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56・再会






武術大会の試合が終わり、表彰式が行われた。一位のアンリに、二位のルイ、三位には魔術科の六年生が表彰されている。アンリは団長に肩を叩かれ労われ、緊張で固まっていた。

カロルとウィリアムは観客席の後ろに立ち拍手をしながら見ていた。その時、カロルは王都に見知った気配が入るのを感じた。懐かしいその気配にカロルは早く会いに行きたくて落ち着かない。

閉会式まで無事に終了すると、カロルはすぐに寮に戻った。カロルに話し掛けたかった者が何人もいたが、武術大会で戦っている時以上のスピードで移動したカロルに話し掛けられる者はいなかった。

カロルは寮でシャワーを浴びて着替えると、ローラン家の屋敷に向かった。ゾエは城に行っているらしく、別の侍女に応接室で待っている事を伝えられた。急いで応接室に向かい、ノックをしてドアを開く。部屋にいた白茶色の髪の少女が振り向いた。


「美仁!」


「カロル!」


二人は抱き合い再会を喜んだ。あれから美仁の髪は伸びて、ポニーテールに縛ってある。そこにはコンチョが付けられていた。


「カロル、カッコ良くなったね!」


「かなり鍛えましたから。美仁は髪が伸びましたね。似合ってますよ。」


二人は笑い合う。カロルは筋肉がついてから、スカートは履かなくなった。今も男性用の服を着ている。制服もサイズが無いと、男性用を着用している。特注で作れるが、似合わないのでサイズが無いで通している。

カロルは美仁にばかり気を取られていたが、もう一人男性が居るのに気が付いた。濃い紫みの灰色の長い髪を無造作に一つに縛ってあり、暗く灰みがかった赤色の瞳の、少々目付きは悪いが、端正な顔立ちをした男だ。カロルは男性に礼をする。


「ご挨拶が遅れましたこと、お詫び申し上げます。私はカロル・ローラン、美仁様とは仲良くさせて頂いております。」


「ロンだ。」


男は名前だけを名乗る。かなり無愛想だ。美仁は苦笑してロンの隣に移動する。


「ロンは、私の使役してるドラゴンなの。無愛想でごめんね。」


ロンは美仁の言葉に眉を顰めている。カロルは目の前の男がドラゴンだという事に驚き目を見張る。


「ドラゴン…ですか?美仁…貴方は、やはり規格外ですね。」


ドラゴンはモンスターの中でも魔力量が頭抜けて高い種族の内の一つだ。人間と使役契約をしてもドラゴン側に何の利益も無い為、ドラゴンを使役するのは不可能に近いとカロルは翡翠から聞いていた。そもそもドラゴンに単体で挑もうとは思わない。


「使役した時は半日位戦ってたよね。いやぁあれは疲れたよ~。」


「疲れたのは儂の方だ。…しかもお前、儂の尻尾を切り離して売り払った挙句、儂の前で食べるなどと…!」


「ドラゴンステーキ!想像以上に美味しかったよ!」


ロンは使役契約の時の戦いを思い出し、顔を歪めて美仁を睨んでいる。何処吹く風の様子の美仁はステーキの味を思い出し、涎を垂らさんばかりだ。


「ドラゴンステーキ、気になりますね。」


「さっきお土産で渡したんだ。是非食べて!」


「ありがとうございます。美仁は今日、こちらに泊まって頂けるんですよね?」


「え?急に来たのに…大丈夫?いいの?」


「勿論です!でしたら私も今日はこちらに戻りますね。」


二人は会えなかった間の事や、これからの事を話した。ロンは話は聞いているようだったが、話に加わる事はしなかった。

美仁はロンを使役してからすぐに翠山を出て冒険者になったようだ。翡翠や数珠丸は元気にやっているらしい。カロルは翡翠達にも会いたかった。聞きたい事もあったからだ。

美仁がガルニエ王国に立ち寄ったのは、カロルに会う為だけだったらしい。美仁の旅の目的はブラゾス大陸の地獄に入る事だ。明日からブラゾス大陸に向かうそうだ。急ぐ旅では無いので、ゆっくり観光でもしながら行くと、美仁は言う。


夕食にはドラゴンステーキが出された。シャルルも寮から呼び戻し、久々に家族全員が顔を合わせて食事をとった。シャルルはリュシアンに、カロルも屋敷に戻るので明日は共に学園に行けないと伝えてあると腹黒い笑顔で言っている。そしてカロルには天使の笑顔で明日は一緒に学園に行こうと言う。カロルは、シャルルの二面性に少し戸惑いながらも頷いた。

ドラゴンステーキは、普段から美味しいものを食べているローラン家の者も驚く程の美味しさだった。礼を言われた美仁は、美形に注目された事もあり真っ赤になって恐縮していた。ロンの皿にもドラゴンステーキが乗っていて、憮然とした表情で食べていた。自分の尻尾も食べれるんだな、とカロルは妙に感心してしまった。


カロルと美仁は、夕食後も語らい続けた。転生や異世界に転移した二人だったが、カロルが学園で出会ったシャルロットが生前やっていたゲームの世界が、この世界なのだと言うと美仁は目を丸くしていた。美仁は日本でゲームを触った事が無かったので、更に訳が分からない様子だった。しかも、カロルが悪役令嬢で、婚約者に断罪され婚約破棄や投獄の可能性がある事を告げると、何かが繋がったように納得していた。美仁は貴族令嬢であるカロルが何故修行に来ていたのか分からなかったが、カロルが断罪後の事を考えていたのだと理解した。


「結婚式は卒業後なんだよね?」


「婚約破棄されなければ、ですけどね。都合が良ければ是非いらしてください。」


「絶対来るよ!カロルの花嫁姿、綺麗なんだろうな…。」


美仁は瞳を輝かせているが、カロルはドレスが似合わない事が分かっているので微妙な気持ちだった。恐らく、美仁の期待にもリュシアンの期待にも応えられない。しかも王太子の結婚式だ。国民の前にウェディングドレス姿で出なければならない。似合わないドレス姿を晒すのはかなり恥ずかしい。カロルは一年以上先の結婚式の事を考え震えた。




楽しい時間は過ぎるのが早く、別れの時が来てしまう。屋敷の門前でカロルと美仁は向かい合って別れを惜しんでいた。


「じゃあ!またね!」


美仁はそう言うとロンに後ろから抱き着くように腕を回してしがみついた。すると二人はカロル達の前から消える。カロルは上を見るとロンがドラゴンの姿に戻り飛んで行くのが見えた。


「ロンは赤竜だったのですね。」


「お姉様、あれが見えたのですか?」


シャルルには米粒程にしか見えない程の距離だった。ドラゴンが人里、しかも王都の近くに現れたとなると、大変な騒ぎになる為あんな上空で姿を変えたのだろう。


「お姉様のご友人には、常識外れな力を持つ方しかいらっしゃらないのですね…。シャルロット様も五つの精霊の加護持ちでいらっしゃいますし。」


「シャルル、よく知ってますね。」


カロルとシャルルは学園に向かいながら話をしている。小さかったシャルルも、もうカロルよりも背が高くなっていた。ふわふわの白銀の髪が天使のようだった子供の頃の名残を残している。母親似のシャルルは目尻が下がっていて甘い顔をしている。


「お姉様の事ですから。」


当然だと言うようにシャルルは微笑む。天使のような笑顔の裏に、昨夜の腹黒い笑みを見た気がしてカロルは笑顔を貼り付けたまま固まった。姉として慕ってくれているのは嬉しいのだが、カロルの友人の事まで詳しく知ってる事に動揺する。学園の門に着くとリュシアンが待っていた。シャルルはリュシアンの姿を確認すると瞳に暗い炎を灯した。


「おはよう。カロル、シャルル君。カロルは私がエスコートするから、シャルル君はここまでで良いよ。」


「おはようございます。リュシアン様。わざわざお待ち頂かなくとも、私の姉上は私がしっかりお送りしますのに。」


「いいや。カロルは私の大事な婚約者だからね。愛するカロルのエスコートを他の者にさせる訳にはいかないだろう?」


二人とも笑顔で話していたが、二人の周りを取り巻く空気は冷え切ったものだった。カロルは険悪な二人に戸惑うが、シャルルに別れを告げるとリュシアンと共に教室に向かった。


「リュシアン様…シャルルが失礼を致しました…。」


「カロル、気にしないで良いよ。シャルル君は大好きなお姉様を取られたくないのだろう。私もカロルみたいに素敵な女性が姉上だったら同じ気持ちになるだろうからね。」


リュシアンはこう言うが、シャルルがあの態度を続けるのは良くない。カロルは折を見てシャルルと話をしなければと思った。

教室に入るとヴィルフリートとヘンドリックがカロルの元にやって来た。


「おはよう、カロル。」


「おはようございます。カロル殿。」


カロルも笑顔で挨拶を返す。ヘンドリックの頬が少し赤みを帯びているのにリュシアンは気付いた。また敵が増えたのか、と胸中で零す。カロルは昨日まで自身に敵意を向けていた者でさえも虜にしてしまうのか。カロルの魅力に惚れ直しながらも厄介だと苦笑いをした。


「おはようございます、カロル様。昨日は凄かったです!私、カロル様があんなにお強いなんて知りませんでした。」


「おはようございます、シャルロット様。ありがとうございます。」


シャルロットはキラキラした目でカロルを見つめる。カロルは可愛らしいシャルロットに微笑み答える。リュシアンは二人を微笑み見ていたが、ウィリアムに次ぐライバルはシャルロットだと思っているので二人の会話を聞き逃さないよう耳を傾けていた。

二人は学期末の舞踏会の話題で盛り上がっている。


「私、カロル様のドレス姿楽しみなんです。きっとすごいお綺麗なんでしょうね…。」


シャルロットは夢を見るような表情でカロルを見上げた。カロルは困ったように笑う。


「ご期待に添えられるとは思いませんがドレスは着ます…。」


「それは楽しみだ。私にエスコートさせてくれないか?」


ヴィルフリートがカロルにぐっと近付き申し込んだ。するとリュシアンが二人の間に割り込む。


「カロルのエスコートは婚約者である私がしますので、他の方をお誘い下さい。」


微笑むリュシアンと不敵に笑うヴィルフリートが笑顔の下で睨み合う。今日はこんな事ばっかりだなと思いながらカロルは二人の様子を眺めた。


「カロル殿…よろしければ舞踏会で私とダンスを…。」


「ヘンドリック、何を抜け駆けしている。」


ヴィルフリートに睨まれヘンドリックは固まり、大きな体を小さくさせた。カロルはヘンドリックから敵意を向けられなくなった事に安心したが、新たな火種が生まれてしまったようだ。

シャルロットはこの状況に瞳をきらめかせている。カロルは静かにこの場を離れ、騎士科の生徒の元へ逃げた。その場でも少し揶揄われてしまい、カロルはため息をついた。

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