう取り付けて…。

「むっず!!」

「頑張ってください!!」奥からルリの声が聞こえた。

これをこう切って…

ガタッ

ここにつけて…

グチャッ

こう切って…

バリッ

ここに取り付ける!

ガシャッ

「ぐちゃぐちゃじゃねーか!!」

「次これお願いしま…す…」

僕の『元棚、現芸術作品』を見てルリの動きが止まった。

「これってさっきのやつですか?」

「そうだよ。」

「…まあ、その…味がありますね。」

「…。」

「次お願いします。これは私たちで直すので。」

「わ…わかったよ。」


それから数時間、同じように棚を解体したり、作り直しをして、みるみるうちに店はきれいになった。

きれいに磨かれた床、壁。

きれいに整えられた商品の数々。

僕が作った棚はどこにもなく、無駄のない配置。

どんな人も抵抗なく入れるとても美しい店になった。

「いいですね。これで人が入ると思います。」

「うん。すごくよくなったよ。」

「あとは実際に人が入るかですね。」

「ああ。だが、俺の店に今更入ってくるか?」

「大丈夫、僕たちが保証するよ。」

「ええ、きっとお客さんが来てくれますよ。」

「兄ちゃん、姉ちゃん。ありがとうよ!!」

「では、あとはあなた次第です。頑張ってくださいね。」

「任せとけ!」

「じゃあ、また今度。」


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