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21・リュシアン3





入学式の朝、リュシアンは学園にアンリと向かっていた。カロルはもう行ってしまったらしい。

学園に到着するとクラス分けの表が張り出されている前にカロルの姿を見つけた。一緒にいる男子生徒と笑い合っている。自分の中に湧いた嫉妬心を隠し声をかけた。

カロルは可愛らしく微笑んでリュシアンに挨拶した。そしてリュシアンはカロルと同じクラスでない事にガッカリする。牽制するようにカロルの隣に立っていたが、アンリに移動するように促された。見せつけるように頬にキスをして立ち去った。


カロルと共に居た男子生徒がカロルに何か言ったらしい。


「ウィリアム!」


カロルが大きい声を出した。勿論リュシアンの耳にも入る。

ウィリアム…呼び捨てで、彼の名前を呼んだ…。


「アンリ、カロルは少年団にいた者へは呼び捨てで呼んでいるのか?」


「カロル?そうだな。入団二年後位から皆お互いに呼び捨てだったな。」


「そうなのか…。」


カロルも団員から呼び捨てで呼ばれているらしい。リュシアンの事は敬称をつけて呼ぶのに。リュシアンは苛立っていた。自分がこんなに狭量だったのかと思いながら会場に入り席に座る。新入生代表として壇上に上がるので、前列に座った。

座って時間になるのを待っていると女子生徒が数人リュシアンの前に現れた。にこやかに対応していると入学式が始まった。心の中でため息をつく。これから毎日、こうして令嬢達の対応をする事になるのだろう…。




教室での自己紹介が終わり、帰りの支度を終えてカロルの教室へ行こうと思ったら、同じクラスの生徒達に囲まれた。カロルが帰ってしまう、と思いながらもにこやかに対応する。

ようやく解放されカロルのクラスに向かうと、やはり帰った後だった。仕方なく寮に帰ろうとすると、先程カロルと居た生徒の一人が話し掛けて来た。


「殿下、カロルをお探しですか?」


「リュシアン、で良いですよ。これから学友となるのですから。…そうですね、カロルはもう帰ってしまいましたか?」


「はい。ウィリアムと街に行くと言っていたので、寮に行っても多分もういないかと思います。」


ウィリアム…、先程も名前を呼ばれていた男子生徒。リュシアンは心の中で吹き荒れる嫉妬心をおくびにも出さずに、笑顔で礼を言うと女子寮に向かいメイドに伝言を頼んだ。




リュシアンの暮らす部屋は他の生徒の部屋とは違い、離れになっている。王族専用の離れだ。離れのドアには護衛が警備に立っている。


カロルが男子寮に訪ねるとリュシアンの部屋はこちらだと案内された。顔見知りの護衛にリュシアンに呼ばれた事を伝えると殿下はお待ちかねだと笑われた。ドアをノックすると「どうぞ。」と中から声がした。


「失礼します。リュシアン様、どうされましたか?」


中に入るとリュシアンがソファに座っていた。カロルを隣に座らせる。リュシアン自らお茶を入れ、カロルは礼を言ってお茶を飲んだ。


「カロル、私の事も呼び捨てで呼んで欲しいんだ。」


リュシアンはカロルの腰に腕を回して体を寄せた。


「でもそれでは…。」


リュシアンはカロルを抱く腕に力を入れる。カロルの肩に額を乗せて小さく呟く。


「ウィリアム、は呼び捨てなのに。」


「嫉妬…してくださったのですか…?」


カロルはリュシアンを見た。リュシアンがカロルの肩から顔を上げる。目が合うと、リュシアンは眉を下げ、瞳が揺れていた。

リュシアンは些細なことに嫉妬してしまい、しかもカロルをこのように困らせてしまっている自分が情けなかった。恥ずかしくて情けない気持ちでカロルを見つめる。


「リュシアン。」


甘えるように抱き着いてくるリュシアンを可愛いと思い、カロルはリュシアンの目元に口付けた。


「二人きりの時だけ、リュシアンと呼ばせて下さい。」


「カロル。困らせてすまない…でも、ありがとう。」


そう言うとリュシアンはカロルに口付けをした。


「リュシアン、あの、人前でキスをするのは、おやめ下さい。」


「どうして?」


「…恥ずかしいからです。」


カロルは思い出して赤面した。


「皆にカロルは私のだとアピールしたかったんだけどな。でもそんなに赤くなって可愛い顔を他の人に見せてしまったのは失敗だったな。」


リュシアンはカロルの頬に触れる。少し熱くなっていて、その温もりが愛しい。


「学園では我慢するから、こうして、部屋に訪ねて来てくれるかい?」


「お呼び頂ければ、いつでも参ります。」


カロルがリュシアンを微笑み見つめて頷くと、リュシアンは堪らずカロルにキスをした。そのままカロルはソファに押し倒される。止まないキスの雨にカロルは身じろぎ顔を背ける。するとリュシアンは耳にキスを降らせ始めた。


「んっ……んん…。リュシ…アンッ…」


リュシアンは頬にキスをすると体を起こす。カロルの背に手を回してカロルも起こした。


「カロルが可愛すぎるから、つい。…ごめんね。」


リュシアンは謝罪を口にはしているが、反省はしていないようだ。甘く蕩けそうな良い笑顔をしている。昼間の嫉妬心は今はもう消えていた。


「私は自分がこんなに嫉妬深いとは思わなかったよ。」


「リュシアン、彼等は仲間なのです。私が異性としてお慕いしているのはリュシアンですから。」


カロルはリュシアンの手を握る。リュシアンの心に温かいものが広がっていく。

リュシアンは胸ポケットから懐中時計を出した。毎日巻き上げを行っている。リュシアンはこの時計をとても大切にしている。


「そろそろ三年ですね。メンテナンスに出しましょうか。」


「うん、お願いするよ。費用は私が払うから、金額を教えて。」


「いいえ。それには及びません。」


リュシアンが払うと言ってもカロルは譲らなかった。時計に関してもカロルはリュシアンに秘密にしている事があった。

そしてメンテナンス費用に関してはリュシアンが折れる結果となった。


「それでは、私はお暇致します。」


カロルは時計を仕舞い立ち上がる。


「カロルを見送る時、いつも早く結婚したいって思うよ…。それかここで一緒に暮らしたいって。」


「あと五年ですね。」


寂しそうなリュシアンにカロルは微笑む。カロルはあと五年で婚約破棄される可能性も忘れてはいない。


「では失礼します。リュシアン、おやすみなさい。」


そう言うと、カロルはリュシアンの頬にキスをして部屋から出て行った。扉が閉まり、途端に部屋が静かになる。寂しい気持ちが湧いてくる。


カロルは呼べばいつでも来てくれるとは言っていたが、平日は王妃教育で放課後登城し、週末には予定があるという。

いつであれば来られるのか確認しなければ。

リュシアンは無意識に胸ポケットに触れた。いつも触っている感覚が無い。またしてもリュシアンは寂しい気持ちになってしまった。

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