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38・デート2





リュシアンとカロルは一時間半程馬に揺られてタボールにあるベルヴィル湖に到着した。リュシアンが言っていた通り、湖の側は涼しい。

カロルは手際良く日除けを設営した。リュシアンも手伝おうとしたが、魔力を使い素早くこなすカロルに隙は無かった。日除けの下にグランドシートと、肌触りの良いチェック柄のラグを敷く。魔力を使い作業しただけあって、ものの数分で設営は完了した。


「カロル、ありがとう。すごいね…。こんなに早く日除けを設営してしまうなんて。私は何の役にも立たなかったね…。」


「あ、リュシアン…ごめんなさい…。設営に夢中になってしまいました…。」


カロルは焦った。リュシアンに引かれたかも知れない。しかしリュシアンはカロルの作業する姿に驚いてはいたが、引いてはいなかった。ただ、少し自分を情けなく思ってはいた。


「またカロルの新しい一面を見られたんだね。嬉しいよ。」


「こ、これからどうしましょうか。お昼には少し早いですが…。」


カロルは恥ずかしくなり顔を赤くして聞いた。リュシアンはそんなカロルを眩しそうに見て考える。


「湖の近くに行ってみようか。」


リュシアンはカロルの手を取り湖のほとりに向かう。湖の上を水鳥が優雅に泳いでいる。湖の中央に島があり、ボートで向かえるようだ。


「ボートもあるのですね。」


「後で乗ってみる?」


「ふふっ。それも楽しそうですね。」


リュシアンとカロルはゆっくり湖の周りを歩く。穏やかに会話をしながらの散歩はリュシアンとカロルを幸せな気持ちにさせた。

一周するには広すぎる湖を途中で引き返し、日除けを張った場所に戻り昼食をとる事にした。持ってきたお弁当を広げる。唐揚げ、サンドイッチ、キッシュが入ったお弁当だ。


「お口に合うと良いのですが。」


「美味しそうだね。カロルは唐揚げが好きなんだね。以前の食堂でも美味しそうに食べてたものね。」


「はい。今日は朝から美仁のお土産も作っておりましたから、料理人は大変だったと思います…。ですのでお弁当は私が作ったんですよ。」


「カロルが作ったの?へぇ…。カロルの手作りのお弁当を食べられるとは思わなかったな。」


リュシアンは嬉しそうにキッシュを口に入れた。口の中に広がる旨味をゆっくり味わう。


「うん。美味しい。何だか今日は、私の知らないカロルを沢山知れるね。」


「お口に合って良かったです。デザートにカヌレもありますよ。」


カロルはリュシアンがパクパクとお弁当を食べているのを嬉しそうに眺める。視線に気付いたリュシアンが、唐揚げをカロルに差し出した。カロルはそれをパクッと口に入れる。口の中に広がる幸せに、やっぱりお弁当には唐揚げだ、とカロルは満足した。



食事を終えた二人は、ボート乗り場に来ていた。ボートを借りて乗り込む。リュシアンがボートを漕ごうとしたが、カロルが制止した。


「リュシアン、私にお任せ下さい。」


「いや、しかし…。」


カロルはリュシアンを座らせ、自分は漕ぎ手側に座る。リュシアンも良い所を見せたかったのだが、またカロルに取られてしまった。カロルは力強くボートを漕ぐ。カロルの漕ぐボートは、すぐに島に着いた。


「意外とすぐに着きましたね。リュシアン、お手をどうぞ。」


「あ、ああ…。ありがとう。」


リュシアンはカロルに手を引かれ島に上陸した。先程からカロルにリードされっ放しな気がする。ボートも、リュシアンが漕ぐよりも確実に早く着いた。リュシアンは自分を情けなく、そして格好悪く感じた。


「カロルは素敵だね。」


リュシアンは悲しそうな表情で言う。いつもカロルを褒める時とは雰囲気が違う為、カロルは心配になった。


「リュシアン、どうかされましたか?ボートに酔ってしまわれましたか?」


「違うんだ…。カロルに格好良い所を見せたいと思っているのに、逆にカロルの素敵な所を見せて貰っていて、私は情けないな、と思ってね…。」


カロルはハッとした。効率重視で行動してしまった為に、リュシアンの気持ちを置いてけぼりにしてしまった事に気付く。こんな思いやりの無い女…、心が離れてしまっても仕方ない。


「リュシアン…ごめんなさい…。貴方の気持ちを蔑ろにしてしまって…。」


「カロルは悪くないんだ…。私の問題だ…私がもっと頼りになれば…。」


「リュシアンは頼りになります。いつだって、私の心の支えなのです…。それなのに私は…自分の事しか考えていない…。」


カロルは自分を振り返り思った。いつだって自分が生き残る為に道を模索し、他人に迷惑を掛けてきた。自分の我儘を押し通してきた。無自覚に、悪役令嬢のような行動をしていた自分に嫌気が差す。後悔の念に表情を歪めるカロルの頬に、リュシアンが手を伸ばす。


「カロル…私だって、自分の事ばかりだ。カロルと一緒に居たくて、触れたくて…、カロルに一番に思われたい…。カロルに情けない所を見せて、失望されたく無かったんだよ…。」


「失望だなんて、そんな…。私はリュシアンの、どのような姿を見ても、失望する事はありません。むしろ私が…、リュシアンに愛想を尽かされてしまう様な事ばかりしてしまいました…、リュシアンに失望されても仕方ありません…。」


カロルは目を伏せ答えた。リュシアンはカロルの両頬を、両手で包むように触れる。


「…私がカロルに失望するなんて、そんな事、あるわけないだろう?ただ、今日はカロルに並び立つに相応しい男になるのは、並大抵の努力では足りないな、と実感したよ。」


「いいえ、リュシアン。努力しなければならないのは、私の方です。」


「ははっ。これ以上素敵になって、どうするの?私の心を掴んで放さないつもり?」


リュシアンは困ったように笑った。カロルも笑顔になったリュシアンに安心し、にっこりと笑う。


「はい。放さないつもりです。」


面を食らったような表情になったリュシアンだったが、すぐに甘い笑顔になる。


「カロル、嬉しいよ。ずっと私は、貴方の虜だ。」


そう言うと、リュシアンはカロルに深く口付けた。カロルもそれに応え、リュシアンの背中に手を回す。二人は抱き合いながら長いキスをした。

その後二人は手を繋ぎ島を一周した。小さな島だった為、すぐに一周出来てしまう。ボートで戻る時は、リュシアンが漕いだ。力強く漕いではいたが、先程のカロルよりは、かなりゆっくりとした速さだった。


日除けに戻り、話をした。カロルが休暇中にしていた修行で、魔力の使い方を学び、その為に力や速さが上がっている事を。リュシアンは納得した。そして自分もその力の使い方を知りたいと言ったが、カロルに断られてしまう。カロルは修行を受けた身であり、人に教える事の出来る人間ではないと言う。カロルの真面目な性分に、リュシアンは微笑む。そういう所も大好きだ。


「…では私は私なりに、立派な国王になる努力をするよ。」


「リュシアンは、きっと立派な国王になられます。私はそれを支えられるように努力致します。」


「カロルが居てくれるなら、私は頑張れる。」


リュシアンはカロルの髪を愛しそうに撫でた。カロルも微笑み、リュシアンの目元から耳の上を通るように撫でた。カロルはリュシアンからの愛情を貰った分しっかりと返したいと思う。何なら、貰った以上にして返したい。どうしたら返せるのだろう。愛情を感じて貰えるのだろうか…。


「リュシアンは、私に何かして欲しい事とかございますか?」


「して欲しい事?」


「はい。リュシアンは私に沢山愛情を下さいました。私も、リュシアンに、私の愛を感じて頂きたいと思いまして。しかし、独り善がりになっては意味が無いですから…。」


カロルは真面目な顔をして言っていたが、リュシアンは赤くなった。


「そ、そうだね…。カロルとしたい事は沢山あるけど…。あ、カロル、私に遠慮をして、カロルのしたい事を我慢したりするのは止めて欲しい。私はカロルの障害にはなりたくないからね。」


リュシアンは顔を赤くしたまま、言葉を続けた。


「それに…先程リードしてくれたカロルは、本当に素敵だった。」


そう言うリュシアンに、カロルは声を出して笑う。


「ふふふっ。先程の私を少年団の皆様が見たら、私の渾名がスタミナオーガから、ただのオーガに変わってしまいますね。」


「スタミナオーガ?」


リュシアンは目を丸くして聞いた。カロルはまだ可笑しそうに笑っている。


「アンリから聞いていないのですね。私、少年団の皆様からスタミナオーガと呼ばれておりました。余りにも疲れないので。」


だからカロルは異性として見られていないのだ、と続けた。リュシアンはそれには同意出来なかった。目の前で、可愛らしく微笑む姿は本当に愛らしい。先程の力強くボートを漕ぐ姿も魅力的だったし、一人で日除けを設営してしまった所だって、充分魅力的じゃないか…。


「…そうだ。先程の、カロルにして欲しい事、あったよ。」


「はい。何でしょうか。」


「カロルとの時間が、もう少し欲しいな。カロルが忙しい事は分かっているけれど、学園で挨拶程度にしか会えないのは寂しいんだ。」


リュシアンは隣に座るカロルの手の甲を撫でながら言った。カロルは考えた。イヌクシュクに授業をして貰っていた日を、休みに出来ないか聞いてみよう。王妃教育はその分他の日に多めにする事になるが、それでも全く問題は無かった。


「明日、王妃教育再開のお願いをしに登城します。週末はこれまで同様予定がありますので、平日にもう一日、休みを頂けないか、お願いしてみます。」


「カロル、ありがとう。私からも母上に願い出ておくよ。」


リュシアンは喜んだ。週に一度でもカロルと過ごせる時間が出来るのは嬉しい。


「リュシアン、ありがとうございます。」


「礼を言うのは私の方だよ。放課後デートとか、してみたかったんだ。ウィリアム君に先を越されてしまったけどね。」


微笑んでいたカロルだったが、リュシアンの言葉に目を瞬かせる。


「ウィリアムとはデートではありませんでしたけど…。」


「…それでも、嫉妬してしまったんだ。」


リュシアンはカロルの腰を抱き寄せた。優しくキスをする。


「カロルの事になると、余裕が無くなってしまう…。」


「そんなリュシアンも、好きですよ。」


至近距離でそう言われ、堪らなくなったリュシアンは荒々しくカロルの唇を貪った。





帰る時間になり、日除けを片付ける。リュシアンもペグを引き抜こうとしていたが、ビクともしない。他のペグを引き抜いたカロルはリュシアンの元に来た。


「深く刺しすぎてしまいましたかね…?」


そう言うと、カロルは指一本でペグを引き抜いた。リュシアンは目を丸くしてカロルを見る。カロルはバツが悪そうな顔をして、素早く片付けを終えた。

リュシアンはそんなカロルをずっと見ていた。その間ずっと体内で心臓がドキドキと鳴り響いていた。

誤字報告ありがとうございました。

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