65・その夜
ちょいエロです
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城に新しく設えられたリュシアンとカロルの部屋で、カロルは結婚式が無事終了し、国民がカロルを王太子妃として受け入れてくれた手応えを感じ胸を撫で下ろした。リュシアンも幸せそうにカロルを見る。
「カロル、お疲れ様。」
今日は朝から結婚式の支度でお互い動いていた。忙しい一日を終え、今は夜更け過ぎだ。体は疲れないカロルも、精神的には疲れていた。
「リュシアンも、お疲れ様です。」
カロルはリュシアンに微笑む。リュシアンは優しくカロルを引き寄せてベッドにゆっくりと押し倒した。リュシアンの熱い瞳とカロルの潤んで揺れる瞳が交わる。二人は深くキスを交わした。
「この日をずっと待ってた。」
「…私もです。」
リュシアンの嬉しそうな声にカロルも頬を染めて頷く。カロルの答えにリュシアンは喜びに胸を打たれた。カロルはリュシアンのはだけた胸元に触れ、唇を寄せる。唇が触れそうで触れない距離で止まった。
「リュシアン…私…閨の教育を受けておりません…。ですので、失礼があるかも知れません…。」
「ああ。私とカロルが既にそういう仲だと思われていたからね。だから必要無いと思われたんだろう。私もそのお陰で座学だけで済んだんだ。」
リュシアンは黒い笑みを浮かべたままカロルの夜着に手をかける。
「カロル以外とするなんて考えられないからね。上手く誤解を与えられて良かったよ。」
あの日、リュシアンが泊まりに来たもう一つの目的はこれだった。閨の実技があると聞いたリュシアンはこれを避ける為にカロルと夜を過ごし、実技の必要は無いと思わせたのだ。
リュシアンは露になったカロルの肩に吸い付き、そのまま唇を這わせ首元に移動する。カロルは熱い吐息を吐き出した。
カロルの手がリュシアンの夜着に伸びる。カロルの動きに気付いたリュシアンはカロルを起きあがらせ唇を貪り、お互いの夜着を剥がしながら舌を絡め合う。二人はお互いを激しく求め合い、愛を囁き合った。初夜を激しく過ごした二人は抱き合いながら充足感に包まれ眠りについた。
次の日の朝も二人は甘い空気を漂わせていた。いつものように早く起きたカロルはリュシアンの寝顔を愛おしげに見つめていた。リュシアンは目を覚ますとカロルの視線に気付き、甘く微笑んだ。
「カロル、おはよう。朝をこうして一緒に過ごせるなんて幸せだな。」
「おはようございます、リュシアン。」
昨夜の情事を思い出したらしいカロルは頬を染めて微笑んだ。リュシアンはそんなカロルにキスを落とす。
「昨日のカロルは積極的で、とても素敵だった…。」
「…はしたなかったでしょうか…?」
今世では初めてのカロルだが、前世では二人の子持ちのオバサンだ。そして痛みに強い体を持つカロルは、初めての営みをしっかり堪能した。
「いや。私に悦んでくれているカロルはとても美しかったよ。…いけないな、またしたくなってしまう。」
愛しい人の初めて見た乱れた姿を思い出し、欲望が込み上がってくる。今まではここで我慢を強いられていたリュシアンは、もう我慢をしなくても良い。リュシアンはカロルを抱き寄せ指で髪を梳いた。
「今日は、ゆっくり出来ますから。」
その言葉を肯定と受け取ったリュシアンは、情熱的に唇を合わせカロルに体を重ねた。週末を国内の静かな場所で過ごす予定の二人は今日、雪之丞に乗ってその場所へ向かう。国内なので雪之丞ならばそれ程時間はかからない。休んでも良いと言われたが、この週末のカロル達の世話も是非にと申し出たゾエは力丸に乗り、既にその場所へ向かっている。カロル達は午前中を睦み合って過ごし、出発した。
結婚式当日の夜、ローラン家ではジョルジュとミレーユが静かに語り合っていた。十年前にカロルに一目惚れをしてからずっとカロルだけを想っていたリュシアンの一途さに感嘆し、カロルの幸せそうな花嫁姿に胸がいっぱいになり、大切な娘の門出に寂しさが湧き上がる。
「カロルがお腹の中に居る時に、運命の女神マインロット様からお言葉を頂いたのです。」
ジョルジュはミレーユの言葉に驚き目を見張る。
「カロルは不幸になる運命だと、それに抗うには努力するしかないのです、と。」
ジョルジュは更に口をあんぐりと開いて驚いている。
「あの娘は、誰に何を言われる事無く様々な努力を始めました。そして今日、その努力が実り国民から認められ支持される王太子妃となれたのです。」
ミレーユは城に居るカロルを思い、慈しむような表情で微笑んだ。ジョルジュは困惑した表情でミレーユに問いかける。
「何故、私には教えてくれなかったんだい?」
「貴方に言うと、努力を陰ながら見守るですとか、ほんの少し手伝う、とかでは済まないではありませんか。」
ミレーユはころころと笑った。ジョルジュは確かにそうだが、と図星を刺されながらも少し不満そうだ。
しかし二人は娘の幸せそうな姿を思い出し、幸せな気持ちに胸を温かくしながら夜を過ごした。カロルがこれからも幸せでありますように、と願いながら。
時を同じくして、こちらは街の酒場だ。ウィリアム、ジャン、ランディの三人は酒を飲みながら結婚式の余韻に浸っていた。三人共それぞれカロルを大切に思っていた。ジャンは友人として、ランディは心強い仲間として。ウィリアムもカロルを大切な友人として見ていたのだが、今日カロルが結婚をしてリュシアンの隣で微笑む姿を見て胸が締め付けられてしまった。カロルに笑顔で祝福を述べたのに、心の中は大荒れだった。そして今、酒を飲んで沈み込んでいる。
「…やっぱり、ウィリアムはカロルが好きだったんだな…。」
「…妹みたいに思っていたはずだったのに…。」
テーブルに突っ伏しているウィリアムの両隣でジャンとランディが慰めている。
「気付いた瞬間失恋した…。」
「相手がリュシアン様だもんな。王太子ってだけでも勝ち目が無いのに、あの方はカロルの事となると目の色変わるから…。」
「ああ~。そんな感じする!さっきのパーティーでのウィリアムを見るリュシアン殿下!怖かったー。」
今日初めて会ったジャンとランディは気が合うようで仲良さげに話している。
ウィリアムは先程のパーティーでもカロルに言われた言葉を思い出す。「大好きなお兄様。」自分はどうしても彼女の恋愛対象にはなれなかったのだろう。カロルに頼られるのは嬉しかった。彼女にとって誰よりも信頼出来る人物が自分である事が、嬉しかった。でも、それまでだった…。ウィリアムはカロルが少年団で鍛錬している姿も、街で食べ歩き笑う笑顔も、ウィリアムに何かを作って貰っている時に手元を見つめるうっとりとした表情も、全部覚えている。思い出しては胸が苦しくなった。
ウィリアムは今日だけは落ち込もうと酒を呷る。ウィリアムがこんな姿を見せるのは珍しい。ジャンとランディは傷心のウィリアムにとことん付き合ってやると、酒場で夜を過ごした。
美仁とシャルロットはパーティー中にカロルから、自分達は日本人であった過去がある共通点がある事を耳打ちされていた。そしてパーティーが終わるとシャルロットの借りている部屋に美仁が招かれ二人は話をしている。ロンは宿に戻り、既にベッドの中だ。
「へぇ~。じゃあシャルロットもカロルと同じで転生してここに居るんだね!」
「そうなの。美仁は異世界転移かぁ…。すごい。小説みたいだ。まぁ既にゲームの世界なんだけど。」
シャルロットの言葉に美仁は首を傾げる。カロルからも以前聞いていた事なのだが、ピンときていないらしい。
「ゲームの世界って、どこまで登場していたの?ブラゾス大陸や地底深くから行ける地獄とか、ミズホノクニとかも出てきてたの?」
「え?…いや、ガルニエ王国だけだったかな。登場人物も少し違うけどちゃんと居るし、ゲームの世界なんだと思ったんだけど…。」
シャルロットは眉を寄せて考え込むような難しい表情をした。
「シャルロット達は前世の記憶があるでしょ?もしかしたらさ、この世界から日本に転生してそのゲームを作った人がいるんじゃない?過去の日本に転生したっていうおかしな話になっちゃうけど。」
「わぁ~。でももしかしたら、あるかもね!現に私達が転生してるんだもん。」
二人は正解の分からない話に盛り上がる。
「じゃあこういうのは?ここは、地球からすごーく離れた惑星で~。」
「いつか地球人とこの世界の人と交流しちゃったり?」
「きっとびっくりするよね!モンスターもいて、魔法もあるんだから。」
二人は遠い過去に居た地球に思いを馳せた。美仁にはあまり良い思い出が無い場所で、シャルロットには大切な家族を遺して悲しませてしまった場所だ。少ししんみりとした空気になったが、シャルロットは顔を上げて美仁を見た。
「美仁、またガルニエ王国に来る事があったら、こうして話をしようよ。王太子妃様になったけど、カロル様もきっと話したいと思うし、来たら連絡して?私は城の錬金塔で働いてるから。」
「うん。ありがとう!地獄から戻ったら、絶対来るよ!」
美仁はこれからブラゾス大陸の地獄に向かう予定だ。地獄に入る為に必要な物も全て揃え後は向かうだけなのだが、カロルの結婚式の為に仲間に待って貰っていた。
二人はカロルの結婚式を思い出し、恋愛話に花を咲かせようとしたが、お互い恋愛経験が無く二人で肩を落とす事になってしまった。しかしそんな事すら面白く、くすくすと笑い合った。そして次に会う時には恋バナが出来るようにお互い頑張ろうと励まし合ったのだった。
街の酒場では、マクシムが元冒険者仲間達と飲んでいた。コンバグナを見る事が出来た冒険者達は興奮が冷めない様子で騒いでいる。
「マクシムから聞いた時はまさかと思ったけど、本当にお見えになったな!」
「信じて無かったけど、マクシムのお嬢様を見る為にパレード見てて良かったな~!」
「なぁんで信じて無かったンだよ!お嬢様、マァジでつえぇンだからな!」
カロルの強さを強く主張するマクシムを見て仲間達は豪快に笑っている。
「そりゃ地獄を実質一人で攻略したなんて信じらんねぇからな。でも今日コンバグナ様が加護をお与えになる所を見たら、そんな事言ってらんなくなったけどな。」
「神が加護を与える所なんて初めて見たよなー。」
「それだけマクシムのお嬢様がすごいお方だって事なんだろ。」
「強いだけじゃなくて、錬金術師としての才能もあるんだろ?水樽魔石とタブレットポーションには世話になってるからなー。」
冒険者達は口々にカロルを褒めている。マクシムはそれが嬉しくて、いつもより酒が美味しく感じた。カロルが地獄で言っていた、加護無しの噂によって受け入れて貰えない心配は無いだろう。今ここに居る冒険者達はカロルが王太子妃で、将来王妃となるのならガルニエ王国は安泰だと笑っている。カロルの努力家で意志の強い所をよく知っているマクシムも、そう思った。




