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48・地獄3


残酷な表現があります。


ーーーーーーーーーー






カロル達は三十階層目に入り、ホールへと進んだ。すると空間を割いて鋼色をしたものが現れた。額から生えた角は後ろに向かって曲がっており、背中からは竜の羽が生え、竜の尾も生えている。筋肉質な肉体はとても硬そうだ。老人のような無表情の顔がカロルを見ると、挑発的に笑った。翼を広げ咆哮すると、周囲に氷の塊が出現する。氷の塊が飛んでくるのを走って避けながらカロルは叫んだ。


「雪!(りき)!私は魔力をこちらで全部使います!二人をお願いします!」


雪之丞と力丸はいつ攻撃がこちらに向かっても動けるように身構えた。


「…どゆ事スか?」


「カロルの守りが無くなったという事です。あのモンスターはそれ程の相手なのでしょう。」


マクシムの疑問に力丸が答えた。今までカロルは魔力をマクシムとランディを守る魔力障壁を張る事にも使っていた。


「俺は足引っ張ってばかりだったンじゃねぇか…。でも、それ程の相手って…。」


マクシムはカロルから知らぬ間に守られていた事に驚き、そして自分の不甲斐なさに情けなくなる。


「あれはアークデーモンだな。グレーターデーモンにあの術は使えまい。」


緊張した様子の雪之丞が答えた。今カロルは地面から伸びる黒い蔦から逃げている所だ。カロルの足に蔦が伸び、今にも届きそうだ。それをバルディッシュで斬り、阻止する。そこにアークデーモンが腕を振りかぶり突っ込んで来た。カロルはそれを後ろに跳ぶように避けた。地面から伸びる黒い蔦は消えていた。数分で消える魔法のようだ。

避けたカロルに更に攻撃を加えようとアークデーモンが距離を詰め、腕を振り上げた。しかしそれをカロルが練っていた魔力球が阻止する。魔力球に込められた無数の刃が回転しアークデーモンの体を傷付けるが、大したダメージではないようだ。しかし少しだけアークデーモンの動きを止める事が出来た。カロルは走って距離をとりながら魔力の針を大量に作り出す。

そしてアークデーモンの攻撃を避けながらカロルは考える。何処に当てればよりダメージを与えられる?この鋼色のデーモンの肉体は強靭で、先程の魔力球ですらかすり傷しか与えられていない。カロルはアークデーモンの炎のブレスを避けながら、長さ三十センチ程に成長した魔力の針をアークデーモンに飛ばす。無数の針はアークデーモンの全身に刺さるが、余り深くまで刺さらない。唯一ブレスを吐いていて大きく開いていた口の中に入った針は他のものよりも深く突き刺さったようだ。

アークデーモンはカロルに与えられるダメージなど気にならないようで、カロルに次々と攻撃をする。カロルはバルディッシュを両手で持ち、いつもより多めの魔力でバルディッシュを覆った。アークデーモンの攻撃を避けては一撃を入れる事を繰り返す。魔力だけで攻撃するよりも、バルディッシュで攻撃する方が効いているようだ。

カロルはアークデーモンの攻撃を避けていたが、思いもよらぬ方向から攻撃を受けた。カロルはよろけたが、すぐに後ろに飛び退き距離をとった。アークデーモンの尻尾が揺れている。あれに打たれたようだ。かなり重い攻撃だった。長い尻尾は死角から攻撃してくる。尻尾の向きや動きにも注意して立ち回らなければならない。

アークデーモンは雷の矢を降らせてきた。そしてアークデーモンも上空から突っ込んで来る。カロルは走って避けて、また一太刀入れる。そして円盤型に練り上げた魔力盤をアークデーモンに当てた。円盤の周りに刃がついており、それが回転してアークデーモンを傷付ける。カロルは後ろに飛び退いたが、アークデーモンが炎の矢を撃ちカロルの左腕に当てた。炎の矢はカロルの腕を貫通する。腕の痛みが左半身に広がり、焼ける熱さに叫び声を上げそうになりながらも耐え、その後も続くアークデーモンの攻撃を避けながら上級タブレットポーションを飲んだ。

カロルはその後も攻撃を避けては一太刀入れる事を繰り返す。アークデーモンは傷付き血を流しているが、傷みを感じている様子は無い。カロルは時々攻撃を受けると上級タブレットポーションや魔力のタブレットポーションを飲む。そしてその間、魔力盤を作り続けた。アークデーモンとカロルから離れた所に無数に作られ回転しながら出番を待ち浮いている。

アークデーモンは流れるように攻撃して来た。拳を突き出し、爪で引っ掻くように腕を振り、蹴りを放ち、時間差で尻尾が飛んでくる。カロルはその尻尾を受け止めた。尻尾を掴んだまま魔力球を尻尾に当てる。アークデーモンはカロルの左腕を掴んだ。握り潰されそうな程力強く掴まれ、カロルの顔が歪む。そして掴まれた左腕がアークデーモンの手刀によりカロルの体から切り離された。


「っ……………っ!っ!」


カロルは声にならない叫び声をあげ後ろに倒れた。その瞬間魔力盤が回転しながら四方八方からアークデーモンに襲いかかる。アークデーモンを覆う程の数の魔力盤が回転しながらアークデーモンの体を削っていく。魔力盤が消えると次の魔力盤が襲いかかる。カロルは腕を切断された痛みが凄まじく目がチカチカしている。魔力盤が波状攻撃をしている間にカロルは最上級ポーションを飲み、左腕を回復した。魔力のタブレットポーションも飲み、バルディッシュに魔力を込める。作り出した全ての魔力盤が攻撃を終えて消えた所にカロルは最大の魔力を込めたバルディッシュでアークデーモンの胸部を打った。アークデーモンの胸は抉られ、心臓が潰れた。カロルは力無く倒れるアークデーモンから離れながら魔力を練る。


「まだだ。まだ降りるな!」


雪之丞がマクシムに言っているのが聞こえた。マクシムはカロルが腕を切られて、すぐにでも駆け寄りたかったが耐えていた。自分が行く事でカロルの邪魔になる事が分かっていたからだ。雪之丞に言われ、マクシムは雪之丞の背に留まり耐える。まだアークデーモンは討伐出来ていない。デーモンは胸と頭両方を潰さなければ死なない。

アークデーモンは揺らりと浮かび上がる。体は力無くダラリとしているが、目は怒りに燃えていた。炎の矢がカロルに降り注ぎ、地面からは黒い蔦がカロルを追う。カロルは走り矢を避け蔦を狩るが、炎の矢が尽きると雷の矢が降り始めた。カロルは走り続ける。矢を避けながらアークデーモンに魔力の槍を投げる。魔力槍はアークデーモンの頭に命中するが、大したダメージは与えられていないようだ。

アークデーモンは四メートル程の高さに浮いている。カロルがジャンプして、辛うじて届きそうな距離だ。宙に浮いたアークデーモンから直径一メートル程の火球が放たれた。火球は次々に作られ放たれる。カロルは火球を避けると地を蹴り高く跳んだ。アークデーモンの角を掴むと下に引っ張り上を向かせ、口の中に魔力の槍を刺した。まだ頭を潰せていないが、アークデーモンとカロルは落下する。落下しながらカロルはバルディッシュを構え、頭を狙った。アークデーモンが地面に衝突すると同時にカロルはアークデーモンの頭上にバルディッシュを両手で持ったまま落ちた。アークデーモンの頭は破壊され、最下層での戦いは終了した。

カロルは上級タブレットポーションと魔力タブレットポーションを飲む。そして切り離された左腕を拾うと、鎧と袖を取り外し、装着した。


「お嬢様!」


マクシムが雪之丞から降りて走って来る。泣くのを堪えているようで、鼻声だ。


「お嬢様…!よく…、良がっだ…。…俺は、ああ、腕が…!…ああ、良かっだぁ…。」


支離滅裂だが、マクシムはカロルの無事を喜んでいる。ランディはというと、力丸の上で号泣していた。カロルの勝利を見て安心したら涙が止まらなくなってしまったようだ。


「…お二人共、心配をおかけしてすいませんでした。」


「ほんとだよ!カロル!俺は!カロルが死んじまったらって…!…怖かったぁ…。」


ランディは力丸から降りてカロルに駆け寄り、カロルを抱き締めながら泣いた。カロルもアークデーモンは怖かった。命懸けで戦い勝利して、達成感と安堵で心が満ち満ちている。


「さあランディ、次は貴方の仕事ですよ。」


「…ああ。任せておけ。」


カロルに背中を叩かれたランディは涙に濡れた青鈍色の瞳を輝かせて答えると宝箱に向かった。カロルはアークデーモンが落としたアイテムを拾う。角や爪、黒い液体の入った瓶に大きな魔石がゴロゴロと落ちている。全て拾い終えると、ランディの元へ向かった。

ランディは次々と宝箱を開けている。ランディは今一際大きい宝箱を開けている最中だ。カロルが中で寝てもまだ余裕がありそうな程に大きい。ランディが宝箱を開くと、カロルも中を覗き込む。そこにはバルディッシュが置いてあった。ゴツゴツとしていて厚みがあり、カロルのバルディッシュよりも重そうだ。カロルはバルディッシュを手に取った。


「意外と軽いですね。」


カロルはバルディッシュを振ってみた。今使っているバルディッシュとそう変わらない。しかし金属ではないこのバルディッシュ、素材は何なのだろうか?


「鑑定して、使えそうなら使いたいですね。」


カロルはバルディッシュを雪之丞の荷物に括り付けた。そして外に出ようと奥の転移岩を見て固まった。

転移岩の前に大男が立っていた。その大男はカロルを見てニヤッと笑った。


「おう。久しぶりだな。待ってたぜ、カロル。」


「お久しぶりでございます。コンバグナ様。」


カロルはコンバグナの前に跪き挨拶した。カロルはずっと会いたかった、戦いの神コンバグナに地獄の最下層で再会する事が出来た。

誤字報告ありがとうございました。

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