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33・帰路





カロルが力丸と使役契約をした次の日の朝、美仁は翡翠に向かい、こう提案した。


「今日はカロルを連れて町に行きたいんです。カロルも、お土産買ったりしたいよね?」


美仁は顔をキラキラと輝かせて翡翠とカロルを見た。お土産を買いたいとは思うが、遊びに来た訳ではない為、答えに躊躇する。


「良いじゃろ。カロルは優秀な弟子じゃからな。後はガルニエ王国に帰っても今やっておる修行を続ければ良いからの。」


「はい。ありがとうございます。」


カロルは翡翠に体を向け、丁寧にお辞儀をした。美仁は嬉しそうに笑っている。


「大きい物を買っても私のアイテムボックスに入れるから、大丈夫よ!帰りは私もガルニエ王国まで行くから!」


「えっ?では屋敷に泊まって行って下さい!王都の案内もさせて下さい。」


カロルは美仁の言葉に喜ぶ。美仁と一緒に王都まで旅が出来るなんて、きっと楽しいだろう。


「嬉しい!リュシアン様も一目見て帰らないとね~。」


美仁はカロルを揶揄うように見た。カロルは急にリュシアンの名が出てきて顔が赤くなる。


「ああ~、カロルのこの可愛い反応が見られなくなるの、寂しいなぁ!」


「…美仁!揶揄わないで下さい!」


カロルは顔を真っ赤にして美仁を睨む。翡翠はそんな二人の様子を優しい表情で見ていた。




二人は数珠丸と雪之丞に跨り町の近くまで降りて来た。ここから徒歩で町に向かう。


「美仁はよく町に降りるのですか?」


「時々かな。魔物の素材売ったり、色々足りなくなったら買いに来る程度だよ。カロルは何が見たい?」


「お土産用にお酒やお菓子が見たいですね。あと、出来たらで良いのですが、楽器を見たいです。」


カロルの答えに美仁は眉を上げキョトンとした。


「楽器?」


「この国の楽器が欲しいのです。ガルニエ王国では手に入らないので…。」


「そっか。じゃ、お店探してみよう!」


美仁は元気に歩き出した。カロルも並んで町へ向かう。

町は滝から流れる川を挟んで大通りが通っており、木で作られた橋がいくつも掛けてある。大通りには木造の三、四階建ての旅館や土産物屋、食事処が並んでいる。温泉街のようで、湯治に来た客向けに町が作られている。


カロルと美仁は名物の温泉饅頭を食べたり足湯をしたりと温泉街を楽しんだ。美仁のアイテムボックスは時間の流れが無いので、食べ物が傷む心配が無い。カロルは名物の温泉饅頭とお煎餅をお土産に買った。

そして日本酒のような香りのお酒も購入した。上品な香りのするお酒を選ぶ。美味しそうだ。まだ未成年なのでカロルは飲酒出来ないのを、とても残念に思った。しかし、世界の言語が統一された今では使われていないミズホノクニの古語が書いてある瓶のラベルが異国情緒に溢れており、両親に良いお土産を買えた事に満足した。


土産物屋で楽器を扱っている店を聞き、そちらに向かう。楽器屋は大通りから少し離れた場所にあった。楽器屋に入ると大小様々なミズホノクニ特有の楽器が置いてある。カロルは店主に音を聞かせて貰い、大太鼓、三味線、琴、篠笛を購入した。美仁はこれ等をどんどんアイテムボックスに仕舞っていく。


「美仁、ありがとうございます。こんなに沢山入れて頂いて…。今日の支払いは私が全部持ちますので。」


「え~?そんなの気にしないでよ!カロルとこうして買い物出来るの楽しいんだから。ねぇ、温泉入らない?」


「良いですね!温泉なんて、前世ぶりです。」


二人は笑って、旅館のある大通りへ向かった。日帰り温泉に入れる旅館に入浴料を払い、館内を進む。前世で行った事のある温泉旅館と趣が似ている。脱衣所で鎧や服を脱ぐ。美仁は服を脱いだカロルを見ていた。


「カロルは綺麗な体してるね。」


「え?…どうしたんです?いきなりそんな…。」


まじまじと見られて恥ずかしい。カロルは日々のトレーニングにより引き締まり、腹筋も縦に割れていてお尻も上がっている。スラリと伸びた手足は無駄な贅肉などは無い。


「いやぁ、顔もすっごい可愛くて、体も綺麗で胸もあるなんて、羨ましいよ!」


「美仁…胸はこれから大きくなってくると思いますよ?」


「そしたらカロルだって、もーっと大きくなるかもよね…。」


美仁は僅かばかりの膨らみを手で隠して言った。カロルは見られて恥ずかしい為タオルで前を隠す。

二人は体を洗い温泉に浸かる。温かいお湯が気持ちいい。


「カロルが修行に来てくれて、嬉しかったな。」


「私も、美仁と出会えて良かったです。いつでも、遊びに来てくださいね。」


美仁はカロルの言葉に喜び抱きついた。






そして、カロルがガルニエ王国に帰る日がやって来た。荷物を纏めてリュックを背負う。大きな荷物は美仁のアイテムボックスに仕舞って貰った。


「お師匠様、お世話になりました。」


翡翠の家の前でカロルは礼をする。翡翠はにこやかに笑い頷く。


「妾も楽しかったえ。また遊びに来りゃれ。」


「翡翠様は放浪癖があって留守にする事が多いから、先に真珠様の所に行った方が良いよ。」


「美仁、放浪癖とは随分な物言いじゃのう。」


翡翠は美仁を横目で睨んでいる。口元を扇子で隠しているが、笑っているのだろう。美仁が翡翠を見て笑っている。仲の良い二人に自然と笑みが溢れる。


「お師匠様、ありがとうございました…。それでは、失礼します。」


カロルは再び礼をすると雪之丞に跨った。美仁も数珠丸に跨る。雪之丞、数珠丸、力丸の三頭は地を蹴り出発した。すぐに翠山が遠くなる。

こちらに来る時は数珠丸だけだったので三日で着いたが、雪之丞に力丸はそれ程早くは飛べない。倍の時間がかかってしまう。その為一日目は無人島でキャンプをする事になった。

美仁がキャンプ道具をアイテムボックスから出していく。


「アイテムボックスって本当に便利ですね。」


「私もそう思う!翡翠様はこの術を編み出して仙人になったんだって~。」


「そうなのですか。私も国外追放になったら、是非翡翠様の元でこの術を習得したいですね。」


それがいい。冒険者になったらアイテムボックスがあればキャンプ道具に食料、ダンジョンでのドロップアイテムにモンスターの素材等の持ち運びをしなくて良くなる。そう考えていると美仁は訝しげに聞いた。


「国外追放?カロルが国外追放されるの?」


「可能性の話ですよ。先の事は分からないですから。」


そう微笑み言うカロルを美仁は首を傾げて見る。カロルが変わり者の貴族の娘である事は、翠山に来て修行をしている事から分かっていた事なので、あまり深く考えずに食事の支度を続けた。

夜はテントで二人並んで眠る。夜の見張りはモンスター三頭に任せている。二人は次の日に滞在する予定の街について話していた。


「数珠丸が連れて行ってくれたルトロの街は街並みが綺麗でしたよ。夕日に照らされた景色も、夜景も素晴らしかったです。」


「へぇ~。じゃあ明日はルトロの街に泊まろうか!私ミズホノクニから出るの初めてなんだ。楽しみだなぁ。」


美仁は夢見るような表情で言った。そして二人はそのまま眠りについた。


次の日、夕方頃ルトロの街に到着した。夕焼けに紅く染まる街並みが見える。


「うわぁ…、本当に綺麗。冒険者になったら世界中の綺麗な景色も見れるんだね。」


「世界中の美味しい食べ物も、ですよ。」


カロルの言葉に美仁が笑う。


「それもすっごい楽しみ!ここは何が有名なの?」


「オリーブが有名らしいですよ。あと、港町なので海鮮料理ですね。私は以前スパナコピタというパイ料理を頂きました。」


「…何を食べるか迷っちゃうね。」


眉を寄せ真剣に考える美仁に笑いカロルは提案した。


「色々頼んで分けましょう。私も色々食べたいです。」


「いいね!そうしよう!」


美仁とカロルはワクワクしながら街へ向かった。

宿を手配して街を歩く。段々と暗くなる空と灯りの灯り始める街並みが美しい。カロルと美仁はレストランで、食感のしっかりとしたチーズのフライとテッサリア風ミートボール、テッサリア風シチュー、いかの唐揚げに、ゲミスタと呼ばれるトマトやピーマンの中に米やひき肉、野菜とハーブを詰めてオーブンで焼いたものを頼んだ。一人で食べていた時よりも美味しく感じる。二人はテッサリア料理を堪能し宿に帰った。


次の日の朝、カロルがランニングをしていると、崖下から長い階段をロバが登って来ているのを見かけた。ロバが荷物や人を背負い、列になって長い階段を歩いている。ルトロの街ならではの光景に微笑み宿に戻った。


「おはよー。カロルはいつも早いね。」


「おはようございます。習慣で起きてしまうのです。」


二人は宿で朝食をとった。じゃがいも、トマト、ズッキーニ等の野菜がたっぷり入ったルトロ風オムレツに一口大のドーナツと果物を食べる。美仁はルクマデスという一口大のドーナツを大変気に入り、昼食用にも購入していた。


ルトロの街から出た二人は三頭の使役魔物と合流する。


「カロル、帰りはリミニの街は避けた方が良いか?」


数珠丸がカロルに話しかける。カロルは首を傾げた。


「あの男に会いたくはないだろう?」


カロルは数珠丸の言葉で思い出した。リミニの街で声を掛けてきた、タレ目のレストランのウェイターを。


「…そうですね。出来れば会いたくないです。数珠丸…見ていたのですね。」


カロルは少し恥ずかしい気持ちになる。数珠丸は何とも思っていない様子で答えた。


「ではリミニはやめて違う街に行こう。美仁、リミニが気になるなら帰りにでも寄ってやる。」


「うん。良いけど、何かあったの?」


「リミニでカロルが男にしつこく言い寄られてたんだ。」


「しつこく、ではなかったですが…。」


美仁は困ったように笑いながらカロルを見る。


「そういうの、美人さんは大変よね。そのヴァイキングヘルムしてても声を掛けられるなんて、バケツみたいな兜を被らないといけなくなるね…。」


「ガルニエ王国に帰ったら、フルフェイスの兜を購入する予定です。」


冗談混じりに言った美仁だったが、カロルは本気でフルフェイスの兜を購入するつもりだ。美仁は「本当に大変だな…。」と小さく呟いた。

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