14「僕」と「俺」
―ここはどこだろう。
どこまでも続く白い空間に僕は立っている。音も何も聞こえない。なんの匂いもしてこない。
誰もいないのか?
「おーい。誰かいるんだろ?」
返事はない。自分の声が空間自体に吸い込まれているような感じがする。
僕は何をしていたんだっけ。
南市に帰ってきたら街が焼けていて…
…僕がその原因と戦っていた?…!
そうだ。僕はそいつと戦って、最終手段を使った。でもそれが失敗して…
「でも、なんでこんなところにいるんだ?」
「やっと思い出したか。」
!声が突然聞こえてきた。振り返ってみるとそこには…
「…僕!?」
「そう。お前だ。」
突然どこからともなく現れた『それ』は僕の顔をしていて、大きさ、形がすべて僕と一致していた。
僕は驚きのあまり立ち尽くすしかできなかった。
「驚くのも無理はない。そりゃあ、目の前に自分がいたら誰だって目を疑う。」
「…ここは?どこなんだ?」
やっと口がまともに動いた。
「ここは…そうだな…タク《おまえ》の『精神世界』とでもいえばいいか。」
「精神世界?」
「そう。お前の心の中みたいなもんさ。」
「…お前は今、強い電流…しかも自分自身の放った魔法で意識を失っている。今頃敵がこっちの作戦に気づいてる頃なんじゃないか?」
「そんな…ルリは!?ハルさんは!?」
「それはわからねぇ。ただ、一つ言えるのは作戦は失敗している可能性が非常~に高いだろうな。」
「それなら僕は死んでるはずだ!敵の目標は初めから僕なんだから!」
「だが、死んだときにはこの空間は消えてなくなる…つまり、まだ殺されてはいない。」
…どうしてだ?
敵の狙いは僕だけのはず…目の前で倒れたら、それは殺すしかないだろう普通。
…ん?『普通』?待てよ。普通ならもちろん殺すだろう。が、敵は『普通』な奴ではない。ということは…
「ルリたちが危ない。」
「おい、どうすんだよ。」
「このまま寝て、ルリたちを見殺しになんてできない。どうやったら僕を起こせる?」
「…お前には無理だ。お前は強く自分を損傷させたから、主導権を下ろされたんだ。」
「でも!」
「だから俺が行く。」
「!?そんなことができるのか?」
「ああもちろんだ。だって、俺は『お前』なんだからな。」
『俺』が『僕』の前に右手を差し出す。
「…任せてくれるか?」
「もちろん!」
『僕』と『俺』。二人の手が結ばれた。自分と握手する日が来るなんて思ってもなかったけど、
『俺』なら、任せられる気がした。
―もうダメか…意外に早い終わりだったな…
「ハル…さん…を…離して…」
ルリがこっちに手を伸ばして訴えかけてくれてる。
「ハッ!さっさと逃げればいいものを!わざわざ助けに来て出しゃばりやがって!」
「…俺はそういうやつがいっちばん嫌いなんだ!正義面しやがってよ!」
首を抑えられて、だんだん全身から力が抜けていく。
「じゃあな。正義のヒーローさんよ。」
首をつかんでいた腕が大きく上がり、私の体が宙に舞う。
そしていつの間にか出てきていたあの龍が真下から顔を出す。これに焼かれて死んでしまうんだ。
「っ!ハルさん!」
ルリの声がする。最後までありがとう。私を心配してくれて。
はぁ…こんなにすぐ死ぬとわかってたら、こんな街であんな仕事しなくて済んだのに…
いっそのこと世界中を旅しておけばよかったな…
さよなら。私。
―バリバリバリッッ!
凄い音がしたと思ったら、あの龍が消えている。あの男もいない。
と思ったあとに、自分の体が誰かに抱きかかえられていることが分かった。
…とても、あったかい。あの龍のような人を殺す熱とは違う、人の温かみ。
「大丈夫か?けがは?」
「してない…です。」
「…よかった。」
声音で誰かが分かった。でも自分を抱えているその人は自分の知っている『その人』ではなかった。
その人の足が地面につき、私を下ろす。
そして、敵が脇の家の壁にぶつかっていたことが初めて分かった。
「…痛ってぇ…おい…なんでお前がまた立ってんだよ…」
「グレン…だったか?もう一度お前に聞こう!」
「…お前の目的は何だ?」
私の前に立つ『その人』は私の知ってる『タク』ではない。タクの感情的な感じとは一切違う、
静かで、鋭い怒り。
「お前を殺すって言ってんだろ!」
「そうか…ならかかって来いよ。」
「くっそ…生意気になりやがって…そういうとこが腹立つんだよ!」
また龍が出現して、彼に襲いかかる。
「もういいよ…そういうの。」
彼が手を払うだけで、龍が消えていく。
「ありえない!俺の魔法がこんなに簡単に消えてたまるか!」
「お前はそれしかできないのかよ…俺が魔法を隠してるだぁ?それで出してやったらこのざまかよ。」
「ふざけんな!」
何度も何度も。龍が突撃しては彼の一振りでやられていく。
「おかしい…何かが…絶対にまちがっている…俺の魔法がこんな奴に攻略されてたまるか!」
ついに龍が複数…それも10匹近くはいる。
「はぁ、一匹でダメだから複数…か。」
「うるせぇ!これで死にやがれ!」
「うるさいのは―そっちのほうだぜ!高技!」
彼がナイフを両手で持ち、左足を軸にして体ごとナイフを振りかざす。
「『廻』!」
振りかざす衝撃で空気が震える。大量の龍は消え、必死になっているグレンの顔があらわになる。
そして彼が間髪入れずに走って敵との間を詰める。
「これで終わりだ。」
グレンの腹に拳を突きつける。同時にバリバリッと電気が空気を裂く音が聞こえる。
家が思いっきり音を立てて崩れるすさまじい威力のパンチ。
これを正面から受けたのなら気絶なんかでは済まないかもしれない。
これが彼の魔法…電気なんだろうか。
しばらくして、彼が戻ってきた。
「大丈夫だったか。2人とも。」
「はい…タクさん!」
ルリが涙をこぼして、タクに抱き着く。
「大丈夫よ。」
「それなら…よかっ…た…」
「タクさん!」
「ちょっとタク!なんでまた倒れてんのよ!」
「もしかして、『魔力切れ』でしょうか…」
鼻に手をあてる。息はしているし、苦しそうな気配はない。
「そうかもしれないわね。」
「ゆっくり休んでいてください。タクさん。」
しかし、安心するのはまだ早いと私はそこで気づいてしまう。
ルリの足がまだ一部凍っている。
「いや、お見事お見事。」
…そう。まだもう一人敵が残っていることに。




