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57・ヴィルフリートと街歩き





「カロル、今週末は空いているか?」


学園の食堂で昼食をとっていると、ヴィルフリートがカロルに話しかけた。カロルが答えるよりも早くリュシアンが反応する。


「ヴィルフリート殿下、婚約者が居る女性を誘うのはお止め下さい。」


「王都の案内を頼みたかっただけだ。二人きりではない。ヘンドリックも共に行く予定だ。」


リュシアンはヘンドリックを見た。ヘンドリックは、リュシアンとヴィルフリートの会話を困ったように見ているカロルに見蕩れている。カロルに見蕩れるのに忙しく、昼食が殆ど残っていた。あの武術大会以来いつもこの様子だ。カロルが食べ終わると慌てて掻っ込み後を追うのだ。その様子を見ていたリュシアンは、ヴィルフリートとヘンドリックとカロルを共に行かせる事など到底許可出来ないと思ったが、この後のカロルの発言によって許可せざるを得なくなった。


「ではウィリアムも誘いましょう。ヴィルフリート殿下もヘンドリック様もガルニエ王国は初めてでしょうから、色々見せて差し上げたいです。雪之丞達が居れば少し遠出も出来ますし。」


カロルは王都の案内を楽しみに感じているようで、笑顔で提案した。ウィリアムまで行くのかと暗い気持ちになりながらも、カロルの笑顔を曇らせまいと笑顔で送り出した。




週末の朝、寮の前で四人は待ち合わせていた。カロルが寮の前に行くと既にウィリアムが待っていた。


「おはようございます、ウィリアム。来て頂けて助かりました。」


「カロル、おはよう。まぁ予定も無かったし。何処に行く予定だ?」


「ヴィルポの街に行こうと思います。」


カロルの答えにウィリアムは顔を輝かせた。


「ヴィルポ!ヴィルポ・エデセーラか!いいね。俺も行きたかった!」


「朝焼けに夕焼け、夜景も美しいそうなのですが、今回は見れそうにありませんね。」


「でもあの有名な神殿群を見れるのは嬉しいよ。しかも日帰りでなんて。流石は空駆ける髑髏騎士様!」


カロルとウィリアムが話しているとヴィルフリートとヘンドリックが現れ、四人は雪之丞達に跨り飛び立った。カロルの後ろにはヴィルフリートが乗り、カロルの腰に優しく手を添えている。紳士らしく、あまりくっつき過ぎない様に気を付けているようだ。これがリュシアンであれば、ここぞとばかりにくっついてくるだろうとカロルは思い微笑んだ。


「ギードから聞いてはいたが、雪之丞殿の乗り心地は素晴らしいな。」


「ありがとうございます。雪之丞に力丸は、私の自慢の従魔です。」


雪之丞達を褒められて嬉しいカロルはヴィルフリートに振り向きながら微笑む。カロルは今日は鎧兜は身に付けてはいなかったが、軽装の冒険者のような格好をしていた。胸もサラシで巻いて男装をしている。しかしカロルの美しい微笑みにヴィルフリートは眩しそうに目を細めた。その様子を近くで力丸に乗って飛んでいたヘンドリックが羨ましそうに見ていた。


ヴィルポの街近くで雪之丞達から降り、街へ入った。街に入る前からヴィルポ・エデセーラが見えていた。ヴィルポの街と橋で繋がれたヴィルポ・エデセーラは神殿群が密集して建設されている島だ。海に浮いているような神殿群はそれはもう美しい景観だった。


「見事な景色だな。」


「夕焼けや夜景はもっと素晴らしいそうですよ。」


「では泊まっていこうか?」


「今夜はリュシアン様と約束がありますので。」


ヴィルフリートがニヤリと笑い提案するが、カロルはサラリと受け流した。


「全く執着心の強い男だ。」


「…心配性だとは思いますね。」


ヴィルフリートとカロルは笑い合った。カロルのリュシアンを想う笑顔を見て、ヴィルフリートは胸がチクリと痛むのを感じた。

ヴィルポ・エデセーラに渡る前に街の屋台で焼き栗とゴーフルを買って食べた。食べ歩きの好きなウィリアムの提案だったが、王族のヴィルフリートと貴族のヘンドリックも慣れた様子で食べ歩いていた。カロルもホクホクの焼き栗を美味しく頂き、四人はヴィルポ・エデセーラに向かって橋を渡った。

すっきりと晴れた秋の空は高く感じ、空気も澄んでいて観光日和だ。四人は島の入り口である高い門を潜り島内に入った。

メインストリートを通り神殿群へ向かう。メインストリートの両脇には土産物屋や料理店等の店が建ち並んでいる。可愛らしい看板も多く、カロルは目を惹かれた。

ヴィルポ・エデセーラの神殿群は、増改築を繰り返し行われた為、様々な建築様式が見られ独特の美しさを創り出している。神殿内に足を踏み入れると、高い天井に美しいステンドグラスの光の神秘的な美しさに、四人は感動し息を飲んだ。

この神殿群は様々な神に祈る為に建てられたものである為、各神殿にはそれぞれの神が祀られている。カロルは秩序の女神、愛の女神、戦いの神に祈りを捧げキャンドルを置いた。ウィリアムは勉学の神に、ヴィルフリートとヘンドリックは戦いの神に祈り、キャンドルを置いていた。


「卒業後に行われます、リュシアン様との結婚式にコンバグナ様が祝福にいらして下さる予定です。」


戦いの神の神殿内でカロルはヴィルフリートに伝えた。ヴィルフリートは驚いたように目を見開きカロルを見る。


「コンバグナ様が、カロル達の結婚を祝福している…?」


ヴィルフリートは考え込む。コンバグナが祝福する結婚に横槍を入れるのは、コンバグナの不興を買うのではないか。イザール国は国を挙げてコンバグナを崇拝している。その第一王子である自分が、コンバグナに目を付けられてしまう事は避けなければならない。

ヴィルフリートはカロルを見た。カロルは色とりどりのガラスに入れられたキャンドルを眺めている。キャンドルの灯りに照らされたその横顔はとても美しく、見蕩れてしまいそうになる。ヘンドリックなどは、キャンドルを置いてからずっと見蕩れていた。武術大会前の、あの射るような目付きは見る影もない。

欲しい物は何でも手に入れて来たヴィルフリートだったが、初めて惚れた女性には他国の王太子の婚約者が居て、更には自分の崇拝する戦いの神がこの二人の結婚を祝福している事を知り、初めて欲しい物を手に入れられない挫折感と失恋を同時に味わう事となった。ヴィルフリートはまだこの恋を諦める事を受け入れられないが、近い内にそうしなければならないと感じ始めた。ヴィルフリートはカロルの美しい横顔を、ヘンドリックとは違う、切ない気持ちで見つめた。


神殿での参拝を終え、一行は王都へ戻った。少し昼食の時間は過ぎてしまっていたが街の食堂で食事を済ませ、王都を観光した。夕方になり、街を夕日がオレンジ色に染めていく。観光の最後に王都の夕焼けを見せたいと雪之丞に乗って王都の空を飛んだ。


「良い景色だ。」


「ガルニエ観光、お楽しみ頂けましたか?」


「ああ。楽しめた、礼を言う。」


「それはよろしゅうございました。」


カロルのホッとしたような声色に、ヴィルフリートは抱き締めたくなる衝動に駆られたが、行動に起こす事は出来なかった。目の前に愛しい女性がいるのに、この腕に抱き締める事が出来ないのが切なく悲しかった。

景色を楽しんだ一行だったが、ヘンドリックとウィリアムは同乗したのが男性だった為に微妙な表情をしており、それを見たヴィルフリートは堪らず吹き出していた。夕食前に四人は寮へ戻り、今日の観光は終了した。

カロルはヴィルフリートとヘンドリックがガルニエ観光を楽しんでくれたようで安心し、夕食後にリュシアンの待つ城へ向かった。リュシアンの部屋に通されるとモンスター討伐後宛らの歓迎を受けた。


「カロル、大丈夫だったかい?何処に行って、どのような事をしたのか教えてくれるよね?」


カロルは包み隠さず今日の出来事を話した。雪之丞に同乗した際の紳士的な態度まで話し、それを聞いたリュシアンはカロルの腰にヴィルフリートが触れた事に内心歯ぎしりをしていた。


「ヴィルフリート殿下にヘンドリック君が楽しめたのなら良かったよ。カロルもウィリアム君も楽しかったようだしね。」


「そうですね。私もヴィルポ・エデセーラは初めてでしたので、楽しかったです。神殿群も美しかったですよ。」


カロルの嬉しそうな笑顔にリュシアンも微笑み返す。


「それは良かったね。結婚式後の週末は、そこで過ごそうか?」


リュシアンが甘みを増した笑顔で提案してきたが、カロルは少し頬を染めながら微笑み答えた。


「結婚式後の週末は、二人で静かに過ごしたいです。」


カロルの答えにリュシアンは極上の甘い微笑みを浮かべカロルにキスを降らせた。


「それがいい。二人だけでゆっくりしよう。」


リュシアンは優しくカロルを抱き締め耳元で囁く。


「今日は泊まっていく?」


「帰ります。また誤解を与える事になっては困りますので。」


カロルは眉尻を上げて断ったが、この件に関してはもう手遅れだった。しかしカロルは頑なだった。リュシアンは相変わらずのカロルを優しい表情で見送った。

誤字報告ありがとうございました!

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