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54・悪役令嬢、喧嘩を買う






カロルが寮に戻ると、メイドから戻ったらリュシアンの部屋に来て欲しいと言付けを伝えられた。学園で怒ったような態度で別れてしまった為、謝らなければと自室を後にした。

部屋を訪れたカロルを固い表情のリュシアンが出迎える。カロルが座るとリュシアンがお茶を勧めてくれた。お茶を飲むと、隣に座ったリュシアンに手を握られる。


「カロル、先程はすまなかった。カロルの気持ちも考えずに、私は…。」


「いいえ、リュシアン。私も申し訳ございませんでした。あのような態度を取ってしまい、大変失礼を…。」


「いいや。私が悪かったのだから。カロルをヴィルフリート様に取られたくないと、わざとあのように言ったのだから。きっと噂にもなるだろう。そうすれば、カロルに懸想して、私からカロルを奪おうとする者も減るだろうね。」


リュシアンは腹黒い笑みを浮かべているが、カロルは自分を好きになる男性など、リュシアン以外にいないだろうと、リュシアンの心配は正直あまり意味がないだろうと思った。つまり、あの発言はただただカロルを辱めただけだ。カロルは横目でリュシアンを睨む。


「ヴィルフリート様は強い伴侶が居た方が国を治めやすいとのお考えから結婚を申し込んで来たのだと思いますよ…。」


「他国の王太子の婚約者にプロポーズをして、更に婚約解消を求めるなんて…。自由な方だとは聞いていたけど、これ程までとはね。平和な時代に、こののんびりした国相手だから問題にはならなかったけど、イザール国は何を考えているのだか。…父上も母上も、カロルはモテるねぇなんて笑い合って…。」


仏頂面をしたリュシアンはため息をつき目を閉じた。国同士で争う事は禁じられている。もしこの事を切欠にイザール国と不仲であると知られれば、聖女の騎士が現れる可能性がある。積極的に他国に攻め入っていた国は特に、聖女の騎士を恐れていた。聖女が姿を消してから50年経った頃、他国に攻め入った国があったが、現れた聖女の騎士に妨げられた。騎士の怒りは激しく、恐ろしいものだったという。戦争を起こせば聖女の騎士が現れると、各国の王族だけに伝えられていた。


カロルはリュシアンの頬に手を添える。リュシアンは、そのカロルの手を取りカロルをソファに押し倒し、耳元に唇を近付け熱い吐息を吹きかけながら囁いた。


「噂通りにしてしまおうか?」


「いけません。」


ピシャリと言ったカロルだったが、優しく両手でリュシアンの頬を包むとリュシアンの唇を食む。しばらくされるがままだったリュシアンだったが、カロルが音を立てて唇を離すと真っ赤な顔で抗議した。


「いけないって言いながら、何でこんな煽るの…。」


「…煽った訳では…。すいません、私はリュシアンとキスをするのが好きみたいです。」


カロルは謝ったが、リュシアンの目を潤んだ瞳で見つめたままだ。発言の可愛さと扇情的な表情を浮かべるカロルに理性の箍を外されそうになる。


「私も、カロルとキスをするのは好きだけど…。」


止まらなくなってしまうからね、と耳元で囁く。リュシアンはカロルを抱き締め、唇を耳に寄せたまま続けた。


「シャルロットさんと教室を出て行ったよね。彼女と何をしていたの?」


リュシアンは今もシャルロットをライバル視している。今日あの後シャルロットとカロルが仲を深めたのか気になっていた。


「街のカフェでお食事をしながらお話をしていました。シャルロット様とは仲良くなれそうです。」


「…そう。良かったね。」


カロルは嬉しそうに答えた。リュシアンは内心焦っているが、にこりと笑う。カロルに学園内で女性の友人が出来るのは嬉しいのだが、シャルロットにはカロルをとられてしまうのではとリュシアンは危機感を覚えていた。女性同士なので寮でも一緒に居られる。不安に駆られるリュシアンだったが、嬉しそうなカロルに水を差すことは出来なかった。




それからカロルとシャルロットは寮でも教室でも一緒に居る事が増えた。教室ではリュシアンもヴィルフリートと一緒だったが、リュシアンはシャルロットとヴィルフリートに警戒しながらも笑顔で対応していた。

そんなある日、いつも何も言わずにヴィルフリートの後ろにいるヘンドリックがカロルを見ているのに気付いた。それは見る、というよりも睨むと表現した方が正しい目付きだった。


「ヘンドリック君、カロルがどうかしましたか?」


ヘンドリックは咄嗟にカロルから目を離した。黙ったままでいるヘンドリックの代わりにヴィルフリートが口を開いた。


「ヘンドリック、まだカロルの実力を疑っているのか?カロルがいなければ、ワイバーン討伐は成らなかったのだぞ?」


「しかし殿下、250体ものワイバーンの討伐を短時間で、しかも一人で成し遂げるなど出来ましょうか。しかもこのような女人に…。」


カロルは何故ヘンドリックに敵意を向けられていたのか理解した。学園内でカロルの実力を疑う者は居なくなったが、今度は隣国から来た騎士見習いに疑われてしまったらしい。


「250体のうち50体は雪之丞達が討伐しましたので、私が討伐したのは200体程です。」


カロルはヴィルフリートとヘンドリックに数の訂正をした。それでも一人で討伐するには不可能に近い数字にヘンドリックは横目で睨むようにカロルを見た。カロルはヘンドリックの視線を真正面から受け止めた。


「失礼ですが、貴方はそれ程強く感じないのです。殿下と結婚する為に皆を欺いているのでは…?」


「…私にはリュシアン様という婚約者がいるのに、そのような事すると思いますか?」


カロルは不機嫌そうに眉を寄せてヘンドリックに質問した。ヘンドリックもカロルを睨み答える。


「心変わりしたのでは?リュシアン殿下よりもヴィルフリート殿下の方が強く逞しいですから。」


「私は殿方を強さで選んでいる訳ではありませんが…。」


「では何故あのような嘘を?」


「嘘はついておりません。」


「カロルは今年も武術大会に出るんだろ?」


カロルとヘンドリックは睨み合っている。二人の間に入るようにジャンが会話に割り込んだ。ヘンドリックはカロルからジャンに視線を移した。睨むような目付きに変化は無い。


「今年は出ない予定でしたが…。」


「出たらいいんじゃないか?ヘンドリック君も。戦ったら分かると思うぜ?」


ジャンはニコニコとカロルとヘンドリックを交互に見ながら提案した。ヘンドリックは自信があるような笑顔を浮かべる。


「俺は出るぞ。カロル殿は逃げるのか?」


「…ヘンドリック様とだけ戦うという事は出来るのでしょうか…?」


「出来るようにしよう。」


カロルの疑問にリュシアンは答えた。穏やかに笑っているが、先程からカロルを貶され、更には心変わりなどと聞き流す事が出来ない発言に内心怒っていた。


「ヘンドリック君はカロルと戦うだけで良いのですか?優勝を狙いますか?」


「そうだな。優勝するのも良いだろう。」


ヘンドリックは腕にかなりの自信があるようだ。リュシアンはヘンドリックの返事を聞き、カロルを見る。


「カロルはヘンドリック君と戦うだけで良いのだよね?予選には出て貰う事になると思うけど、良いかい?」


「はい。ヘンドリック様と戦ったら、その後の試合には出ません。」


「ははは!この御令嬢は俺に勝てる気でいるようだ!」


ヘンドリックは笑ったが、シャルロットを除いた教室内の生徒とヴィルフリートはカロルが勝つだろうと思った。ヘンドリックだけが、自分の勝利を確信していた。ヘンドリックはヴィルフリートの言葉も、騎士団でカロルの戦いを見た者の言葉も信じていなかったからだ。ヴィルフリートはヘンドリックを止めなかった。カロルの強さに疑問を持ち、事ある事に異を唱えてくる事に辟易していたので良い機会だと思ったからだ。

シャルロットは心配そうにカロルを見ていた。カロルはその視線に気付くと、シャルロットに向けて安心させるようにふわりと微笑んだ。シャルロットはカロルの強さを見た事が無かった。だから、いくらカロルが鍛えていようとヘンドリックのような巨漢を相手にするのは無理があると思えた。


「カロル様…ご無事をお祈り致しております。」


大会は一月後だというのに涙目でシャルロットはカロルに近付く。カロルはシャルロットの頭を優しく撫でる。シャルロットは潤んだ瞳でカロルを見上げたが、リュシアンが羨ましそうに見ているのに気付いた。リュシアンの溺愛ぶりにシャルロットは思わず笑ってしまった。その笑顔を違う意味に捉えたリュシアンは笑顔を貼り付けたまま心の中で歯を軋ませていた。


「私は負けませんよ。安心して見ていて下さい。それに、武術大会の設備のお陰で怪我をする事もございませんから。」


武術大会には錬金塔で開発された設備を使って行われる。この設備のお陰で毎年怪我人無く大会を終える事が出来ていた。

今年も武術大会に出場する事になってしまったカロルだったが、ずっと感じていたヘンドリックの敵意への対処の糸口が見つかった事にホッとした。敵意を向けられる事を気にしないようにしていたが、あまり気分の良いものではない。

カロルは武術大会に向けて特別なトレーニングは行わず、いつも通りのトレーニングをして過ごした。そして、大会の日がやってきた。

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