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61・噂






学園が冬季休暇に入りシャルロットは母親と街を歩いていた。久しぶりに会えた事が嬉しくてお喋りに興じながら王都を案内している。カロルと行ったカフェで昼食をとりながら、シャルロットはカロルの話を母親にした。


「この前言ってたリュシアン様の婚約者のカロル様とね、お友達になったの!」


「へぇ~。良かったじゃない。カロル様って侯爵令嬢様なんだろ?元平民のシャルロットを友達としてくれるなんて、懐の深いお方なんだねぇ。」


「友達になるのに、身分は関係ないって仰って下さったのよ。それに、それにね…!」


シャルロットは興奮のあまり身を乗り出して話を続けた。母親はそんなシャルロットを苦笑混じりに見ている。


「カロル様は、水樽魔石をお作りになった錬金術師様だったの!」


シャルロットは頬を上気させて目をキラキラと輝かせながら母親に伝えた。母親は予想外の情報に目をぱちくりと瞬かせた。


「カロル様ってのは本当に素晴らしいお方なのかも知れないね。身分で友人を選ぶ事なく、平民の為に水樽魔石を開発して下さるなんて…。」


実際はカロルが水樽魔石を開発したのは自分が冒険者になった時の為だったが、周りの者は良いように解釈してくれている。カロルは開発者として名前を公表していない為、特に訂正はしなかった。まさかここでシャルロットとその母親がこんな話をしているとは夢にも思ってないだろう。


「そうなの!カロル様は素晴らしいお方なのよ!だから、神に見放された者だなんて噂を何とかしたいの…。だから、水樽魔石を開発したのはカロル様だって噂を流せないかな?」


「…そうねぇ…。私達で流しても大して広く流れていかないから…吟遊詩人に唄ってもらうのはどうかしら?カロル様は精霊の加護は無いけど、錬金術で水樽魔石を開発した~みたいな。」


「…そうね!他にもカロル様には色々な功績があるみたいだし、調べて唄ってもらうわ!」


シャルロットはカロルの悪い噂を払拭する為に気合いを入れた。吟遊詩人に情報を提供する為に、カロルの功績がどれ程あるのか調べなければならない。それに、その情報が確かなものだという証拠や証言も必要だろう。シャルロットは休暇明けにレモンに錬金術でカロルがどのような開発をしてきたのかを聞いた。そしてそれを証言してくれそうな人物はいないかも教えて貰う。


「…父に頼んでみますけど…。シャルロットさん、何を企んでいるんです?」


「カロル様の噂を良い噂に変えようと思ってます。レモン様も御協力下さいね!」


レモンは強引に巻き込まれた事に困惑したが、尊敬するカロルの、あの噂が再び流れた事はレモンも聞いていたので協力する事にした。

レモン達は錬金塔で働く父に紹介して貰った錬金術師と、週末に街で会う事になった。塔の錬金術師と会う為に、失礼があってはならないと、レモンもシャルロットもキッチリとした服装で貴族街にあるカフェで待っていると、現れたのはヨレヨレのシャツとズボンを身に付けた、頭もボサボサの男性だった。若干の戸惑いを感じつつもレモンとシャルロットは挨拶をする。


「あぁ、はじめまして~。チエリです。カロル様の研究の事を聞きたいって事でしたので、資料を纏めてきました~。」


チエリは資料を置こうとしたが、途中で動きを止めた。


「ルフェーブル様のお屋敷ってこの辺りでしたよね?そちらで見ましょうか。いいですよね~?」


そう言うとチエリはそのままカフェを出て行ってしまった。レモンもシャルロットも呆気にとられたが、すぐに我を取り戻して後を追った。

ルフェーブル家の屋敷に来たが、シャルロットは訪問時のマナーがまだよく分かっていない。内心かなり焦っていたが、チエリが伯爵家に訪問するとは思えない挨拶をルフェーブル伯爵夫人にした為シャルロットの焦りは吹き飛んだ。ルフェーブル伯爵夫人もチエリか来るのは初めてでは無い為あまり驚かずに笑って受け入れていた。

サロンに通されチエリが資料をどっさりと置くと、シャルロット達に資料の説明を始めた。シャルロットは目を輝かせて説明を聞いていた。レモンもそうだった。二人は尊敬するカロルの研究が幅広い分野で重宝されており、どれだけ人を助けているのかを知る事が出来た。シャルロットはチエリに向かって切願した。


「チエリ様は街で流れているカロル様の噂をご存知ですか?私達はその噂を良い噂に変えたいんです。あんな噂でリュシアン様とカロル様が国民から祝福されないなんて、嫌なんです。」


精霊の加護が無く、神から見放された者が王太子妃になる事を不安に思っている国民もいるらしい。今はまだ小さい声だが、不安に思う国民が増えれば、上流貴族がこれ幸いと他の令嬢を王太子妃にと勧めてくるかも知れない。


「ああ~知ってる知ってる。カロル様の加護は神様の加護なのにね。精霊の加護が無い位で見放されただなんて、おかしな噂だと思ってたんだ。」


ヘラヘラと笑うチエリをレモンとシャルロットは目を点にして見た。


「神様の、加護?」


「そうそう。カロル様って疲れないんだよ~。すごいよね?イヌクシュク様が仰ってたけどさ。魔力量だって、もうイヌクシュク様より多いんだって~。」


情報通のチエリは口が緩く、次々と新しく入ってくるカロルの情報にシャルロットは頭が追いつかない。しかしシャルロットはカロルのすごさを改めて知り、興奮したように立ち上がった。


「やっぱりカロル様ってすごいんですね!チエリ様、吟遊詩人にその情報を提供して唄を唄って頂きたいんです!お願い出来ますか?」


「あはは、いいよ~。君、カロル様が大好きなんだね~。」


チエリはふわりと優しく微笑んでシャルロットを見上げた。シャルロットは頬を染めて礼を言いつつソファに座った。


「…チエリ様、吟遊詩人に会う時はもう少ししっかりした格好でいらして下さい。そんなにグシャグシャでは、信用して頂けるか不安です。」


「それ、皆に言われるんだよね~。身嗜みはしっかりしろ!塔の錬金術師らしくしろってさ~。」


チエリは耳にタコが出来る程に言われている事を初対面の学生にまで指摘されて苦笑した。しかし吟遊詩人に会う当日に、シワシワの錬金塔のローブを着てきた事でシャルロットの怒りを買い、また苦笑する事になる。シャルロットはプリプリと怒りながら、魔法を使って手で温めながらローブの皺を伸ばしていった。


「ローブが綺麗になっただけで変わるものですねぇ…。」


レモンは感心していたが、シャルロットは不満顔だった。ボサボサの頭が許せないらしい。ブラシがあれば梳かしたのに…と悔しそうだ。チエリの髪型は妥協してシャルロット一行は吟遊詩人に会った。吟遊詩人はシャルロット達の話を興味深そうに聞き、唄を唄う事を約束してくれた。王太子の婚約者がどんな人物なのか国民は気になっている。自分の人気を高める事にも繋がる良い仕事だと吟遊詩人は考えていた。双方の利害が一致し、吟遊詩人はカロルの唄を唄い始めた。

錬金術以外ではポンコツでお喋りなチエリはこの事を城で話していた。これを聞いた騎士団員達はカロルの強さを知らしめる為に別の噂を流そうとした。それは、空を駆ける髑髏騎士の正体はカロルだという噂だ。しかし錬金術で数々の功績を残した令嬢が、危険な上級モンスターを討伐していた髑髏騎士だったと、普通なら信じられないだろう。噂を流した者はカロルを知っているのでおかしいと感じなかった。しかし噂を聞いた多くの国民は馬鹿馬鹿しいと、噂を信じなかった。逆に、既に流れていた加護無しの噂を消す為にカロルがこのような噂を流したのだろうと邪推される結果となってしまった。こうしてカロルは知らぬ間に国民から加護無しに加え、狡猾な令嬢という烙印を押されてしまった。

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