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49・戦いの神






最下層でカロルを待っていた戦いの神コンバグナは上半身裸で農民が履くような布製のズボンにブーツだけを身に纏っていた。自身が強すぎる為にいつも武器も持たず防具も身に付けずに戦っているらしい。薄墨色の髪は獅子の鬣のようで、焦げ茶色の瞳は自信に満ち溢れている。顔や体には赤い戦化粧を施している。

マクシムは宗教画で見たコンバグナそのままの実物に感激している。冒険者にとって戦いの神は崇拝の対象だった。勿論マクシムもコンバグナを崇拝していた。


「やっぱ俺の勘はよく当たるな。待ってて正解だった。」


コンバグナは豪快に笑う。カロルは跪いたまま頭を下げる。


「私の事をお待ち頂きまして、ありがとうございます。これで、約束の三度目です。私の願いを聞いて頂けますか?」


「ああ。そのつもりで待ってたからな。願いとは何だ?」


コンバグナは笑顔でカロルに聞いた。カロルが初めてコンバグナに会ったのはダンジョン内だった。他の冒険者に会う事は珍しい事では無いのだが、一人だけで潜っている冒険者は見ない。だからカロルは気になって声を掛けたのだ。何故一人なのかを聞くとコンバグナは戦う為だけにダンジョンに潜っているからだと答えた。そしてカロルは自分が声を掛けたのが戦いの神だと気付くと非礼を詫びた。コンバグナはカロルを笑って許し、三度自分を見付ける事が出来たら願いを叶えてやると言ったのだった。そして最近のカロルはコンバグナを見付ける為にダンジョンに潜っていた。そして今回が三度目だ。


「コンバグナ様。二年後の私の結婚式に参加して頂けませんか?」


「え?」


予想外の願いにコンバグナは間抜けな声を出した。


「俺の加護が欲しいとか、そういうのはいらんのか?」


「勿論、コンバグナ様の加護はとても魅力的です。…ですが、私が王太子妃として国民に認められるには、もっと分かりやすいものが必要なのです…。」


カロルは街での噂を知っていた。学園でも流れた噂が今、国内で、平民にも、貴族達の間にも流れている。二年前までは貴族達の間だけだったが、今では平民もこの噂をしている。神が直接結婚式に参列していれば、この結婚は神に祝福されているものなのだと、国民は信じるだろう。実際にコンバグナが祝福をする訳ではないが、コンバグナが出席しているというだけで国民のカロルに対する評価は変わるはずだ。


「…そうか。分かった。では望み通りカロルの結婚式に出席するとしよう。」


コンバグナはカロルの事情など知る由もないが、カロルの望みなのならと受け入れた。カロルは安堵する。そして深々と頭を下げた。


「ありがとうございます、コンバグナ様。」


「美味いもん用意しとけよ。じゃ、俺は行く。カロル、ご苦労だったな。」


そう言うとコンバグナは消えた。カロルはコンバグナが消えた方に向き深く礼をする。そして頭を上げるとランディとマクシムに向き直った。


「二人とも、お付き合い下さりありがとうございました。」


カロルは二人に向かって晴れやかに笑う。ランディはカロルの背中を叩く。


「良かったな!やっぱりここで会えたな。しかし、リュシアン様との結婚の為にダンジョンに潜ってたなんて、カロルって…。」


「それ以上言わないで下さい…。」


カロルは髑髏兜の中で赤くなる。マクシムは二人のやり取りを見て意識を取り戻した。


「お嬢様はコンバグナ様ともお知り合いだったンスね…。しかも結婚式に来られるなんて…冒険者仲間に教えてやンねーと!」


マクシムは興奮した様子だ。


「そうですね。コンバグナ様も中々お会い出来ない神様ですからね。」


コンバグナが地上に降りて来る事は珍しくは無いのだが、ダンジョンで戦う事が目的の為中々会う事は出来ない。カロルは運が良かった、と思う。


「では、外に出ましょう。」


カロル達は転移岩に触れ、ダンジョンの地下深くから地上に転移した。


地上に戻り冒険者支援協会の建物に移動する。ダンジョン内で得た装飾品や武具の鑑定を依頼する。鑑定結果は明日になるらしいので、ランディはクエストカウンターに向かった。


「ダンジョンの情報を売りたいんだけど。」


「…はい。どのような情報でしょうか。」


「最下層までの地図と宝箱の場所と出現モンスターです。」


受付はランディを見て訝しげな表情を浮かべる。目の前の三人組よりも強そうな冒険者達でさえ最下層まで辿り着けていないのに、この三人組が最下層までの情報を持っているなんて。しかし受付はマニュアル通りランディ達を奥に通した。

奥の部屋で協会の職員に情報提供をする。その間、職員はランディの情報を水晶越しに見る。嘘の情報であれば、この水晶に暴かれるらしい。


「便利な魔道具ですね。」


「冒険者カードを開発した錬金術師が開発したのですよ。」


カロルが感心していると、職員が笑顔で答えた。協会の秘匿している錬金術師は、本当に天才だとカロルは思った。


「では全て確認出来ました。地獄を攻略なさったのですね。おめでとうございます。情報料を用意しますので、少しお待ち下さい。」


職員は礼をすると部屋から出て行った。暫くすると体格の良い大男を連れて来た。腕や脚などカロルの倍以上ありそうだ。大男はカロル達を見て目を丸くする。


「地獄を攻略したのはお前達か…?」


信じられないといった表情でカロル達を見た。


「実際に戦ってたのはコイツだけどな。」


ランディはカロルを指す。大男は更に驚いた。


「俺はお荷物で、こっちは罠解除係だ。」


マクシムは自虐を織り交ぜ紹介した。そんなマクシムをカロルは横目で睨む。


「マクシム、そのように仰らないで下さい。」


そんな会話をしている三人を見ながら大男は地獄の情報を纏めた資料を確認する。


「って事ぁ、髑髏兜のアンタが一人でこのモンスター達を倒してったってのか…?」


「はい。そうです。」


「そうか…。」


大男は考え込むような表情をする。カロルは嫌な予感がした。明日鑑定が終わればすぐにでも帰りたいのだが、一人で攻略した事を訝しんでいるらしい職員達に邪魔されるのではないか。カロルが髑髏兜の中で難しい顔をしていると大男が口を開いた。


「お前の腕を見込んで頼みがある。」


大男は真剣な眼差しでカロルを見た。カロルも髑髏兜の中で真剣な顔をして頷く。どうやら大男は地獄攻略について疑惑を持った訳では無いようだ。


「イザール国北部のイルムの街近くの沼地でワイバーンが大量発生した。騎士団も冒険者も戦っているんだが、沼地という事もあり、苦戦しているらしい。助けてくれないか?」


「ワイバーンですか。何体倒せば良いですか?」


カロルは請け負う事にした。ワイバーンは中級モンスターだが、大量発生に加え沼地での戦いは難しい。騎士団のマーカルゴラ騎兵隊も苦戦しているのだろうか。


「受けてくれるか!有難い。沼の奥地に居るワイバーンを三十体程倒して欲しい。」


「分かりました。では明日そちらに向かいます。」


「いや、それでは遅すぎる。今すぐにでも発って欲しい。俺も同行する。」


大男は焦りを見せる。それ程までに酷い状況なのだろうか。


「分かりました…。今鑑定に出しているバルディッシュを先に鑑定して頂けませんか?使ってみたいのですが…。」


「最下層で手に入れたという武器か?俺も気になるな。では一緒に行こう。あ、君達は情報料を受け取り、この方の帰りを待ってくれ。」


大男がカロルを連れて部屋を出ようとするが、カロルは振り返る。


「マクシム、ランディ、すぐに終わらせて帰ります。すいませんが、お待ち下さい。」


「お気を付けて下さいね。」


「カロルなら大丈夫だって!じゃあ宿で待ってるぜ!」


二人に見送られカロルと大男は鑑定カウンターに向かった。カウンターに座った受付は大男を見て背筋を伸ばす。


「すまんが、この方が鑑定依頼したバルディッシュの鑑定を急いでくれるか?」


大男がそう言うと、受付は急いで奥へ下がり少しするとバルディッシュを持って出てきた。


「お待たせ致しました。こちらのバルディッシュ、他に見ない名品でございます。素材は竜の骨で出来ており、耐久度は鉄製のものを遥かに超えます。刃の部分が厚みがあるので、切れ味よりもハンマーのように叩きつけて攻撃するもののようです。かなり重いですので、扱いは難しいものですね。」


「ありがとうございます。」


カロルは鑑定料を支払いバルディッシュを受け取った。今回はこの竜の骨で出来たバルディッシュを使ってみよう。そう思い、背負っていたバルディッシュと交換する。背負っていたものは荷物と一緒にマクシム達に預けるようにした。


「カロル殿…と呼べば良いか?少しそのバルディッシュを持たせてくれないか?」


「…髑髏兜でも構いませんよ。では、どうぞ。」


カロルはバルディッシュを大男に渡した。大男は両手でバルディッシュを受け取ると縦にしたり構えたりしている。


「これが最下層で出てきた武器なのか。…しかし重いな。」


大男はバルディッシュをカロルに返し、こう言った。


「俺はイザール国の第一王子の護衛の一人、ギードってもんだ。大量発生したワイバーン討伐に第一王子が騎士団の指揮に選ばれたんだが…出動出来るマーカルゴラ騎兵の数が余りにも少なくてな…。ここなら手練の冒険者も集まってるだろうと依頼しに来たんだ。」


「第一王子が騎士団を指揮、ですか…。」


「イザールは戦闘民族の国だからな。国王になられる者に、それなりの力を求めるんだ。」


戦争していた時代に強い力を誇示してしたイザール国、そしてイザール国はガルニエ王国よりも強いモンスターが出る。戦争が終わっても強い長を求める事に変わりは無いらしい。


「今回のマーカルゴラ騎兵の数は恐らく他の王子を支持する派閥の者による策略なんだろうが…ヴィルフリート殿下はそんな事で折れたりしない。カロル殿、急いで向かおう。」


他の国は後継者争いが激しかったりするのだな、とカロルは思った。ガルニエ王国はその辺りのんびりしている。リュシアンは弟のリシャールと仲が良く、リシャールも国王になるリュシアンを支えたいと思っている。


「分かりました。ギード殿はウォラーグに乗って下さい。貴方のマーカルゴラは部下の方に任せて下さい。」


自分のマーカルゴラで向かいたかったギードは不満を漏らすが、カロルに、早く着きたいのでしょう?と言われ渋々従った。そして一瞬で目の前から消えた雪之丞達に目を丸くしたギードの部下達は慌ててマーカルゴラに跨りイルムの街に向け飛び立った。

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