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55・武術大会


戦う表現があります。


ーーーーーーーーーー





武術大会の会場は、百メートル四方の正方形の闘技場を囲むように観客席が設けられている。正方形の闘技場の四方は、百メートル程の高さの透明な板のような物で囲われている。出場する者は両手首に魔石を組み込んだベルトを装着する事が決められていた。攻撃を受けると、魔石がダメージ量を計測し、透明な板に名前とダメージ量が表示される。カロルはこれを初めて見た時、格ゲーだ!と興奮した。前世では格闘ゲームはやらなかったが、見た事はあった。何にせよ、怪我の心配無く戦えるこの設備は素晴らしい発明だとカロルは思う。この魔石は、闘技場の中でしか使えない為に、外では攻撃を受けると普通に怪我をする。


カロルも両手首に魔石を装着し、髑髏兜を被り鎧を身に付けバルディッシュを背中に背負っていた。


「カロル、バルディッシュ変えたか?すごい重そうだな…。」


「先の連休中にダンジョンで手に入れた物です。使いやすくて気に入ってますよ。」


アンリが少し引いたように声を掛けてきた。カロルは大会でバルディッシュを振るうつもりは無かったが、一応持って来ていた。


「予選でカロルと同じグループに入らなくて良かったな。王太子の護衛が予選落ちなんて格好悪いからなー。」


「私は向かって来る方だけを相手しますから、無視したら良いんですよ。」


「それだと逃げてるみたいで、やっぱり格好悪いだろ?」


騎士道精神というものか、とカロルは納得する。大会に出て二年目からは予選でカロルに向かって来るのは騎士科の生徒ばかりだったと思い返す。予選は四つのグループに分けられ、それぞれ五人が勝ち抜けてトーナメント戦に入る。


一つ目のグループの試合が終わったようだ。勝者の五名が控え室に戻って来た。その中にヘンドリックも居た。余裕の笑みを浮かべてカロルの前に来る。


「カロル殿、勝ち上がって来て下さいね。」


「勿論です。」


カロルも髑髏兜の中で挑戦的に微笑み闘技場に向かった。アンリと手を振り別れる。カロルが闘技場に出ると、一際大きな歓声が上がる。カロルは闘技場の中心に立った。闘技場内には四十人程の生徒が居る。緊張した面持ちで開始の合図を待っていた。


「それでは…始め!」


騎士科の教師の声と共に闘技場内の生徒が動き出す。カロルも構えた。騎士科の生徒達がカロルの前に並ぶ。流石に騎士道精神なのか、後ろに回る者はいなかった。


「御手合わせ!お願いします!」


大剣を両手で構えた生徒がカロルに向かって来た。カロルは素早い動きで相手の懐に潜り込むと拳を胸に二発当てて蹴りを入れると、相手は闘技場の端まで吹き飛んだ。表示されるダメージ量が五千を越えたら脱落だ。先程飛ばされて端で寝ている生徒はダメージ量を超えてしまったので脱落である。次々とカロルに生徒達が向かって来る。最後の方は一対一ではなくなっていたが、カロルは無傷で予選を通過した。


「カロルお疲れ!」


「アンリ、頑張って下さいね。」


カロルと入れ替わりにアンリが三回戦に挑んで行った。カロルは控え室の隅でトーナメントが始まるのを待つ。途中でアンリも予選を通過したらしく戻って来た。


「団長と副団長も来てたな。」


「お二人共見にいらっしゃるのは珍しいですね。」


「騎士見習いの様子を見るとか言ってたけど、きっとカロルを見に来たんだろうなー。団長はカロルに騎士団を率いて貰いたいって考えてるみたいだし。」


カロルは顔を引き攣らせた。


「私は集団で戦うのに慣れておりませんのに…。今まで通りさせて頂きたいですね。」


「王妃様になってもやるのか?」


「公務がありますからね…。リュシアン様に側妃を娶って頂くか、私が側妃となるのが良いかと…。」


アンリは乾いた笑いを浮かべるとカロルの肩を叩く。


「それ、絶対にリュシアンに言うなよ。」


カロルが理由を聞こうとアンリを見るとトーナメント戦の組み合わせが発表された。一回戦目でカロルとヘンドリックが戦う事になっている。カロルはアンリと別れ闘技場入口に向かうとヘンドリックが既に待機していた。ヘンドリックがカロルを睨む。カロルも髑髏兜越しにヘンドリックを睨んだ。二人は睨み合っていたが、入場の合図を聞くと闘技場に向かった。


カロルとヘンドリックは五メートル程離れて向かい合い立っている。ヘンドリックは敵意を隠す事無くカロルを睨む。カロルは髑髏兜の下でニヤリと笑っていた。この無礼な男を、叩きのめす事が出来るのが嬉しい。

ここでカロルはハッとした。すごく、悪役令嬢っぽい考えをしている。カロルは深呼吸をした。既に試合開始の合図は鳴っていたがカロルは深呼吸を続ける。ヘンドリックは大剣を上から叩き付けるように振り下ろす。カロルは片手を上げて大剣を掴んで止めた。大剣にカロルの指先がめり込み穴が空いている。カロルは手を離して大剣を下ろした。ズシン、と大剣が地面に下ろされた。

ヘンドリックは驚いた表情でカロルを見ているが、カロルはまだ考え事をしている。叩きのめすのでは駄目だ。悪役令嬢っぽくない倒し方は無いか…。…いや、まず令嬢は戦わない。

ヘンドリックはダメージが表示される透明の壁を見たが、カロルのダメージはゼロのままだ。冷や汗が出るのを感じながらもう一度大剣を振り上げた。

カロルは考えながらもヘンドリックの攻撃を受け止める。そして意を決し、背負っていたバルディッシュを構えた。


「手加減無しで戦うのが良いかも知れませんね。」


そう言いながらも構えたままカロルは動かない。ヘンドリックは大剣での攻撃を全て片手で受け止めたカロルに怖気付いていたが、何とか気力を振り絞りカロルに攻撃した。

ヘンドリックは勢い良く大剣を横に振り重みのある一撃を繰り出した。カロルはそれを斧で突き勢いを止め、そのまま縫い付けるように大剣を地面にめり込ませる。カロルはバルディッシュを地面に立てたまま、大剣から手を離し体制を崩したヘンドリックに蹴りを入れた。予選でした蹴りとは違い、魔力を込めての攻撃に、ヘンドリックは目に見えぬ早さで飛ばされ透明な壁に激突した。

トーナメント戦では相手に二万以上のダメージを与えたら勝利となる。カロルは先程の蹴りでそれ以上のダメージを与えた為、この戦いではカロルの勝利となった。

カロルが気絶したヘンドリックに一礼すると観客席から歓声が上がる。女子生徒からの黄色い歓声にカロルは片手を上げて答えた。そしてバルディッシュを背中に背負い、大剣とヘンドリックを担ぐと控え室に戻って行った。


控え室に戻るとヴィルフリートが待っていた。カロルはヘンドリックをゆっくり降ろしベンチに寝かせる。するとヴィルフリートはヘンドリックの頬を力任せに叩き、目を覚まさせた。


「…ぅあ!な!何だ…!?」


ヘンドリックは飛び起き、ヴィルフリートとカロルの姿を確認すると、ベンチから降りて地面に跪いた。


「…カロル殿…完敗でございます。…数々の無礼な発言、申し訳ございませんでした。」


ヘンドリックの謝罪に、カロルは兜を脱ぎ答えた。


「過ぎた事です。ご理解頂けましたようで、安心いたしました。」


カロルは晴れやかな笑顔でヘンドリックを見た。誤解が解けて嬉しい。ヘンドリックはしばらくカロルの顔を面食らった顔で見ていた。


「成程これは…。」


そう呟くとヘンドリックは顔を赤らめて下を向いた。ヘンドリックの様子に気付いたヴィルフリートは慌てたようにヘンドリックを連れて出て行った。取り残されたカロルは二人の様子を不思議に思ったが、もうここには用はないので観客席に移動する事にした。

バルディッシュを背負っているので席に座らずに後ろの方に立ちリュシアンを探す。やはり、リュシアンは令嬢達に囲まれて観戦している。カロルはそのまま立って試合を見る事にした。


「カロル、お疲れ。」


ウィリアムがカロルに労いの言葉を掛ける。座って観戦していた筈だが、カロルに気付いて来てくれたらしい。


「試合中に考え事してただろ?」


「少し自分が怖くなりまして…。」


「強すぎて?」


ウィリアムが間髪入れずに言うのでカロルは笑ってしまう。


「私は悪い人間だな、と思ったんです。ヘンドリック様を叩きのめしてしまおうと考えてしまったんですよ…。」


「まぁ、蹴り飛ばしてるし、結果、そうなってるけどな。」


「あははは!そう。そうなんですけどね!」


カロルは屈託無く笑う。結果は同じでも、攻撃した時の気持ちが違うだけで試合後の心中も変わるものだ。歪な気持ちで攻撃しなくて良かった、しっかり相手と向き合って力を出して良かったと思う。だから今カロルはウィリアムの前で明るく笑える。


「しかし、すごい武器持ってるな。バルディッシュか?素材は何だ?」


「鑑定によるとドラゴンの骨らしいです。地獄のダンジョンで手に入れたんです。」


「地獄か。詳しく聞かせてくれないのか?」


カロルは別に構わなかったので、試合を見ながら地獄のダンジョンの事をウィリアムに話した。どんなモンスターがいたのか、ダンジョン内での食事、最下層のアークデーモンの事。


「腕、切られたんだってな。」


ウィリアムは低い声で言った。ウィリアムが知っていた事にカロルは驚く。


「ランディから聞いたのですね。」


「あんまり心配させるな。無事だったから良かったけど、そうじゃなかったら…。」


ウィリアムは苦虫を噛み潰したような表情になり、目を閉じるとしばらく黙ったままでいた。目を開けて、まだ少し怒っているような表情でカロルを見ると、カロルの頭に手を置いた。


「お前が居なくなったら悲しいし寂しいんだ。リュシアン様だけじゃない。俺だって、お前の事大事に思ってるんだからな。」


優しい声色で、乱暴に頭を撫でられてカロルはくすぐったい気持ちになった。


「心配かけて、すいません。ウィリアムは本当に、素敵なお兄様ですね。」


「妹の方が逞しく成長しちゃったから、お兄様の威厳が保たれないな。」


「お兄様の事頼りにしていますよ。力仕事はこの妹にお任せ下さい。」


談笑しながら観戦をしていると、最終試合が始まった。アンリと、魔術科の生徒のルイ・フランソワの二人が戦う。二人共実力者なので、どちらが勝ってもおかしくはない。

アンリは片手剣に盾を構えルイを素早く攻撃している。ルイは小さいファイアーボールをいくつも撃ち、時折強力な魔法を放っている。アンリは盾を構え魔法によるダメージを最小限に抑えながら隙を見てルイを攻撃する。ルイも強力な魔法は外さないように、盾で防御されないように考えながら発動している。拮抗した実力を持つ二人の戦いは、アンリの勝利によって幕を閉じた。

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