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6・騎士団の少年団





三人が決めた研究計画は、このチームを更に三チームに分ける事から始まった。カロルが作っていた無魔力穴病用装飾品を作るチーム、魔力出力低下の装飾品を作るチーム、魔力を使わないで利用出来る道具開発をするチームだ。最後の道具開発チームは錬金術師だけで組まれた。


カロルは、自分が研究に関わるのは無魔力穴用装飾品を作る事だけにしたいと希望した。


「それは、どうしてなのか聞かせて頂いても?」


「私、錬金術を行うのは夜だけにしているのです。今までよりも研究するものを増やしてしまうと、時間が足りなくなってしまいます…。それに、上級ポーション作成を出来るようになりたいと思っておりまして、そちらにも時間が欲しいのです…。お願いしている立場でこのような我儘を…言ってはいけないとは分かってはいるのですが…。」


カロルは消え入りそうな声で、申し訳ございません…と謝る。対して師長達は笑顔で答えた。


「何を仰いますか、カロル様。増えてしまった研究は、こちらから言い出した事でございます。カロル様がそう希望なされるならば、勿論そのように致しましょう。」


「そうですよ。カロル君。私達は君のお手伝いをしたいだけなんだ。君を働かせようだなんて思ってもいないからね。それに上級ポーションも、質問やお手伝い出来る事があれば手伝うよ。」


カロルは安心し、師長達に礼を言った。


「まぁ錬金塔の皆は君をスカウトしたいと思っているけどね。」


と錬金術師師長はウインクをした。師長達は、わはははと笑っている。カロルも自分が認められたような気分になり、嬉しそうに笑った。




魔術塔で過ごした時間はそれ程長くはなかったので、ジョエルを待つ間、図書館に来ていた。錬金術関係とは違う本を読んでみようと思ったのだ。

一人で棚を見て回る。ゾエはいつも通り物語の本を読んでいる。


棚を見ていると、ダンジョンについて書かれている本があった。

それを持ってテーブルに戻る。

ダンジョンとは、魔素という瘴気が溜まって出来るものらしい。ダンジョンの中にはモンスターがおり、ボスがいる。ボスやモンスターは倒しても、しばらくすると復活する。


ゲームだ!迷宮ダンジョンのゲームだ!!!


カロルは興奮した。ダンジョンにはレベルがあるらしく、今現在確認されているダンジョンの中で1番レベルの高いダンジョンは通称地獄と呼ばれている。30年前に確認されたそれは、まだ誰にも踏破されていない。

因みに違う大陸ではあるが、本物の地獄も存在している。深い深い大穴が空いており、大穴の最奥から入れるんだとか。ダンジョンの方の地獄はモンスターの強さや難易度が高すぎる為に、そう呼ばれるようになっただけで、本物の地獄とは何の関係もない。


カロルが夢中で本を読んでいるとジョエルがやって来た。


「カロルお待たせ。またすごい集中してたね。」


「お兄様、お疲れ様です。この本すごく面白くて!他にも借りたい本があるので、少しお待ち頂いてもよろしいですか?」


「勿論だよ。僕は出口で待ってるから。」


カロルはダンジョンの本やモンスター図鑑を借りるとジョエルと共に屋敷に戻った。


夕食までにカロルは今日出来上がった音魔石(この名称で売り出す事になるらしい。)にヴァイオリンで一曲録音した。また消して録音し再生する。

カロルは満足し、ジョルジュに報告する為に夕食後話がしたいとジョルジュの執事に伝えた。


夕食後、早速呼ばれてカロルは音魔石を持ってジョルジュの部屋に入った。


「お父様、研究しておりました物が一つ完成しました。」


「早かったね。見せてもらえるかい?」


カロルはジョルジュの隣に座り、使い方を説明する。ジョルジュは再生ボタンを押した。先程カロルが録音したヴァイオリンの曲が流れる。


「うん。美しい。こんなに早く完成させるとは。カロル、よくやったね。」


「いいえ。錬金塔の方々のお陰です。私には思い付かない解決策を提示して頂きました。次回作も、と言って頂けたんです。今回出来上がった物より良い性能の物をと考えています。」


「そうか。それは楽しみだね。」


ジョルジュは嬉しそうに頷いた。


「こんなに早く結果を出したんだ。私もカロルに答えなければならないね。少年団への入団手続きをするからね。カロルと一緒にジョエルも行く事になる。」


ジョエルも一緒に。カロルもそうなるだろうとは思っていた。過保護な父と兄がカロルを一人で行かせるとは考えられない。


「少年団の鍛錬は週に二回、火曜と木曜の午前中に行われる。その日は午後に家庭教師が来るが、大丈夫かな?」


「はい。大丈夫です。」


カロルは自信満々で頷いた。カロルは何故か疲れないのだ。長時間読書をしても目は疲れないし、屋敷の周りをどれだけ走っても、息切れ一つしなかった。皆そうなのかと思ってジョルジュと走った事があったが、屋敷二周目でジョルジュは息を切らし始めた。

どういうわけかカロルは疲れない体質らしい。もしかしたら寝なくても平気なのかも知れないが、美容と健康、成長の為にはしっかり夜眠る事は大切にしている。


「そうか。二人で頑張ってきなさい。何かあったら、いつでも相談にのるからね。」


ジョルジュは慈しむようにカロルの頭を撫でて言った。少年団入団を許可した事を、ジョルジュは数年後大変後悔する事になる…。





ーーーーーーーーーー





今日は侯爵令嬢が少年団に入団して来るらしい。セドリックはため息をついた。少年団の団長ダミアンからは他の団員と同じ様に指導するように言われている。ダミアンもセドリックも高位貴族の我儘だと不快に思っていた。他の少年達も不快だろう。ここは令嬢の遊び場ではないのだ。しかし他の少年達と同じ指導をして令嬢の機嫌を損ねて侯爵の怒りを買ってしまったら…セドリックは重い気持ちで鍛錬場に向かった。


鍛錬場に入ると早速件の令嬢と侯爵令息とが言い争っていた。セドリックは今日何度目かというため息をついて話に耳を傾けた。


「だから何で女がここに居るんだよ!」


「剣術を習う為に入団させて頂いたのです。」


「俺たちは遊びで来てるんじゃないんだぞ!」


「私も遊びのつもりではございません。」


セドリックが止めに入ろうとした。その時


「女である私が受け入れられない事は覚悟しておりました。そこで提案がございます。私と勝負して下さい。その勝負に私が負ければもう二度とこちらには参りません。ですが、私が勝ったら、私が少年団に入団する事に文句を言わないで下さい。」


「勝負?良いだろう。」


侯爵令息はニヤリと笑った。


「勝負と言いましても、剣術ではございませんよ。私まだ剣を握った事もございませんので。持久力勝負ではいかがですか?」


「持久力勝負?」


「ええ。この鍛錬場をどちらが長く走れるかの勝負です。私がここに居る事に不満がある方全員参加して頂いて構いません。」


「分かった。良いだろう。」


侯爵令息は他の少年団員を見た。しかしカロルは全員に向かい、


「先生が来られましたので、鍛錬が終わってからに致しましょう。」


この言葉にセドリックを含む全員が思った。この令嬢は鍛錬を舐めている。鍛錬後に徒競走をする元気が残っている訳がない、と。


「話は終わったかな?では今日の鍛錬を始めよう。」


セドリックの号令を合図に少年団の鍛錬が始まった。


準備運動から始まり、剣の持ち方、構え、振り方を学ぶ。素振りに足さばきを練習し、型を学んだ。充実した鍛錬は時間の流れがとても早い。あっという間に終わりの時間が来てしまった。


カロルは、終了の挨拶を終えると、先程の令息の元へ向かう。


「さあ、始めましょうか。貴方様の他に、参加される方はいらっしゃいますか?」


令息は驚いた。この令嬢は息切れ一つ起こしていない。

セドリックも同時に驚いていた。セドリックは鍛錬中もカロルを注視していた。カロルが真面目に鍛錬に取り組んでいたのを知っている。少しカロルに好印象を持ったセドリックは二人に提案した。


「私がこの勝負事の判定をしよう。勝負に参加する者はこちらに集まりなさい。」


少年団の殆どの者が集まった。まだ貴族令嬢の遊びだと思っている者が多いという事だ。

集まった者を並ばせる。7歳から12歳までの少年達対7歳の少女。誰がどう見ても分が悪い。だがカロルとジョエルだけはカロルの勝利を確信していた。


「位置について、……始め!」


セドリックの合図に合わせて全員が走り出した。そして同時に全員が驚いた。カロルが全速力で走り出したのだ。

そのカロルを見て馬鹿にしたように笑い、余裕を持ったスピードで走り始める少年達。しかしその余裕はいつまでも続くものではなかった。





カロルに十周以上差をつけられ、少年達は負けを認めた。少年達はもう一歩も動けない程に疲れ果てているのに対し、カロルは鍛錬前と変わらない様子だ。汗はかいているし、剣を握った事で手は赤くなってはいたが。


「私の勝ち、という事でよろしいでしょうか?」


カロルはニッコリと笑って聞いた。少年達が声も出せない為に代わりにセドリックが答える。


「ああ。君の勝ちだ。年長の者も君には適わなかった。彼等も文句は無いだろう。…あったとしても、ついた勝負に因縁をつけるなどと騎士道精神に恥じる行いを、私は許さないよ。」


「それなら良かったです。それでは私はこれで失礼します。先生、皆様、ありがとうございました。」


カロルは礼をすると、ジョエルの方に歩いて行った。


「お兄様、お待たせしました。」


「お疲れ様。カロル、流石だね。」


屋敷周りのランニングに付き合わされた事があるジョエルは、カロルの疲れ知らずを知っていた。


「お前…どうなってるんだ?」


ジョエルの隣に居る少年に話しかけられる。赤い髪色をした、気の強そうな少年だ。


「えっと…お兄様、この方は…?」


「ああ、こいつはアンリ。デュラン侯爵家の三男で、私と一緒に王太子の側近候補として勉強している。」


「そうなのですね。失礼しました。私はカロル・ローランでございます。」


何という事だ…また兄によって王太子に近しい人物と出会ってしまった。今すぐ別れの挨拶をして帰りたい気持ちでいっぱいのカロルだが、そんな心中はおくびにも出さずにニッコリと笑った。


「しかしアンリ、君はいつも私が話している事を全く聞いてないようだね。前にカロルの、このすごい所を話した事があるんだけどな。」


ジョエルが迫力のある笑顔でアンリに詰め寄る。アンリは冷や汗をかきながら目を泳がせた。


「そ、そうだったか?あ、もう帰らないとな!じゃあジョエル、また明日城でな!カロル嬢も、また鍛錬で会おう!」


そう言ってアンリは逃げて行った。ジョエルとカロルは顔を見合わせて笑い、鍛錬場を後にした。


セドリックはその様子をずっと見ていた。本当に普通の令嬢に見える。だが先程の信じられない勝負を目にして、彼女が普通の令嬢だとは考えられなかった。鍛錬の後の勝負という事を抜きにしても、あの走りはおかしい。カロルは最初から最後まで、ずっと同じペースで、全速力で走っていたのだ。


セドリックは、自分が入団して以来初めて化け物が入って来たと思った。




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