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68・友





古龍がガルニエ王国に来てから十年が経った。古龍の提供してくれている血液により貴重な薬を作る事が出来、錬金塔の在庫も国庫も潤っている。

古龍は十年前に初めてカロルと出会った時の鋭い目つきを、城に来てから一度も見せる事無く優しいおじいちゃんという印象を周囲に与えていた。あれから痛みを訴える事は無かったが、念の為最上級ポーションを採血の際に飲んで貰うようにしていた。もしイヌクシュクが居たら、古龍の研究をしたがったかも知れないが、彼はカロルが結婚をすると直ぐに翠山に向かった。それから音沙汰は無い。

カロルの娘であるクリステルは古龍に一番懐いており、学園の休みの度の王族教育の合間に古龍の元へ遊びに来ている。

今日の週末も、クリステルは古龍と昼食を共にしていた。カロルも今日は一緒にお喋りに興じている。

そんな中、カロルに客が来ていると連絡が入った。


「随分お久しぶりですね。」


「なんだ。あの赤竜を使役しているという女子(おなご)か?」


古龍が片眉を上げてカロルに聞いた。カロルからドラゴンを使役している友人が居ると聞き、何と腑甲斐無い同胞がいるのかとため息をついていた。


「古龍も御一緒致しますか?」


「そうだな。若いモンに喝を入れるのも老いぼれの役目だ。」


「じゃあ私はお勉強してきまーす。コリューお爺様、また夕食時に来ますね!」


クリステルは元気に王族教育へ向かった。優しい眼差しでクリステルを見送る古龍をカロルは微笑ましく見た。古龍はクリステルを孫のように可愛く思っているようで、それがカロルも嬉しい。

カロルと古龍は庭の東屋へ向かった。既に案内されていた美仁とロンが椅子に座って待っていた。美仁もロンも、カロルの学生時代に会ってから全く変わらぬ見た目をしている。40歳になったカロルも、自身が開発した化粧品のお陰で肌艶は若々しく美しい見た目をしているが美仁程の若々しさは無い。


「美仁、お久しぶりですね。」


「カロル!久しぶり~!」


「十年以上ぶりですね。」


「え?うそ、もうそんなに経つ?」


二人は再会を喜びながら談笑を始めた。暫くすると美仁の来訪を知らされたシャルロットもやって来て、女三人の会話に花が咲く。

カロル達と離れたテーブルには古龍とロンが座っていた。二人共笑顔は無く、しかめっ面でお茶を飲んでいる。


「人間に使役されたドラゴンがいると聞いていたが…。」


古龍の言葉にロンは片眉を上げて古龍を上目遣いに睨んだ。ロンは何も言わず古龍の次の言葉を待っている。


「あれが相手ではワシでも使役契約させられちまうな。」


古龍はため息を付くように笑った。それに同調するようにロンも笑う。


「流石、長生きしてるだけあるな。儂はアイツの実力も読めずに戦って使役されたんだ。」


「かっかっ!血気盛んな若い赤竜らしいわ。」


「アンタからしたら殆どの竜が若いだろうよ。…まぁ儂は、アイツに使役されて良かったと思っている。」


ロンはチラリと美仁を見た。古龍はロンの様子を見て首を振る。


「使役されたモンは皆そう言う…。主を愛するようになる。だからワシはカロルの誘いを断った。…ワシはこの歳で愛するモンを見送る立場にゃ、なりたくない。」


古龍の言葉にロンは顔を赤くしてそっぽを向いた。その様子を見た古龍は何かに気付いたように呆れた表情になる。


「…お前、まさか…。」


「いいじゃねえか。お前に何か言われるような事じゃない…。」


ロンは赤い顔のまま苦々しい表情で、この話は終わりだと告げた。


「そうじゃな。それにあの女子ならば先立たれる心配も無かろう。誰よりも共に生きれるのだ。長期戦覚悟でかかれば良いだろう。」


古龍は意地悪くニヤリと笑いながら答えた。この話題が終わらなかった事に頭が痛むように押さえ、ロンは閉口した。




カロル達は立場も違えば会う機会も殆ど無いにも関わらず、盛り上がって話をしていた。シャルロットはチエリと結婚し、二人の子供に恵まれていた。子育てをしながら錬金塔で働いている。チエリと結婚した事でシャルロットは平民となっていたが、元々平民として生活していた為生活に不満は無い。シャルロットの父親と母親は時々王都に娘家族に会いに来ている。複雑な家庭ではあるが、仲は良いようだ。チエリはいつも、年の離れた美しい嫁を優しく暖かい目で見ている。美仁は伴侶に愛される二人を羨ましく思っていた。


「…結婚かぁ~。」


「美仁にもそういうお相手が?」


「うーん…。冒険者を引退する気は無いけど、二人を見てると憧れるなぁ~。でも一緒に歳をとるってのが出来ないから…。」


美仁は苦笑いでため息をついた。


「相手が人間じゃなくて、長寿な種族にするとかは?エルフとかさ。」


シャルロットの言葉に美仁はゲェ、と嫌な顔をした。


「エルフ族って美形ばっかりだし…。パーティにもエルフ族の人居るんだけどさ、イケメンなんだけど、すっごい意地悪なの!だからエルフはなー…って。」


「無いんだ?」


「無い無い。」


首を振る美仁にシャルロットは頬杖をつきながら笑う。


「私もチエリ様は初めは全く対象外だったのよ?美仁も案外そうなったりして~。」


「無いよ~。まずね、アッチが私を好きになるって事が有り得ないから!」


「それなのにもう二十年パーティを組んでいますよね?喧嘩する程仲が良いという事ですか?」


カロルが微笑み問いかけると、美仁はまたしてもゲェ、と変な声を出しカロルを見る。


「カロルまで~!でも確かにもう二十年以上経つのか。リーダーもそろそろ歳だから引退を考えてるって言ってたし…。そしたら解散かなぁ…。」


「それはその時にならないとね~。」


「楽しい話待ってますね。」


ニコニコと美仁を見るカロルとシャルロットに、美仁は苦笑いでため息をついた。

久々のお茶会も終わり美仁はロンと城を後にした。仲間の居る街に飛んで行く。きっと近くに来たから寄ったのだろう。ロンはすごい速さで飛べるので、近くという距離が普通よりもかなり長いものではあるが。

シャルロットも錬金塔へ戻って行った。休日であるのに、研究熱心なチエリとシャルロットは今日も錬金塔に篭っていた。シャルロットの子供達は錬金術師見習いとして街の錬金術師の元へ通っている。上の子はクリステルと同い年だが才能があるらしく、もう薬を販売出来る程になっているそうだ。

カロルも古龍と別れ国王夫妻の部屋に戻った。部屋に入るとリュシアンが待っていた。


「古龍殿の元に居たんだろう?随分遅かったじゃないか。」


「美仁がいらっしゃいまして、久々にお話をしていました。」


リュシアンはカロルをそっと抱き寄せてソファーに座る。


「美仁さんか。かなり久しぶりに会ったんじゃない?会えて良かったね。」


「ふふ。美仁は流れている時間が違いますからね。久々に会えて、楽しゅうございました。」


カロルは微笑みリュシアンを見た。二人は慈しむような視線を至近距離で交わす。


「休みの日だというのに、カロルとずっと一緒に居られないなんてね。あの時のように、佐助がお使いに行く事があれば、カロルがずっと私についていてくれるのにな。」


「ディミトリに王位を譲れば、今よりは忙しく無いでしょうから、一緒に過ごす時間が増えると思いますよ。」


「何年先になるだろうね…。カロルは国民の人気があるから…、それに退位してからもカロルが動ける内は騎士団に駆り出されそうだし。」


「その頃にはクリステルが騎士団副団長になって活躍しているでしょう。」


カロルは笑った。数年前、佐助を翡翠の元に行かせた事があった。その際の護衛にカロルはリュシアンに張り付いていた。いつもリュシアンを護衛してくれている者達に休んで貰い、リュシアンは数日間カロルと一緒に居られる事を喜んでいた。カロルも中々の過保護である。

佐助のスピードであれば、二日で行って帰って来れる筈だったのだが、帰りは翡翠も一緒だった為、佐助がガルニエ城を起ってから四日目にリュシアンの影に戻った。

そして翡翠はカロルの子供達に会い、自分の元で修行出来るのはクリステルだけだと言った。王子達はがっかりしたが、カロルもクリステルは武の才があると感じていた為何となくそうなるだろうと思っていた。 そしてクリステルは長期休暇の度に翠山へ向かっている。次の休暇にはきっと、従魔を連れて帰って来る事だろう。学園で騎士科を専攻しているクリステルは卒業後は騎士団に入団する事を望んでいる。現在の騎士団長であるアンリも、クリステルがどんどんと力を付けて来ていて、今では戦ったら自分よりも強いだろうと感じている為クリステルの入団を心待ちにしている。

カロルが何日もリュシアンの傍から片時も離れずに居たのは佐助をお使いに出したあの時だけだった。


「それに、夜は毎日一緒に居られるではありませんか。」


カロルは自身の頬に当てられたリュシアンの手に自身の手を重ね微笑む。リュシアンは眉尻を下げて微笑みながらもため息をつく。


「私はもっと一緒に居たいのだよ。結婚式後の三日間の時のように、誰にも邪魔されずに過ごしたい。」


「それでは退位後に落ち着きましたら、二人でゆっくり旅行にでも行きましょう。」


「それは楽しみだね。」


リュシアンはずっと変わらない愛をカロルにくれている。むしろその愛情はどんどん深くなっている。カロルは幸せだった。努力をしてきて良かったと、心からそう思った。

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