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44・民家の夜






リュシアンは机に置かれた物がキラリと光るのに気付き、そちらを見た。そこにはウエストバッグに付けられたスケルトンケースの懐中時計があった。針が灯りに反射して光ったようだ。リュシアンは机に向かい、懐中時計を手に取った。


「リュッリュシアン!それは…。」


カロルは慌ててリュシアンと机の間に割り込む。赤い顔でリュシアンを見る。


「あの、これは…。」


リュシアンは長い指でカロルの顎を持ち上げると口付けた。カロルは優しく唇や舌を貪られる。リュシアンはそのままカロルを抱き上げベッドに移動した。カロルはリュシアンが自分を抱き上げた事に驚く。筋肉質なカロルは重い。鍛えているのは知っていたが、自分を持ち上げられる程とは知らなかった。

ベッドの上でも唇を舐られ続け、カロルの表情は蕩ける。


「…カロル、いつから?」


リュシアンはキスをしながらカロルに問う。何だか嬉しそうだ。


「いつから持ってるの?」


リュシアンの唇が移動してカロルの首に吸い付いている。


「…婚約式の時から…です。…ぁっ…。」


恥ずかしい声が出てしまい、カロルは真っ赤になる。そして思い出した。今日はクエストに出ていた…シャワーも浴びていない。


「…ん…リュシアン!ダメ…です…!」


カロルは上にのしかかっていたリュシアンを押しのけた。押しのけられてベッドに座るリュシアンはまだ甘い笑顔で熱くカロルを見つめている。


「カロルのくれた懐中時計は、お揃いだったんだね。ずっと、同じ物を持っていたんだ…。」


リュシアンはベッドに座るカロルに再度近付き、耳元で囁く。カロルは内緒でお揃いの物を持っていた事がバレてしまい、大穴に飛び込みたい位恥ずかしかった。真っ赤なカロルの頬に耳にリュシアンは音を立てて口付けを降らす。


「…何でこんなに可愛いの…。」


「や…あっ……お止め下さい…。」


国一番の戦士も、リュシアンには弱い。そんなカロルをリュシアンはきつく抱き締め、耳元で囁く。


「ね、もういいでしょ?…これ以上我慢出来ないよ…。」


リュシアンの色っぽい囁きにカロルはクラクラした。しかし気を強く持ち断る。


「…ダメです…。結婚するまでは、いけません。」


乱れた髪に火照った頬に首元、眉根を寄せた表情のカロルは、リュシアンには煽っているようにしか見えない。


「カロルは酷いな…。煽ってる癖に、断るんだから…。」


「あ…煽ってなどいません!」


カロルは焦ったように否定した。リュシアンは優しく微笑みカロルを見る。


「カロル、可愛い。ちゃんと待つから、今日は抱き締めて寝させて?」


「え?帰らないのですか?」


カロルは吃驚してリュシアンを見た。この小さな民家に、王太子が寝泊まりするなど、カロルには考えられない。


「今日はカロルの所に泊まると言ってあるから。」


そう言うとリュシアンは極上の笑みを浮かべ、カロルの頬に口付けた。カロルは混乱している。自分の所で一夜を明かすと伝えてあるなんて…リュシアンとカロルが体の関係を持ったと誤解されてしまいそうだ。何故許可が降りたのか…カロルは次に登城する際、どんな顔をして行けば良いのか分からない。しかもこの狭いベッドで二人で寝るだなんて、抱き締められて寝るだなんて…カロルの頭の中はぐるぐるしている。大混乱だ。


「カロル?私は今日の為に頑張ったんだ。この二日休む為にね。だから、せめて一緒に居させて?」


リュシアンはカロルを抱き締めたままカロルの髪を撫でる。カロルは真っ赤になりながらも、黙って頷いた。それを見たリュシアンは嬉しそうに笑い、カロルにキスをした。


「リュシアンは、夕食は頂きましたか?」


カロルは夕食がまだだ。とりあえずお腹を満たしたい。


「いや、まだだよ。お腹、空いたね。」


「近くに食堂がありますので、行きませんか?」


「うん。行こうか。」


リュシアンはローブを羽織る。カロルもウエストバッグと片手剣を持ち、マントを羽織り家を出た。


食事を済ませ、家に戻るとゾエが湯浴みの支度をしてくれていた。ルイーズは王族の持て成し方等知らないので、ゾエを頼ったようだ。


「リュシアン様、お先に湯浴みなさって下さい。」


「ああ。お言葉に甘えて頂くね。」


ゾエが用意してくれたらしい夜着を渡す。リュシアンを見送り、カロルはゾエに向いた。


「ゾエ、来てくれたのですね。ありがとう。ルイーズも、いきなりリュシアン様がいらして吃驚させてしまいましたね。」


「いえ!とんでもございません!私ではとても対応出来ませんので…ゾエさんが来てくれて安心しました…。」


「私はお嬢様のお世話が出来、嬉しゅうございます。」


心底安心したようなルイーズといつも通りの無表情なゾエにカロルは笑う。


「殿下はお泊まりになるのですか?」


「…そのようです…。私の部屋に泊まる…みたい、です…。」


カロルの言葉にルイーズは口元を隠した。目元が笑っている。ゾエは無表情でいる。


「お嬢様…。」


「えっと…そういう事にはなりませんから…。」


カロルは真っ赤になって否定した。


「いいお湯でした。ありがとう。」


三人でお茶を飲んで話していると、カロルの後ろに浴室から出て来たリュシアンが夜着を着て立っていた。ゾエとルイーズはカロルが湯浴みする準備の為部屋から出る。リュシアンは夜着の胸元を広く開けている。暑いのだろうか。鍛えられた胸筋に腹筋が見える。綺麗な筋肉だ。カロルは目に毒だと目を逸らした。


「リュシアン、私の部屋でお待ち下さい。何かいる物はございますか?」


「飲み物が欲しいな。ゾエに部屋に持って来るよう伝えてくれるかい?」


「分かりました。ではお待ち下さい。」


リュシアンはカロルを愛しそうに見ると、軽く口付けし二階に上がって行った。カロルも湯浴みを済ませる。先程見えたリュシアンの腹筋が思い出され、頭に血が上る。ダメだダメだ!煩悩を追い払え!と頭を振る。

湯浴みを済ませ部屋に入るとリュシアンは自身の懐中時計の巻き上げをしていた。カロルはリュシアンが、懐中時計を大切にしてくれているのが嬉しい。カロルも、懐中時計を手にリュシアンの隣に座った。同じように巻き上げていく。視線を感じ、リュシアンを見ると愛しいものを見るような瞳と目が合った。気恥ずかしく感じ、カロルは懐中時計を机に置く為に立ち上がる。振り返るとリュシアンが嬉しそうに微笑んでこちらを見ていた。


「カロル、寝ようか。」


本当に一緒に寝るつもりらしい。カロルはひどく恥ずかしい気持ちになりながら、ベッドに近付いた。リュシアンに手を引かれ、抱き締められる。


「夜着のカロルとこうするのは、夢の中以来だね。」


「…懐かしいですね。」


二人はベッドに横になる。リュシアンの熱い瞳に見つめられて、カロルはドキドキした。


「狭いですね…。やはりこのベッドで一緒に眠るのは無理があります…。」


「いいよ。この方が、くっついて寝れるだろう?」


リュシアンはカロルを抱き寄せた。夜着越しのリュシアンの逞しい身体に鼓動が早くなる。リュシアンはカロルの髪を撫でている。とても心地が良い。カロルもリュシアンの耳の後ろに指を入れ、撫でた。


「ふふ。気持ち良いです。」


カロルは髪を撫でられる気持ち良さに眠くなり、目を閉じた。リュシアンは湧き上がるものを耐えた。すぐに寝息をたてるカロルの顔を眺める。さらさらの白銀の髪を指で梳く。


「…早く、私のになって、カロル…。」


リュシアンはカロルの瞼にキスをすると、カロルを優しく抱き締めたまま目を閉じた。





カロルはいつも早朝に目を覚ます。この日も同じように早朝に目を覚ました。目を開けるとリュシアンの美しい顔が目の前にあった。ゆっくりと寝息をたてている。本当に抱き締めたまま眠ったらしい。今もまだ抱き締められたままだ。

カロルはリュシアンを起こさないように腕の中から抜け出す。そして音を立てずに朝の支度を済ますと、庭に出てトレーニングを始めた。筋力トレーニングにランニングを終えると、翡翠に教わった魔力トレーニングもする。全て終えるとシャワーを浴び、部屋に戻った。部屋に入るとリュシアンは起きて着替えを済ませていた。


「カロル、おはよう。」


リュシアンはカロルの頬を両手で挟むように触れると額を付けた。


「ベッドの中で言いたかったな。」


甘く微笑まれ、カロルは先に起きていて良かったと思った。寝起きに至近距離でこの笑顔をされては心臓がもたない。


「おはようございます。トレーニングをしていました。」


「朝早くからしているんだね。」


「はい。早く起きる癖がついてしまいました。」


「それでは結婚後もベッドの中でカロルと一緒に起きるのは難しそうだ。」


リュシアンは苦笑した。


「子供が出来たら、寝てばかりになると思いますよ。妊娠すると、眠くなる方もいらっしゃるそうですから。」


カロルはそう言うとフフフと笑った。実際前世では妊娠中すごく眠かった。次男がお腹に居た時は、まだ小さかった長男の相手もあり、大変だったものだ。そう思っての発言だったのだが、まだ結婚もしていないのに子供の話は早すぎた事に気付き、赤くなった。


「うん。…楽しみだな。」


リュシアンはふにゃりと笑った。あまり見ない種類の笑顔にカロルは面食らう。リュシアンは本当に幸せそうだった。今までカロルから二人の未来の話を振られた事があまり無かったから、リュシアンは嬉しいのだ。この後カロルは、リュシアンが城に帰るまで二人の未来の話を振られ、恥ずかしい気持ちで話をした。

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