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37・友との別れ






この日、カロルは朝から厨房に居た。料理人に頼んで、美仁のお土産用に様々なお菓子を作って貰っている。時間も無いのに無理を言ってしまっている為、せめて手伝いを、と願い出たのだ。勿論料理人は、そんな事お嬢様にさせられないと断ったが、カロルは自分の意見を押し通した。

実は料理人がカロルの手伝いを断った理由は、先程の理由以外に、仕事が増えると思ったから、というのもあった。料理なんてした事のない令嬢に、厨房を引っ掻き回されたくは無かった。しかし料理人の予想は外れ、カロルは手際良く料理人を手伝った。料理人は感心してカロルを褒めながら作業を進める。そして時間内に、主人達の朝食に美仁のお土産用お菓子、更にはカロルのお弁当まで作り終える事が出来た。


「皆様ありがとうございました。急にこのような事をお願いして困らせてしまい、申し訳ありませんでした。」


「いいえ、お嬢様。お嬢様の技術、手際の良さ、素晴らしゅう御座いました。お嬢様のお役に立てたのなら、嬉しゅうございます。」


カロルは微笑みもう一度礼を言うと、厨房を後にした。美仁のお土産が無事に用意出来て安心した。


食堂に向かうと美仁の姿を見つけた。


「美仁、おはようございます。」


「あ、カロル、おはよう。」


二人は連れ立って食堂に入った。既にミレーユ、ジョエル、シャルルが座っていた。ジョルジュはもう城に行ってしまったらしい。


「おはようございます。」


二人も席につく。すると侍女達がすぐに朝食を並べてくれた。


「美仁さん、今日帰られてしまうと伺いましたわ。美仁さんのお住まいは遠いですが、是非またいらして下さいね。」


「ありがとうございます。急にお邪魔してしまい、すいませんでした…。」


「カロルのお友達なのですから、大歓迎ですよ。」


恐縮している美仁にジョエルが微笑む。美仁は固い笑顔で頷き答えた。


朝食後、リュシアンが迎えに来るのをカロルと美仁は、カロルの自室で待っていた。カロルは美仁にお土産用のお菓子を並べて渡している。


「こんなに沢山…。カロル、ありがとう。全部、すっごく美味しそう。」


「料理人が頑張ってくれましたからね。何とか間に合って良かったです。」


美仁は様々なお菓子をアイテムボックスに仕舞っていく。


「カヌレとマカロンは私の大好物なので、沢山作りましたよ。」


カロルはニコニコと笑いながら美仁に渡す。


「もしかして、カロルが作ったの?」


「少し手伝っただけですけどね。」


美仁は驚いてカロルを見た。カロルは秘密にしていたかったが、ついつい口を滑らせてしまった。困ったように笑う。


「大事に食べるねぇ…。」


「美仁、泣くのはまだ早いですよ。」


涙目になる美仁を見て、カロルもつられて泣きそうになるが、二人は泣くのを堪えてお菓子を全て仕舞った。

そしてカロルは綺麗に包装された小さな包みを美仁に渡す。


「これも、貰って下さい。」


「え?…ありがとう。見ても良い?」


カロルはにっこり笑い頷いた。美仁は袋を開くと中から真鍮製のコンチョを付けた髪留めが出てきた。コンチョは丸く緩やかなカーブを描き、表面は細かく叩かれ雪平模様が付いている。


「綺麗…。カロル、ありがとう。カロルには沢山貰っちゃったね。」


「こちらこそ、ですよ。ゴムを違う物に変えればブローチ等にも出来ますので、お好みでどうぞ。」


カロルは一つの三つ編みを背中に垂らし、その先に真鍮のコンチョを付けていた。じわっと美仁の目元が熱くなる。


「ありがとうカロル。大事にする。」


美仁は涙目で笑顔を作る。ヘアゴムは手首に通した。

するとゾエがリュシアンの来訪を告に来た。カロルと美仁はミレーユに挨拶しているリュシアンの元に向かった。


部屋に入ると乗馬服を着たリュシアンが立っていた。夢で会う時は夜着だった為、久しぶりに見るキッチリした姿にカロルの胸がときめいた。


「カロル、久しぶりだね。乗馬服とても似合っているよ。」


「ありがとうございます。リュシアン様もとても素敵です。あの、こちら、私の友人の美仁です。ミズホノクニで大変お世話になりました。」


カロルが微笑んで美仁を紹介すると、美仁は真っ赤になり小さな声で「またすごいイケメンが来た…。」と呟いている。


「美仁さん。はじめまして。カロルの婚約者のリュシアン・ガルニエです。夢見蝶を貸して下さったのは貴女ですか?夢でカロルに会えた事、とても嬉しかったのです。ありがとうございました。」


リュシアンは美仁に微笑みかける。美仁は更に赤くなった。湯気でも出そうな位だ。


「いいいいえ!夢を見た後のカロルさんはもう、つやっつやで!とても嬉しそうだったです!」


美仁は混乱している。かなり恥ずかしい話をミレーユに聞かれてしまい、カロルは赤くなった。リュシアンは更に嬉しそうに微笑んだ。


「嬉しい話を聞かせてくれて、ありがとうございます。ではローラン侯爵夫人、カロル嬢をお預かりします。夕方には帰ります。」


「はい。お気を付けて行ってらっしゃいませ。カロルも、気を付けてね。美仁さん、またいらして下さいね。数珠丸様もいらっしゃいますので、大丈夫だとは思いますが、お気を付けて。旅の無事をお祈りしております。」


「ミレーユ様、ありがとうございました。とても楽しかったです。お邪魔しました。」


美仁はぺこりとお辞儀をして、三人は退室した。庭に出ると数珠丸はジョエルとシャルルと共に待っていた。ジョエルもシャルルも鬣を触らせて貰っている。シャルルはビクビクしながらも、ズブラレウの鬣に触れ感動している。


「数珠丸、お待たせ。」


美仁は数珠丸に近付いた。カロルも数珠丸の正面に向かう。


「数珠丸、大変お世話になりました…。数珠丸には、本当に色々助けて頂いて…感謝しています…。」


カロルは感極まって涙声になる。思わず数珠丸の顔を抱き締めた。


「…俺も楽しかったぞ。元気でな。」


数珠丸は低く優しい声で答えた。それを見て美仁は泣いている。


「カロルゥ~…。元気でね…!また会いに来るから…。」


美仁はすごい顔で泣いていた。それがすごく可愛く見え、カロルは泣き笑いした。


「美仁…。貴方も元気で…。必ずまた会いましょう…。」


カロルと美仁は抱き合い別れを惜しんだ。美仁は涙に濡れたまま見送りに出ていた人々にお辞儀をして、数珠丸に跨る。


「じゃあね!」


美仁は手を振ると、数珠丸は地を蹴り消えた。ガルニエ王国に来る時は雪之丞達に合わせて飛んでくれたが、帰りは三日で翠山に着くだろう。カロルは数珠丸と美仁が無事に翠山に着くよう祈りつつ空を見上げた。


「殿下も見られて良かったですね。数珠丸様は格好良いでしょう?」


「てっきりジョエルの作り話だと思っていましたが、本当だったのですね…。」


「カロルの事で作り話などいたしませんよ。」


ジョエルとリュシアンが話していた。やはりジョエルはリュシアンにカロルが数珠丸に乗って旅立った事を話していたようだ。シャルルは王太子に緊張しているようで、大人しい。


「リュシアン様、お待たせ致しました。」


「カロル、目元が赤くなってる…。」


リュシアンはカロルの頬に優しく触れ、目元を親指で撫でた。


「感極まってしまいました…。お恥ずかしゅうございます。」


「私は色んなカロルの表情が見られて嬉しいけどね。美仁さんの言っていた、つやっつやなカロルも見てみたいな。」


リュシアンは撫でている方の反対の目元にキスを落とす。カロルは真っ赤になった。


「リュシアン様、人目がある所ではお止め下さい…。」


「ふふっ。すまない。久々のカロルに舞い上がってしまっているね。」


リュシアンは愛しそうにカロルを見て微笑んだ。そんな二人をシャルルが驚いたような表情で見ている。シャルルの肩をジョエルが叩く。


「シャルル、学園では毎日こんな感じだそうだよ。流石にキスはカロルが頼んで止めて貰っているみたいだけど。」


「毎日…ですか?」


「アンリから聞いたから事実だろうね。毎日ラブラブで困るって。」


シャルルは青い顔で聞いている。シスコン気味のシャルルにはショックが大きい。しかし入園前にこの光景を目にし、この話を聞けた事は良かったのかも知れない。


「こんな距離で手を握って話をしているそうだよ。」


ジョエルはシャルルの手を両手で握り、額が付きそうな距離で言った。身長差がある為ジョエルは膝を曲げている。シャルルは絶句している。


「…お兄様。何をなさっているのですか?」


「シャルルに学園での殿下とカロルがどれだけ仲が良いのか教えてあげてたんだ。」


訝しげにカロルが聞くと、ジョエルは笑顔でカロルに答えた。カロルは他人から見た自分達の距離の近さに恥ずかしくなる。


「リュシアン様…あの、学園ではあのように、近くでお話なさるのはお止めくだ…。」


「それは嫌です。」


カロルが最後まで言い終わる前にリュシアンに断られた。リュシアンはいつもの優しい笑顔だったが、カロルのこの願いを聞き入れるつもりは全く無かった。


「クラスも違うし、放課後や週末も会えないんだ。少し近い位は、我慢して欲しいな。」


リュシアンはカロルの耳から顎にかけて手で撫でた。カロルは優しく触れられて困ったように眉を寄せた。


「そんなに可愛い顔したって駄目だよ。さぁ、出発しようか。今日は良い天気だから、湖の側は気持ち良いだろうね。」


「はい。ではお兄様、シャルル、行って参ります。」


「…行ってらっしゃいませ。殿下、お姉様。」


「お気を付けて。」


シャルルはこれ以上姉と王太子のイチャイチャを見ないで済むとホッとした。カロルはつばの広い帽子をかぶると、ゾエからお弁当の入った鞄を受け取る。リュシアンが持とうとしたが、カロルは自分で持つと荷物を離さなかった。カロルは頑固な所があるのを理解しているリュシアンは諦めた。馬に乗せるまでの距離だ。大した距離ではない。

荷物を馬に乗せ、街門まで馬を引いて歩く。

街門を出ると馬に跨り、歩き出した。まだ強い日差しに草原や木々の色が鮮やかに煌めく。そよ風が気持ち良い。

リュシアンとカロルは王都から北西にある、タボールに向かい馬を歩かせた。

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