16:格上
―数分前、チームレン拠点
「グレンの魔力はまだ僅かな状態で、たった今、ソウの魔力量が激減しました。…もう、活動は困難だと思われます。」
「あいつらでも無理か…」
「今なら『あれ』を使えます。…試してみますか?」
「そうだな…ソウに打ち込め。これでダメなら二人は用済みだ。」
「了解しました。」
―突然、家が崩れた。
この女の人―レイラさんが二人目の敵を倒して一件落着!という雰囲気になり、タクを背負って避難場所…ルリさんの家の地下室に戻ろうとした…まさにその時だった。
「ハーッハッハーッ!」
崩れた中から倒したはずの敵―ソウが出てきて、高笑いを上げる。
でも、よく見るとその姿は異常で体はボロボロのままで目はうつろ。
まるで、死んだ人間を誰かが操っているようにも見えた。
「ありがとうございます!レンさま!こんなにも!こんなにもこんなにも素晴らしい魔法を分けてくださるとは!」
「レンからの魔法_?でもデバイスを使った形跡がない…どういうことだ?」
確かにデバイスなしでは魔法を分けるなんてことはできない…では、奴の魔法はどこから?
そう考えたのと同時にルリが弱々しく説明を始める。
「第9魔法…なんて魔法を聞いたことが…あります。人の手によって作られたあるはずのない魔法…効果は人の精神にかかわる魔法だそう…です。なので、彼が氷以外の魔法を使わなかったら…それもさっきよりも強力になっていたら…その可能性も考えられます。」
「じゃあ、レンは精神を操っているというの!?」
「可能性は…あると思います。」
「もしそれが本当なら、奴にはどんな牽制も意味がなくなる。たぶん、身体がなくなるまで攻撃をやめない。」
腕を組み、難しい表情を浮かべる。
「こんなことを話している暇はないよ。奴が止まることがないという以上、一刻も早く止めなくてはいけない。」
レイラさんの言うとおり、私たちで何とかしなくては。
「もういいですかぁ!?」
敵が叫び声をあげる。今まで待ってくれていたのには少し違和感があるが、考える暇はもうない。
レイラさんが返す。
「ああ、いいよ。いつでも来い。」
「ウゥアアーッ!!!」
再び氷が下から登ってくる。
「さっきよりも早い!?」
「落ち着いて。パニックになるのが一番危ないわ。」
ドカン!とまた足元で爆発を起こすレイラさん。
でも、さっきはこれで抜けられたはずなのに、凍っていく速度が早すぎて足を上げる前に足と地面が張り付く。
「くッ…まずいな。」
「何かほかにできる手は…」
「レイラさ~ん!」
後ろから男の人が走ってきた。魔法管理会の人だ。ということはバッジを見て分かった。
「はあ…はあ…早すぎますよ。っていうか、これはどういう状況ですか…。」
「そんなことは今はいい。まずは彼を止めてくれ。」
男の人は凍っていく足元を見て、呟く。
「あっ…第二魔法ですか…すごい速度だ…」
「なんでそんなのんきにしてるんですか!」
男の人がゆっくり状況判断しているのにイライラして、つい言ってしまった。
それをレイラさんが擁護するように言う。
「まあ、待ってて。『彼』は絶対になんとかできるから。」
シュゥゥゥーッ
「氷が!?」
氷がみるみる解けていく。少したったときには完全に動かせるほど溶け切っていた。
「なぜだ!?僕の氷を解かすなど!第一魔法でも無理なはずだ!」
「えっと…まあ、僕も第二魔法持ちなので。」
「彼は第二魔法、それも水の状態を操るのを得意とする魔法…『状態変化』を持っているの。こういう現場には彼が一番適しているわ。」
すごい。彼の周りだけ氷が一切近寄らない。
そして、彼は水が入ったペットボトルをおもむろに取り出し、キャップを外す。
「僕の魔法は攻撃向きじゃないんです…先輩。なんかください。」
「ああ…はい。これでいい?」
レイラさんは、きれいな赤髪を一本抜くとそれを差し出した。
「ありがとうございます。」
そういうとその髪をボトルに入れてキャップをしめる。
「なんですか…?それ。」
「まあ、見ててよ。…あとは、タイミングだけど…」
「そんな!ありえねぇ!俺の魔法がこんなに通用できないはずがねぇ!!」
奴の様子がおかしい…というか、空気までも凍り始めて周りからつららが出現する。
「どんどん魔法の威力が上がっていっている…」
「やはり、第九魔法なのか…?」
「死にやがれぇぇ!!」
つららがこっちに向かってくる。
ドドドドドドドドッ!!
「痛っ!」
つららが刺さってきて、血が出てくる。隣の二人も防御で手いっぱいだった。
しばらくして、つららが止んだ。ギリギリ死んではいないけど、生きた心地がしない。
二人はというと、傷すら負っていなかった。そして上を見ていた。
「タク…?」
今ちょうどタクが敵の頭上に飛び上がっていた。
そして男の人がニヤッとしたと思うと、さっきのボトルをタクに向かって投げる。
「わかってるじゃないか!」
まさかタクはさっき言っていた『タイミング』をわかっていた…?
タクは両手を組んでボトルをたたき落とす。
ボトルは敵の頭に食い込み、光り始める。
「そう…これが魔法管理会の最強武器…ボトルボム!」
パァァン!!
ボトルが爆発する。爆風は崩れた家を巻き上げ、窓を割っていくほどのすさまじいほどの威力。
「えげつな…」
残ったのは敵の残骸…血が飛び散り、胸から上がバラバラになっている悲惨な光景。
レイラさんが歩み寄って、私を抱きしめる。
「あなたたちは、先に戻っていなさい。あとは私たちが何とかしておくから。」
―同時刻・チームレン拠点
「ソウの魔力が完全に消滅…しました。」
「やはり厄介だな。魔法管理会。」
「このデータで、完成にかなり近づくかと。」
「楽しみだよ。…第九魔法。最恐の魔法が我々の手で再現できる時が!」