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4 ・錬金塔




城での衝撃的な出会いから数週間が経った。あれから城には3回行ったが、3回共王太子に捕まり昼食を共にした。初日に王太子の誘いを断る不敬をやらかしたのに、だ。しかも何故か毎回ゾエがいない時に来る。

食事の際に話す内容もジョエルからカロルのこんな話を聞いた、という恥ずかしい事この上ないものから始まる。しかし食事はとても美味しく、目の前の少年は美少年…カロルも初めは仕方なく付き合っていたが、今では食事も美少年鑑賞も楽しむ事にしていた。

ジョエルに、王太子にカロルの話をしないよう頼みたいのだが、カロルが王太子と知り合いになった事を話したくなかった。勘違いされて話が変に広まり婚約者にされでもしたら堪らない。


王太子と知り合いになってしまい、週一で食事を共にしている…。これは冒険者になる将来を、もう少し真剣に考えた方が良いかも知れない、とカロルは考えた。

体力を付けただけでは冒険者にはなれない。戦う技術を学ばなければならない。

今カロルが家庭教師に習っているのは勉学に淑女教育、音楽である。これに剣術を加えて貰う事は可能だろうか。


父ジョルジュに直談判する為にゾエにジョルジュが帰ったら教えてもらえるよう頼んだ。

そして夜、日課のポーション作りをしていると、ジョルジュが帰ったとゾエから連絡が入った。カロルは毎晩研究で錬金術をしており、残りの魔力量が少なくなるとポーションを作って魔力量をほとんど無くしてから眠る。そして出来上がったポーションを売って研究資金に充てるのだ。


扉をノックするとドアを開けられた。ジョルジュ自ら開けてくれたらしい。


「お父様、失礼します。」


「カロル、どうしたんだい?」


ジョルジュは目を細めながら入室を促す。カロルをソファに座らせると、ジョルジュも向かい側に腰掛けた。侍女が紅茶を入れて退室するのを待った。


「お父様にお願いがあるのです。」


「何だろうね。またびっくりする事を言われるのかな。」


ジョルジュは紅茶を飲みながら思案した。最近登城する度に王太子殿下と食事をしている事は知っている。まさか、殿下を好いていて、婚約者になりたいとか言い出すのでは…と内心冷や汗をかきながらカロルの言葉を待った。


「私に、剣術を学ばせて頂きたいのです。」


「剣術?…そうか…。」


ジョルジュは目を見張った後考えた。殿下との婚約では無くて良かったと安心し、カロルが剣術を学びたいと思う背景を考える。

この娘は図書館に籠るようになったと思ったら運動するようになり、更には錬金術まで始めてしまった。カロルは隠しているらしいが、毎夜錬金術をしている事は知っている。

急に新しい事を始める娘だが、途中で投げ出した事は今まで無い。剣術は厳しい。始めてみて挫折を味わうのも良い経験かも知れない。


「カロル。カロルは家庭教師を呼んで習いたいかい?それとも騎士団の少年団の方で習いたいかい?」


「騎士団の方でお願いします。」


カロルは騎士団の少年団であれば対人戦も出来たりするだろうと考え、騎士団の方を希望した。少年団には、将来騎士団員として働きたいという人間だけでなく、嗜みとして剣術を学びたい貴族令息も入団したりしている。女性というだけで偏見や心無い声も聞こえてくるだろう。しかしそんなもの、なんの手立ても無く国外追放されるよりマシだ。

ジョルジュは騎士団の方を選んだカロルに真剣さを感じ交換条件を出した。


「カロルが今研究しているものがあるだろう?そろそろ形になりそうだね。それを完成させる事が条件だ。完成させるのは一つだけで構わないよ。」


ジョルジュがカロルが何の研究をしているのか知っていて、しかも完成が見えて来た事も知っている事に驚いて、声も出せなかった。この間ゾエが言っていた事は全てではなかったようだ。本当に食えない侍女だ。しかし、あの侍女はカロルの事を思い、カロルの為にならない事はしない。それが分かっているから、当然怒りなどは湧かなかった。

この様子では、カロルが装飾品を研究資金にした事まで知っているだろう。そう思うと、カロルはジョルジュの顔を見る事が出来ずに俯いてしまった。


「明日、早速錬金塔へ行こう。錬金術師達が早くカロルに会わせろと煩くてな。研究している物を資料から試作品まで準備しておきなさい。」


「錬金術師様方が何故…?」


カロルは理解が追いつかない。


「ああ。城の図書館の許可証を作る際に錬金術師達にカロルの話をしたのだよ。7歳の少女が錬金術を行っているなんて、と皆驚いていたよ。」


「そう…ですか…」


カロルは混乱したままだったが、ジョルジュに明日の為に今日の所は休むよう言われ退室した。

明日の準備をしベッドに入ったが、思考がぐるぐるとしてしまい、中々寝付く事は出来なかった。





次の日、カロルはジョルジュに連れられて城に来ていた。午後は音楽の家庭教師が来る予定だったのだがジョルジュが休む旨を伝えてくれたらしい。「カロルの研究成果が出たら、彼も喜ぶだろうからね。」と。ジョルジュには何もかも筒抜けらしい。隠れてこそこそやっていたのが馬鹿らしくなった。


「おはようございます。ローラン侯爵、カロル様。」


錬金塔に向かって歩いていたら、リュシアンに声を掛けられた。


「おはようございます、殿下。」


「おはようございます。」


ジョルジュに倣ってカロルも礼をして挨拶をした。


「月曜以外にカロル様が登城するなんて珍しいと思い、つい声を掛けてしまいました。」


二人に追い付く為に急いだらしいリュシアンは頬をピンクに染めていた。嬉しそうに微笑みながらカロルを見る。


「カロルは今日、錬金塔に用がありましてね。これから月曜日は錬金塔に行く事になると思います。ですので、これからは殿下と昼食をご一緒出来なくなります。」


ジョルジュは丁寧で優しい語り口なのに、どこか壁がある話し方をする。相手が王太子だからなのか。


「…そうなのですね。それはとても残念です。毎週楽しみにしていたのですが。またいつか、ご一緒して下さいね。」


「はい。いつか。機会があれば、お願いします。」


カロルは口元だけは笑みを浮かべて答えた。リュシアンはにこやかに来てにこやかに去って行った。そうか。これから毎週錬金塔に来るようになるのか。ジョルジュの王太子への牽制はカロルにとって朗報だった。王太子との目的の分からない昼食会を避ける事が出来る上に錬金塔に通えるのはカロルにとって嬉しい事だ。




錬金塔は円柱形の建物だった。何階建てだろうか、かなり大きい。中に入ると塔の錬金術師を表すローブを着た人達が振り向いた。


「これはこれは。ローラン侯爵様。そちらの可愛らしいお嬢さんも。ようこそ、錬金塔へ。」


優しそうな笑顔で迎えてくれたのは錬金塔の責任者だろう、他の錬金術師とは模様の違うローブを着た男性だった。


「師長殿、娘のカロルです。娘の為に、時間と労力を割いてくれる事感謝しております。」


「カロルでごさいます。図書館の件に今回の事、ありがとうございます。そしてこれからよろしくお願いいたします。」


カロルは緊張しながら礼をした。師長は部屋の中央のテーブルにカロルを案内する。ジョルジュは師長に再度カロルを頼むと仕事に向かった。


「それでは、君の研究を見せてくれるかな。」


師長に促され、カロルはゾエから鞄を受け取り、資料と試作品を出した。試作品を並べて説明を始める。


錬金術師達は興味深そうに説明を聞きながら試作品を見ている。

カロルが研究しているのは、音を録音再生出来る物、遠くの人とやり取り出来る物、そして弟の病気の症状を軽くする為の物だ。

前の二点は所謂ミュージックプレイヤーに、電話である。この世界にはまだ無い物だ。

カロルは小さい頃から王都で仕事をする傍ら、領地経営もしている父を見ていた。緊急事態の際に早馬で伝令が来るのだが、どうしても時間がかかってしまう。電話やメールがあれば緊急連絡が早く出来ると思ったのだ。

ミュージックプレイヤーに関しては、音楽を習い数種類の楽器を弾けるようになったので、録音して楽しもうと思っただけだ。ただの趣味である。

最後に、弟の病気は奇病に分類される。この世界の人間には魔力がある。魔力は血と同じで常に作られていて、使われない魔力は自然と放出されていく。その魔力穴(毛穴のようなもの)が体にいくつかあるのだが、シャルルにはそれが無い。だから作られた魔力が飽和状態となり、体調を崩してしまうのだ。カロルは魔力穴の代わりとなる装飾品を作れないかと考えて研究していたのだ。


錬金術師達は驚いた。その閃きも然る事乍ら、ここまで形になっているとは。錬金術師達は三つのチームに分かれてカロルの研究を手伝う事にした。


まずはミュージックプレイヤーである。これは魔石に録音機能を付けてある。録音出来る時間も30分と、まぁ及第点だ。再生まで出来る様にはなっているのだが、録音したものを消去する事が出来ない。この問題が解決すれば完成なのだが、カロルに打開策が思いつかなかった。


次の電話は、ほぼ完成しているのだが、実用出来るのかの実験が全く出来ていない事が問題だった。距離的な問題もそうだが、他にも懸念材料が山積みなのだ。


そして対無魔力穴病用装飾品。これも使用実験が出来ない事が問題だった。しかも魔力は人によって量が違う。これはこの装飾品が完成しても、患者によって効果の強さが違う物を作らなければならない問題もあった。


不安そうなカロルを後目に、錬金術師達はカロルから資料を受け取り、次の月曜日までに何とか出来るよう尽くす事を約束してくれた。




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