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1:すべてが動くその瞬間を

2057年7月26日。日本第16部 西市。

僕はタク。

この日で、僕は15歳になる。


ここは、“ハン世界”。

現実の世界では、ほとんどの職業が『AI』によって失われてしまった。

そしてAIが自我を持ち、AIの国を作り、2041年、人間に宣戦布告をした。

そう、現実世界では今、ロボットと戦争をしているんだ。

ロボットといっても、2020年頃のロボットとは違う。

子供を生んだり、血が流れてたり、人間や、他の動物と同じようなもので、

人間と、人間型ロボットでならんで立っていても、見分けがつかない。

性能も、人間型ロボットの最も劣っている機種でも、

人間の約130倍の知能、約80倍の力を持っている。

そんなロボットと戦争している現実世界。

ハン世界の人は、それを、皮肉混じりに、

『現界』といっている。

現実世界の省略で、「限界」とかけているのだ。


そしてこの世界、『ハン世界』は、2028年に存在を確認された。

この『ハン』には、

現実世界の反対に位置する世界という意味と、

現実と空想の半分づつを組み合わせたような世界という意味、

そして今ではハン世界のほうが一般的という意味も加わって、ハン世界といわれている。

ここではAIなどの脅威ががふたたび現れることを政府が恐れ、

ほとんどの機械が持ち込みを禁止されている。


そのかわりに僕たちは「魔法」が使える。

この世界に存在する魔法というものは人によってできることが違う。

自分の持つ種類の魔法のみを使うことができ、魔法は大きく7種類に分けられている。

第一魔法『炎』火やエネルギー量を操ったりする。

第二魔法『水』水の状態変化や、水そのものを操る。

第三魔法『地』土や金属を操ったり、それらを作り出すことができる。

第四魔法『風』風を操る。

第五魔法『自然』植物や天気を操る。

第六魔法『異能』みんなが魔法というのはこれにだいたい詰まっている。

    ものを触らずに動かせたり。

そして、第七魔法『雷』電気を操る。

自然、異能の2つは、二大強能力とされている。

実際に魔法ありの格闘試合では異能の魔法が強かった。

自然の魔法は希少で使える人がいる国といない国ではかなり差ができている。

ただ、希少な魔法であるため、小さいときから忙しく、辛い日々を過ごす。

逆に雷の魔法は全く必要とされない。電気でできることが少ないからだ。

大体の人は、普通に暮らせる炎、水、地、風の基本4魔法を使える子が生まれるのを望んでいる。


「もう15年も立つのね」

母のハル。風の魔法を使う。軽いものなら風に乗せて引き寄せることができる。

「タクを産んですぐに現界からこっちに来たもんな。」

父のタケル。炎の魔法を使う。体の周りに直径3センチほどの火の玉を発生させられる。

「あのときはバタバタで、なにもできなくてね。」

「ああ、子育てと戦争が始まるとかでなかなかだったもんな。」

父さんと母さんが昔話にひたる。

「もう。僕の誕生日ぐらい祝ってくれてもいいだろ。」

「はいはいちゃんと祝おーねー。」

といい、父はかばんをあさる。

「…ほれ、15になったお祝いだ。」

そう言って父さんがデバイスを渡してきた。

デバイスというのは

2020年頃でいうところの『すまほ?』と大体おんなじくらいの大きさだ。

魔法は、自分の種類の魔法しか使えない。

だから、デバイスで他の人の魔法を『借りる』ことができる。

デバイス同士で登録し合うと、

遠いところでも連絡を取ることや魔法を借りることができてしまう。

だいたい学校のみんなは13歳頃で買ってもらっている。

「やった!ありがと~」

「高いから、大切にするのよ。」

「はーい。」

「そうだ。魔法はまだ出ないのか?」

「…まだでてないよ。」

「はやく出るようになるといいわね。」



部屋に入ってすぐに引き出しを開け、とあるメモを取り出す。

メモには「リュウ」とそいつのIDが

汚いけど、ギリギリ読める…読めない?くらいの文字で書かれている。

デバイスにIDを打ち込む。

『☆リュウ☆』という主張の強いユーザーネームが検索結果に出てくる。

『ブロワー認証を送る』をタップする。

『ブロワー認証を申請しました!』という文字が表示される。

ベッドに横たわるとすぐにピロン♪という音がでた。

リュウからメッセージが来ていた。

「よろしくな!!」

すぐに返したいが、打つのは遅い。

「よろしく」

すると、リュウという文字と、

『応答』『拒否』の2つのボタンが表示された。

応答を押し耳に当てた瞬間、

「おめでとう!!」

と頭が痛くなるほど大きい声が聞こえた。

「うっせーよ!」

「ごめんごめん。ちょっとびっくりしたからさ。」

「もっと小さい声で話してくれ。」

「オッケ~ …で、他に登録してる人とかいんの?」

「今はお前だけだよ。」

「そうか。じゃあとりあえずお前の知ってそうな人を送っとくわ。」

電話が切れて、大量の連絡先が送られてきた。

正直こんなにいらない。

ブロワー認証を送る人を選別して、送られてきた27人中、8人ぐらいに絞れた。

友達の特に仲のいい人だけ抜き取った。

「よろしく!」と来る人がいれば、返ってこない人もいた。

気づくと10時過ぎになっていて、

リュウから「買いもん行かね?」ときていた。

「いこーぜ」

「じゃあ、11時半にいつものとこで。」

「ok」


11時27分。いつもの店…というかスポーツ系の店の前についた。

36分になり、ようやくリュウが来た。

「おせーよ。余裕で遅刻じゃねーか。」

「ごめんごめん。ちょっと話が盛り上がっちゃって。」

「…はぁ。はやく入ろうぜ」

「おう。」

店の中には野球のバット、グローブ、ボール。

サッカーボール、ゴール。

テニスラケット、ボール。

陸上競技用シューズ。

他にも剣道、柔道、弓道、ボクシング、水泳。

この辺のスポーツショップの中でも最大級の大きさなだけになかなかの品揃えで沢山の人で大賑わいだ。

リュウが魔法格闘試合のブースの前で立ち止まった。

「おっ あったあった。」

筋力強化用テープを取る

箱には、

『君も魔法無しでアイツに勝てる!』

と書いてある。いや、胡散臭!

「なにそれ?」

「筋力強化テーープ」

「それは知ってるよ。なんで買うの?」

「いやあ。俺さー、最近MK始めようと思っててな?」

「お前がか?」

「なんだよ。悪ぃか?」


ー魔法ありの格闘試合、通称MKはその激しさのあまり、それによって後遺症が残るレベルの傷ができたり、その傷が原因で人が死ぬこともある。

一応、MK試合中にそのレベルになってきたら止めるという役割の人がいるが、それでも止めるのに時間がかかり結局怪我ができる。

だけど、その中の頂点に憧れる人も少なくない。

事実、MK専用ジムなんていうのもある。

そこでいまも頂点を目指して鍛え続ける人もいる。

MKの評価は賛否両論であり、良くも悪くもMKについての話題はよく出てくる。


「まだ早いーなんて言い訳だ。今のMKトップも、14歳から始めてたって言ってるぜ。始めるなら、今からがいいと思うんだ。」

「そこまで語るか… 反対はしないけど、無理すんなよ。」

「おう!」

その後も、スポーツ店をあるきまわって、面白いグッズがあれば、それを話題にした。


そして数時間後。

「そろっと帰るか。」

「疲れたな。」

リュウは両手に袋を持っていて、両方ともぎっしりと詰まっている。重そう。

「なんか増えてないか?」

「ああ、アイドルのライちゃんグッズも買ったからな。」

「重くないのか?」

「この重さが、俺のライちゃんへの愛の重さってもんだ。」

うへぇ…アイドルの魅力は未だにわかんないや。

「可愛いんだぜ。特にライちゃんはそこらのとは違う。アイドルユニット『レイ☆ライ☆』

の一人で、「きれいな赤は初恋の色!みんなで一緒に恋しちゃお☆」のキャッチフレーズに負けない実力派!外見も中身も最強なんだぞ!」

「レイライだったらレイのほうが可愛いと思うんだけどな~」

「わかってねぇな~」

「わからねぇよ。」

そして俺たちは帰路についた。

「じゃあ、このへんで。」

「うん。気をつけて帰れよ。」


「ただい…ま?」家には誰もいなかった。どうせまた母さんの服の買い物だろう。

することは特にないからデバイスを取り出し、登録者とのチャットを楽しんだ。

特にグループでのチャットは盛り上がった。

「リュウってさー、なんかイイとこあるよね。」

「確かに、ちょっと頼もしい感?」

「えっ、俺ってカッコいい?」

「いや?」「NO!」

「だよな…」

なんかかわいそうになってきた。

「大丈夫だよ。」とだけフォローする。

「だよな!やっぱ俺カッコいいよな!」

大丈夫じゃなかったかもしれない。

すると、

「おい、タク。掲示板見たか?」

と太字できた。


掲示板というのは最新の情報が張り出される、現界で言うところのにゅーす?と同じような役割のものだ。


何かあっただろうか、焦ってすぐ外に出て、走る。

記事は『MK、参加人数急上昇!』や、『国内の景気悪化か?』などという、

あまり興味のない記事だ。

「なんもないじゃ…

と打ったとき、新しい記事が張り出された。


『大型ファッションセンターにて、無差別テロ事件発生』


というタイトル。

そこの写真には父さんと思わしき人が倒れていて、

母さんのバッグを持っている。

その下には、

『…なお、怪我人は南魔法式病院に搬送された。』

と書いてあった。

デバイスを取り出し、リュウに掛けた。

「おい…あの写真ってやっぱりお前の…」

「…行ってくる。」

「まさか…お前あそこまで行くのか!?今から行ったって…!」

「…絶対帰ってくるから。」

ここから第16部南魔法式病院がある南市まで休憩無しで2時間。

今は午後7時。9時には着けるか?

「つべこべ言わずに走れ!」自分に言い聞かせる。

僕は自分の体力なんて気にせずに走り続けた。

整備された道沿いを走り続ける。もう人通りは少なく、半泣きで走る僕を見て通行人は驚く。

それを横目に道のわきを突き抜ける。

なんだかんだ言って

正直ここまで走ることができるなんて思っても見なかった。



でも、やはり自分なのだ。

今どこにいるかもわからなくなるほど全速力で走り続けていたのは自分。


そしていま力尽き、倒れているのも他でもない『自分自身』である。

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