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5・魔術塔




そして月曜日、カロルは錬金塔の部屋の一つに居た。前回三つに分けられたチームの内の一つ、ミュージックプレイヤーのチームリーダーの部屋だ。リーダーのチエリは眼鏡を掛けて無精髭を生やし、少々くたびれた印象の男性だ。


チエリはくたびれたローブを脱いで無造作に丸めると部屋の隅にある物の山に投げた。彼はローブは外でしか着ないらしい。もしかしたら、他の錬金術師もそうなのかも知れない。まぁ、ローブをこんなにぞんざいに丸めるのは彼だけだろうが。

ローブを脱いだチエリは、カロルのトレーニングウェアと同じ物を着ていた。ズボンは違う物だったが。


カロルは目を見張った。こんな所でトレーニングウェアを見る事になるとは思わなかった。

チエリはカロルがミュージックプレイヤーの試作品を見ていると思っていたが、カロルの目線が自らの服に向いている事に気付いた。


「この服が気になります?これ、着やすいし動き易くて良いんだ~。何でもどこぞの侯爵令嬢様が考案なさったんだとか~。最近錬金塔でも着てる人居るよ。城内でも流行ってるらしいよ~。」


チエリは中々の情報通だ。この気安い性格もあって、城の侍女との噂話に花を咲かせたりしているからだ。

カロルも、デザイナーから権利の話が出た際に、このトレーニングウェアについて自由にして良いとは言ったが、まさか王城でこの服を見るとは思わなかった。


気を取り直して、ミュージックプレイヤーを見せて貰う事にした。


「さぁて。この音楽再生装置、録音したものを消去する機能を付ける為に、この粉を使ってみたんだ~。」


そう言って、チエリは黄緑色の粉が入った瓶を出した。


「まず、成功しているか見て貰おうかな~。」


チエリは再生ボタンを押した。このミュージックプレイヤーはスマートフォンをイメージして作ってあるので、魔石を薄い長方形にしており、ボタンも押し込むタイプでは無く画面に触れるだけで再生される。画面はとろりとした青色で、中央に白い三角が白く光っている。ええ~本日はお日柄も良く~、とチエリの雑談がミュージックプレイヤーから流れている。

チエリが画面に触れるとチエリの声が止まった。画面は初期画像に戻っており、上から録音、再生、消去とボタンがあり、再生以外のボタンは小さい。

そしてチエリが消去のボタンを押した。確認メッセージが映し出され、消去するを押す。最後に、消去されました。とメッセージが出た後初期画像に戻っていた。

再生ボタンを押してみると、録音されていません。と出た。


「うわあ!すごいです!これは!何ですか?この粉は?どうやったんですか?」


「あはははは!勿論説明するよ~。」


カロルは大興奮している。鼻息荒くチエリに詰め寄った。チエリはカロルを椅子に座らせ、自身も隣に並んで座る。


「じゃあまずは、この設計図から説明しよう。この魔力回路を組み立てている途中の、この段階に、この粉を使うんだ。この粉は忘却草から成分を抽出して作った薬なんだ。カロル君も忘却草を使って実験はしてみたみたいだね。」


「はい。でも、お薬を使う事は思い付きませんでした。」


「僕達錬金術師は何百パターンも素材を組み合わせて実験しているからね~。カロル君よりも経験だけは積んでいる。その経験が当たりを引く近道になったりするんだ。今回はビンゴだったね~。」


「本当に、すごいです!」


カロルは目を輝かせて説明を聞いている。チエリは飄々と続けた。


「で、この粉の使う分量は、これだけ。」


チエリが取り出したのは1g程。


「ここの回路にこの粉を入れていくんだけど、少し魔力操作が難しい。一緒にやってみよう。」


チエリが作っておいたらしい魔力回路に粉末を入れる作業をする。細かい魔力操作を何とかこなして、カロルもミュージックプレイヤーを完成させた。

動作確認も済み、カロルは大切そうに出来上がった魔石の板を撫でた。


「チエリ様、本当にありがとうございました。まさか、こんなに早く完成するなんて思ってもみなかったです。」


「いやいや~。ローラン侯爵様から話を聞いた時からずっと、この研究を手伝いたかったんだ~。ほんと、面白い発想だよね。もしかして、この音楽再生装置を更に昇華させた装置の事も考えたりしてる?」


チエリは悪戯っぽい表情で聞いてくる。可愛いオジサンだな、とカロルは思った。


「もしそうだったら、また手伝わせて貰いたいな~。」


「よろしいのですか?こんな嬉しいお申し出、断るはずがありません!」


カロルは頬を上気させ、チエリを見た。


「ローラン侯爵様はカロル君が作り出した物を売る事を考えているって聞いてる?一応錬金塔から発売する事になってるんだけど、勿論利益の何割かはローラン家とカロル君に入るようになるからね~。」


完全に寝耳に水である。趣味で作った物が商品になるとは。しかもジョルジュがカロル自身にもお金が入るようにしてくれる…冒険者になった時の資金に出来るかも知れない。


「じゃあ次に作る物の話は昼食の後にしようか。カロル君、城の食堂使った事ある?流石に王族と同じ物ではないけど、美味しいよ~。ゾエ君も一緒に来るよね?」


「勿論です。カロル様から離れる訳にはいきませんもの。」


「うふふ。今日は一緒に食べれるわね。」


いつも無表情なメイドは少しだけ嬉しそうに口角を上げた。







城の食堂はとても混雑していた。チエリのようにローブを着ている人、警備や近衛の騎士、文官、侍女や庭師等とさまざまな職種の人達が集まっている。

カロル達も空いている席を見つけ、料理を注文した。ガヤガヤと騒がしい中での食事は、街の食堂での食事を思い出した。最近は城に来ていたので、街に出かける事が無かった。錬金術の道具等はゾエが手を回して用意してくれているので、全く不便は無いのだが、時々は街に出掛けたい。


食事を終え、食後のお茶を飲んでいると、錬金術師のローブとは色の違うローブを来た人達に囲まれた。


「お食事中失礼します。カロル・ローラン様でいらっしゃいますか?」


「はい。そうですが…あの、あなた方は…?」


「私共は魔術塔の魔術師でございます。お話させて頂きたいのですが、よろしいでしょうか。」


「ええ~。今日は僕の番なんですよぉ~!あなた達は来週じゃないですかぁ~。」


チエリはぶーぶーと文句を言っている。話し方もそうだが、この人は本当に子供っぽい。


「チエリ殿…彼女の研究は、無魔力穴病以外の病にも応用出来る可能性があるのです。この話は早いに越した事はないのですよ。しかも、チエリ殿の担当はもう完成したと聞きましたよ。」


「次回作のお話をしようと思ってたんです~。…まぁいいや。でも3週間も待てないな~。あ、じゃあカロル君、手紙!手紙くれないかな?錬金塔の僕宛てにさ、次回作の構想を簡単で良いから。次会うまでの宿題みたいにさ。」


逆じゃないのか?私が宿題を出すのか?チエリは、出来れば来週までに!と続けた。宿題を出す宿題を与えられた…不思議な気分だ。


「では、午後はお譲りしますよ。今回だけですからね!」


そう言うとチエリは錬金塔へ帰って行った。魔術師はそんな彼を目線で見送ると、ため息をついてカロルへ向き直った。


「ここでは込み入った話も出来ませんので、私共の塔にお越し頂けますか。」


カロルが「はい。」と頷くと、魔術師は優しそうな笑顔でカロルを案内した。




魔術塔は錬金塔と同じく円柱形の建物だった。煉瓦の色が違う。錬金塔は赤茶色をしていて、魔術塔は灰色だ。

中に入ると色とりどりのランプが吊り下げられていて、何だか幻想的だ。


カロルが椅子に座って待っていると、先程の魔術師と錬金術師師長が共に入ってきた。


「急にお呼び立てして申し訳ございません。シモン錬金術師師長も、御足労頂きまして、ありがとうございます。」


「いえいえ、ルロワ魔術師師長。この研究の責任者は私という事になってますからな。それよりチエリ君が大騒ぎしてましたよ。」


「…あれは中々落ち着きませんな。あれ程優秀でなければ今頃追い出されておりましょう。」


錬金術師師長と魔術師師長は仲が良さそうだ。


「さて、カロル君。無魔力穴病対策の装飾品なんだが、魔術塔との共同研究をする事になったんだ。で、研究に参加したいと名乗りを上げたのが、私とこちらのルロワ魔術師師長だ。」


「はい。師長様お二人に協力して頂けるなら、とても心強いです。ありがとうございます。」


「いえいえ、カロル様。私は参加させて頂けて本当に嬉しいと思っているのですよ。先程もお話させて頂きましたが貴方様の研究は、他の魔力病にも有効の可能性がありまして、カロル様といち早く話をせねばと思ったのです。」


そう言うと、魔術師師長は書類を並べた。


「魔力病はその殆どが産まれた時からの病気です。あまり起こらない病気ですので、この病気の対策が真剣に行われてきませんでした。」


そうよね…。シャルルだって治療という治療も無く、寝ているだけだった。


「そこに画期的な研究を持って貴方様が現れました。この資料にあります魔力病を見て、思う事はありませんか?」


カロルは魔力病の一覧を見て考えた。魔力穴が無かったり、そもそも魔力が作られなかったり、魔力が作られすぎてしまったり、魔力穴が多すぎたり…。


「そうですね、この二つの病気は今作っている物で対応出来ると思います。他に、魔力が作られないのは、魔力臓が無かったり動かなかったりだという事ですよね?他に体調不良等は無いとの事ですので、これは他のアプローチが必要かと思います。例えば今現在生活に必要な道具は魔力を使って動かす物が多いですが、魔力無しでも使える物を作る…とかですかね。あまり需要は無いでしょうか…?」


カロルはうーん、と唸る。需要は無いかも知れないが、魔力の無い人は、料理の為や夜灯りを灯す為に火を付けるだけでも、他人の力を借りなければならない。そんな生活は辛いだろう…。


「魔力穴が多すぎる病気の方は、あまり使われない魔力穴を塞ぐ装飾品を作る…でしょうか?その場合は魔力穴を塞いでしまった後の不具合を経過観察する必要がありますよね…。んー…。それか、魔力出力低下の呪いの装飾品を作る…でしょうか…?」


カロルは眉を寄せて二人を見た。二人は目を見開きカロルを見つめている。


「…これは驚きました。私が質問した事以上の答えを用意してくださるとは…。貴方様を7歳の少女だと思わない方が良いですね。」


魔術師師長は後半はにこやかに笑いながら言った。


「それでは、カロル君が答えてくれた物について、どう研究していくかを計画しよう。」

誤字報告ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
録音機能より切り替わる画面の方がすごい気がする 画面が存在するなら技術レベル的に録音装置はとっくに存在してそうだが
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